開疎化がもたらす未来


Leica M7, 1.4/50 Summilux, RDPIII, Somewhere in AZ, USA

「開疎化」という言葉を世に出してから二週間たった。3/11のWeeklyOchiaiで落合陽一氏と話した「Withコロナ」からはもう一ヶ月以上だ。

Withコロナというのは解決策が必ずしもない新型コロナ(SARS-CoV-2)や様々な病原体とともに生きなければいけない状況、環境のことを言う。世の中の期待と異なり、状況の収束にはSARS-CoV-2対応に絞ったとしても、現実的な楽観シナリオでも1-2年はかかる、更に様々な病原体がこれから現れる可能性は相当に高く、これが終わりなわけではない、その視点で課題と未来に向けた方向性を整理する必要がある、というのが前回の議論『そろそろ全体を見た話が聞きたい2』だった。

kaz-ataka.hatenablog.com

開疎化と言っているのは、一言で言えば、Withコロナ社会が続くとすれば、これまで少なくとも数千年に渡って人類が進めてきた「密閉(closed)×密(dense)」な価値創造と逆に、「開放(open)×疎(sparse)」に向かうかなり強いトレンドが生まれるだろうという話だ*1

ちなみにその逆、言ってみれば「密密化」は都市化や人類の文明の発達してきた方向とほぼ表裏一体であり、つい4ヶ月ほど前まで、このままいけば、ブレードランナーのようなsuper都市セントリックな未来、それ以外の空間が捨てられる未来、がやってくるというのが、全世界的に起きてきた強く太いトレンドだった*2

前回のエントリが、Facebookだけで既に約4,000回ほどもシェアされ*3、4/8のWeeklyOchiaiでもこのテーマについて話したこともあり、「開疎化」という言葉は結構な勢いで広がり、これは何をもたらすのかということを聞かれることも多い。

それってみなさんの想像力に託されているんですよ、と言いたいところではあるが、言い出しっぺということもある。2月に出した拙著『シン・ニホン』編集者の井上慎平さんから随分な量の質問も頂いているので、それも見つつ、少し考えてみよう。

井上さんから頂いた質問は、開疎化時代において、たとえば以下のそれぞれがどうなるのか、ということだ。

  • 都市と地方の関係性はどうなるのか
  • 都市空間の変容
  • 密を前提としている産業の未来、、食やエンタメ
  • 開疎化が困難な領域は?
  • 人間の感性はどう変わるのか
  • 人と人の関係性は変わるのか
  • データ×AIと開疎化の関係
  • 価値はどのように逆転するのか
  • 優秀さの定義は変わるのか
  • 開疎化は右からと左側からのどちらから向かうのか
  • 脱グリッドとは?

なんとも絡み合っているので、徒然なるままに書いていこうと思う。
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まず、多分、僕の周りの人たちの多くが、何より気になるところと思われるのは、Withコロナ時代において理屈通り開疎化が進めば、そもそも都市はどうなり、地方との関係がどうなっていくのか、ということだろう。

何しろ開疎化という概念と都市が誇るものは大半がことごとく対立している。切れ目なくやってくる環状線の電車、10以上もの路線が入り組み日に数十万から数百万の人が利用する主要駅、通勤アワーは常に座席の数倍以上の人が乗り込む電車やバス、何千もの店が集積する街、何万人も入って一緒に応援するスタジアム、10以上のスクリーンを持つシネマコンプレックス、みっちりと居住(オフィス)空間がつまり、それが積層化された高層住宅やオフィス、毎日数万人が集まる花見の名所、列で何十分も人が並ぶテーマパークや新しい名所、、などなどだ。

ここで留意したいのは都市は決して東京や大阪のような大都会だけではないということだ。多くの地方にも中核的な都市空間はある。例えば多くの人がリゾートで訪れる沖縄、僕も大好きだが、実は那覇市の人口密度は約8,000(人/平方キロ)にも及び、23区内の人口密度約1.5万強の半分程度もある。つまり単に地方の時代が来たとかそういう話ではないのだ。

たとえば日本の各地でコンパクトシティ化が進んでいるが、これはこれまでの人類の最大の発明、ソリューションである「都市」を地方の空間において再現しようというもので、普通にやると開疎化とは逆の流れになる。

結論から言えば、都市はなくならない。現在の人間にとって、効率的かつ快適に暮らすためには都市以外のソリューションがないからだ。従って、開疎化は都市の中でこそ進む。前回のエントリで書いたように、同じ都市の中でも、開疎化されているかどうかによってオフィス、飲食店、娯楽施設など、あらゆる空間が評価される時代が来る。空間の開放性、通気の良さ、座席配置などだ。「空気回転率」(空気の入れ替え回数/時間)あるいは「単位換気時間」(何分で全部の空気が外気と入れ替わるか)はモニターされるのが当たり前になるだろう。代替指標としてのCO2濃度も計測するのが当たり前になる。

外資やプロフェッショナルファームであればブースという2~6人で区切った作業空間がよく見られるが、そういう場合は、そのブースごとにこれらをモニターすることになる。概ね「疎(sparse)」ではあるものの、「開(open)」ではないためにこれまで以上に空気の回転を重視する仕組みにしていく必要があるだろう。

先程のCO2を例に取ると、外気と同じであれば450ppmぐらいであるが、僕が計測器を持ち歩いてみたところ、インテリジェントビルは新築でも人が働いていると1,000ppmを超えているところは珍しくない。これに対応するべく、前回書いた通りオフィスビルそのものの温暖化対応と伴って、かなりのリノベーション需要が発生するはずだ。

この新しい我々の世界ではハコというものの役割も再定義されないといけない。通気の良い形に設計思想も変え、今までのビルは大幅なリノベーションが必要になるだろう。オフィスにつきものの「島」もおそらく消える。日本の職場は官庁も含めて外資的な感覚では異様な人口密度の場所が多いが、それも補正されざるを得なくなるだろう。実は温暖化に伴って風速70-90Mに対応できる街やビルにする必要があるが(『シン・ニホン』第六章を参照)、その対応も一緒に行うべきだ。(そろそろ全体を見た話が聞きたい2

加えて、いま多くの人が体験している通り、ライブ感漂う状態で空間的に離れた人とリアルにつながるための空間や技術開発が進む。この視点で見ると世界的にメガヒットとなりつい最近まで極めて品薄だったAppleAirPods Proの発売は実にタイムリーだったと言える。空間的にもおそらくコックピット的なオフィスが増えるだろう。それは自宅にも相当配備され、オフィスビルの中にもかなりの数ができる可能性が高いのではないかとおもう。

離れて作業や議論している中、あたかも一緒にいるかのように感じ、共同作業して価値を生み出すための技術も必要になる。カンファレンスやコンサート、ライブなどの根本的な刷新、興行系のビジネスのモデル刷新、それに即したインフラ的なプラットフォームの整備も必要になる。VR/MR/ARも大事だがそれ以前の話も大量に出てくるだろう。(そろそろ全体を見た話が聞きたい2

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そうなるとそもそも会社が一つの場所に土地をまとめて借りる必要があるのかという話に当然なる。かなりの人が開疎的に働き、「本当に集中的にブレストする、知的生産を行う」ときのために何割かの人が集まれば良いという形にオフィスは変わっていくのではないかと思われる(当然コアメンバーだけが参加し、陪席者は外からその空間にバーチャル的にjack-in*4する)。

なお、今の日本のオフィスの多くは密密的な「島」を中心ににデザインされているので、開疎的にオフィスを作り直すと今と同じぐらいの面積は維持し続ける必要があるのではないかと思う。開疎状態で全員が出勤する(これ自体が言葉として矛盾がある)となるとおそらく今の3〜4倍程度の面積が必要になるケースが多いと思われるが、そういうことはなくなるだろう。10年、20年後まで見据えて考えれば、風通しもよく、低層でエレベーターが人で溢れたりしない開疎なビルや街が中心になっても全くおかしくない。交通機関も含めて都市計画の大幅な見直しが必要だ。

この変化に従い、多くのオフィスワーカーは家の中か比較的容易に行ける場所に作業コックピット的な空間が必要になる。職住近接ではなく、職住一体型の住宅の開発、リノベーションが進む。参加者外秘のビジネス討議を行うためには、そこがセキュアかどうかも示せることが求められるようになる。

いま現在は貸し会議室やシェアオフィスは需要が激減していると聞くが、おそらくこの流れに沿って空間を設計し直すことで蘇る部分も多いだろう。これまでは街ナカばかりをシェアオフィス化していたと思うが、郊外の空き家や空きビルなどを再設計して、気持ちの良い作業空間として打ち出し直す場所が求められるようになる。夏冬は少々きついかもしれないが、隙間風の入る古い木造住宅も、春秋の開疎空間としては良い場所と考えられる。
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作業場としての都市的な空間についてばかり述べたが、消費、娯楽の中心地としての都市機能についても考察してみよう。

消費、、こちらについては銀座、表参道、NYの5th Avenue、あるいはプレミアムモールのような生のブランド体験を得るための場所は残ると思うが、ここに訪れるというのは今まで以上にちょっとした贅沢な体験になる可能性がある。開疎化の流れの中では店舗内の人の数は相当にコントロールする、入店者も管理する必要があるからだ。高級ブランドのお店では若干、加圧状態にして、外から病原体が入らないようにすること、空気でお客を洗うようなスペースづくり*5も行われていくだろうことも容易に想像できる。

実際には、今のSARS-CoV-2そのものは一旦どこかで落ち着くだろうと思われるので、その小康期は元通りになるが、そういう何らかの病原体がはびこっている時は、十分な免疫を持つ人(抗体価の高い人)だけしかおそらく訪れることが厳しくなる。そうでない人は、外からそういうフラッグシップ的な店舗にJack-in的に訪れ、まるでリアルかのような接待を受けることが求められるのではないだろうか。その場合、そのフラッグシップ店舗は、当然そのような大きな街ナカにある必要はなくなる可能性が高い。

例えばチロルの山中に、巨人が古墳になったような不思議な建造物がある。

kristallwelten.swarovski.com


この地下はクリスタルガラスで世界的に有名なスワロフスキーが持つ、クリスタル・ワールドという世界最大のフラッグシップ店舗だ。10年以上前に訪れた時でも案内者が20ヶ国語以上の主要言語に対応しており、他では全く見たことのない質と量の展示販売が行われていた。この地下に世界最大のスワロフスキー工場もあるともお聞きした。

こういう場を求めるブランドは相当に多く生まれると思われ、なおかつ、その誘致を行い、その周りをそのブランドに相応しいだけの美しく、自然とともに豊かさを持った空間にできる土地の開発が進むだろう。数十から100平方キロ米の土地に一つ、そういう場所があるだけで、全く新しい開疎な豊かさを持つ郊外の空間が生まれる。その周りには、いま世界のairbnbなどでどんどん提供が進む開疎でゆたかな居住空間も生まれてくるだろう。*6

(若干余談だが、これに関連する未来として、もう一つ大きな変化として想像されるのはluxuryブランドの未来だ。これだけ人の中に出る機会が減れば、自分の豊かさや趣味の良さをshow offする[人に顕示する]という価値を売るブランドの必要性は当然減る。50万円のカバンや時計を持つ必要性が小さくなるということだ。もっと人に寄り添い、その人それぞれの人生を豊かにするという風にリポジショニングしなければ、多くのluxuryブランドは生き残れなくなるだろう。ブランドコミュニケーションも、こういう場面には、、というアプローチで想定する場面が全く変わってくるだろう。)

フラッグシップ以外の店舗はどうなるのかと言えば、特に服や靴、アクセサリーなどは見て触って着ないと話にならないので、もちろん残ると思う。ただ、今のままでは開疎とは言い難い店舗が多いので、むしろ郊外で大きなスペースの中で行う事業者が増えるのではないかと思われる。想定する用途や場面は劇的に変化するだろう。いわゆるスーツというものがついに特別なときにしか着ない、一つのコスプレ的なものになる可能性は十分にある。紋付袴のようにだ。Jack-in的に仕事をするために着るスーツなどもはやmake senseしないからだ。

