ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

つなぐ道とつながる道、逆土木

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Onomichi, Hiroshima, Japan
Leica M(typ240), Summilux 1.4/50 ASPH, RAW

先日、国交省/日本みち研究所の松田和香さんに受けたインタビューの後編です。本日 9/15付の「日刊建設工業新聞」(日本中の土木のプロが読まれる専門新聞)での特別提言記事を許諾の上、転載させて頂いています。前編については以下をご参照。

kaz-ataka.hatenablog.com

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(松田)
著書『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』では、「風の谷を創る」プロジェクトの話の中で道の話が出てきます。道についてはどのような思いがおありですか。

(安宅)
道は、前提として空間を二つに割る必要があると思います。一つは都市人口密度が1平方キロ当たり数千人以上の規模で、インフラ投資してもペイできる空間を『都市』とすると、残りの大多数の土地である『疎空間』にある道はペイしません。この疎空間の道をどう考えるかが大事です。われわれ*1の見解では(谷的な空間における)『道』には集落と集落、あるいは街と街を『つなぐ道』、空間の中で家や建物に『つながる道』という2種類があります。これらは根本的に役割の違うもので、つながる道はわだちが沈まない程度の『柔らかい道』が望ましいと思います。硬い道は谷の豊かさを生み出す動植物にとっては迷惑な上、メンテコストが極めて高いからです。

今は谷的な疎空間も硬い道だらけなので一度ほぐす必要があります。まさに『ほぐす土木』の開発が必要です。今後、建設業の労働人口が減少し現在の340万人から半減、4割ぐらいになったら、道をメンテナンスしきれずに非常に巨大な空間を捨てることになるでしょう。捨てたくなかったら、もっとロースペックでメンテナブルな道をつくるべきです。『谷』内の『つながる道』は、メンテキットのようなものを配って住民が手入れできるようにするなど、これまでとは根本的に思想を変える必要があるでしょう。


(松田) 日本は地震や台風等の災害が多く、最近は多頻度、激甚な傾向にあり、国土強靱化に向けた道づくりも進められています。

(安宅)
環境省では2100年には風速90㍍台の台風がくると予測しています。しかもその数値はアグレッシブシナリオではなく、温暖化が(IPCC*2勧告レベルで)抑えられたとしても風速70㍍級の台風が恒常化するという予測です。風速70㍍は満載のトラックが倒れるレベルです。風速90㍍となると多くの家が倒れます。今後30~50年の間に道と街は全部造り直さなければならないというのが、われわれが向かっている未来で、その対策を考えるのが国や自治体の仕事です。200兆円規模の被害が、事前メンテナンスによって20兆~30兆円に抑えられるなら、やった方がいいでしょう。都市部、特に東京は『つぶれたら日本が崩壊する』という理由で直すでしょう。けれどもそれ以外のところは放置される可能性が大きいです。そこに少なくとも風速70㍍級に耐えうる空間や建物を造ることが重要だと考えます。


(松田)
 この6月、社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会が「2040年、道路の景色が変わる-幸せにつながる道路-」という提言を行いました。道路政策を通じて実現を目指す社会像を書いたものですが、将来の道の姿について何かお考えがあれば。

(安宅)
既に年間3200人とかつての5分の1以下まで減った交通事故死者数をゼロにするには、人間の知覚能力を超える能力が求められます。それならば人と車は分離するのが一番です。人と車が混ざる道にはあらゆるところにセンサーを埋め込んでおく。そうすればセンシング情報を車や道そのものに送り込んで共有し、例えば事前にアラートして車を制御できるのでトラブルは減ります。ただそれをやるくらいなら、車が多少迂回(うかい)してでも人と徹底分離した方が、低コストなのではとも思います。いずれにせよ日本の道路は狭く、人と車が入り交じっているのがデメリットです。AI-readyになっていない。ちなみにセンシングは人が多くて飛び出してくる可能性が高い空間で有効ですが、疎空間でもメンテで活用すべきです。


(松田) 最後に建設業界にエールをお願いします。

(安宅)
これまで述べてきたように向こう30~50年、土木業界には想像を絶する需要がくると想像しています。大変なことだと思うけれど、皆さんの向こうに未来があるので頑張っていただきたいし、イノベーションを起こす重要な局面だと思います。ただ今のままでは、国も自治体もこんなに巨額な金は払えない。だから知恵を出す必要があります。皆さまへの期待と依存度は高まる一方です。それから『ほぐす土木』、僕らは『逆土木』とも言っていますが、そういう話に興味がある人がいたら紹介してください。


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(参考資料)

環境省による2100年のシミュレーション動画。一度は見ておくことをオススメ。作った方に直接お聞きしたところ、もっと強烈なシナリオも十分あり得るとのことです。
ondankataisaku.env.go.jp


2013年自然災害リスクの高い都市ランキング世界第一位となった東京・横浜地区の抱えるリスクを、東京都屈指の土木の専門家、土屋信行氏が簡潔かつ端的にまとめた一冊。

首都水没 (文春新書)

