凝縮された一瞬

金曜日、全く予期していなかったのだが、ある集まりで偉大な人物にお会いした。桑田真澄氏である。

五度にわたる甲子園出場、市場最年少優勝投手(高一夏*)、甲子園通算20勝(優勝2回、準優勝2回)、巨人入団二年目にしてエース、沢村賞ベストナイン、ゴールデンクラブ賞、、、。

部屋に入ってこられた際、日本のパーティでは極めてまれなことだが、誰ともなく自然に人が立ち上がり拍手が始まり、文字通りスタンディングオヴェーション(standing ovation:いる人全員による拍手喝采)となった。彼がこれまでそこにいた参加者の多くに、特別な感動を残してきたからに他ならない。聞くと引退後、殆どはじめの講演的な場での参加と言う。

数々の歴史的な場面、、、、とりわけ、右肘じん帯断裂後、選手生命をかけたリスクの高い手術、過酷なリハビリの末、1997年4月6日、肘をマウンドに載せて復帰したシーン。

なぜここまで心に残っているのか。

661日ぶりという待ちわびるには十分すぎる時間、明らかに他のいかなる球場での場面とも一線を画した場面、努力と思いから自然に生まれた、想定を超えた、しかしその場面にまさにふさわしい純粋な行為。

「凝縮」された一瞬。

自分のキャリアの頂点の瞬間にそういう破壊的な事件がおこったとしたら自分はどう受け止めるのか、そしてどうするのか。その場合、これだけの期間がんばって立ち上がることが出来るのか、、、共感を超えた深い尊敬と感嘆。

更に、私の場合は、まさに同い年、同学年という、彼のドラマチックな人生を共に走ってきた数々の思い出の心の中の反響。入ってこられるのが桑田さんだと分かった瞬間から私も立ち上がり、拍手とともに気がついたら涙ぐんでいた。

確かに知覚の原理に沿っている。閾値、不連続性、場面との明確な連関、感情的な強化。そして更なる様々な情報とのつながり。

圧倒された午後でした。そして更に人の知覚、記憶について深く考えさせられる午後でした。

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注:桑田氏は四月一日生まれのため、その学年で最も若い。