ポジショニング:知覚の視点から見た活用の押さえどころ

ファーストムーバーアドバンテージより続く)

Positioning

では次に過去30年間での最大のヒットコンセプトの一つ「ポジショニング」について考えて見ましょう。「マーケティングというのは心の中での場所を取り合うゲームである」、というAl RiesとJack Troutの洞察は非常にすぐれたもので、今となってはこの言葉なしに仕事をしていた時代があるということ自体が考えにくいほどです。

この言葉の価値は、このブログをここまでご覧になってきた方であればすぐに分かっていただけると思いますが、それは恐らく世界で始めてマーケティング上の認識における「異質性」の重要性を明確に打ち出したことにあったと思われます。マーケティングは知覚を争うためのゲームであり、そのためには他とは異なる心の中の場所(ポジション)を作り上げないといけない、という彼らの主張はコロンブスの卵ですが極めて正しい。

かといって、ポジショニングの見直しから始めてうまくいくケースはどうかと見直すと、かつてのキリンの一番絞りでのクィーンの宣伝のように非常に危険な失敗を犯してしまうケースが多い。このように「リポジショニング(repositioning)」という言葉は安易に使われがちですが、あまり成功しないケースが多い。私の見たところ、ポジショニングを再訴求して成功するときは、もともとポジショニングがあいまいになっていたとか、たまたまずっとそのカテゴリーでは大きなブランドだったが、あとでアタッカーが入ってきたので、もう一度明確に市場で占めている部分を再定義して訴求したときにほぼ限られています。もともとの心の中での位置、異質性を明確にするということでは価値を生みうるが、新しく変えてしまうときには、心の中における混乱が起きるケースが非常に多いということでしょう。どうしてもそれを望むのであれば、ソニーWEGA、QUALIAをすててBRAVIAを立てたときのように、新しいブランド名と共に仕切りなおすべき。

また、この言葉はfirst mover's advantageと同様の課題を持っていることはほぼ明らかです。即ちどの程度の異質性であれば、価値を持ちうるのか、またその異質性がどのような生活、利用場面における意味を持つのか(関連性、relevance)、を明確に意識しない限り、せっかくのポジショニングが意味を失ってしまう。この二つに留意すること、更に上述のように安易なリポジショニングというのは行わず現在の価値の純化に注力することが既存の商品、サービスの場合、この考えをうまく使うポイントでしょう。

一方、新しい打ち出しの狙いどころを考えるために使うのであれば、上の留意点に気を留める限り、ポジショニングは非常にパワーを持ちうります。一つの典型はWiiですが、これについてはまた機会を見て議論しましょう。ということで、現在の商品の純化のためであれば50点、そうでない文字通りのリポジショニングのためであれば20点、新規開発のためであれば60点(留意点についてこちらのセンスに任されているので)、という出来でしょうか。


セグメンテーションとMECEの誤謬へ続く)


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