スーパーなど食品系で行われる日々の購買は、前回も議論した通り、オンライン、非接触決済に急速にシフトしていく。食品や日々の消耗品ですら重いものや店頭になかなかないものはオンラインで色々カートに突っ込んでおいてまとめて買うような時代に向かうだろう。僕が子供の頃、自分の育った北陸の田舎では、お酒やビールは近所の酒屋さんが持ってきてくれるのが当たり前で(ツケ払い)、豆腐やお魚も行商の人が毎日家の前に来てくれて買っていた。八百屋さんもものが多ければ運んでくれた。あれが半ば戻ってきて1日か2日に1回のオンデマンド化するのではないかと思う。都市部においては週1回、パルシステムなど生協的なサービスを使っている人も多いと思うが、それでは足りない部分をまるごと引き取っていくという仕組みだ。

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宮崎駿監督の名作『風の谷のナウシカ』で描かれる世界は、腐海と呼ばれる毒性の高いガスと胞子に覆われた空間と、腐海にまだ覆われていない数少ない空間に分かれ、残された数少ない人類は後者の方に住むようになっていた。今回はそこまでは行かないが、都心にいるということは、半ば、密密なリスクの高い生活をすることに他ならない。

長らく「風の谷を創る」運動論の仲間の中で言っていることだが、こうした開疎な「風の谷」的な空間を周りに十分持てない都市は価値を失う可能性が高い。都市が都市として価値を持ち続けるためにも周りに豊かな谷的な空間が必要になる。

開疎化が進めば、このような変化がいわゆる大都市圏でも地方でも起きていく。十分に開疎な空間に住んでいる、働けていると思っていない人は、徐々に開疎な空間に移るか自分たちの空間を作り直していく。住む場所としての土地の価値のヒエラルキーも、単に各地域の都心と言うよりも、開疎で自然豊かなところ、そして都心にアクセスの比較的良いところがベストという風になっていく。*7

もちろん都市の持つ極めて高い効率性、利便性、楽しさがあるためにそう簡単に事は進まない。人口密度の極めて低い疎空間をどのように経済的にサステイナブルな空間にしていくかというのは僕らが同志でずっと検討してきている「風の谷を創る」運動論の核心の一つだ。

kaz-ataka.hatenablog.com

とはいえ、都心が持つ知的生産、消費の中心地、価値創造・演出の中心地という特性は徐々に、オフィスや生活空間の分散(開疎化)とともに弱まっていくだろう。今、様々なオフィスや大学は立入禁止に近い状態になり、遠くから眺める半ば神殿のような存在になりつつある。神殿としてのオフィスや大学はどのようにあるべきかには相当の試行錯誤が起きるだろうが、これは巨大なビジネス機会でもある。

クリーンな開疎空間から来た人が、密密な空間に入ることにはちょっとした勇気が必要になる。密密な空間から来た人は、開疎な空間に入るにあたってうまく清めることが必要になる。空間と空間のスイッチ、Jack-in/Jack-outはリアルでも起きる世界になるだろう。

到底頂いた質問に答えきっているとは言えないが、一旦、ここまでということにしたい。また余力を見て続きを書いてみようと思う。


ps. 「風の谷を創る」の同志である仲間たちの声を、これもまた仲間の一人である宇野常寛さんがまとめ、連載的に紹介していただいているものをここに紹介しておこう。どれもとても読み応えがあるので、落ち着いて読む時間があるときに一つずつ味わって読んで頂くのがおすすめだ。

slowinternet.jp
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*1:これを経済的にmake senseさせるというのは一朝一夕では解決できないとても重い課題であることを、もう数年来、まさに開疎的な空間である「風の谷を創る」ための検討活動を行ってきた僕らはよく理解している

*2:詳しくは「風の谷」という希望、というエントリをご参照

*3:2,600回以上シェアされたところで、このブログの全エントリのシェア数のカウンターがゼロリセットされるトラブルがあり、その後1,300回以上シェアされている。

*4:Jack-inは東京大学/ソニーCSLの暦本純一先生の提唱するバーチャル空間に接続することを意味する概念。ここから出ることをJack-outという

*5:エアーウォッシャー的な小部屋を通るなど

*6:これは、僕がこの数年有志で検討してきた「風の谷」構想にかなり親和性が高い。もし一緒に、自分たちの土地で、あるいは自分たちのブランドで検討したいという人がいたらぜひご連絡をいただけたらと思う。

*7:なお、これは都心がシンプルにアウトだと言っているわけではない。例えば東京の居住空間の中でも豪邸が立ち並ぶ松濤、池田山、猿楽町/桜台の裏辺りなどは既に相当に開疎であり、教育レベルも高く、10-15分圏に総合病院も多い。そういう意味でそう簡単に価値は減らない、むしろ希少性のために価値がさらに上る可能性がある。

そろそろ全体を見た話が聞きたい2

2010年の年末に『イシューからはじめよ』を出版した。何ヶ月か後、歴史的な大地震(いわゆる311)が来た。大津波の死者・行方不明者は無数、フクシマは爆発する、東京は計画停電が始まるしで、何がなんだか訳のわからない不安と混乱が世の中を覆い尽くしていた。随分目先のしかも全体観のない議論ばかりが行われていて不毛だと感じ、10日あまり経ったところで課題の全体観を俯瞰したブログエントリを書いた。

kaz-ataka.hatenablog.com

今見てもそれほど大きな違和感がない。初動、その後の対応の残念さ、せっかくの刷新にもうまく繋げられたとは言い難かったことも明らかになっているのだが、それは一旦おいておこう。

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いま僕らを襲っているのは歴史的には人類最大の死因の一つ、疫病だ。

拙著『シン・ニホン』が2月20日に世に出たときはまだ中国と日本のダイヤモンド・プリンセス号にほぼ閉じた話だったが、現在、急激に世界的な課題になっていることは皆さんご存知のとおりだ。

リニアな変化と指数関数的な変化、スケール拡大の時代の終焉についての議論からはじめ、疫病や飢饉についても議論し、地球との共存こそを図らねば我々の未来がないと語った本を出した直後に、なんと奇しき偶然だろうかとは思う。

先の大戦直後、つい70年ほど前でもこの国の死因の一位が結核という名の伝染病(感染症*1)だったことを、僕らは忘れてきた。最大級の敵である、結核天然痘、ペスト、コレラ、更にHIVですら半ば鎮圧した我々は、ほぼ疫病が滅んだと考えてきたのだ。

つい3ヶ月前の年末の雑誌の表紙を見ると、世界ではグレタ嬢が僕ら人間と地球の共存の大切さを投げ込んでくれて、世界中の人の目を開いてくれた一方で、オリンピックイヤーを迎えるに当たり、少くとも日本はとても明るい気分に社会が満ちていたことがわかる。しかし、今僕らの目の前にある事象を踏まえた世界の雑誌の表紙は、閉店状態にある地球、疫病、そして疫病だ。

年末の雑誌(左)と今の雑誌(右)を並べたもの。(c)Kaz Ataka 2020

こんなときこそ引いた目で世の中の課題の全体観(perspective)を持つことが重要だ。必ずしも全容がわかるわけではないが、自分の頭の整理もかね、こういうことなのじゃないかというものを書いてみようと思う。

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非常にざっくりと言えばこの課題解決は5つの領域(レイヤー)に分けられる。

1)COVID対応、、いかにダメージを少なくし、制圧し(安定的な平衝状態を実現し)、医療システムのキャパオーバー、最悪のケースの崩壊*2を防ぐか。
2)社会の基本コアシステムをどう回すか、、ヘルスケア、ビジネス、教育、行政システム、飲食をどのようにこの状態で回すのか
3)社会のOS的なインフラ機能をどう止めずに回すか、、通信、物流、電気、ガス、石油、上下水道、ごみ処理など(農業・漁業もほぼココ)
4)お金、、経済的に企業や家庭がどのようにしのぎ、立ち直っていくか
5)ルール作り、、これらの不連続かつ急速な変化に対してどのようにフレキシブルかつ大胆に対応し、方向性を修正していくか

当然のことながら、これに合わせて仕組みの刷新を相当に激しくやっていく必要がある。また、これを世界各地の進捗状態の中でうまく回していく必要がある。

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解決の時間軸としては、上述の311の課題整理と同様に、止血、治療、再構築の3フェーズで考える必要があるだろう。

ちなみに上に書いた5つの領域で、現在見えつつある課題は実はほぼ「止血・治療」レベル、つまり、この状態で我々の社会が死なずに生き延びるために何をすべきかという課題だ。例えば、

1)COVID対応

  • 急激な患者数拡大を防ぐために不用意な密閉、閉鎖空間*3への立ち入り、対人近接を抑制する
  • 感染の有無と入院の必要を分離、、重症者向けに極力病院のベッドを開ける
  • COVID19病床を劇的に増やす、、、必要な人工呼吸器も一気に増産
  • ヘルスケアワーカーの健康を守り安定的な労働環境を築く、、N95マスク、防御服の増産、直接患者に接しなくとも診断できるブースの開発・設営ほか
  • 医療データ、各種ビッグデータを活用、統合し、状況をリアルタイムで可視化する
  • あらゆる空間の換気を良くし、室内CO2濃度*4などをモニターする(オフィス、電車、スーパー、コンビニ、飲食店ほか)
  • 各個人もSpO2*5、体調をコンスタントにwatchする
  • 検査の簡便化と社会全体の免疫状態の可視化のために血清検査を確立し広める
  • 社会全体の免疫力を一気に上げるためにワクチンを早期に開発し一気に適用する
  • 以上の実現に向けて社会のリソース配分を見直す、、工場キャパ、空間、人員の最適配置など(例えばUKでは、飛行機が飛ばないためキャパの空いているCAを臨時でnurseに配備する検討が進められている。同様に会議場、貸オフィス、空きビルなども抜本的な利活用の見直しが必要だろう)

2)社会の基本コアシステム

  • 通信帯域やデバイスはもはやライフラインであり*6、未浸透世帯に可及的速やかにインフラ普及を進め、帯域コスト(光接続)はニーズベース*7で一律補助し、デバイスは無償貸与するか購入補助を行う(とくに小中高とその子供のいる家庭)
  • リモートワークを派遣社員、アルバイトも含めて即座に認め、デバイスを配布する
  • 行政システムや医療診断(特にCOVID)や薬剤処方をオンラインで可能にする
  • 本人確認、印鑑承認、レシートなどの紙や直接(in-person)のやり取りが必要なシステムをすべてオンライン、デジタル署名化する
  • 飲食業のために路上、公園を開放し、ことごとくオープンエアーでの営業を解禁する

3)社会のOS的なインフラ機能

  • 社会が機能不全にならないように一定の通信帯域を確保する、、YouTubeNetflix、その他オンラインゲーム会社への要請
  • 対人でのものの受け渡しや現金の支払いを止める、、郵便、宅急便などは手渡しをとめる。現金でしか支払えないところはすべからく物理的接触が不要なバーコード決済を導入する(タクシーや飲食店など)
  • リモート環境下を支える物流システムを強化する、、物流ワーカーを増やし・感染から守る、待遇を見直す、それを支える自動化を強化する
  • すべての基礎インフラ機能をできる限り無人化、リモート管理可能にする、、センシング社会、工場以外でもロボットを活用

4)お金

  • 貧困層など弱者を守るためのセーフティネットを用意する。弱者の税や社会保険料の支払いを猶予もしくは免除する(報道ではほとんど流れていないが、中国では社会保険料の猶予まで相当前から踏み込んでいる)
  • 企業体力のないところの支払いを猶予する(税、社会保険料を含む)とともに資金繰りを担保する