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日本を代表する防災・減災・危機管理の研究者である河田先生(京大名誉教授/人と防災未来センター長)による一冊

日本水没 (朝日新書)

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  • 作者:河田惠昭
  • 発売日: 2016/07/13
  • メディア: 新書


Society5.0の前提としてのAI-readyについては経団連検討のこちらを
www.keidanren.or.jp


「AI-readyとは何か」について経団連の前に内閣府 人間中心のAI社会原則検討会議(第2回)にて投げ込んだときの資料へのリンクはこちら



初出:2020年9月15日 日刊建設工業新聞 
記事pdfはこちら(9/15夕方現在、前編までしか掲載されていません。)

*1:一般社団法人 残すに値する未来/「風の谷を創る」運動論のコアメンバー

*2:Intergovernmental Panel on Climate Change/国連気候変動に関する政府間パネル

Pandemic-readyな社会に

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Shelburne Farm, VT, USA
LeicaM(typ240), 1.4/50 Summilux, RAW


先日、国交省/日本みち研究所の松田和香さんに受けたインタビューを、昨日、土木系のプロの方々が読まれる「日刊建設工業新聞」に特別提言記事として載せて頂きました。なんと寛大なことに転載許可をいただきましたので、共有させて頂ければと思います。(松田さん、素敵な記事とご手配ありがとうございました。)来週、後編が出る予定です。

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(松田)
著書「シン・ニホン-AI×データ時代における日本の再生と人材育成」では、様々な観点の分析結果から日本の現状への危機感が述べられています。この本はコロナ前に執筆されたものですが、コロナ禍を踏まえた現状に対してどのような感想をお持ちですか。



(安宅)
コロナ禍という言葉自体があまり好きではありません。「下」ならわかるが、「禍」は言い過ぎです。人類史を振り返れば、ペスト、結核天然痘エイズは桁違いに危険な病気です。天然痘にかかると3~4割、結核は発症すると1割以上が死亡するといわれています。人口8.5億人以上が生きるアフリカのサブサハラ(サハラ以南)は、未だに死因1位はエイズ。既に3,300万人も亡くなっています。14世紀にペストが蔓延したフィレンツェやロンドンでは数年の間に人口の7~8割、ヨーロッパ全体でも人口の6割が亡くなりました。COVID-19がこれらのレベルの感染症災害になる可能性は低いでしょう。危険なことは確かですが、歴史的に見れば、フェアに評価されていないのではと思います。


感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)

感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)



(松田)
伝染病はなぜ発生するのでしょうか。

(安宅)
現在、伝染病が発生しやすい背景は大きく二つあります。一つは、地球上の大型生物の9割が人間と家畜になってしまい、人類と野生動物の生活空間の重なりが大きくなってきたことです。人類が野生動物に接しすぎているため、自然宿主からうつってしまいます。COVID-19はコウモリ由来と見られています。エイズウイルス(HIV)はSIV(サル免疫不全ウイルス)由来で、やはり野生動物からの広がりです。もう一つは、温暖化が極めて進んでいること。氷土やツンドラが解け、これまで眠っていたウイルスや細菌が噴き出してくる可能性が高いと考えられます。感染症は今後もっと増えてくるでしょう。現にこの40~50年で感染症の発生は加速化していて、デング熱やエボラ熱、SARS重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)など、今まで誰も聞いたことが無かった病気が大量に出てきています。背景には全てわれわれ人類の活動があります。


(松田)
今回の社会的な対応についてはどうお考えですか。

(安宅)
今回のCOVID-19発生後については、まさに二次災害、三次災害という事態になっています。感染拡大を抑制するだけでなく、このような状況下でも社会システムやお金の流れだけではなく、行政や電気通信などのインフラ、土木工事などもそうですし、食糧供給なども回し続けられるかが問われています。そちらの議論がないまま、単純な表面上のシステム停止策をとったため、世界はおかしくなりました。行政システムあるいは社会システムは先に起こる課題を見込んで法律やルールをつくっているので、今回のような不連続事象が起きた時に対応できないのです。もっともここまで不連続なことが連続的に起きることも想定されていなかったのですが。不連続事象への対応策が社会的に強く求められているのに、古いシステムで無理やり回そうとしているので、めちゃくちゃになっていますね。


(松田)
本質的に、どのような対応をしていかなければならないでしょうか。

(安宅)
Pandemic-ready*1な社会にしておかなければいけません。冷静に考えればSARSやMERSの 頃からやっておかなければいけなかったでしょう。いずれにせよこのような感染症はまた来ます。今回のCOVID-19さえしのげばいいと思っている発想や議論があまりにも多く、なぜこれが起きているのかについて直視していなさすぎます。こういう状況が多発してもおかしくない社会で、どのような未来を残すのかが今問われているのです。本質的な改変を行う良いチャンスだと思うけれど、今は思考の浅さと近視眼性が異常に広まっている気がします。ウィズコロナの状況においては、COVID対応、基本コアシステム、OS的なインフラ機能、お金、ルール作りという5つの課題レイヤーと、それぞれに止血、治療、再構築というフェーズがあるはずです。目先の止血的な話は長くやるべきではありません。止血をやりすぎると、指だって死んでしまいます。再構築のフェーズ、つまり、今起きている変化に本質的に即した系につくり直すことが重要です。


