ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

From CT to DC (2) : I-95

(1)より続く


I-95は伸びる。どこまでも伸びる。このボストンからフロリダまでをつなぐ、東海岸の大動脈は、恐ろしいほど強く、逞しい。この上をずっと走っていると、一体自分が走っているのか、それとも道が動いているのか、果たして分からなくなる瞬間がある。これと言って曲がることもなく、前後の車もずっと止まって見える。そこを時速75から80マイル(120-130 km)というスピードで走りすぎる。



An American Highway


この国のハイウェイ、とりわけinterstate(州間)highwayは本当に素晴らしい。I-95のIはinterstateのIである。ニューヨークの周辺など一部例外はあるが、ほぼ常に道は力に満ち、頼もしい。これだけ国土を持つ国家で、これだけのハイウェイ網を維持していくのは容易なことではあるまい。ほとんどすべての主要な町がつながれ、しかも「無料」である。金を取られるとしても大きな橋ぐらいしかない。それもせいぜい三ドルか四ドル。車がなければ、スーパーでの買い物一つ出来ないこの国では、道の保全こそが最大の社会福祉、つまりインフラとなっている。


雪がどれだけ降っても翌朝には完全に除雪される、そのパワーは眼前にしないと信じがたいものがある。雪国から来ただけに、僕にはその大変さと、それを事も無げにやってみせるこの国の力が身に染みてよく分かる。そして同時に、税金を湯水のように使い、それでも尚、平然と随分な利用料を巻き上げる日本という国の高速網(いや、低速網と言うべきか)と、その運営者たちの無能さに唖然とせざるを得ない。官僚得意の言い訳は百も万もあるだろうが、国土の広さの違いを考えれば十分フェアな議論のはずである。言い訳する前に、その兆単位の税金を得るために、僕が今飲んでいるダイエット・コークだったら何本、今使っているラップトップなら何台、国民が生産し、売らなければならないか、そしてそれがどれほど大変なことか、その連中はまず考えるべきである。


さて、ニューヨークの町中にでも住んでいれば話は別だが、少しでもこの国の持つ選択肢の広さを満喫するには、(そして国土の広大さと豊かさを実感するには)どうしても車がないといけない。スーパーだけではない。服も買えない。靴も買えない。例えニューヨークに住んでいたとしても、税金をかけずに買い物しよう、あるいはアウトレットで手頃な値段で買いたいなどと思えば、最低でもバス、といったなんらかの車がないとどうしようもない(この国の電車は役に立たない)。ニュージャージーに行けば、服も、鞄も無税。アウトレットに行けば、世界的ブランドも三割、五割引は当たり前、方や川向こうのマンハッタンでは高額の税金を取られしかも定価。町中には、アイキア(IKEA : 家具*1)も、トイザラス(玩具)もベビーザラス(赤ちゃん用品)もない。そういう国なのである。ゆめゆめ、マンハッタンやLAなどの大都市の中心部だけで消費し、アメリカを理解、そして経験したなどと思ってはいけない。

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そうこうしている内に、ペンシルヴェニアの州境を越え、Baltimore(バルティモア)に着く。BaltimoreはMaryland(メリランド州)最大の都市。七十万以上の人が住むという。アメリカの町としてはかなり大きい。全米で十何番目とのこと。牡蠣の養殖で有名なチェサピーク湾沿いにある。


お目当てはJohns Hopkinsジョンズ・ホプキンス大学)。ここには、全米一のメディカル・スクールがある。医学教育の場として卓越しているなだけでなく、そのbiomedical scienceにおける研究力は驚嘆すべきものがある。DNA解析の元締めである制限酵素はここで発見された。Blue babyと呼ばれる、心臓に欠陥のある赤子の治療はここで開発された。ここで発見された、あるいは始まったものを書いていくだけで、20世紀の生物学、そして医学の歴史のアウトラインが掴めるほどだ。


歴史は百数十年と短いが、collegeばかりに権威があり、医学教育は付け足しだった時代に、厳しい入学基準とカリキュラムをいち早く設けたところに、この成功の礎があるらしい。とにかく、いつも論文で目にしているこの一大研究センターを目にしようと、そこに向かう。アメリカの主要大学ではありがちなことであるが、ここでもメディカル・キャンパスと、それ以外のメイン・キャンパスは分かれている。後で知ったことであるが、国際関係の専門家養成で名高いSAIS (School of Advanced International Studies) は更に分かれ、DCにあるらしい。


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資料1: 北に大きなニューヨーク州。僕の住むコネティカット州、すなわち出発点が右下に見える。マンハッタンを含むニューヨーク・シティ(地図の南の黄色い辺り)はその隣である。


資料2: ニュージャージー州。南の張り出しを避けて隣のペンシルヴェニアに向かう。


資料3: ペンシルヴェニア州。エンパイアステート、ニューヨーク州と並んで、かなり巨大フィラデルフィアを含む主要都市が海岸沿いに集中する。


資料4: メリランド州。湾と町だけとってそれ以外の山とかは他にあげた、そう見える。左下にあるのが、首府DC。メリランドとヴァージニアからの割譲により出来た町。


(3)へつづく



(March 2001)

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*1:最近日本にも上陸。日本ではイケア