5)ルール作り

  • 上記ほかの様々な変化に対応する意思決定システムを国会でよく見る今までの揚げ足取り的な議論ではなく、企業におけるタスクフォース的な議論で一気に詰めて、スグにagile的に対応する
  • 結果を常にモニターし、どんどんagile的になおしていく事ができるような仕組みとする(例えば血清検査などが米国やG7で審査が通ったらスグに通すような仕組みを作る、など)
  • これは有事であり、既存の何かを守ることではなく止血的にそれが正しいか(有効か)と、過剰にコストがかからないかだけで判断する
  • 公的なpropertyの緊急時対応が必要な仕組みに刷新


「社会のフリーズ(凍結的な停止)」を防ぐためにこれらの対応をするべきことは半ば自明だ。

ただ、このような社会のフリーズ防止のための目先の課題解決を進めつつ、ここでもう一つ考えなければいけないのは、この社会全体を将来的にどのようなシステムにしていくべきなのかを考え、整理し、それに向けて社会全体の「変態」*8を一気に図ることだ。

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先日 3/11、畏友、魔法使い落合陽一さんとWeekly Ochiaiでブレストした際に「アフターコロナ社会についてどう考えるか」みたいなお題が僕ら二人に出て、即座に僕が言ったのは「アフターコロナ社会は当面来ない、"Withコロナ社会をどう生きるか"こそが課題だ」ということだった。

それ以来、Weekly Ochiaiや他のプログラムでも「Withコロナ」という言葉をよく聞くようになったが、これはどういうことなのか、その時、説明を飛ばしたこと、を少し補足しておければと思う。

newspicks.com

ご存じの方もいらっしゃると思うが、コロナを含む感染症のための病床数は4/4現在、日本全体で4,000あまりだ*9。一度入院したら2週間はいなければならないとすると、年間52週で26回転、4,180 x 26 = 108,680 = 約11万人の治療が可能ということになる。入院が必要な重症化率が世界平均同様に5%だとするとこの国が現在対応できる感染者数は年間で11x100/5= 11x20 =220万人に過ぎない。これでは「もしキャパを溢れさせないとするならば」50年以上(57年+)の時間がないと今の人口(12,600万人)全員に免疫ができることはない。50%を目指すとしても29年だ。普通の経済的な感覚ではほぼ無限に続くことになる*10

仮にこれが1万までCOVID対応可能な病床が増えても同じ計算で*11、免疫を持つ人を50%にしようとすると約12年かかる。3万まで増やしても約4年だ。つまり、向こう数ヶ月で沈静化するという可能性は中国のような完全シャットダウンを行って封じ込めない限り考えられない*12。この状況は他の主要国もそう変わらない。したがって"手なり"で考える限り、来年オリンピックが当初期待していた形でできる可能性は低い。

実際にはいま世界で知られているだけで100以上のワクチン候補の開発プロジェクト*13が進んでおり、6月にも動物治験に入るもの、9月にも人間での治験に入るものなどがあり、早ければ年始にはなにか生まれてくるだろう*14。ワクチンは当然のことながら社会の免疫獲得を劇的に加速する。とは言え、これが10億単位で量産され、世界中の人が打ち終えるのには少くとも数年はかかるだろう。経済的な主要国の50%までをターゲットにしても、現実的な楽観シナリオでも1-2年はかかるというのが普通の見立てではないだろうか*15

したがって、我々は当面、(感染爆発を極力抑止し、特効薬、ワクチン開発とその展開に最善を尽くす前提で)この疫病と共存的に生きていくしかないというのが現実的なシナリオと言える。僕らは再び、70-80年前に戻ったのであり、ある種の慎重さと生命力が何よりも問われる時代に舞い戻ったということができる。

また、詳しくは拙著『シン・ニホン』6章を読んで頂ければと思うが、向こう数十年のうちに北極、グリーンランドの氷のほぼ全て、南極の氷の多くが一度は解ける可能性が高い。これはアルベドと呼ばれる太陽放射の反射率が雪や氷と海や陸地では全く異なるために正のフィードバック(ice-albedo feedback)が劇的に効きやすいことが大きく、我々ホモサピエンス(ご先祖様たち)がぎりぎり生き抜いていた氷河期の最中でも何十回と起こったと見られる現象だ。

そうすると当然のことながら、泥炭地などからメタンなどの極めて温暖化効果の高いガスがまとまって出てくる可能性が高く、温暖化が更に加速する。さらに、我々の先祖の多くが苦しんだ様々な病原体(細菌やウイルス)が氷の中から出てくる可能性がそれなりにある。この中には100年前に5千万から1億人の命を奪ったスペイン風邪(Spanish Flu)のような強烈なインフルエンザのような風に乗って飛来する(airborne)ものがあってもおかしくはない。

つまり僕らはパンデミックのタネの一連(series of pandemic seeds)にさらされ続ける可能性がそれなりにあり、そうすると今の新型コロナウイルスSARS-CoV-2)が去ってもなにか新しい伝染病との戦いが色々と続く可能性があることを心づもりしておくべきだということになる。これがWithコロナ(SARS-CoV-2に限らず)時代を生きることになる、とその時、僕が即座に発言した背景だ。

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話を戻そう。

ということでWithコロナ社会ということになると、上で挙げたような打ち手は本当に今の一時しのぎの話だ(それにしてはかなり多いが、、)ということになる。マクロ的には

  1. 密閉(closed) > 開放(open)
  2. 高密度(dense)で人が集まって活動 > 疎(sparse)に活動
  3. 接触(contact) > 非接触(non-contact)
  4. モノ以上にヒトが物理的に動く社会 > ヒトはあまり動かないがモノは物理的に動く社会

という方向性を当面givenとして我々は生きていかないといけない。簡単な図にすると、以下の通りだ*16。この流れを、開放x疎で「開疎化」と呼ぶことにする。


ちなみに、このマトリックスの左下が集中する場所がいわば「都市」であり、人間がこれまで作り上げてきた最も効率がよく、楽しく快適だった空間でありソリューションだ。以前、次のエントリで議論したとおり、これまでひたすら人類はここに向かってきた。「開疎化」は、奇しくも「風の谷を創る」運動論の目指す方向性とかなり重なる。

kaz-ataka.hatenablog.com

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一旦、上の止血・治療過程がおわったらもうおそらく二度ともとのように高密度で仕事をすることはなくなるだろうということを既に感じている人もいるだろう。まさにそのとおりだ。

この新しい我々の世界ではハコというものの役割も再定義されないといけない。通気の良い形に設計思想も変え、今までのビルは大幅なリノベーションが必要になるだろう。オフィスにつきものの「島」もおそらく消える。日本の職場は官庁も含めて外資的な感覚では異様な人口密度の場所が多いが、それも補正されざるを得なくなるだろう。実は温暖化に伴って風速70-90Mに対応できる街やビルにする必要があるが(『シン・ニホン』第六章を参照)、その対応も一緒に行うべきだ。

離れて作業や議論している中、あたかも一緒にいるかのように感じ、共同作業して価値を生み出すための技術も必要になる。カンファレンスやコンサート、ライブなどの根本的な刷新、興行系のビジネスのモデル刷新、それに即したインフラ的なプラットフォームの整備も必要になる。VR/MR/ARも大事だがそれ以前の話も大量に出てくるだろう。

そのバーチャルなリアル空間(ゲームのようなバーチャル空間ではないがバーチャル空間にリアルが折り重なった世界)に入っていく、身体や心の慣れもそれなり以上に必要になるだろう*17。暦本純一先生(東大・ソニーCSL)の長年提唱されてきたJack-in/Jack-outを行うスキルだ。それを踏まえて上の課題解決領域はもっと遠くに目標の再設定をする必要が出てくるだろう。

1)COVID対応

  • あらゆる伝染病との共存(pandemic-ready化)。ワクチン開発力の抜本的な強化。様々なワクチン接種をできる限り行う社会に。各人の抗体保持状況を可視化。細菌やウイルスを吸着するフィルター(例:水に吸着)を室内空間に標準装備
  • 土を増やす。土や自然での遊びを強化。舗装を削り土壌面積を増大させる。(参照:ソニーCSL舩橋真俊氏「表土とウイルス」)
  • Withコロナ時代に即しているかどうか(平均social distance/密度、換気力、非接触度、リモート対応度など)であらゆる空間(店舗、空間、オフィス、職場)を評価、、快適・衛生度の視標にこれらが加わる
  • 多くの人が自衛的に色々なセンサー(位置情報、CO2、SpO2ほか)や記録を持ち、いざというときにトラッキング、モニタリングできるオープンなデータプラットフォーム社会に刷新(そうしなければオーウェルの描いた1984的な完全な管理、監視社会になる可能性。ハラリのFTでの論考を参照)

2)社会の基本コアシステムをどう回すか

  • 上の4条件がgivenの状態であらゆる産業やサービスを再定義する、、ヘルスケア、ビジネス、教育、行政システムをハコレスな開疎化社会に即して刷新させる、人の育成のあり方を根本的に見直すなど(巨大な産業創出機会でありscrap and buildの機会でもある)
  • その裏での働き方、生活の仕方も再定義する。たとえば、開疎化に合わせて疎開ワークはそれほど珍しくないもの(common)になっていくだろう

3)社会のOS的なインフラ機能をどう止めずに回すか

  • 都市部以外はグリッド依存を抑制し、マイクログリッド化、オフグリッド化を推進(変化への対応力を上げる)
  • モノはガンガン運ばれるが人はそれほど移動しない社会に即して刷新。特にCOVID19については、
  1. 先にCOVIDがやってきて抑制する中国/日本
  2. ある程度暴れるがなんとか対応するG20/OECD諸国(35カ国)
  3. 抑制できない途上国・中進国

のように三階層に分かれてしまう可能性が高い。特に食料、資源は途上国、中進国依存が大きく、タイミングがずれる中、世界の食料、エネルギー、資源、部品などの流通をどのように回していくかは極めて大きな課題解決になるだろう(止血・治療をシステム化する)。1918年のスペイン風邪の時、インドは6%もの人の命を失った。世界政府的な、国を超え助け合うための動きがかなり重要になる

4)お金

  • 接触を前提とした価値移動にすべてを刷新
  • 今回発生する巨額の未来への負債のダメージを軽減する資金運用スキームをつくる
  • 企業価値はスケールよりも「変えている感」 + 「よりよい(withコロナ時代に即した)未来を生み出せている観」に

5)ルール作り

  • 国内、国外ともに完全にagileに対応することが普通に回せる仕組みに刷新
  • 経済的にもヘルスケア的にも世界が痛む中、学び合い、協調してupdateする仕組みに刷新

という感じにだ。

Weekly Ochiaiのあと、この国は本当にやるべきことだけをきれいにやっていない、という意味で本当に落合くんの言う通り「伸びしろしかない」としみじみ思ったが、今回の刷新は、『シン・ニホン』で議論したAI-ready化の話を超えて、まさに妄想力とデザイン力を活かし、全く新しい社会への脱皮を各国がどのように行うかのゲームになる。

文字通りGo Wildだ。仕掛けて、仕掛けて、そして仕掛ける、その向こうに僕らが残すべき未来がある。

*1:英語ではどちらもinfectious disease

*2:ここではミイラ取りがミイラになるように、ヘルスケアワーカーの方々がバタバタとCOVIDや過労で倒れたり、医療システムが持続可能性を失ってしまうことの意

*3:closed space。オフィス、店舗、満員電車など

*4:換気の代替視標だが、リモートワークを行う上でも重要

*5:経皮的動脈血酸素飽和度

*6:スマホの帯域でやるのは限界がある

*7:世帯内の一人あたり所得、子供、勤務者の有無と困窮度

*8:蝶など昆虫類の変態 metamorphosis の意

*9:4/4/20現在で4180床

*10:実際には重症化していない人まで多く入院しており、更に重症患者は3-4週間入院する必要があるケースが多いように見受けられる。これを前提に計算すると、現在の感染症ベッド数では日本の全市民が免疫を持つまでに軽く100年以上かかる。死ぬまでにワクチンなしには免疫獲得は無理な人が多い、ということになる

