From CT to DC (9) : 硫黄島メモリアル

ポトマック川の向こうに、アーリントン墓地がある。戦死者、大統領など国のために人生を捧げた多くの人たちがそこで静かに眠っている。

案内をたどり、ある丘の上に着く。巨大な戦士達が、旗を立てようとしているまま凍り付いている。


Contax T2, 38mm Sonnar F2.8 @Iwo Jima Memorial

Iwo Jima Memorial(硫黄島メモリアル)。

日本が大東亜戦争*1と呼び、アメリカが太平洋戦争と呼んだ戦争において*2分水嶺となった硫黄島での戦死者、そして朝鮮戦争での死者をまつってある。日露戦争において、二百三高地を十万以上もの犠牲を出して奪い取った旅順と同じく、硫黄島の頂点の陣地を目指して、日米は命がけの戦いをした(硫黄島の戦い Battle of Iwo Jima)。アメリカとしては、日本進軍、爆撃の拠点としてどうしても獲らなければならなかった島。日本としては、当然、絶対に死守しなければならない島だった。日本だけで21,703人、アメリカも6,821人もの死者を出したという。そしてその頂点をアメリカ軍がとり、旗を立てようとしている瞬間をそのまま彫像にしてある。結果、日本中の都市が爆撃され、焦土となった。日本にとってもアメリカにとってもあまりにも意味深い、神聖な場所である。


手を合わせ、祈る。知らず涙ぐむ。

そこで白髪の初老の男の人が、四十に差しかからんとしている自分の子供に対し、諭すように話をしている。視線を感じる。僕は心で叫ぶ。日本だって大変な思いをして戦ったんだ。これはフェアゲームだ。お前たちは、そのあと、原爆を二度も落とし、罪もない一般人を数十万も殺した。責められる筋合いはない、と。


この硫黄島メモリアルと、少し離れたところにあるThe Tomb of Unknown (無名戦士の碑)は、国と軍によって大切に管理されている。大統領や国務長官が必ず行く場所でもある。かたや、同じく国の名の下によって建てられ、かつて国の管轄下にありながら、占領軍によって強制的に分離された靖國神社、それに対する日本国民の扱いは目に余るものがある。召集令状赤紙)をもらい、かつて戦地に赴く際には、もしもの時には、ここで大切に国としてまつるからと国は約束したのだ。そして彼らは国のために、死んだのである。それを昔ながらのしきたりでただ奉ってあるだけなのに、未だ靖國神社に国の代表が行き、国のためになくなった人たちに手を合わせるのが問題視される。これは一体どういうことなのだろうか。

国家は時に、国民の命を無情に奪う。しかし、そのために失われた命は大切にまつられ、その勇気と献身は国家が存在する限り永遠に称えられるべきである*3。そして約束をしたことは守るべきである。それが世界のどこであろうと、国というものが出来る最低限の礼儀である*4


人は涙を失ったのだろうか。

「目に涙がなければ、魂に虹は見えない」

北米ミンカス族の諺である。


(April 2001)

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添付資料

1. ワシントン中心部地図。碁盤の目のような造り。斜めに走る道には、建国当時の十三州の名前が与えられている。アーリントン国立墓地は川を挟んで主要機関を見下
ろす高台にある。

2. 政府側地図。様々な政府機関と博物館がモール(Mall)と呼ばれる芝生の空間を取り囲む。


次に続く
kaz-ataka.hatenablog.com

本連載をはじめからご覧頂きたい人は以下から御覧頂ければと
kaz-ataka.hatenablog.com

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ps. twitterでのアカウント、2年以上ほとんど止まっていましたが、徐々に使い始めました。ハテナと同じハンドル名です(@kaz_ataka)

*1:1941年12月12日の閣議決定による日本としての本来の正式名称

*2:この戦争には60年以上たった今も未だに呼称の混乱がある。閣議決定を経て決められた名称である「大東亜戦争」と呼ぶのが間違いのような風潮があるのは、国家そのものが滅び、米占領下にあった際、占領軍が行った徹底的な情報操作活動に未だ多くの人が影響(洗脳?)されているからと考えられる。議論そのものがタブー視されているのは問題。その戦争の名の下に失われた数百万の国民(この読者の親族の多くも失われたはずである)のためにもはっきりさせるのが筋だと思う。

*3:なお、敗戦後当時の日本の正式名称はOccupied Japan。一つの国家としては認められていなかった。パスポートも占領軍が発行した。当時日本で作られ、輸出されたものにはMade in Occupied Japanと刻印されていた。

*4:2009年追記。このところA級戦犯 (なんと言う戦勝国側の呼び方) 、すなわち「戦時の指導者層」の分祠問題などかしかましいが、内政干渉も甚だしく、ここは国家として毅然とすべきであると考える。正直、戦争経験者が日本だけでなく、いずれの国にも大量に残っていた私の子供の頃には全く問題視されていなかったことが、なぜか現在、騒がれている、、、このこと自体が、恥と穢れをきらう日本人に影響を与えるための、単なる政治カードと化していることを示している。