ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

では、僕らは何をしていくんだろう?、、、第二のMachine Age(2)


Leica M7, 1.4/50 Summilux, RDP III
@Griffith Observatory, Los Angels, CA

前回書いたようなことを言うと、「ではこれからは、どうやって飯を食っていったらいいんだ?」的なことを多くの人に聞かれる。アカデミアやデータプロフェッショナルといえる人の集まりですらそうだ。

これについての僕の答えは、まあ自分で考えてよ、としか言いようがない。笑。とはいうものの、これではあまりにも不親切だと思うので、少し一緒に考えてみよう。

産業革命(第一のMachine Age到来)のときだって、馬や牛や人間の肉体労働がどんどんいらなくなることは、少なくとも途中から明らかだったわけだけれど、みんなむしろそれをテコにこれまでの仕事を離れて、あるいはこれまでの仕事のやり方を根底から変えて、今に至る。

その中で新しい環境を前提にした新しい仕事がどんどん生まれて、その中で新しい暮らしを始めた。結果、9割以上が農民だったような、日本を含む、大半のいま先進国と言われる国々もこのように製造業(2次産業)や販売・サービス業(3次産業)中心に生まれ変わっていった。

我々がどう考えようが、このマシンラーニング(機械学習)をはじめとするAI(人工知能)、これを活用したスマートマシーンとでもいうべき賢い機械たちが我々を大きく、本質的にアシストしてくれるようになる。前回書いた通り、多くの仕事や活動がcomputer-assistedなものになっていくだろうし、僕らはすぐに順応していくと思う。

「それ何?」と思われるふしの方々も、今のクルマなんて実際には既にそうなりつつあるし(だから実際には全然腕なんて上がっていなくても上手くなったように感じる。笑)、僕の大好きなカメラも、露出もフォーカスも何も考えなくとも撮れるようになってしまっている(なので僕はマニュアルカメラにこだわっている。笑)。こうやってコンピュータを叩いているときに変換も何もかもコンピュータがアシストしてくれている。検索なんて、ちょっとワードを入れれば、それに関連する言葉が補助的に出てくることはご存知の通り。これも人間が手を入れているのではなく、機械学習がリアルタイムでガンガンに動いているおかげだ。例えば、BNPパリバ・マスターズ*1で錦織選手が頑張っている今日 (2014年11月1日) なんて、「にしこ」とだけ打つだけで、「錦織圭 パリ」とサジェスト結果が検索窓の下に出てくる。こういうのがもっとディープにあらゆるところで行われるというだけのことだ。

こういう全体観の中で考えると、このような「ベースになる変化を引き起こす人」と、このような「変化の上で、さらに新しい変化を生み出す人」(使い倒す人)の二種類の人に大きな需要が生まれることが容易に想像できる。

ただし当然、デザイン、歌舞伎、焼き物のように、腕だけではなく味が大切、かつ技の複製が困難な世界で、スキルを磨き続けるような人は、当面残る。また、状況や文脈(コンテキスト)の中で、適切な問いを立てる力や、美しいものを美しいと感じる力、気持ち良いものを気持ち良いと感じる力をベースにした仕事も人間にしかできない仕事として残るだろう。

「ベースになる変化を引き起こす人」について言えば、明らかに供給が足りないのは、このような情報の高度処理や機械学習を実際の課題解決につなげうる人であり、世の中のどのような問題にこれらの手法が使えるかを考える人だ(1)。これはどのような産業分野でも必須になる。機械学習、AIそのものの専門家(データサイエンスの専門家)も必要だが、それほど大量に必要なわけではない。実際には、機械学習は世界レベルの大学であれば、普通に理系のマスター卒ぐらいの人が使える技術になるまで10年もかからないだろう。*2

また、莫大な情報が生まれているとはいえ、実際にはその情報の多くはそのまま利用できるような形にはなっていない。センサーから上がってくるいわゆるIoT*3の情報も、その情報基盤が異なっているので、相互に言葉を交わすことができない。これらの基盤整備するような人も必須だ(2)。ほとんどの会社では、自社内のデータ構造すら統一されていない。これを使えるようにする人も必要だ(3)。高速で流れてくる情報をさばくデータ収集の仕組みを作り、運用するプロも必要だ(4)。そのデータをため、分散処理する情報処理基盤を作り、運用する人も必要だ(5)。その上で、全く構造化されていない言語や画像、動画のようなデータを使えるようにする人も必要だ(6)。いざコンピュータが利活用できるように構造化しても、それを解析し、高度に利活用する(レコメンドやデータ同化*4をする)人も必要だ(7)。

ということで、データサイエンスにある程度造詣があるだけでなく、世の中の課題を見極め、構造化でき、それを実装できるデータ関連の専門家がひとかたまり必要になる。上の(1)〜(7)のスキルを同じ人が全て持つことはおそらくないと思われ(例えば言語処理の専門家が、大規模な実装までできることは稀であるし、加えて、特定分野、例えばコンビニSCM、の課題整理と見極めができることはさらに稀だろう)、それぞれのプロの需要は跳ね上がるだろう。当然、その全体のデザインと指揮ができる(1)の人の希少性は際立つことは間違いないが、状況次第では、特定のスキルが社会のボトルネックになり、そこの需要が極端に逼迫することも十分考えられる。

ここまでが「ベースになる変化を引き起こす人」たちの話。でも、多くの人は当然のことながら、ここにも、上に書いたような問いを投げ込んだり、美意識、心地よさをベースにした仕事にも入らない可能性が高い。では何をやるのか、といえば、「このような変化の上で、さらに新しい変化を生み出す人」、すなわち、「新しい変化を使い倒す側の人」になるだろう。

例えば、工芸だとか手術みたいなものは当然のように今以上にcomputer assisted(以下CA)になるだろう。木目や脈動みたいなものも機械が読み取り、人間には困難な取り扱いもできるようになる日は来ても全くおかしくない。手術に関してはスターウォーズの世界、あのダースベーダーが生まれる時そのものだ。クルマの免許もオートマ限定が一般的になってきたように、いずれはCA限定になるだろう。これからは、ICT*5だとは到底思われていない領域もことごとくICT化していくので、こういう変化の中で、技を磨くというのは何かを考え、トライしていく、そういう時代になっていく。

我々が物理的存在であることはさすがに当面変わらない。そこをよく見て踏み込んだ人にきっとチャンスがある。そういう視点で見ると、上に書いたようなものだけでなく、ずいぶん大きな産業領域が、この国では存在自体を気づかれていないことも読者諸賢氏には見えてくるのでは?

(関連エントリ)

*1:ATPワールドツアー・ファイナル

*2:東京大学松尾豊先生の行われている授業でも単位も与えない講義に理系文系問わず、すでに応募が殺到しているそうだ。

*3:Internet of Things: モノのインターネット。インターネットにつながったモノ

*4:いわゆるsimulation

*5:information, communication, and technologyの略