*11:220 x 10,000/4,180 = 526万 = 年間約530万人の発生患者がキャパ的には限界

*12:GWまで「祈る月」にして不要不急の外出を禁止してしまうというのは一つの手であり、経済的には最もダメージが小さい可能性がある

*13:Nature誌によると4/8段階で115のワクチン候補がある:4/30更新

*14:実際には2002年に出現したSARS, 同2012年のMERSですら生み出せていないこと、エボラですらワクチン開発に課題が顕在化してから10年単位の年数がかかったことを考えるとこれはかなりの楽観シナリオだ

*15:4/8/2020速報:大村智先生のイベルメクチンが試験管内とは言えSARS-CoV-2の複製を劇的に抑制することが明らかに。服用や注射でもし大きな副作用なく効くなら神の薬になるかも。。

*16:密閉軸と接触軸がかなり重なり合うので合わせた。

*17:参考:スピルバーグの描いたReady Player One

一冊の本をまとめました、、『シン・ニホン』

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2015年春ごろから、急に国の仕事に巻き込まれるようになった。現在、大学と会社*1の仕事が表向きメインではあるが、データサイエンティスト(DS)協会のスキル定義委員会、理事会らの活動に加え、かれこれ10ほどの公的なロールがある。毎週のように講演や取材対応もある*2。その記事確認も結構重い。恥ずかしながら、実は今もいくつも溜まっている。

国関連では、その時折で重い仕事があるが、今は高等教育を受ける人全部にデータ×AIリテラシーを、という話をインプリするための仕事が特に重い*3

こんな生活なのであなたは何が本職なのかと聞かれることも多いが、本職というのはどういう意味なのだろうか、というのが僕がいつも思っていることだ。

僕的には、2018年の年末にその年の対外的な活動を総括したブログエントリで書いたとおり、

  1. 未来に賭けられる国にするということ
  2. 未来を生み出す人材を一人でも多く生み出すこと
  3. 今の子供やその次の世代たちが生きるに値する生活空間を生み出すこと

この三つが最大のアスピレーションで、これを

のすべての活動を通じて合わせ技的におこなって、毎日一歩でも前に状況をすすめられるように頑張っている、というのが正直なところだ。

なるべく名目だけの仕事を受けないようにしているので、関わった活動の多くでは何らかのデルタ(変化、差分)を生み出す触媒にはなれてきたように感じている。例を上げれば

などだ。

政府の委員というものになって知ったが、これは別に本業が減るわけではなく、ひたすらadd-onに乗ってくる。しかも審議会の場だけでなく、信頼されればされるほど、その事前事後で相当の時間が取られる。その中で日頃の仕事とは脳を切り分け、主語を国として考える、ということを唐突にやるという仕事だ。もちろん薄謝だ。これを読む若い人の中にもいずれこういう場に呼ばれる人も出てくると思うので参考までにシェアしておこう。

前職のマッキンゼー時代も含めて、相当の大きな組織のマネジメント課題の解決に関わってきたが、国という規模のしかも企業のように上意下達が可能なわけではない「系」(組織というのは適切ではない)において、課題をどのように考え、どのような取り組みが意味があり、どのように埋め込むと意味があるのだろうか、ということを考えるのは中々のチャレンジだ。マネジメントというものをかなり高いメタレベルで考えざるをえない。ここでそれなりのことを言うのも、いわんや変化を生み出すのも並大抵のことではない。しかし呼ばれて、受けてしまった以上、何らかの形で意味のあるバリューを出さざるをえない。特に僕のように、著名な経営者*5でも大成した学者でもない人の場合、場の格に貢献できるわけでもなく、本当に彼らが困っていることに関して意味のある知恵や変化が生み出せると信じて声がけされているのだからなおさらだ。

当たり前のことだが、国といえども、多くの人がご自身の担当の視点でお仕事を依頼される。産業政策、技術育成政策(経産省内閣府)であり、人材育成(文科省内閣府)であり、AI×データ時代における土木事業の革新(国交省)であったりする。

しかし、長年ストラテジスト(参謀)、変革の触媒として仕事をしてきた自分としては、投下できるのがどれほどなけなしの時間と言えども、国全体を系として考え、また外部的、時代的な変化を踏まえ、あるべき姿を考え、そこに向けて意味のあると思われるイニシアチブを、受け手が飲み込めると思う形で切り出し、投げ込むことを心がけてきた。

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そうこうしているうちに、一年半にわたって関わってきた経産省産業構造審議会産構審)新産業構造部会の最後のあたり(新産業構造ビジョンの発表前後)で、ついに人材について投げ込む場を頂き、ちょうど三年前、2017年の2月に投げ込んだ。そのタイトルが、その後、数多くの講演で使うことになる

“シン・ニホン” - AI×データ時代における日本の再生と人材育成 -

だった。この産構審の議論をずっと行ってくる中で、この国がうまく回らなくなっている最大の核心は、(この産構審の表題上のお題であり、関連政策議論の中心であった)産業政策そのものというよりも、政府のどこでも本気で議論されているように見えない

  1. 人材育成と科学およびテクノロジー育成の目指す像が間違っているが、これを小手先のことでかわそうとしていること、しかもその変化がおそすぎること
  2. この国が伸るか反るか、再生するか、沈没するかの歴史的な局面であるにも関わらず、これを実現するためのリソースをとてもじゃないが十分に張れているとは言い難いこと

の2点が真の中核課題であるとほぼ確信するに至った。これを勝ち筋とまるごとセットにして投げ込んだというのがこの場だった。シン・ニホンという言葉を初めて使ったのはその4ヶ月ほど前のTEDxTokyoだったが、この時は単に勝ち筋の基本的な話に過ぎず、そういう意味で本物のシン・ニホンとなったのはこの日だった。この場で話してほしいと前回*6のあとに依頼され、これは大事な場になると久しぶりに本物のアドレナリンが吹き出てきたのを覚えている。講演の準備なども通常数時間取れるかどうかという隙間しかないのだが、このときばかりは週末の土日を全部朝から晩まで投下して、結構な分析を行い、一気に取りまとめて発表した。

それがそれなりの反響を呼び、官邸(内閣府)の教育再生実行会議で投げ込む場をいただき、その前後で大臣、自民党青年局、財務省の高官の方々の前であるとか本当に多くの場でお話をさせていただき今に至る。

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国以外での講演について、なけなしの時間を投下する意味があるかは、基本パブリックマインド的に意味があるのか、ここでお話することが未来につながるのだろうかという視点でお受けするかを判断している。そこにいる人が未来を変えうる人たちなのか、そこでの投げ込みが未来を変えうるのか、という視点だ。したがって、特定の企業の内部向けのイベントは特殊な理由がない限り概ねお断りし、相手が中高生であるとか大学生であるとかという時にはお受けすることが多い。大人が相手でも、お子さんを持たれている人が多いイベントが多い。

また、省内の勉強会に呼ばれて話をする際には、多くの場合、Q&Aの後半は官僚の方々自身のサバイバルやお子さんの子育ての話になる。また新人官僚研修であれば*7時代の概観と意味合いだけでなく、彼らのサバイバルスキルと人生における目線の話になる。

これらの場にいらっしゃる方々の関心は今の世の中をどう捉える必要があり、そこでどのような取り組みが鍵になるのかということについての全体を見渡した(holisticな)しかし自分と家族の人生に活かしうる全体観だ。プログラミング教育だとかデータサイエンスだとか色んな話が錯綜しているが本当のところ、人は何をやることになるのかであり、そこに向けてどのような仕込みが必要になっていくのか、つまりどのようにサバイブ(survive)していったらいいのか、ということだ。たしかにこれに対してストレートに全体感を持って投げ込まれている話は極めて少ない。それは自分なりに誠実に答えてきた。

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こういった場を通じ、

  • 富の生まれ方が本質的に変わったという話
  • 事業価値の複素数平面化
  • 産業革命のフェーズ論
  • 未来の方程式
  • データ×AI時代におけるリベラルアーツ
  • データの力を解き放つための三つのスキル
  • AI-ready化
  • これから求められる人間の知性の本質
  • 日本にリソースがないのではなく配分の問題であること
  • 科学技術や未来に向けてまともな投資ができているとは言い難いこと
  • 人材育成のモデルが根本から見直しが必要なこと

、、など随分幅広くの議論をこれまで整理してきた。いずれも初めて投げ込んだときは相当にオリジナルな視点であったと自負しているが、もうさすがに空気のようになってしまっただろうと思うことも多く、僕が啓蒙的に行ってきた話を前提に書かれている本も随分とあるので、さすがにこれらを束ねて本にする意味はないだろうと思っていた。

しかし、昨年春、ウェルスナビCEOの柴山さんと猛烈な嵐の日に対談した際に、終わったあと、真顔で、「アタカさん、このシン・ニホン、一冊の本にまとめたほうがいいです、書かないと間に合わなくなります」と言われたときに、なにか大きなボタンが押された。

そこから書くことを決め、ちょうど並行して、「NewsPicksパブリッシングという"希望を灯す"を掲げた全く新しいレーベルを立ち上げる。未来に残すべき言葉をぜひ」となんどもお話を頂いてきた井上慎平編集長*8に連絡をした。これまで様々な出版社からそれなりの数のオファーを頂いてきたことは事実だが、このような清新な、日本の未来を変えるための一撃となることを目指す本をまとめるにあたり、まったく新しい歴史をこれから作るという出版社の志高い新編集長と取り組んでみることが、この本にふさわしいと思ったからだ。また、このような高い志を持ち、大きな航海に出たばかりの井上さんであれば、本そのものについては随分と要求するものが多い自分に逃げずに付き合ってくれると思ったからだ。井上さんの前後の若い世代に響くかどうかの壁打ち相手としてもきっとぴったりだと思ったということもある。

ただ、まだ三十すぎの井上さんの熱意と人柄は素晴らしいのだが、この国と僕にとっての正念場のような本をまとめるには、もう一人、誰か一人強い(高い経験値と見立ての力がある)壁打ち相手が必要だということを確信した。そこで僕に迷いなく浮かんだのが、前Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)編集長の岩佐文夫さんだった。岩佐さんにはDHBR編集長時代、行動観察データと比較したビッグ・データの本質、AIの本質とこれから起きる変化、AI時代に求められる知性の本質、という実に重い、執筆当時、誰も正面から答えていないテーマを次々と頂き、どれもがこってりとした実に味わいのある、そして自分にとっても思い出深いアウトプットとしてまとめさせていただいた。これらのテーマのいずれもこの新しく生まれる本にとって大切なお題であり、その意味でも岩佐さんしかこのロールをやって頂ける人は思い浮かばなかった。岩佐さんにご相談したところ、快諾をいただきチームがようやく出来た。

執筆にあたっての苦労は想像以上のものだった。さんざん話してきたテーマなのであっという間にできると思っていたのは間違いだった。事実考証を徹底的に行う必要があったが、それがまずえらく手間がかかる。チャートを見て明らかとしてきたことも論理を通す必要がある。広範なオーディエンスに話してきたものを一つにつなげようとすると流れがうまく通らなくなる、などなどだ。前著『イシューからはじめよ』のように長年貯めてきた知恵をまとめたものではないため、事実確認は正直、数十倍はあったように思う。たった一節や一つの注を書くのに本の読み直しも含めて半日や一日潰れたりすることもザラ。分析のし直しも大変な手間であった。

これを深夜1時ぐらいからとか、週末の隙間*9を夏以降ほとんどすべて投下して何とかまとまったのが年末だった。この期間、人付き合いもほぼ全て断った。登壇も8-9割は断った。一日遅れると、これを起点で起きるはずの日本の未来が一日遅れる、場合によっては柴山さんが言うように間に合わなくなってしまう、そういう気持ちで毎日深夜、なんというか命を削って書いた。*10

こんな時間に書いたテキストで生命力を乗せることは可能なのかとも思ったが、とにかく普通に人が働く時間は埋め尽くされているので、隙間を見て推敲するということを繰り返し行うことでなんとか整えていった。もちろんもっと時間をかければ更に出来た分や、もう一段高められるところはある。フルタイムのコンサルタントであれば一つの分析にあと5~10倍は手間をかけられるだろう。でも自分には残念ながらその時間はない。それをなんというか長年の経験で補うしかない。そんな中で取りまとめたのが本書だ*11。2月20日に正式に発売になった。