後編はこちら
kaz-ataka.hatenablog.com


初出:2020年9月8日 日刊建設工業新聞 第10面
記事pdfはこちら

ps. Pandemic-readyな状況については4月にまとめた以下のエントリをご参考。開疎化はその文脈で考えて初めて真に意味のある話になります。

kaz-ataka.hatenablog.com

kaz-ataka.hatenablog.com

*1:本年6月末にSony CSL所長の北野宏明先生と一緒に登壇した際に北野先生が使われた言葉

スキル以前にサバイバル

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Leica M7, 1.4/50 Summilux, RDPIII, @London, UK


とある直接知らない学生さんから「数理な考え方、英語能力、伝える力などが私には備わっておらず、どの程度の基礎力が必要なのかもよく分からない」との質問を受けた。

それは何を目指すかで変わりますよね、、。MD*1/JD*2のような訓練資格、professional degree*3ならともかく、スキルを身に着けたら何かになれるわけではないわけで。*4

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Quick answerとしては、自分がどういうヤバい人間になりたいのかをまず考え、そこから逆算的にスキルを考え、逆算的に経験を積むべき。要は国や組織に頼らずに食っていける人間になれるか。

たとえば、「知的生産で国を超えて飯を食う」なら、英語はNew York Times/The Economist、自分の専門分野の論文(教科書は言うまでもない)が読めて、議論できるレベル。あるいはパリでミシュランの星を得るほどのシェフになりたいなら、フランス語で欲しい物を仕入れることが出来、スタッフに的確に指示し、自分の作りたい世界観を語れないといけない。

とはいうものの、そもそもこんなレベルで戦う人は人口の数%以下だと思われ、みんな自分のサバイバル視点で現実的な目標を立てるのが正しい。好きなこと以前にどうやって自分は生き延びるのか、という視点で、潔く向いていないことは諦め、突き抜けられることで突き抜けることを探るべき。これが人生の基本だと思う。

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深層学習だとか自然言語処理の技術をちゃんと理解して使いたいなら、教科書や基礎論文が読め、使えるレベルの数理素養(すなわち理工系学部1年レベルの統計数理、線形代数微積分)と計算機科学*5の基礎素養。、、こういう事を言うと、そんなこと誰も教えてくれないという人がいるが、道が引かれているという発想を捨てる*6。これらが必要なことは教科書や論文を開けばわかる。意思のあるところに道が産まれる。

しかし、データ×AIについてもこのように「創る」レベルで戦う人は人口の一部だと思われ、何でも全部やらないといけないわけではない。逆にこういうものを全部身につけても、大した人にならない可能性は相当にある。自分はどんな軸でサバイブするのか、若い人が考えるべきことはとにかくまずはこれだと思う。

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「あれも必要」的なコメントをする人がいるが筋違い。そもそもスキルが身についたらヤバい人になるという発想自体がヤバいというか間違っているのだが、これを多くの人は理解しているのだろうか。勉強や英語だけできて、あるいは資格ばかり色々持っていて、何ら具体的に変化を起こせない人が無数にいる。#シンニホン の1~3章を読んでほしい。


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そもそも回す人と創る人、このどっちの人生を歩むつもりなのかを考えるべき。

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左だったら分野ごとに求められるスペックがかなり明確に決まっているので、即していなければ基礎スペックを身につけるしかない。例えば光、カメラの原理、ライティングについて体系的に学んでいない人がプロのスタジオ写真家になることは不可能。右の人はそもそも何かで突き抜けないことには話にならない。至極シンプルな話。

今日はこの辺で。


ps. 次のPhD取得者に関するエントリでの問題然り、我が国では明治の近代立国の際に、専門学校や大学の学位イコール「職」的なアプローチを取りすぎて、あくまで資格をとってなにかをやる的な思想が強すぎるように見受けられます。

kaz-ataka.hatenablog.com

一般論として教育レベルが人間の選抜システムとして世界各地で使われていることは事実ですが、日本はそれにしては、幹部候補生に求められる訓練レベルが明らかに他のOECD諸国よりも低い。その上、その選抜が統計的にはかなりのふらつき(少なくとも数%程度)のある中で一点を争うというものであり、半ば「運」を見ている(選抜側の手抜きシステムと言われてもしょうがない仕組み)。

kaz-ataka.hatenablog.com

選抜はもっとポテンシャルに目を向けたほうがいいし、育成は次の「大学院教育で何が出来ると人が育ったと言えるのか」通り、もっとスキルドリブンにやったほうがいい。各自はもっと自由にどのような技を持って、どうやって生き延びるかという視点ですべてを考え直したほうがいいように思います。

kaz-ataka.hatenablog.com


#シンニホン #沈ニホン

*1:Medical Doctor/米国におけるMedical Schoolで与えられる医師になるための基礎学位

*2:Juris Doctor/米国におけるLaw Schoolで与えられる法律家になるための基礎学位

*3:米国においてPhDを目指すgraduate schoolではなくprofessional schoolで与えられる学位

*4:たとえば、スキルなのか微妙ではありますが、国家公務員総合職(以前の国家公務員I種)試験だって、定員の三倍程度合格者が出ており、望む省庁に入れる人はごく一部です。

*5:Computer Science: CS

*6:道があるということは既にレッドオーシャンなのだと考える

DXとは何か?

