ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

日本の大学の資金力のなさはどこから来るのか?:国内大学強化に向けた考察2


Leica M3, Summilux 50mm F1.4 @こどもの城、青山


(これは昨日のエントリ「本当に東大レベルのお金があれば、世界に伍していけるのか?」の続きです。ご覧になっていなければ、是非まずそちらをお読み頂ければ幸いです。)


次に2、これだけの資金力のギャップを産み出している構造的要素についてみてみよう。


見たいのは次の三つ

  • 収入に何らかの構造的な違いがあるのか?
  • あるとすると、特に大きなギャップを生むものは何か?
  • それは何によるものなのか?

である。


まず、アメリカ側の例としてPrincetonにおける収入源を見てみよう。*1


大きなrevenue sourceは五つだ。なお、これらの項目は、ほとんど米国の大学で共通である*2。その割合に目を向けて頂きたいのだが、投資からの収入が総収入の45%を占めている。一方、学生からの収入は東大の10倍近い学費であるにもかかわらず、19%に過ぎない。*3


一方、日本の場合、東大を例にとると項目数は同じく5つだが、大きく内容が異なる*4



アメリカの5分類のいずれにも相当しない、いわゆるお上からのお金、運営交付金補助金が56%も占めている。一方、グラントにあたるものがない。これは米国の場合、グラントはまず一度大学に入り、何割かの大学への上納金(天引き率は大学によって異なる。一般に有名大学ほど高い)を差し引いたあと研究室に振り替えられる仕組みがあるが、日本ではそのような仕組みになっておらず、ラボに直接入るのではないかと思われる(誰か詳しい人がいれば教えてください)。余談になるが、米国では、サイエンス系ファカルティの給料の多くは、大学が出しているのではなく、グラントから大学が許可する給料の額分支払われる*5。つまり文字通り自力で稼ぐ必要がある。これには驚く人が多いのではないか。

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若干強引ではあるが、これを軸をそろえて比較すると以下のようになる。



もう明らかだろう。米国のこれら主要大学において、通常、最大の収入源である、投資収入が我が国の大学にはほぼ全くないのだ*6。そこを国からの補填で持たせている。

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この収入の配分を前節でみた学生一人当たりのExpense(出費の年額予算)にそのまま当てはめてみると次のようになる*7



いかがだろうか。


どこから実額で差が生まれているのかがこれでよく分かる。恐らくほとんどの人が見たことのない分析ではないかと思う。(僕も自分でやって初めて見た。もしかすると本邦初かも。笑)


単純に二倍にすれば良いというような話では全くなく、構造的な違いによるものであることが歴然である。少なくとも、国費を大学指定して投入するなどという一過性の打ち手レベルのことで解決するような問題ではないことが分かる。また、このような状態の大学はいくつ束ねても改善しない。壊れている資金のインフローが統合によって良くなるというのは考えにくいからだ*8



これを見る限り、少なくとも三つのてこ入れが必要のように見受けられる。

  1. 投資収入の確保、、、まず運用資金、そして強力な投資運用能力
  2. 研究グラントの拡充と課金フローの確立、、、抜本的に財源を強化する必要があるが、それと共に一度大学にプールし、大学に何割かを残す仕組みが不可欠
  3. 学生からの更なる収入の確保、、、学費の値上げに加え、これも実質的には教育グラントの強化が必要*9


これが、アメリカの大学から帰ってきたうちの教授は何にもしない、とどんなにぼやいてもしょうがない問題なのである。これは大半が「しくみ」の問題なのだ。


問題の根は深い。

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気を持ち直し、次に、これらの大学が、どうしてこれだけの投資収入を生み出せているのかを見極め、その上でまずとりあえずの意味合いを整理したい。


つづく


ps. このあたりの内容を最新データをもとに分析し直し、経産省産構審 新産業構造部会にて発表しました (2017.2)。よかったらご覧ください。“シン・ニホン” - AI×データ時代における日本の再生と人材育成


ps2. これまで、沢山頂いたみなさまの声に少しでもお応えできればと思い、一冊の本をまとめました。(2010.11.24発売予定)知的生産に本格的にご興味のある方は、どうぞ!

内容については、次のエントリをご覧頂ければと思います。


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ps. このエントリに限らず、写真にもスターなど頂けたりするととてもうれしいです。また、よろしければ下のリンクをクリックして頂けると幸いです。


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*1:Medical schoolなどのいわゆるprofessional schoolsは殆どないが、Ivy schoolの中では大きすぎず、成功しているアメリカの代表的な大学と言える。

*2:Medical schoolを持つ場合、付加サービスからの収入が増えることが多い。

*3:東大の学費は1ドル100円換算で$5358だが、Princetonの今年度のundergraduateの学費は、1年間で$49190である。全寮制のため、部屋代、食事代を含む。

*4:平成18年度の財務情報

*5:着任時を除く

*6:歴史の比較的短いMITは投資収入が割合としては低いが、最後のデータの通り、かなりまとまった額の収入源になっている。非常に割合の高いグラントについては精査しないとよく分からないが、軍事研究など大型のグラントを例外的に得ている可能性がある

*7:実際には必ずしもrevenue=expenseではないが、ここでは分析の目的上、便宜的にこうする

*8:片方の資産をすべて売却しても良いなどということであれば話は別だが、そのような自由度は通常ないはずである。むしろマネジメントのキャパを超えたcomplexityに到達し、非効率が大量に発生する可能性が高いのではないか

*9:可能であればどこかで考察するが、Ivy schoolの学生はundergraduateであっても8割程度は学費補助を受けており、全額学費を払っている学生は稀である。Graduate studentについてはその半分程度を占めるPh.D.の学生の場合、理系であれば再三ご紹介してきた通り、学費、生活費をあわせて全額大学の補助を受けている。つまりタダ。この財源の相当部分は教育用のグラントである。結果、professional schoolの学生のみ比較的借金などをして払っている。