ここに書いていることの多くは僕が話してきたことを追われている人には一度は聞かれた内容が多いだろう。それでもおそらく3−4割の内容は全く初見であると思う。僕の講演資料は多く上がっていると思われるかもしれないが、実際には9割以上の講演資料は上がっておらず、その多くが公開資料*12ではカバーされていないからだ。これを通してみるという読み方でも良いと思うし、通常の講演ではほとんど一瞬で話をしてちゃんと説明していない内容もなるべくしっかりとお伝えしたのでそこを読み込んで頂くというのでもいいと思う。

店頭で見かけたらよかったら手にとって見ていただけたらうれしい。この本が僕らの未来にとって意味のある一撃となることを心から願っています。


*1:慶應SFCでの教授職とヤフーでのCSO

*2:キャパが少ないため、僕らの未来に向けて意味があると思わない限りお受けしないようにしている

*3:内閣府 数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会 副座長および文部科学省 数理・データサイエンス教育モデルカリキュラムの全国展開に関する特別委員会 委員、、、2015春に訴えたことがそのまま降り掛かってきているという。orz

*4:当時NEC CTO

*5:典型的には大きな会社の創業者や社長/会長

*6:第12回新産業構造部会

*7:実は二度経産省で行った

*8:井上さんの編集後記をご参照 note.com

*9:上記のような20ほどのロールをこなす生活なので、週末も残念ながら相当の仕事やコミットしている活動がある

*10:この延長でこれまでほとんど中身を公開したことのない、僕が未来に向けて取り組んでいる活動についてもエピローグ的に書いた。まもなく法人として登録する予定だ。

*11:この過程の多くはプロデユーサーとして関わっていただいた岩佐さんのブログ に掲載されているので良かったらご覧いただけたらと思う。note.com

*12:主として政府の資料

「風の谷」という希望

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Leica M7, 1.4/50 Summilux, RDPIII @Lake District, UK

2017年の秋、とある知人の誘いで鎌倉にある建長寺 *1に合宿討議に行った。コクリ!プロジェクトという集まりだ。コクリと言っても子供の頃やったコックリさんとかとは全く関係がない。Co-creationの略で、「100年後に語られる一歩を創ろう」と様々な社会変革を働きかける人たちが集まり、その働きかけそのものについて語り合うのではなく、心の底に降りていって、そして自分の中にあるものを見つめ合う、そんな集まりだった。

誘ってくれたのは、そのコクリの運動論のfounderである三田愛さんと、中心的にこの運動論をサポートされ、もはや中心人物の一人である太田直樹さんだった。なおコクリでは各自をファーストネームをベースにしたハンドルネームで呼びあうことになっており、以下お二人をあいちゃん、なおきさんとして紹介する。

あいちゃんはリクルートの一員だけれども、このコクリ運動論を長らくリクルートの社会変革プロジェクトの一部として仕掛けられていて、公と私が高度に一体化している。笑顔が素敵で、可愛い男の子の一児の母であり、涙もろい。なおきさんは数年前まで総務大臣補佐官を務められていたので、その筋(霞が関界隈)の人であればご存知のかたも多いだろう。BCGのコンサルタントを長らく務められ。いまはかつての公務の延長だけでなく、数多くの地方再生的な取り組みにかかわられている。人懐っこい笑顔と、強さ、そして柔軟性が共存するとても素敵な個性だ。

そのお二人がある日、夏だったかちょっと相談があるということでオフィスにいらっしゃった。当時、僕はもともと長らく仕掛けてきたデータ×AI人材が足りない、またこの新しい局面でジリ貧気味の日本をどうやってturnaroundさせるのか系のお話*2が相当に立て込んでいて、いろいろ首が回らなかったのだが、もうなんだか二人のほんわかした暖かさとなんとも言えない不思議な語りに、つい行くと言ってしまったのであった。

当日も鎌倉遠すぎる!とか思いながら、ひいこらクルマを運転し向かい、なんとか参加したのだが、行ってみると、体の奥底に潜んでいるなにかを表に出す試みなど、数多くの実に面白いセッションがあり、あっという間に一日が終わりに近づいた。そして、最後に座禅を組むわけではないが、深く自分の何をやりたいのかを考える場があった。そこで僕に唐突に電撃のように一つの考えが降りてきた。

いたるところが限界集落となって古くから人が住んできた集落が捨てられつつある。これは日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどでも同じだ。この1-2世紀かけて、世界のどの国も人口は爆増してきたのに、だ。これは世界中のあらゆるところが都市に向かっていているということだが、このままでいいのか。このままでは映画ブレードランナーのように人間が都市にしか住めなくなり、郊外は全て捨てられてしまう未来に刻一刻と向かってしまう。そんな未来を生み出すために僕らは頑張ってきたのか。これが僕らが次の世代に残すべき未来なのか。今、データ×AIだとかそれ以外にも数多くのこれまででは不可能だったことを可能にするテクノロジーが一気に花開いているが、これらはそもそも人間を開放するためにあるのではないのか。これらをうまく使うことによって人間が自然と共に、豊かに生きる未来というのは検討できないのか、そうだ!「風の谷」だ!

風の谷というのは、宮崎駿監督がおそらく最初に生み出された映画作品の一つ「風の谷のナウシカ」(以下ナウシカ)に現れる一つの心の原風景のような集落だ。そこに描かれる未来は、現在とは似ても似つかぬ世界で、もうほとんどの空間は人が住めるようなところではなくなっている。巨大な菌類に覆われた"腐海"という、人間や大半の生命体にとっては毒まみれの極めて危険な空間になっているのだ。腐海にはその毒性に耐えうる巨大な蟲(むし)たちが謳歌していて、人は腐海に覆われていない限られた空間に暮らしている。そもそもが人類の文明が発達しすぎて、バイオテクノロジーとロボティクスを組み合わせたような巨神兵という破滅的な兵器が世界の殆どを焼き尽くし、それから千年ぐらいたってしまったあとの話、という設定だ。風の谷は腐海の風上にあり、つねに風が吹き込んでいるために腐海の毒に覆われてない、そんな場所として描かれる。

ナウシカは僕がまだ10代の頃、アニメージュという雑誌に宮崎監督の異様なエネルギーを込めた手描きの作品として連載されていた。当時、時に涙を流しながら読んでいたのだが、まだ連載中にそこまでの一部が映画化されたのが上の映画作品だった。原作含め、とても好きな作品ではあったものの、扱うテーマがあまりにも重く、正直もう十年以上も見た記憶がないぐらいの状態だったのだが、唐突に僕の上にその言葉が降りてきた。

で、その瞑想的なセッションが終わり、それぞれが自分に降りてきた考えをシェアし合うセッションに移った。120−130人ほども参加していたので、もちろん全員が、というわけにはいかず、あえて手を上げてでも話したい人が話すという場だった。はじめ数名の人がいろいろな意見を述べられていたのだが、僕にもう驚くほどの衝動が襲ってきて、上の話をしたのだった。結局10数名ほどの人が新しい考えを述べられたと思う。

その後、各アイデアに興味を持つ人、賛同する人がそれぞれ集まって議論する場に移った。僕のアイデアに賛同される人などいるんだろうか、と恐る恐る建長寺の大広間に向かうと、四人の人が集まってきてくれていた。げんさん、けんすけさん、ともこさん、えいじさんだ。げんさん(熊谷玄さん)は日本を代表するランドスケープデザイナーで国内だけでなく韓国の国宝寺や中東など世界を股にかけて数多くのお仕事をされている。けんすけさん(藤代健介さん)は渋谷にCiftという場をもって家族を融合させる拡張家族という、人のつながりとコミュニティをゼロベースで問い直す試みを行っている。ともこさん(白井智子さん)は「成長したくない子はいない」と居場所のない子どもたちのための日本初の公設民営のフリースクールを作られている。えいじさん(原田英治さん)は「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」という骨太の出版社、英治出版の創業社長だ。*3

あの場の熱気はものすごいもので、わずか10-20分の間に僕らの考えをどんどんと整理していった。

  • テクノロジーの力で人がいない問題は大半が解決できる、、、郵便局、モノのデリバリー、人の移動、異常の検知
  • 人間はもっと技術の力を使えば、自然と共に豊かに、人間らしく暮らすことが出来る空間を生み出せる
  • 定住する必要はなく週末だけとかでもいい。いない時はテクノロジーにメンテしてもらえばいい、、自動走行車は、道に関係なく動けるトラクターとかが必要になるかも
  • 「風の谷」は1つではない。いくつも、恐らく日本だけで1000を超える「風の谷」を創るポテンシャルがある。世界にも。しかも思想を共有しつつも多様に広がりうる
  • Scrap and build。古い集落は地縁、血縁、風習が強く、このような新しい取り組みをやるには膨大な調整が必要。、、、廃村間際の空間で一度ゼロベースにしてやり直す

などなどだ。

このあと、岩佐文夫さん(編集者/前ハーバード・ビジネス・レビュー編集長)、宇野常寛さん(評論家/Planets主催)、菊池昌枝さん星野リゾート/前 星のや東京総支配人)、佐々木康晴さん(クリエーター/電通)、園田愛さん(インテグリティヘルスケア)、橋本洋二郎さん(コクリ/ToBeings)、深田昌則さんPanasonic Catapult)など僕の近くのヤバい人で、かつ深く賛同し、更に立ち上げ段階のふわっとしたこの段階からしっかりとコミットしてくださるという人に少しずつ声をかけて、2017年のクリスマスの日、12/25に第一回の議論を開始した(もちろん、あいちゃん、なおきさんも)。かれこれ一年半以上前の話だ。

最初の数カ月はそもそも我々は何を目指そうとしているのかの具体化だった。結局のところ、僕らが目指しているのは「都市集中型の未来に対するオルタナティブを作ろうということなんだ、ということが最初の何回かの議論ではっきりした。大事な留意点としては決していわゆる村おこしをしようとしているわけではないということだ(もちろん結果的に起きる部分は多分にあるだろう)。

並行してこれらの議論から浮かび上がってきた我々の目指す姿、価値観を憲章としてまとめていった。すべての価値観を問い直せる運動論にしようと。憲章の最初のドラフトをしていただいたのは岩佐文夫さん、これを宇野常寛さんと共にもみ直して頂き、更にコアメンバーで揉み込んでいる。なお憲章は永遠のβであり、いつまでたってもver.1には到達しない。一部を抜粋して紹介しよう。

●前文的なもの
人間はもっと技術の力を使えば、自然と共に豊かに、人間らしく暮らすことが出来る空間を生み出せる。経済とテクノロジーが発展したいま、我々は機能的な社会を作り上げることに成功したが、自然との隔たりがある社会に住むようになり、人間らしい暮らしが失われつつある。これは現在生きる我々の幸福だけの問題ではない。これからの世代にとってのステキな未来をつくるための課題でもある。「風の谷」プロジェクトは、テクノロジーの力を使い倒し、自然と共に人間らしく豊かな暮らしを実現するための行動プロジェクトである。

●「風の谷」はどんなところか

  • 良いコミュニティである以前に、良い場所である。ただし、結果的に良いコミュニティが生まれることは歓迎する。
  • 人間が自然と共存する場所である。ただし、そのために最新テクノロジーを使い倒す。
  • その土地の素材を活かした美しい場所である。ただし、美しさはその土地土地でまったく異なる。
  • 水の音、鳥の声、森の息吹・・・自然を五感で感じられる場所である。ただし、砂漠でもかまわない。
  • 高い建物も高速道路も目に入らない。自然が主役である。ただし、人工物の活用なくしてこの世界はつくれない。