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Summilux 50/1.4, RDPIII, Leica M7 @Lake District, UK


月曜日の夜、データサイエンティスト協会(以下DS協会)スキル定義委員会で「DXって何?」という話が出た。

DS協会スキル定義委員会は、これまでもデータサイエンティストのミッション、定義、求められる3つのスキルの整理(2014)に始まり、この類のものとしては恐らく世界初と思われるデータサイエンティストにもとめられるスキル要件を洗い出したスキルチェックリスト(2015 ver.1/2017 ver.2/2019 ver.3)、IPAと共同でのタスクリスト(2017 ver.1/2019 ver.2) *1、最近ではデータサイエンス100本ノック(構造化データ加工編)などを生み出してきたDS協会の中核的な委員会だ。*2 *3

このメンツから出てくる「DXって何?」というのは、当然のことながら、これが何の略なのかとかという意味の質問ではない。DXは「状態」ではなくdigital transformation という「変化」の当て字だと全員わかっているからだ。

ではこの問いが何かといえば、

  • DXはバズワード的にそこら中で使われているが経営的に本当のところ何を意味するべきなのか?
  • DXという言葉について世の中の理解は揃っているのか?
  • 関わるDS, Data professionalはDXをなんだと思うべきなのか?

という意味だ。

ここはバリバリのデータサイエンティストたちが多く集まっている場だ。彼ら、スキル定義委員の多くが、日々、DXを掲げる様々な企業に関わっている。ここからこのような問いが出るということは、その言葉がいかに雑に使われ、混乱のもとになっているかを彼らが身を持って感じているということだ。


そこで僕が、

「DXはOldエコノミーが、AI×データ化すること(次の図で右に行くこと)であり、その度合いは経団連で以前まとめたAI-ready化ガイドラインそのもの、急がないと第三種人類にリーダーの地位を奪われる」

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https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/013_sanko.pdf

と言うと、AI-ready化についてよくご存知の皆さんはようやく納得という感じだった。Old economy側がデジタル社会に対応するために、組織やビジネスモデルなど企業を根底から変革し、AI-ready, AI-poweredになることができるかが問われているということであれば(国がわざわざ言っている意味も含め言葉の必然性が)理解できると。なお、New economy側はデータ×AI利活用をそもそもの基盤としており、常に更なる革新の圧力にさらされていることは言うまでもないが、これと混同しないことが大切だということでもある。

データ×AIによる変革が進むこの局面においては、単なる「スケール」より「未来を変えている感」が企業価値を生むために重要になる。しかしOld側の多くは、自分たちが置かれている状況の深刻さに気づいていないケースが多い。このままでは今までライバルとすら思っていなかった新興プレーヤーに急激にリーダーの地位を奪われ、disruptされる。今すぐDXに舵を切らなければ、生き残っていけない。オールドエコノミーにとっては、まさに「change or die」という局面だ。Old側は、粛々とDXを進めていくしかない。スピードが足りなければ新しい血をメインに新部隊を作る必要もある。

なお、今月頭にテスラがトヨタを追い抜き世界一の企業価値を持つ自動車メーカーになったことは御存知の通り。7/21段階で世界の企業価値ランキングはテスラ15位、トヨタ36位だ。

www.cnbc.com

3年前に販売台数ではトヨタと同規模のGM企業価値を、当時100分の1の台数も売っていないテスラが抜き去り全米一の価値を持つ自動車メーカーになったときから予期されていたことではあるが、なんとも鮮やかであり、日本人としては唇を噛みしめるばかりだ。たとえ販売規模が小さくとも、テスラの向こうには「モビリティと持続可能なエネルギー社会の未来」が見えるということだ。

markets.businessinsider.com

「AI-readyとは何か?」については拙著『シン・ニホン』第二章で詳述したが、馴染みのない方は以前内閣府で投げ込ませていただいたリンク先の資料をご参照頂き、上の四象限では到底表現できていない部分が大量にあるので、腱反射のような反応は避けて頂ければと思う。

安宅和人「“AI ready”とは何か?(試案)」内閣府 人間中心のAI社会原則検討会議 (2018.6.1)
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/humanai/2kai/siryo3-3.pdf


ちなみに、上のチャートは、産業や企業がハード系のアセットを主として持つものとデータ×AI系のアセットを持つものに大きく二分されるというものだ。詳しくはハーバード・ビジネス・レビュー 2015年11月号に寄稿した拙稿をご覧頂ければとおもうが、簡単に言えば、

  • Old economy : モノ・カネというリアル空間系のアセットを主とした事業
  • New economy : データ・AIというサイバー空間系のアセットを主とした事業
  • 未開領域 : リアル空間とサイバー空間の両方の特性を持つ領域

