ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

Places in the Heart


Leica M7, 1.4/50 Summilux, RDPIII, Tuscany, Italy

もう30年近い昔の話だ。

当時ほんとうに言葉などなくても分かり合えた友人が何人かいた。みんな本当にいいやつだった。

ある日、その一人と、なんだかもう何もしたくなくなって、名画座に映画を見に行った。

"Places in the Heart"

という映画だった。*1

-

アメリカの南部の多分20世紀はじめの頃の話だ。ある日、突然、家族と幸せに生きていた婦人が突如未亡人になるところから話が始まる。彼女の夫は、町でとても信頼されていた保安官だったが、酒を飲んで気持ちよくくだを巻いていた黒人に注意すると、暴発的に玉が出て、死んでしまうのだ。その黒人の青年は処刑され、木にあたかもモノのように吊るされる。

彼女は本当に呆然とする。が、いつまでも泣いている訳にはいかない。とても可愛い3つ、4つの娘と、少しお兄さん、6つか7つの息子という二人の小さな子どもたちを抱え、綿花を育てることを決意する。箱入れ娘で仕事のことなど何も考えたことのない彼女には、何もかもが厳しい。銀行もちゃんと相手をなかなかしてくれない。しかも男女平等とはいい難いこの世界で、過酷な仕打ちがつづく。それでも彼女は生き抜くことを決意する。

少しでも生活の足しになればと、銀行のすすめで空いている部屋に目の見えない男を住まわせる。自分たちでは育てたり取り切れない綿花を育てるために経験豊かな黒人農夫の男の人を雇い入れる。そうこうしているうちに、ようやく家族がまた新しい形で再生されていく。途中でも色々ある。妹が夫の友人と不倫をしていたり、雇った黒人が銀の食器を盗もうとしたり、、。KKKも出てくる。人種差別の風景はもう本当に厳しい。

苦労して頑張って綿花と家族と人間関係を育てる物語だ。*2

主演はサリー・フィールド。その時、はじめてみた女優さんだったけれど、素晴らしかった。当たり前のように彼女はこの映画でオスカーを取った。その後の活躍は言うまでもない。今や大女優だ。

盲目の男性をやっていたのが、これまた名優としてその後名を成すジョン・マルコヴィッチ

日本でビデオを手に入れようとしてもずっと手に入らず、今に至る。

-

この映画は最後に、とある聖書の言葉で終わる。死んだはずの夫も、誰も彼もが再度、教会に集まり、その中で語られる言葉だ。

If I speak with the tongues of men and of angels, but do not have love, I have become a noisy gong or a clanging cymbal.
(たとえ、私が人や天使の言葉を話したとしても、愛を持っていなければ、私はかしかましい鐘やなりやまぬシンバルと同じ)

If I have the gift of prophecy, and know all mysteries and all knowledge; and if I have all faith, so as to remove mountains, but do not have love, I am nothing.
(たとえ私に預言が与えられ、あらゆる奥義とあらゆる知識に通じていたとしても、そして山をも取り除くほどの強い信仰があったとしても、愛がなければ、私は無にひとしい)

-

どこまでその映画で引用されていたかよく覚えていないのだが、この言葉は聖書で見るともっと続く。*3

ただ覚えているのは、どんな言葉も、どんな素晴らしい話も、愛がなければ、それは無だということだ。

この時、おそらくまだ20にもならない僕は、文字通り涙が溢れ、足から力が抜け、終わっても5分ほど立てなかった。

一つ席を空けて座っていた、僕のその友人もそうだった。

いまその彼ももういない。その映画を見た7〜8年ほどあとに、不慮の事故でなくなってしまった。本当にきれいな死に顔だった。

彼の分までちゃんと生きよう、そういう気持ちがなければ今の自分はなかったともよく思う。

人前で話す時、人に何か話す時、自分は愛の無いやかましい鐘になっていないのか、、ふとした時にこのことを考えることが今も多い。

胸に手を当てて考える。

自分の胸、自分の言葉にに愛はあるのか、と。

-

ps. この聖書の言葉は次のように続く。聖書の言葉は英語はから。日本語はココから持ってきたもの(上の翻訳は僕なりに多少手を入れている。)

And if I give all my possessions to feed the poor, and if I surrender my body to be burned, but do not have love, it profits me nothing.
(たといまた、わたしが自分の全財産を人に施しても、また、自分のからだを焼かれるために渡しても、もし愛がなければ、いっさいは無益である。)

Love is patient, love is kind and is not jealous; love does not brag and is not arrogant,
(愛は辛抱強く、愛はやさしく、妬まない。愛は高ぶらない、おごらない。)

does not act unbecomingly; it does not seek its own, is not provoked, does not take into account a wrong suffered,
(不作法をしない、自分の利益を求めない、いらだたない、恨みをいだかない。 )

does not rejoice in unrighteousness, but rejoices with the truth;
(不義を喜ばないで真理を喜ぶ)

bears all things, believes all things, hopes all things, endures all things.
(そして、すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを耐える。 )

Love never fails;
(愛はいつまでも絶えることがない。)

*1:当時いくらぐらいだっただろう。新作じゃないので、おそらく900円ぐらいで見れたんじゃないかと思う。でも今と違って本当に懐のさみしかった僕らは、多分外食を一回分諦めたんだと思う。あの一時期、僕はよく、この千円で食べるか、映画を見るか、はたまた本を買うか、をよく考えていた。バブル末期の学生でも、僕みたいなのは少しはいた。

*2:遠い記憶なので、多少の間違いがあると思うが、僕の記憶ではこういう映画だということでご寛容いただきたい。

*3:コリント人の手紙 第13章からの言葉。