●「風の谷」はどうやってつくるか

  • 国家や自治体に働きかけて実現させるものではない。ただし、行政の力を利用することを否定するものではない。
  • 「風の谷」に共感する人の力が結集して出来上がるものである。ただし「風の谷」への共感以外は、価値観がばらばらでいい。
  • 既存の村を立て直すのではなく、廃村を利用してゼロからつくる。ただし、完全な廃村である必要はない。
  • 「風の谷」に決まった答えはない。やりながら創りだしていくもの。そのためには、行き詰ってもあきらめずにしつこくやる。ただし、無理はをしない。
  • 「風の谷」を1つ創ることで、世界で1000の「風の谷」が生まれる可能性がある。ただし、世界に同じ「風の谷」は存在しない

●「風の谷」が大切にする精神

  • 自然と共に豊かに人間らしい生活を営む価値観。ただし、「人間らしさ」は人ぞれぞれである。
  • 多様性を尊び、教条的でないこと。ただし、まとまらなければならないことがある。
  • コミュニティとしての魅力があること。ただし、人と交流する人も、一人で過ごしたい人も共存している。
  • 既存の価値観を問い直すこと。ただし、現代社会に背を向けたヒッピー文化ではない。ロハスを広げたいわけでもない。
  • 既得権益や過去の風習が蔓延らないこと。ただし、積み重ねた過去や歴史の存在を尊ぶ。

●さいごに

  • 「風の谷」は観光地ではない。ただし、観光客が来ることを拒まない。
  • 「風の谷」は風の流れがあり、匂いや色彩の豊かさを五感で感じられる空間である。ただし、谷がなくてもいい。

(以上抜粋)

ここにあるように、〇〇と決めつけない、このような表現を僕らは「風の谷文法」と呼んでいる。

この憲章の骨格部分ぐらいがまとまってきたぐらいの時に、僕のマッキンゼー時代の同僚でいまシグマクシスにいる柴沼俊一さん(しばちゃん)と内山そのさんから取材を受け、まとめてもらったのが以下の記事だった。それなりに話題になったので、ご覧になった人もいるかも知れない。しばちゃんはそれ以来コアメンバーに入っている。

www.future-society22.org

また並行して、仕事の合間を見て様々な分析も進め、議論を深めていった。この中から、この都市集中型の未来に向かっているのには少なくとも2つの大きな理由があることも見えてきた。1つがコミュニティ、空間を維持し続けるためのインフラコストの異様な高さであり*4、もう一つが都市の利便性に抵抗しうるだけの、土地としての求心力をもたせることの困難だ。この前半部分の最初の分析は落合陽一・小泉進次郎両氏による「平成最後の夏期講習」で投げ込み、その後、このイベント討議をまとめられた本の中にも入ったのでご覧になった人もいるかも知れない。

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(参考:平成最後の夏期講習での投げ込み資料

実際の空間の中で全身で考えなければ考えが及ばないことも多く、各人が「谷」的な場所に行って、体験してきては気づきをシェアすると共に、コアメンバーの有志でいくつかの場所の視察、合宿にも行った。その中の一つ、奥会津は実に美しい空間だったが、もう人がいなくて回るか回らないギリギリのところとは何かを知り、実際に隣の建物が1キロ近い空間でモビリティと道についての考えを深めた。また土地の求心力の観点で土地の記憶と食を融合する重要性も深く実感した。柳田國男先生の「遠野物語」の舞台でもある岩手県の遠野にも赴いた。千年以上続く日本屈指の馬の産地だが、見渡す限りの牧場の中、僕らよりも遥かに大きな生物、馬、の群れと何時間も触れ合うことからの気付きは深かった。夜、外にでると、360度あらゆる方向からサラウンド的に動物の活動でざわついていたが、そこからくる本能的な戦慄と僕らの先祖が普通に体験してきた夜の重みも全身に染みた。*5

昨年の9月からは僕が慶応SFCでゼミ(研究会)を持つようになり、学生の皆さんにも入ってもらうようになった。今は、上の二大課題と全体統括的な課題を様々な個別課題に切り分けつつ、道、モビリティ、上水/下水、エネルギー、ゴミ、ヘルスケア、森の多様性、食、建物など個別チャンクごとにスコーピングを整理すると共に、かなり幅広く深掘り、検討を進めはじめている。

少し余談だが、こんな議論をしている最中の昨年の夏ぐらいに、委員の一人を務める内閣府の知的財産戦略ビジョン検討で、同じく委員の魔法使い 落合陽一くんと同じテーブルになったことがあった。どんなお題だったのかよく覚えていないが、その審議会の毎度のスタイルで各委員が5分ほどで大きなポストイットにアイデアを書きまくり、これを大きな紙に貼り付けながら各自1-2分で説明するということをやった。僕が「風の谷」 vs 「ブレードランナー」の話をふと投げ込んだところ、彼はさすが直ぐにかなり良い反応をしてくれ*6、僕から問題意識を説明し、ひとしきり議論をした。しばらくして今年の年始に彼のブログ記事になった「風の谷のブレードランナー」はこの時の話がきっかけだったのではと思う。*7

そうこうしているうちに今年の1月末にコアメンバーでの第16回ミーティングがあった*8。毎度夕方7時に集まりエンドレスで盛り上がるのだが、この時は年始でしかも二年目の第一回ということもありいつにもまして熱い議論になった。結果、「数百年、少なくとも200年以上続く運動論の最初の型を立ち上げる」ということで合意した。都市集中型の未来に向かうのはmake senseするロジックであり、これに対してmake senseするオルタナティブを作ることは並大抵のことではない。だからこそ、一過性の、いまこの2019年段階での最適解を見つけることが目的なのではなく、正しく問いを立て、lastingな継続性のある運動論にしていこうと。

並行してコアメンバーは少しずつ広がり、小林ヒロト先生(建築家/慶応SFC)、大薮善久さん(土木のプロ/元日建設計)、喜多唯くん(東大暦本研)、上野道彦くん(暦本研/LINE)、御立尚資さん(BCG)などにも入ってきて頂けるようになった。そのほか、名前を聞けば分かるようなテクノロジストの先生、元秋田県副知事、資源エネルギー庁高官、'Living Anywhere'運動の主催者の方々などヤバイ面々にもアドバイザリー的に入っていただいている。

そしてこの夏、ついに具体的に本物の土地で更なる検討を開始する。

場所は実際「谷」的な場所を持ち、なおかつ目線の高い首長(加藤憲一市長)とスタッフの方がいらっしゃる自治体、小田原市*9。実に楽しみだ。


ps. なおもちろんこの風の谷の運動論は、憲章にある通り、一つの場所に留まるものではまったくなく、数多くの実験、展開地点が広がるものだ。しかも共鳴する志を持つ、世界各地の運動論を排除するものでもまったくない。むしろ学びあい、知恵を共有しあい、多様なソリューションの検討をしていくべきものだ。いまの限られたキャパではいきなり戦線を広げるわけにはいかないが、このことは最後に付け加えておきたい。

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関連エントリ

*1:鎌倉五山第一位の臨済宗建長寺派大本山で、国の重要文化財に指定されている総門・山門・仏殿・法堂・方丈が一直線に並ぶ伽藍配置が残る。公式サイトによる。

*2:2013年春に有志で立ち上げたデータサイエンティスト協会の理事だとかスキル定義委員長のお仕事に始まり、NII、統数研、遺伝研、極地研などの国研を束ねる情報・システム研究機構×文部科学省の高度データ人材育成検討、はたまた経産省産業構造審議会 新産業構造部会の新産業構造ビション関係、総務省×文科省×経産省による人工知能技術戦略会議関連の検討、国交省のi-Construction検討(土木系の深刻な人不足をICTほかのテクノロジーで解決しようという国家的プロジェクト)、各所で呼び出される「シン・ニホン」構想の投げ込みなどが重なりかなりバタバタしていた。

*3:ティール組織」や拙著「イシューからはじめよ」も実は英治出版だ。

*4:この結果、都市からのかなりのまとまった資本注入なしには回らない、すなわち都市側がこれ以上は無理だと判断した途端に詰む状況。これでは未来の世代に向けて張ることも、仕掛ける余力を生み出すことも困難。

*5:この自然の中でも体験できる豊かな食文化を教えて頂いたLiving Anywhereおよび奥会津、遠野近辺の関係者の方々に深く感謝している。

*6:平成最後の夏期講習の前打ち合わせの時からこの前段階として上の話をしていたこともあるからかもしれない

*7:この超絶忙しい異才(天才)に入ってもらうのに適したロールを今はパッと思いつかないのだが、最高にロックでテクノロジーでデザインセンスがあり、未来への想いが熱い落合くんにどこかできっと合流してもらえるタイミングがあるのではと勝手に思っている。

*8:ほぼ月次で集まって個別検討の進捗と今後の進め方を相談している。合宿を除いてももう22回行った。

*9:小田原市は先日、内閣府SDGs未来都市事業に選定された。加藤市長の施政方針資料にも「風の谷」が登場している。

2018年の活動を振り返る


Sabah, Borneo Island, Malaysia
Leica M (typ240), Summilux 1.4/50, RAW


気がついたらあっという間に年の暮れですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

年末だということもあり、自分の振り返りも兼ねて、web上でpublicになっている主たるアウトプット的なものをまとめてみました。★が付いているのが個人的に重要かなと思っているものです。

1. 財務省 財務総研のイノベーションを通じた生産性向上に関する研究会★
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2017/inv2017_04.htmwww.mof.go.jp
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/00report/inv2017/inv2017_report10.pdfhttps://www.mof.go.jp/pri/research/conference/00report/inv2017/inv2017_mokuji.htmwww.mof.go.jp

昨年の本当の年末、主計官の皆様及び財務総研の先生方に投げ込ませて頂き、10月に遂に「シン・ニホン”AI×データ時代における日本の再生と人材育成」を含む本が「きんざい」から出版されました。ちょっと値が張る本ではありますが、生産性問題について考えたい人におススメです。元は財務省 財務総研での昨年秋から今年年始にかけての集中討議。東大大橋弘先生、名誉所長吉川洋先生、Glocom高木聡一郎先生、楽天 森正弥さんらの錚々たる講師陣の中になぜかお呼ばれしお話ししたものです。


2. 情報通信審議会 情報通信政策部会 IoT新時代の未来づくり検討委員会 人づくりWG(第3回)
総務省|情報通信審議会|情報通信審議会 情報通信政策部会 IoT新時代の未来づくり検討委員会 人づくりワーキンググループ(第3回)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000529912.pdf
1/24 ここでもシン・ニホンを投げ込みました。


3. 日経調『人工知能は、経済・産業・社会をひっくり返すのか?~大企業トップがAIに関してやるべきこと』★
人工知能(データ×AI)研究委員会 報告書、審議経過 | 日経調 Japan Economic Research Institute
http://www.nikkeicho.or.jp/wp/wp-content/uploads/17-3_AI_report.pdf

日立の庄山名誉会長のもと、日本を代表するAI関連の識者の多くが集まり、一年半ほど検討してきたものの取りまとめ。大企業はそのままではこの変革を起こせない、ここでどういう投げ込みをするべきかについてかなり喧々諤々議論しました。第2章はこれを差し込むことも含めて、かなり色濃く僕の提案が反映されています。

ちなみに日経調の正式名称は日本経済調査協議会。1962年3月、「日本経済の発展に寄与することを目的に、内外の経済社会ならびに経営に関する中長期の基本問題を幅広い視野に立って調査研究する機関」として、経済団体連合会日本商工会議所経済同友会および日本貿易会の財界4団体の協賛を得て設立されたという歴史のある財界のシンクタンク


4. AIは僕たちのFun Timeをどんどん増やしてくれる(対談)
www.hoshinoresorts.com

2月に星野リゾートの星野佳路社長と10数年ぶりにお会いしてお話した内容。とっても楽しくかつ光栄でした。


5. ICCサミット FUKUOKA 2018
industry-co-creation.com

スタートアップを中心にいわゆるヤバイ人が集う小林雅さんが率いるICCこと、Industry Co-Creationの年に二度のサミットに登壇。何度もやってきたデータとかAIとかではない話にしたいと訴え、2017/5のDiamondハーバード・ビジネス・レビューで書かせていただいた論考をもとに「知性に関する一つの考察」を投げ込み。これを石川善樹さん、楽天北川さん、リバネス丸さん、尾原さんとやったセッションがもう立ち見が入りきれないほどの熱気で異様な盛り上がりに。楽しかった!