だ。現存する企業のほとんどはOld economyに属している一方(行政システムも同様)、Alphabet、Facebook、Tencentなど、ハードに極度に依存せず、インターネット、スマホのうえでさまざまな新規の価値を生み出している企業はほぼNew economy側だ。

New側は、今まで以上にデジタル技術を高めていくと同時に、世界的なインターネット人口の飽和、伸び悩みに伴い「“リアル”をさらに取り込み、融合しなければならない」という圧力が高まっている。上のマトリックス的には右下から右上に向かうベクトルになる。

5年前に「未開領域」とした広がりには世界の刷新を図ろうとする「第三種人類」というべきプレーヤーが続々と現れてきている。TeslaKiva Systems(現Amazon Robotics)に代表される「AI化された機械」系と、AirbnbUberなど「シェリングエコノミー」系(シェア系)の2類型が今のところ目立つが、更にいろいろな形態の企業が現れてくるだろう。

www.tesla.com
www.amazonrobotics.com

サイバー空間とリアル空間両方で相当のプレゼンスを持つようになったAppleMicrosoftAmazon、Alibabaの「ハードxSWxデータPF」系も右下から上がり今やここ(元々未開領域であった場所に現れた企業)に入るのではないかと思う。これらの会社が企業価値のトップを争っていることにはそれなりに意味がある。

新型コロナの影響を強く受けたのがモノや空間の使い回しを行うシェア系であり、新型コロナウイルス接触感染リスクが懸念され、モノを誰かとシェアする行為をビジネスの主軸としている企業の業績は、著しく低下しているのが現状。とはいえ、「何かをシェアする」という考え方そのものが死に絶えたわけではなく、近いうちに、「ニュー・シェアリング」ともいうべきビジネスが登場すると考えられる。

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実はこの「AI-ready化ガイドライン」の原案づくりは「AI-ready」という言葉の言い出しっぺである僕が担当した。我々、検討チームの見立てでは、発表段階(昨年2月)では経団連企業ですら大半がレベル1という状況で、実際そのように発表された。今はせめてレベル2企業が何割かになってて欲しいのだが、、。


こういう事を言うと

アメリカのオールドエコノミー企業はai-ready3-5に移行できているのでしょうか?1でとどまっているのは日本の特徴ですか?

という質問を頂くことがある。

これについては例えば次のリンク先にある企業価値ランキングから明らかな通り、向こうではOld側といえども動きの速い企業が散見され*4、それ以上にNew economy側からの刷新が激しいと言える。Old economy側はあくまで防御側だ。実際、AI-ready化に必要な内製を行うサイエンス(統計数理/情報科学)、エンジニアリングリソースがない上、レガシー的なアセット*5が足かせになることが多く、DXでレベル3〜4以上に行くことは稀だ。旅行業界を例に取ればdisrupter側であるExpediaが全米1になったのは10年以上前、今はtripadvisor/kayakなどが更に刷新。ドイツに行って最もいけているスタートアップを聞けばN26というオンライン銀行がきっと最初のいくつかに入ってくる。TeslaがGMVWToyotaを抜いただけではない。

www.dogsofthedow.com

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古くからの大企業と霞が関の方々の多くに伝わっていない、あるいは理解されていないのは、アメリカが誇った数多くのかつての革新的な大企業、IBMXeroxDell、DuPont、KodakGMなどからNew economy、第三種人類が生まれてきたわけではない、ということだ。古くからの大企業は原則Old側であり、新しく生まれてくる側のスポンサーになるか、もしくは、刷新、淘汰の波にさらされる側にある。言い換えれば、DXはOld側各社にとって概ね必要条件ではあるが、社会全体がイケている状態になるための十分条件ではない。

以上を踏まえると、Old economy側が刷新する必要性を感じないで済む事業環境、即ち未来を仕掛け、刷新する側がガンガン生まれていない状況、というのが日本の現状であり、明白な伸びしろだ。深いドメイン知識を持つ人が仕掛ければ変わっていく部分、大きな富を形成しうる余地が巨大だ。

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今の25歳以下の方々から見たら想像がつかないかもしれないが、30年前、経団連の幹部には、ソニーを生み出した盛田昭夫さん、チェーンストアという概念を持ち込み、小売を大きく革新した中内功さん、など錚々たるスタートアップの創業者たちが何人もいた。ホンダやトヨタ自動車の創業者、最初期を知る方々の多くもご健在だった。

僕らが真に仕掛けるべき未来はDXだけではなく、第三種人類的な世界の構築に大きく広がっている。社内ベンチャーでもいい、準備の内職後に飛び出して頂いてもいい、ぜひ、Old economy側でドメイン知識を吸収しつつも、果敢に挑戦してくださる人が一人でも多く現れてくれればと思う。

