Brazil 20:金色のトクナレ

(Brazil 19より続く)


ピラーニャのものすごさに唖然としているうちに、あの重戦車のようなプレタとは全く異なる、高レスポンスカーのような引きが唐突にやってくる。グーン、グン、と大きなリズム。それを見ておっさんが、

「タ・ク・ナ・レー」

と言う。ホンマかいな? そう思いながらやりとりをしていると、突然濁った水が割け、金色(こんじき)の円環が跳躍する。トクナレだ。間違いない。おっさん見直したゼ。思わず手に力が入る。少年の日々から数え切れない程夢を見た瞬間が今眼前に広がり、自分の両手の中にゆだねられている。巻く。逃げる。しかし、それほど大きくないので、持ちこたえて上げる。美しい。中学生サイズであるが、トクナレはトクナレ。小さな円が完結する。腕の中の血が踊っている。


ホッとしているのもつかの間。これまで傍観一方だった我が妻の竿に異変が起こる。ものすごいしなりだ。リールから糸が出ている。さっきまでの根がかりとは違う。魚だ。間違いない。しかも大きい。明らかに彼女に持てる限界に近い力がかかっている。魚は船と逆の方向に走ろうとしたかと思うと、下に、そして右に突き抜けようとする。今度は左だ。

とにかくゆるめるな。無理でも少しずつ巻け。向こうが暴れたときには耐え、休んでいるときに少しでも巻け。そう指示を与える。彼女も必死である。泣きそうな顔をして踏ん張っている。見かねて(竿を)持とうか?と聞くと、首を振る。大した根性である。見守ることにする。

そうこうしているうちに、少しずつ、魚が寄ってくる。跳ねないところを見るとトクナレではなさそうだ。船が揺れる。見えた。プレタだ。しかも特大。どう見ても四十センチはある。船の脇まで来たところで、糸を土人のお兄ちゃんに持ってもらってなんとか上げる。目は真っ赤。悪魔のような奴だ。間違いなくこれまでで一番大きい。すかさず、お兄ちゃんはコン、コンと連続で二発。まだ暴れようとするので、もう一発。さすがにおとなしくなる。その血走った目に星が見えているに違いない。見事なビギナーズラック。思わず彼女もポーズをとる。

しかし、生涯最初に釣った魚がアマゾンのピラーニャとは。しかもプレタ。特大。こんな人は、日本中探してもそういないのではないか。ここは、よほどの釣りバカしか来ないようなところなのだ。将来自分を越える釣り師にならないことを密かに祈る。お疲れ様。

ここで、さっきから食べないできたサンドイッチを二人で食べる。おっさんとお兄ちゃんは釣れない間にとっくに食べてしまっている。彼女は衝撃からまだ立ち直っていないようである。さもありなん。きっと腕にはまだ電流が残っているに違いない。


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写真説明(クリックすると大きくなります)

1. トクナレとピラーニャ・ヴェルデ(緑)。アマゾンの宝石。

2. かみさんの釣った悪魔のようなピラーニャ・プレタ。目が血走っている。


Brazil 21へ続く

(July 2000)