UMAMI、うまみ、旨味 (Science News 2/11/2000より)

米国研究当時、ニューロサイエンス以外の世界の友人にも分かってもらえそうな話があれば、Science Newsというメールコラムで時折発信していました。これはそんな中の一つです。その中でも思い出深いものをちょっとずつ載せていけたらと思います。

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二月になりました。みなさんいかがお過ごしでしょうか?

こちらは先日まで非常識に寒かったのですが、それも落ち着き(昼間が氷点下を越えるかどうか)過ごしやすくなってきました。

そのころは、華氏で一桁(singlesという)、摂氏で言えば氷点下15~20度ぐらいの寒さでした。こちらの予報では風の中を歩くときの体感温度がでるのですが(windchill)、それがなんと-40F。南極並です。その中を朝、駅からラボまで十五分間歩くというのはtortureとしか言いようがないもので、普通のコートは全く役に立たず(風を完全に遮ることが出来ない)目以外は完全に防御した上半身はいいのですが、ズボンしかはいていない下半身は寒いではなく、痛い。皮膚が引きつって、ラボに着くまでに割けるんじゃないかという位のものでした。この歳になってようやく真冬の旅順で203高地を決死の行進し、ロシア軍と戦った日本兵士の大変さが少し分かりました。彼らの場合、ゴアテックスも何もなく、本当に大変だったんだろな、などと思いながら歩いてました。(笑)

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さて本題です。

日本人のみなさんには信じられない話かもしれませんが、少なくともアメリカ人の大半は「うまみ(umami)」という味覚の存在を信じていない。sweet(甘い), bitter(苦い), salty(塩っぱい), sour(酸っぱい)の四つだけで味は構成されていると信じている。

ある味覚の権威の授業で、彼女は「味には四つの基本要素がある。東洋人、特に日本人は「うまみ」というものがあると主張しているが、そんなものは存在しない」と言い放った。彼女の目の前に座っていた僕はその発言に非常に憤り、「あなたは味盲(taste-blind)ではないのか。では、なぜあなた達はなぜステーキの肉を寝かせ、フォンドボーを作るために肉を煮込むのか。それらはタンパクを分解させたいからではないか。そしてそれはアミノ酸の味が知覚できるからに他ならないからではないか。現実に我々は精製物のグルタミン酸に独自の味を知覚できる。それはあなたのいう四つの感覚のどれとも異なり、混合でもない。」と言った。彼女はsuper-taster, non-taster(taste blindに相当)という人たちがいること発見した人で(注:この記事のあとこの功績により米国科学アカデミー会員に選出される)、確かに私はnon-tasterである。しかしうまみというものが確かにあるという証拠は全くない。たぶん私は話す相手を間違えたようだ(I have a wrong audience)、と言った。

しかし、東京帝国大学の池田菊苗教授が1908年にうまみを発見して以来九十年あまり、我々日本人が遂に快哉を叫ぶ時が来た。うまみ(グルタミン酸)のリセプターが発見されたのである。これで多くの教科書は書き変わるだろう。しかし、このことは多少なりとも脳神経系というものを知っていいれば、ほとんど当然のことである。脳神経系の神経管の接続部分(シナプス)では、大半が(部位によるが、興奮性の場合ほぼすべて)グルタミン酸を伝達物質として使っている。グルタミン酸なしには、ものを見ることもできないし、呼吸することも、体温を調節することも、何かを思うことも、人を愛することもできない。当然脳神経内には、膨大な量と種類のグルタミン酸のリセプターが存在する(最初に発見したのは京大の沼教授。彼はほとんどNobel prizeが確定していたが、受賞の前に死んでしまった)。味覚というものが、食物の中にある、我々の身体にとって最も大切なもの、危険なものを感じるためにあることを考えれば、当然リセプターがあってしかるべきなのである。

そう思って味の素をひと振りほうれん草のおひたしにかけてみる。格別の味と思いがする人も多いだろう。

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