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ps. 4月頭に本ブログでまとめ、発信した通り、withコロナ状況では「開放×疎=開疎化」「人は動かないがモノがガンガン動く社会になる」というトレンドが強く働く。この中においては当然、勤務、直接のやり取り、価値移動の非接触化(リモートワーク含む)が進む。これらがDXの大きな後押しになっていることは間違いない。ただ、これだけではダメなことも自明。結局、AI-ready化が必要ということになるだろう。

kaz-ataka.hatenablog.com

*1:機械学習時代に即したスキルチェックリストのver.2、深層学習時代に即したスキルチェックリスト ver.3/タスクリスト ver.2

*2:2015年春に、座長の北川源四郎 情報・システム研究機構長のもとで、この国のビッグデータ専門人材育成検討が始まった際には、10人ぐらいの委員のうち、協会顧問の樋口知之統計数理研究所(統数研)所長(現 中央大教授)、協会理事の丸山宏 統数研副所長(現PFN CSO)、僕とDS協会から3人加わり、中核的な投げ込みをした。リテラシー層、専門層、リーダー層の三層の人材育成モデルが必要であること、大学に進学するような人は理文、専門を問わずリテラシーレベルの数理データ素養が必要であること、専門層とリーダー層の間ぐらいにある「棟梁レベル」(DS協会スキル定義委員会の言葉)の強化が最も必要だということもここで決まった。ここで1,000億単位のリーダー層育成検討を行うべきだという話を強く投げ込んだことが、この後の人工知能技術戦略会議(年間100億×10年)の設立につながった。現在のAI戦略会議である。この時、我々の言っていることがこれまでの統計数理的な教育、計算機科学の教育と何が違うのか文科省の方々にわかってもらうことに大変苦労したが、その時、文科省側の人達に言われたのは、このDS協会での事前検討がなければこの検討は、劇的に難航し、大幅に遅れただろうということだった。

*3:全国の全800大学に入ることになった数理・データサイエンス・AI素養のモデルカリキュラムやその認定制度設計も相当深く支援している。

*4:今回のCOVID19用のワクチン開発がそうであるように、bioinformaticsを酷使したヘルスケア企業など典型的

*5:歴史ある金融機関を例に取れば、超一流立地の支店網、比較的高給である支店長ほかミドルマネジメントの数の多さ、千億単位で刷新費用がかかる基幹系システムなど

開疎化がもたらす未来

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Leica M7, 1.4/50 Summilux, RDPIII, Somewhere in AZ, USA

「開疎化」という言葉を世に出してから二週間たった。3/11のWeeklyOchiaiで落合陽一氏と話した「Withコロナ」からはもう一ヶ月以上だ。

Withコロナというのは解決策が必ずしもない新型コロナ(SARS-CoV-2)や様々な病原体とともに生きなければいけない状況、環境のことを言う。世の中の期待と異なり、状況の収束にはSARS-CoV-2対応に絞ったとしても、現実的な楽観シナリオでも1-2年はかかる、更に様々な病原体がこれから現れる可能性は相当に高く、これが終わりなわけではない、その視点で課題と未来に向けた方向性を整理する必要がある、というのが前回の議論『そろそろ全体を見た話が聞きたい2』だった。

kaz-ataka.hatenablog.com

開疎化と言っているのは、一言で言えば、Withコロナ社会が続くとすれば、これまで少なくとも数千年に渡って人類が進めてきた「密閉(closed)×密(dense)」な価値創造と逆に、「開放(open)×疎(sparse)」に向かうかなり強いトレンドが生まれるだろうという話だ*1

ちなみにその逆、言ってみれば「密密化」は都市化や人類の文明の発達してきた方向とほぼ表裏一体であり、つい4ヶ月ほど前まで、このままいけば、ブレードランナーのようなsuper都市セントリックな未来、それ以外の空間が捨てられる未来、がやってくるというのが、全世界的に起きてきた強く太いトレンドだった*2

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前回のエントリが、Facebookだけで既に約4,000回ほどもシェアされ*3、4/8のWeeklyOchiaiでもこのテーマについて話したこともあり、「開疎化」という言葉は結構な勢いで広がり、これは何をもたらすのかということを聞かれることも多い。

それってみなさんの想像力に託されているんですよ、と言いたいところではあるが、言い出しっぺということもある。2月に出した拙著『シン・ニホン』編集者の井上慎平さんから随分な量の質問も頂いているので、それも見つつ、少し考えてみよう。

井上さんから頂いた質問は、開疎化時代において、たとえば以下のそれぞれがどうなるのか、ということだ。

  • 都市と地方の関係性はどうなるのか
  • 都市空間の変容
  • 密を前提としている産業の未来、、食やエンタメ
  • 開疎化が困難な領域は?
  • 人間の感性はどう変わるのか
  • 人と人の関係性は変わるのか
  • データ×AIと開疎化の関係
  • 価値はどのように逆転するのか
  • 優秀さの定義は変わるのか
  • 開疎化は右からと左側からのどちらから向かうのか
  • 脱グリッドとは?