6. EIJYO COLLEGE SUMMIT 2017(講演)
eijyo.com

2/17。大手企業35社の営業職女性がつどうエイカレッジの年会で講演させていただきました。マッキンゼー時代の親しい同僚である佐々木裕子さんからのお声がけ。下のMashing Up、日本ヒーブ協会の40周年記念シンポジウム含め、今年は輝く女性に沢山お会いし、希望を感じた一年でした。


7. おじさん VS 世界 「若者よ、自意識を捨ててラクになれ」 (パネル討議)
www.cafeglobe.com

2/23 MASHING UPという輝く女性が集まるイベントの中で前Wired JAPAN編集長の若林さん、石川善樹さんと登壇したという異色な記事です。


8. MIT Asia Business Conference
http://mitasiabusinessconference.com/ai-digital-transformation-panel/

3月にMITのMBA/PhD学生たちからお声がけがあって登壇。中国がゲームのすべてを変えつつある、イノベーションはむしろもうアメリカではなく中国から生まれていると言ったらえらく驚かれ、会場の別の登壇者の多くから、数多くの反論?を受けました(笑)


9. stars insights: 24 April 2018(インタビュー:英語)
http://www.the-stars.ch/media/431752/kazuto-ataka_machines-will-never-completely-overtake-human-beings.pdf

3月 MITの前後でSingaporeのstarsという次世代リーダーを生み出すイベント登壇の際に取材を受けたものが4月に記事になったもの。


10. INNOVATION ECOSYSTEM ニッポンは甦る! (講演、単行本への寄稿)

こちらは自民党 知的財産戦略調査会から気合の入った一冊。甘利先生、山際先生の全体観に始まり、落合陽一さん、上山隆大さんとの総論対談、更に冨山和彦さんらの識者提言に。よりスッキリとした形で、3月にこの知財戦略本部で投げ込ませていただいた僕の「シンニホン」の抄訳も入ってます。政権で国家戦略を担う人たちの考えを俯瞰するためにも、いろんな識者の視点を一気に見るためにも有用な一冊。個人的には自分の言葉がいきなり表紙を開くと出てきてビックリしました。


11. 安宅和人 x Future Society 22(インタビュー)★
www.future-society22.org

3月にシグマクシスの柴沼さんと内山そのさんの取材を受けた内容。柴沼さんはマッキンゼー時代からの大切な友人であり後輩。この一年あまり仕掛けている「風の谷」の話を初めて外で語った場でもあります。


12. 5/12 東洋経済のAI特集「AI時代に勝つ子・負ける子」

(1) AI時代の人間に必要な力が見えてきた(基調論文的な記事)
premium.toyokeizai.net

(2) AIを使い倒せる人がどの職種でも活躍する(コラム記事)
premium.toyokeizai.net

基調論文的な記事の骨格づくりでかなりサポートしました。(人間とAIを対比した図表はDiamondハーバード・ビジネス・レビューの人工知能特集でかつて僕がまとめたものそのものです。)


13. 内閣府 人間中心のAI社会原則検討会議「AI readyとは何か?」(国の審議会での投げ込み)★
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/humanai/2kai/siryo3-3.pdf

裏面でやっていた経団連の「AI原則TF」、中西会長「Society5.0」検討(未来協創TF:後述)(どちらも座長はソニーCSL北野先生)の議論中にふと口に出したこの考えが、今から考えると確かにmissing pieceで大切な投げ込みになりました。多くの人にも一緒に考えてもらえたらうれしい。


14. 内閣府 知的財産戦略ビジョン(国の審議会討議のアウトプット)★
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizai_vision.pdf(フル版)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizai2018_smmry.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizai2018_smmry.pdf(ダイジェスト版)

6月発表。住田局長(知財戦略推進担当)のもと、ATK梅澤高明さん、魔法使い落合陽一さん、ドワンゴ川上量生さん、IGPI冨山和彦さん、慶応中村伊知哉先生、ロフトワーク林千晶さん、原山優子先生、東大渡部俊也先生らとの異種格闘技戦の本当に面白かった議論を経て生み出された戦略ビジョン。単なる知財の枠を超え、この社会を強くするために「価値デザイン社会」を目指すということになり軸がソリッドになった。これまで色々なところで訴えてきた「未来=夢×技術×デザイン」という枠組みがここに入ったことに希望を感じました。


15. テクノベートが進化させる未来とは?~ヤフー安宅×メルカリ小泉×ロボ高橋×理研髙橋(パネル討議)★
www.youtube.com(2018)
globis.jp(2017)
www.youtube.com(2016)

7/7 グロービスMBA学生のみなさんが年に一度集まる「あすか会議」でのkeynote的なセッションでの登壇。動画です。2017の小泉さん、落合陽一さん、Globis堀さんとの登壇、2016のIGPI塩野さん、千葉工大 古田先生、Globis堀さんとの登壇のビデオもセットでご覧になるといい感じかと。


16. 新しい社会と知財のビジョン-「価値デザイン社会」を目指して-(パネル討議)
https://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/18072001.html

7月にRIETIで内閣府の住田局長と一緒に登壇させていただいた時の記事が上がりました。知財戦略プロジェクトにて、上述の異種格闘技戦の本当に面白かった議論を経て生み出された「価値デザイン社会」がテーマです。お手すきのときにでもご覧頂ければ幸いです。


17.【落合陽一・小泉進次郎】平成最後の夏期講習 (公的イベント登壇)★★
【落合陽一・小泉進次郎】平成最後の夏期講習|ニコニコインフォ
冒頭プレゼン_安宅和人さん_我が国の未来に向けたリソース投下の現状と課題.pdf - Google ドライブ
logmi.jp

7月末に落合・小泉両氏の声がけで行われた画期的なイベント。本来の副題は「人生100年時代を考えるための社会保障基礎講座」。あらゆる社会の課題と政治とテクノロジーで解決しようという試み。年始に一冊の本として発売される予定。(ゲラ確認はかなり前に完了)
僕は冒頭で登壇し「我が国の未来に向けたリソース投下の現状と課題」について語った。時間がない人はこれだけでも見ていただきたい。


18. 数理・データサイエンス教育強化コンソーシアム「数理・データサイエンスと大学」インタビュー
http://www.mi.u-tokyo.ac.jp/consortium/topics.html#3

情報・システム研究機構(NII、統数研、遺伝研、極地研など情報系の国研を束ねる機構)機構長を昨年まで勤められ、今は東大で数理・データサイエンス人材育成に取り組まれている北川先生からのお話で、今必要な人材育成と取り組みについて忌憚のない所をお話させていただきました。


19. 2018/09/10-11「2018台日科学技術フォーラム:AIの未来生活への応用とイノベーション
http://japan.tnst.org.tw/front/bin/ptdetail.phtml?Part=3-058&Rcg=47

台湾と日本の政府間で毎年一回テーマが決められ、両方から識者がでて話すというなんともこれも場違いなイベントにソニーCSLの北野先生らと登壇。はじめての台湾は懐かしく、そして心のあたたまる場所でした。


20. 新時代ビジョン研究会「大学に10兆円の基金を」(講演と討議)★
www.php.co.jp

9月にPHP研究所 x 鹿島平和研究所の壮大な研究会にお声がけいただいた。「シン・ニホン」の改訂版を投げ込み、錚々たる識者の方々と議論。ちょうど今発売中のVOICEに巻頭記事的に載っています。


21. STS Forum 2018 (Science and Technology in Society Forum)
https://www.stsforum.org/file/2018/12/Summary-2018-for-web-Link.pdf
https://www.stsforum.org/file/2018/12/Summary-2018-for-web-Link.pdf

10/7 尾身幸次先生が主催され、ノーベル賞学者、世界の大学の学長クラスも10名以上、国に直接アドバイザリーをされている人が集まるというなんとも場違いな場にて昨年に引き続き登壇。Innovation Ecosystemというタイトルのセッションで、ノーベル賞学者である前理研理事長の野依先生とご一緒させて頂きとてもありがたかった。セッションの内容は上のリンク先のpp.124-127にあります。(英語のイベントなので英語サマリーです。)


22. Society5.0 -ともに創造する未来-経団連TF検討のアウトプット)★
http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/095_honbun.pdf

11/13。経団連の中西会長(日立製作所会長)直下の未来協創TFにて夏前からソニーCSL北野先生、損保ジャパン浦川さん、日立矢野さんらとグリグリやってきたものがついに形になった。

日本の中長期的な未来を見据えて、既存の価値観の方々からは過激に聞こえかねないことを相当量仕込んだが、早速、「理文を問わず理数素養が必要」「変革はむしろ多様性、地方から生まれる」などの動きにつながり、大変嬉しい。


23. 2050年の世界(パネル討議)
forbesjapan.com

11/26に開催された「Forbes JAPAN CEO Conference 2018」でのkeynote panel discussionの書き起こし記事。竹中平蔵先生、石川善樹さん、朝倉祐介さん、リバネス井上浄さんらと2050年の世界に向けての投げ込み。


24. 教育再生実行会議 技術革新ワーキング・グループ(第4回)配布資料(国の審議会での投げ込み)★★
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/kakusin_wg4/siryou.html

11/27に行われた会議にてシン・ニホンの改訂版と教育行政視点での重要と思われる論点をかなりまとめて投げ込みました。残念ながら国会が長引き、柴山文科大臣のご臨席は流れたのですが、未来につながることを願っています。


25. Pitch to the Minister 懇談会 “HIRAI Pitch”
開催状況 - Pitch to the Minister 懇談会 - 内閣府
https://www.cao.go.jp/others/soumu/pitch2m/pdf/20181204gaiyou_11.pdf

12/4に平井内閣府特命担当大臣(クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)に直接投込みさせて頂く貴重な機会をいただいた。

Hirai Pitchは「創造する未来社会からバックキャスト的に新たなイノベーションを起こしていくため、情報通信技術(IT)、科学技術、知的財産戦略、クールジャパン戦略、宇宙開発等はどのように進めていくべきか、大臣と産学官関係者との間で幅広い意見交換を行う懇談会を開催する」という‼️な取り組み。

平井大臣の新しいテクノロジー社会へのずば抜けた理解の深さ、人としての暖かさ、未来に向けた強い意志に触れ、希望を感じる会でした。

Webに上がっているものとしてはだいたいこんな感じかなと思う。また何か気づいたら足しますね。

ちなみに僕は「日々何をやっているのか?」とよく聞かれるので、ご参考までに答えておくとだいたい以下のミックスです。当然のことながらコアなのが上の3つです。

  1. 大学の先生としてのお仕事(講義、研究会活動、学事関連活動ほか)
  2. 会社の全社ストラテジスト(CSO)としてのお仕事
  3. 国や公的団体のお仕事(10前後の委員、登壇、ご相談対応ほか)
  4. 講演/取材/執筆/原稿確認などの対外発信系
  5. 理事や社外取締役とかをやっている組織の運営
  6. 自分が運動論として仕掛けているもの

「あなたを突き動かしているものは何か?」ということもよく聞かれるのですが、一言で言えば「少しでもマシな社会を残したい」ということです。僕が関わる組織(学校、会社、国ほか)がしっかりと意味ある形で成長すること、それに向けて悔いのない形で仕掛け、起動することはもちろんなのですが、public mind的に言えば、

  1. 未来に賭けられる国にするということ
  2. 未来を生み出す人材を一人でも多く生み出すこと
  3. 今の子供やその次の世代たちが生きるに値する生活空間を生み出すこと

