Brazil 18:フィッシュ・オン!

(Brazil 17より続く)


魚だ。ヒットだ。フィッシュ・オンだ。

「I GOT it!(かかったぜ!)」そう叫んで糸を巻きにかかる。ドラグはさっき簡単に調整しておいたが、再度少しだけゆるめる。とにかく大切なのは糸をたわめないことだ。三本針といえども、一本しかかかっていないかもしれない。スレ(体のどこかに引っかかっていること)の可能性だってある。

巻く、相手はデカイ。水がアマゾン流域らしく完全に濁っていて、正体がなんだかわからないが、とにかく大きい。右に走るかと思うと、奥に走る。がむしゃらである。

少しずつだが、奴との距離も近くなってくる。水面近くまで来て、躰を返すのが見える。どう見ても四十センチ近くある。

ピラーニャ!おっさんが叫ぶ。じわりじわり相手は近寄ってくる。船に上げる射程範囲に入る。途端に暴れ出す。よくあることだ。ここで慌ててはいけない。少し空気を吸わせて直ぐに垂直に自ら思い切ってあげることにする。十二ポンドラインだ。少し心配だが、切れることはあるまい。しかし、相手はピラーニャ。しかも大きい。青白く見えるがこれは間違いなくプレタだ。歓喜が糸を巻く右腕に沸き上がってくる一方、ピラーニャへの恐怖が竿を持つ左腕に浸透してくる。何しろ十分で牛一頭を白骨化する魚なのだ。が、上げないことには釣り師のホラ吹きになってしまう。ホラを吹くのも釣り師の楽しみの一つだが、ここは何としても上げたい。どうやって上げるか考えてもしょうがない。とにかく噛みつかれない程度に離れた船の底に落とすことにする。

揚げる。奴はめちゃめちゃに暴れている。お前らなんだ、人の家の庭に来て住人を追い出す奴がいるか、そんな感じである。ルアーを外さねばならないが、僕には手で持つ勇気などない。困っていると、土人のお兄ちゃんが竿の先から出ている糸をつかんで、持ち上げる。どうするのかと見ていると、その右手のプライヤーでそのプレタの頭の後を叩く。カンといい音がする。暴れがおさまる。このジャカレ(鰐)すら恐れるというアマゾンのギャング、ピラーニャにも弱点が一つあった。後頭部である。奴は失神した。

呆気にとられていると、彼はプライヤーでそのプレタの下顎をつかみ、ルアーを外しにかかる。プレタは存在の凄まじさの割におつむが小さいのか、少し目を覚まして何とかのがれようとするが、あのコンの影響が効いて、さすがに弱々しい。思わず笑いがこぼれる。

来た、見た、勝った。苦戦ではあったが、最初にしては上出来である。何より一番乗りであるということがうれしい。相手も大きい。しかもプレタである。凝縮の一瞬が全身を満たしにかかる。これで来た目的の半分は果たしたことになる。そう思って、見渡すと、もうおっさんは、よし今だとばかりに釣りに励んでいる。お兄ちゃんも投げ始めている。うちのかみさんだけが、その仰々しいプレタを眺めている。


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写真説明(クリックすると大きくなります)

1. プレタを船の脇から上げようとしている瞬間

2. 上げたところ。プレタが激昂している。


Brazil 19へ続く

(July 2000)