なんとも絡み合っているので、徒然なるままに書いていこうと思う。
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まず、多分、僕の周りの人たちの多くが、何より気になるところと思われるのは、Withコロナ時代において開疎化が進めば、そもそも都市はどうなり、地方との関係がどうなっていくのか、ということだろう。

何しろ開疎化という概念と都市が誇るものは大半がことごとく対立している。切れ目なくやってくる環状線の電車、10以上もの路線が入り組み日に数十万から数百万の人が利用する主要駅、通勤アワーは常に座席の数倍以上の人が乗り込む電車やバス、何千もの店が集積する街、何万人も入って一緒に応援するスタジアム、10以上のスクリーンを持つシネマコンプレックス、みっちりと居住(オフィス)空間がつまり、それが積層化された高層住宅やオフィス、毎日数万人が集まる花見の名所、列で何十分も人が並ぶテーマパークや新しい名所、、などなどだ。

ここで留意したいのは都市は決して東京や大阪のような大都会だけではないということだ。多くの地方にも中核的な都市空間はある。例えば多くの人がリゾートで訪れる沖縄、僕も大好きだが、実は那覇市の人口密度は約8,000(人/平方キロ)にも及び、23区内の人口密度約1.5万強の半分程度もある。つまり単に地方の時代が来たとかそういう話ではないのだ。

たとえば日本の各地でコンパクトシティ化が進んでいるが、これはこれまでの人類の最大の発明、ソリューションである「都市」を地方の空間において再現しようというもので、普通にやると開疎化とは逆の流れになる。

開疎化は都市の中でも進む。前回のエントリで書いたように、同じ都市の中でも、開疎化されているかどうかによってオフィス、飲食店、娯楽施設など、あらゆる空間が評価される時代が来る。空間の開放性、通気の良さ、座席配置などだ。「空気回転率」(空気の入れ替え回数/時間)あるいは「単位換気時間」(何分で全部の空気が外気と入れ替わるか)はモニターされるのが当たり前になるだろう。代替指標としてのCO2濃度も計測するのが当たり前になる。

外資やプロフェッショナルファームであればブースという2~6人で区切った作業空間がよく見られるが、そういう場合は、そのブースごとにこれらをモニターすることになる。概ね「疎(sparse)」ではあるものの、「開(open)」ではないためにこれまで以上に空気の回転を重視する仕組みにしていく必要があるだろう。

先程のCO2を例に取ると、外気と同じであれば450ppmぐらいであるが、僕が計測器を持ち歩いてみたところ、インテリジェントビルは新築でも人が働いていると1,000ppmを超えているところは珍しくない。これに対応するべく、前回書いた通りオフィスビルそのものの温暖化対応と伴って、かなりのリノベーション需要が発生するはずだ。

この新しい我々の世界ではハコというものの役割も再定義されないといけない。通気の良い形に設計思想も変え、今までのビルは大幅なリノベーションが必要になるだろう。オフィスにつきものの「島」もおそらく消える。日本の職場は官庁も含めて外資的な感覚では異様な人口密度の場所が多いが、それも補正されざるを得なくなるだろう。実は温暖化に伴って風速70-90Mに対応できる街やビルにする必要があるが(『シン・ニホン』第六章を参照)、その対応も一緒に行うべきだ。(そろそろ全体を見た話が聞きたい2

加えて、いま多くの人が体験している通り、ライブ感漂う状態で空間的に離れた人とリアルにつながるための空間や技術開発が進む。この視点で見ると世界的にメガヒットとなりつい最近まで極めて品薄だったAppleAirPods Proの発売は実にタイムリーだったと言える。空間的にもおそらくコックピット的なオフィスが増えるだろう。それは自宅にも相当配備され、オフィスビルの中にもかなりの数ができる可能性が高いのではないかとおもう。

離れて作業や議論している中、あたかも一緒にいるかのように感じ、共同作業して価値を生み出すための技術も必要になる。カンファレンスやコンサート、ライブなどの根本的な刷新、興行系のビジネスのモデル刷新、それに即したインフラ的なプラットフォームの整備も必要になる。VR/MR/ARも大事だがそれ以前の話も大量に出てくるだろう。(そろそろ全体を見た話が聞きたい2

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そうなるとそもそも会社が一つの場所に土地をまとめて借りる必要があるのかという話に当然なる。かなりの人が開疎的に働き、「本当に集中的にブレストする、知的生産を行う」ときのために何割かの人が集まれば良いという形にオフィスは変わっていくのではないかと思われる(当然コアメンバーだけが参加し、陪席者は外からその空間にバーチャル的にjack-in*4する)。

なお、今の日本のオフィスの多くは密密的な「島」を中心ににデザインされているので、開疎的にオフィスを作り直すと今と同じぐらいの面積は維持し続ける必要があるのではないかと思う。開疎状態で全員が出勤する(これ自体が言葉として矛盾がある)となるとおそらく今の3〜4倍程度の面積が必要になるケースが多いと思われるが、そういうことはなくなるだろう。10年、20年後まで見据えて考えれば、風通しもよく、低層でエレベーターが人で溢れたりしない開疎なビルや街が中心になっても全くおかしくない。交通機関も含めて都市計画の大幅な見直しが必要だ。

