ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

いわゆるCS(顧客満足度)向上運動の真実


Leica M7, Summilux 50mm F1.4, PN400N


今日も多くの企業でCS(customer satisfaction 顧客満足度)をあげるための努力がなされている。


けれども、その大半が確かにCSが上がっても、決して業績向上にはつながらないことが多い。これはどうしてなんだろうか。

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確かに立派な行為である。またまずお客様第一と考えたときに、CSを考えるのは一見非常に素直な発想でもある。でも、かつての都銀時代の富士銀のように、CSナンバーワンを誇っても、決してそれが業績ナンバーワンにはつながらない。何がおかしいのだろうか。


今この瞬間も沢山のマーケティングコンサルタントとか、マーケティング担当者がCS向上に励んでいる時にこのようなことを書いてしまうのはとても心が引けるのだが、まあこのブログの読者にだけ本当のことを伝えよう。


いわゆるCSの向上は顧客の定着にも業績向上にも殆どのケースで効かない。

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えっ?!と思われるかたも多いだろう。しかし、これはマーケティングを経験知ベースではなく、真にファクトベースで分析的に行ってきたプロ(恐らくこの国ではかなり少ないと思われる)の中では軽く10年以上前から知られきった事実なのだ。


このことを長い間、プロたちは自分のクライアントのみに実際のデータを通じ、伝え、目に見えるインパクトを出してきたが、僕はもう、そのベールをはぐ時が来たのではないかと思う。


CS向上運動は立派であるし、顧客に対するサービス業の精神からして何も悪いことはない。


ただ、市場に対する本当の距離を詰め、自分の商品やサービスを利用して頂けるお客さまに本当に愛されることを求めるのであれば、CSそのものをメインの指標とする、あるいは活動の究極の目的とするのは止めた方が良い。(参照「マーケティングとコイバナの関係」

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なぜCSの向上が効かないのか、これはCS向上に励んだ人が恐らく誰もが考えている問題ではないかと思う。ここで特別にその本当のところをざっくりお伝えしよう。


この理由はおおむね次の三つに集約できる。


一つ、いわゆるCSは、店舗や商品を利用するひとすべてを対象としたものであり、本当のコア消費を担う人、担う場面を見たものではない


二つ目、本当の業績に効くのは、基本的な収益方程式、すなわち利益=単価x販売量(利用量)x利益率のうち、販売、利用ボリュームを決める部分を良くにらめば分かる通り、どこまで一度使った人がその商品やサービスを使い続けるか、すなわちどこまで深く愛してくれるかであり、その商品やサービスをたまたま利用したときにどの程度基本的なサービスなどが良かったと思うかではない


三つ目、いわゆるCS運動、評価は、ほとんどがサービスや体験を軸とした、経験の評価項目的なものを羅列して考えるものであり、「本当のところ」どのような軸や属性がお客様の継続的な利用だとか、何度もこれを使おう、と思うかどうかという軸を網羅していない

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一つ目は非常に深遠かつ重要な部分である。実は調べるとすぐに分かるのだが、世の中のほとんどのものの消費はユーザが100人いてもそのうち5人とかせいぜい15人で大半8-9割の消費が行われている。あるいは利用される場面が10種類あるとするとそのうちの1-2場面で大多数の消費が行われる。例えば、身の回りのもの、今、季節柄毎日のように宣伝している缶コーヒーを例にとってみよう。BOSSでも良いし、Georgiaでもよいが、自分の周りの人を見渡して、どの人が飲んでいるか考えると驚くほど少ないことに気付かれるだろう。約1兆円もある巨大なマス商品なのに、である。その他の殆どのものも実はそうだ。シャンプーのアジエンスニコンキヤノンのカメラ、どれをとっても実はそうだと思う。しかも通常、あるものをコアで使っている人と、たまにしか使わない人では、本当にこだわる部分は全然違うことが多い。

つまり、、、平均値で聞いた値はほとんど何の意味もないのだ(この辺り、あまりマスメディアとか代理店の人は開示してほしくないと思うが真実である)。このほんの少しの1割ぐらいの人がどう思っているかが実は市場そのものなのに、めちゃめちゃ希釈して、しかもノイズが異常に高まったデータがいわゆるCS値である。


二つ目は更に深遠な問題だ。本当のところ、興味を持ってくれた人が、実際に使い始めてくれるか、また一回使ってみてくれた人が、また同じものを使ってくれるかが、消費ボリュームに効くにもかかわらず、その本当の鍵となる段階で、何が大切なのか、という視点が全く欠けているのがいわゆるCSデータなのだ。これはかなり明確に意識的に調べ上げることで非常にクリアにすることが出来るが、通常初めて使うときと何度も使うようになる時では、鍵となる商品やサービスの属性(attributes)は要素も、レベルも全然異なる。すなわち、このユーザがこてこてのファンになってくれることが問題なのであれば、そこにフォーカスした取り組みをしなければ殆ど何も効果は出ない。


三つ目は、あまりにも専門的すぎてもしかしたら分かってもらえないかもしれないが、これもとてつもなく重要だ。通常、商品やサービスは特にトップの数ブランド間では、機能的な差で選ばれることはすくない。形にならない、無形のスタイルであるとか、価値で選ばれていることが殆どだ(これも消費者は認めないが、いくつかの手法でかなり明確にあぶり出すことが出来る)。これをある種の機能だとか、体験をベースに調べるのがほとんどのCSなのだから、ある種ノックアウトファクターをあぶり出すには良いかもしれないが、本当のところもっとファンになってくれるかどうかには殆ど意味がないことを調べている可能性が高い。

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という訳で、以上に留意した運動論に変えないと、大半のこの類の努力は自己満足と徒労に終わってしまうことがほとんどだ。


本ブログを読まれる読者の方に、ある種、ここまでおつきあい頂いたサービスとして、ある種の本物の(=うさん臭くない数少ないマーケターのみが押さえている)マーケティングの真実の一つをお伝えしたい。別に信じて頂く必要はないし、今仮にCS運動に取り組まれているとして、それを別に止めて頂く必要もない。


ただ、こういうことを頭のどこかにおいてやるかどうかで、今後の取り組みはかなり明確に違ってくるはずだ。


若干ずれた活動によって置いてけぼりになっているエンドユーザに、正しく向き合ってくれる企業や商品、サービスが少しでも増えることを願いつつ。


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