これが今の3大アスピレーションです。

2019年もワイルドに仕掛けていければと思っています。

皆様の一人ひとりが素敵な年末、そして新年をお迎えられますことをお祈りしつつ

未来は目指すものであり創るもの


Fujisawa, Kanagawa, Japan
Leica M (typ240), 1.4/50 Summilux, RAW


昨日のエントリでも引用した昨年春、情報処理学会誌の冒頭で書いた記事をここにも転載しておこうと思う。情報処理 Vol.58 No.6 June 2017*1

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3年前は講演で呼ばれるとビッグデータばかりだった。いまはAI(人工知能)とシゴトの未来、そして世の中の未来一色だ。国の審議会、委員会でも、未来についてばかり議論している。シゴトの未来、産業の未来、必要になるスキルの未来、AIの未来、などなどだ。

しかし僕らの多くは知っている。数秒後とかならともかく、未来の本当の姿など誰も予測できないということを。人工知能となんだか似た響きだけれども、ちょっと違う隣の分野に人工生命の領域がある。コンピュータ上でモデル化された生命がいて、これらが生き延びていく。突然変異も仕込めるし、捕食関係も仕込める。膨大な世代を繰り返し、進化する姿も見ることができる。とても興味深い領域の一つだ。

以前、ある教育系テレビ番組で流れていたが、そこでコンピュータ上の生命を何種類かおいて、それらがどのように進化していくかを見ていくと、初期値やモデルが同じでも毎回違う結果になる。まったく同じ結果は二度と起きない。多くの人にとって、これはちょっとした驚きだ。未来は予測できないということだからだ。シンプルにモデル化された世界でもそうであるということは、我々の生きているような遥かに要素が多く、入り組んだ世界であればもっとそうだということは自明だ。そもそも我々の生きているこの系(地球の表面)は必ずしもクローズなシステムですらない。太陽のフレアや地質変動などの外部影響を常時受けているからだ。

その番組に出ていた人の一人は「これって地球の歴史が繰り返されたとしても、二度と同じ人類は生み出されないということですよね?」と実にもっともな反応をされていたが、これは僕らの未来についても当てはまる。

もちろん、技術の進展の太筋の方向性は見える。たとえば、僕が今、産業化ロードマップづくりでかかわっている人工知能分野関連であれば、識別・予測から実行(作業)における暗黙知の取り込み、そしてイミ理解/意志likeな世界への展開などだ。ただ、これが生み出す未来は予測できない。

産業はそこにある課題とその課題を解決する技術、方法の掛け算で生まれる。課題がどうなるかが変わると当然のように中身は変わる。また実現するアプローチがちょっと変わるとまたまったく違う世界がやってくる。よく考えてみると、そんなことはiPodが生まれた2001年から僕らは知っている。ワクワクをカタチにする方法なんていくらでもある。でもどれが当たるかなんか誰もわからないだけだ。

でも未来は目指すことも創ることもできる。課題がある、技術がある。その組み合わせ方も、問題の解き方も自由だ。ダーウィンが言ったように、生き残るのは最も強い種ではなく、最も変化に対応できる種だ。そして一番いいのは、未来を自ら生み出すことだ。振り回されるぐらいなら振り回した方が楽しいに決まっている。

未来は目指すものであり、創るものだ。

*1:確か1200文字という相当の制限の依頼でしたが、締め切りギリギリのタイミングのとあるミーティングの隙間でぐっと書きあげた記憶があります。この内容、寄稿する以前から何年か言い続けてきましたが、今も変わらず大事な内容だと思っています。先日、モデレーターとして登壇したある場でも、前職の後輩でもあり大切な友人でもある朝倉さんが同じ趣旨のことを発言してくれていて、とても嬉しいなと思いました。

手なりの未来を受け入れるな

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Mt Fuji from Fujisawa, Kanagawa, Japan
Leica M (typ240), 1.4/50 Summilux, RAW

今年はなんと一本しかブログエントリを書いていないことに先程、気がついた。はてな内のPF*1移行で少々手馴染みがなくなってしまったこともあるが、毎日facebookとかtwitterみたいなものに気軽に書いていたり、ほとんど毎日のようにどこかで人前で話したりしていると、ついこういう状態になるので危険だな。。ということでなにかちょっと書いてみたいと思う。

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ブログ読者の方々には全く報告できていなかったが、実は2016年の春から、慶応SFCでデータ×AI社会時代の基礎教養のようなクラスを教えている。*2

ちなみに教え始めて半年ぐらいたった頃から、そろそろ研究会もと話を受けてきたが、そちらも今年の秋ついに立ち上げた。この名前も実績もない僕の研究会に手を上げてくれた勇気ある優秀な学生の面々の積極的な参加もあり、ワイルドに楽しい未来に向けて仕掛けている。

最近、そのクラスで数コマ一緒に教えてもらっている会社の研究所(Yahoo! JAPAN研究所)のT氏とクルマでキャンパスに向かった。専門としている情報科学分野のトップカンファレンスに毎年出しているような、優秀でバリバリの若手の一人だ。

その中で、僕が研究会だとか僕のプライベートな取り組みの中で仕掛けている話をした。かなりの数のおっと驚くようないわゆるいい意味でヤバイ人有志と仕掛けている運動論の話だ。*3

これを聞いた彼が「それって答えがあるんですか?」と真顔で聞いた。

、、。その時、何を聞かれているのか、少々よくわからなかった。

「答えがないからやるんだよ。そもそも答えがあるなら、もう若くはない僕がわざわざ、この限られた残りの人生を投下しようなんて思わない。なけなしの限られたリソースを投下して、様々なヤバイ人を巻き込んでまでやる意義があるとは思わない」

、、確か、こう言った。

「そういうものですか」

「そういうものだよ。確かに病気を治すようなタイプの課題解決はある。明らかに健常状態というべき、目指すべき像があるケースだ。そうじゃない状態の時、健常状態とのギャップが何によるものなのかを、緊急度の高い順、本質的に分岐している順に確認し、原因が見えたら、打ち手を当てはめるというものだ。おそらく世の中の課題解決の8割かそれ以上がこれに当てはまる」

「しかしそういう課題解決は僕が無理してやる必要のないものだ。他の連中でも優秀ならできるし、そもそも僕よりも多分、彼らのほうが適性が高い。医者に限らず、特定の領域のプロと言われている人は大体がこれをやっている人たちだ」

「でも世の中の課題の1−2割は、そもそも目指すべき姿そのものを描くことから始めなければいけない課題だ。今がたとえ回っていたとしても、本来どうあるべきかということを考えること自体をやらないとギャップ自体がわからないという課題だ。こういうのは若干以上の妄想力であり、意思がないと到底生み出すことはできない。IQだけの問題じゃないんだよ。こういうのこそ、僕みたいなおっさんが馬力を出してやらないといけない問題だと思っている。」

この像を描いていくこと自体が、大きな課題解決だが、それが見えたとしたら、その中で、更に解くべき課題が見えてくる。これらの課題は当然のことながら新しい課題が多く、既存の問とは必ずしも合致しない事が多い。

また当然のことながら、既存の解がそのまま使えることは少ない。解に求められる条件を考え、解そのものを考えていく、そういう必要がある。しかも、考えるだけではだめで、ちょっと試して、またその中でフィードバックを得ながら形にしていく必要がある。

こういう課題解決こそ、面白くて、やりがいがある。僕と一緒にやっているヤバイ変で面白い人達が仕掛けていくに値する課題だ、という認識だ。こういうことに取り組んでいく中で、次の世代も育っていく。

「なるほど」

この時の話は、これで終わった。クルマの中の会話にすぎないが、なかなかいい話だ。笑 *4

-

さて、

ついこの間、高校生たちの英語でのDebate選手権全国大会というべき場で話す場があった。
*5

そこで僕が彼等に話したのは、

  • 不連続的な変化が重なり合っている実に面白い時代である
  • 結果として富を生む方程式も根本から変わってしまった
  • 鍵となる人も劇的に変化してしまって、皆さんの親までの世代とはかけ離れたものになってしまった
  • だから35歳以上の人達の言うことに過度に耳を傾けないほうがいい

という話、そしてなにより、だからこそ、

「手なりの未来をそのまま受け入れるな」

ということだった。「手なり」というのはビジネスの世界でよく使われる言葉だが、「まあ今の流れのまま、そのまま進めるとすると」というような意味だ。*6

というのも、ちょうど僕が最後の基調講演者として投げ込む直前に行われていたSemi-final(準決勝)のテーマが、「都市集中型社会は我々の未来にとっていいことである(かどうか)」という感じのまさに僕が仕掛けているテーマを直撃している話だったからだ。*7

「都市集中は世界のあらゆるところで起きている。経済的に今のところmake senseしているのも事実だ。だからといってこれが仕方のない未来なわけでもない。いまのまま行けばこれが続くというだけのことに過ぎない」

「日本が長期にわたる少子化傾向、長寿化の結果、財政が回らなくなりつつある、データ×AI時代の戦いで米中の後塵を拝している、国の規模に見合ったワイルドな企業が生み出せていない、とか他にも色々不幸気味な話を聞くことはあるだろう。でも、これらが未来なわけでもない」

「もちろん何もしなければこれらが続いてろくでもないことになるだろう。だが、だからこそこういう課題について僕らは議論しているのであって、それをそのまま未来でも続く話として受け入れるような人になってはいけない。」

例えば、健康診断で肝臓の値が悪かったとする、項目的に飲み過ぎだとわかったとすれば、当然のことながら酒を控えて、生活改善を図るだろう。こうやって僕らは未来を変えていっている。

これは、たとえ、会社や国のような組織であっても同じだ。おかしいことに気づく力は大切だ。それがないと変な未来を止められないからだ。でもこのおかしな未来を予測できる力は、僕らが未来を少しでもマシな風に変えるためにある。

このまま行ったらろくでもない未来だと気づいたら、どういう状態があるべき姿なのかを考え、自分にできる少しでもインパクトの大きそうな取り組みを行うべきだ。それが君らの未来を変える。

「未来を予測できる」「未来は変えられない」かのように思っている人が世の中に多すぎる。未来は予測できない、これが僕らが人工生命の研究の結果から知っていることだ。*8

「未来は目指すものであり、創るもの。みなさんが僕らの未来だ。ワイルドに仕掛けていってほしい」

こう言って、この10分ほどの話を終えた。

あそこにいた高校生の一人でも多くに、伝わっていてほしいナと思う。*9

*1:platform

*2:「データ・ドリブン社会の創発と戦略」の基礎編とAdvanced編。高校1−2年レベルの数学知識しかない人に世の中のパースペクティブから始まり、一年で深層学習の基本までカバーする。

*3:これはこれでかなりのボリュームの話なのでまた別途書けたらと思う。それが待てない人は、まずは次を読んでいただければと思う。シグマクシスの柴沼さんによる記事だ。 www.future-society22.org

*4:ちなみにこの2つの課題解決の話は、昨年春にこってり書いたのでご関心のある向きには是非読んでもらえたらと思う。Diamondハーバード・ビジネス・レビュー5月号の「知性」特集の巻頭論文内での論考だ。www.dhbr.net この号はあいにくDHBRとしてはかなり珍しく売り切れてしまったとお聞きしているが、幸いまだKindleで買える。https://amzn.to/2rYCFmI

*5:正確には「第4回 PDA高校生即興型英語ディベート全国大会」 http://docs.wixstatic.com/ugd/0f7755_b6d635b09e6040f68484cc3974c1da1d.pdf?fbclid=IwAR36XV99dGnrxNC2gOllpPZkP4VeqJqMHiiq_t9jstFGheQmT2aNaBNnw-g

*6:もともとはどうも麻雀用語。役などを考えすぎずに、手持ちの組み合わせに素直に従って、打っていくこと。

*7:今から考えれば、事前に僕と討議した話を踏まえたテーマを選ばれたものと思われる。

*8:これについては昨年、情報処理学会誌の巻頭言に書いたのでご関心があれば読んで頂ければと思う。情報処理 Vol.58 No.6 June 2017

*9:実は先生方や父兄の皆さんに向けては「大人の人たちはじゃまをせず、彼らを認め、金を出し、人を紹介し、支えていってほしい」と言った。これもちゃんと伝わっていてほしいなと思う。