この変化に従い、多くのオフィスワーカーは家の中か比較的容易に行ける場所に作業コックピット的な空間が必要になる。職住近接ではなく、職住一体型の住宅の開発、リノベーションが進む。参加者外秘のビジネス討議を行うためには、そこがセキュアかどうかも示せることが求められるようになる。

いま現在は貸し会議室やシェアオフィスは需要が激減していると聞くが、おそらくこの流れに沿って空間を設計し直すことで蘇る部分も多いだろう。これまでは街ナカばかりをシェアオフィス化していたと思うが、郊外の空き家や空きビルなどを再設計して、気持ちの良い作業空間として打ち出し直す場所が求められるようになる。夏冬は少々きついかもしれないが、隙間風の入る古い木造住宅も、春秋の開疎空間としては良い場所と考えられる。
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作業場としての都市的な空間についてばかり述べたが、消費、娯楽の中心地としての都市機能についても考察してみよう。

消費、、こちらについては銀座、表参道、NYの5th Avenue、あるいはプレミアムモールのような生のブランド体験を得るための場所は残ると思うが、ここに訪れるというのは今まで以上にちょっとした贅沢な体験になる可能性がある。開疎化の流れの中では店舗内の人の数は相当にコントロールする、入店者も管理する必要があるからだ。高級ブランドのお店では若干、加圧状態にして、外から病原体が入らないようにすること、空気でお客を洗うようなスペースづくり*5も行われていくだろうことも容易に想像できる。

実際には、今のSARS-CoV-2そのものは一旦どこかで落ち着くだろうと思われるので、その小康期は元通りになるが、そういう何らかの病原体がはびこっている時は、十分な免疫を持つ人(抗体価の高い人)だけしかおそらく訪れることが厳しくなる。そうでない人は、外からそういうフラッグシップ的な店舗にJack-in的に訪れ、まるでリアルかのような接待を受けることが求められるのではないだろうか。その場合、そのフラッグシップ店舗は、当然そのような大きな街ナカにある必要はなくなる可能性が高い。

例えばチロルの山中に、巨人が古墳になったような不思議な建造物がある。

kristallwelten.swarovski.com


この地下はクリスタルガラスで世界的に有名なスワロフスキーが持つ、クリスタル・ワールドという世界最大のフラッグシップ店舗だ。10年以上前に訪れた時でも案内者が20ヶ国語以上の主要言語に対応しており、他では全く見たことのない質と量の展示販売が行われていた。この地下に世界最大のスワロフスキー工場もあるともお聞きした。

こういう場を求めるブランドは相当に多く生まれると思われ、なおかつ、その誘致を行い、その周りをそのブランドに相応しいだけの美しく、自然とともに豊かさを持った空間にできる土地の開発が進むだろう。数十から100平方キロ米の土地に一つ、そういう場所があるだけで、全く新しい開疎な豊かさを持つ郊外の空間が生まれる。その周りには、いま世界のairbnbなどでどんどん提供が進む開疎でゆたかな居住空間も生まれてくるだろう。*6

(若干余談だが、これに関連する未来として、もう一つ大きな変化として想像されるのはluxuryブランドの未来だ。これだけ人の中に出る機会が減れば、自分の豊かさや趣味の良さをshow offする[人に顕示する]という価値を売るブランドの必要性は当然減る。50万円のカバンや時計を持つ必要性が小さくなるということだ。もっと人に寄り添い、その人それぞれの人生を豊かにするという風にリポジショニングしなければ、多くのluxuryブランドは生き残れなくなるだろう。ブランドコミュニケーションも、こういう場面には、、というアプローチで想定する場面が全く変わってくるだろう。)

フラッグシップ以外の店舗はどうなるのかと言えば、特に服や靴、アクセサリーなどは見て触って着ないと話にならないので、もちろん残ると思う。ただ、今のままでは開疎とは言い難い店舗が多いので、むしろ郊外で大きなスペースの中で行う事業者が増えるのではないかと思われる。想定する用途や場面は劇的に変化するだろう。いわゆるスーツというものがついに特別なときにしか着ない、一つのコスプレ的なものになる可能性は十分にある。紋付袴のようにだ。Jack-in的に仕事をするために着るスーツなどもはやmake senseしないからだ。

スーパーなど食品系で行われる日々の購買は、前回も議論した通り、オンライン、非接触決済に急速にシフトしていく。食品や日々の消耗品ですら重いものや店頭になかなかないものはオンラインで色々カートに突っ込んでおいてまとめて買うような時代に向かうだろう。僕が子供の頃、自分の育った北陸の田舎では、お酒やビールは近所の酒屋さんが持ってきてくれるのが当たり前で(ツケ払い)、豆腐やお魚も行商の人が毎日家の前に来てくれて買っていた。八百屋さんもものが多ければ運んでくれた。あれが半ば戻ってきて1日か2日に1回のオンデマンド化するのではないかと思う。都市部においては週1回、パルシステムなど生協的なサービスを使っている人も多いと思うが、それでは足りない部分をまるごと引き取っていくという仕組みだ。

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宮崎駿監督の名作『風の谷のナウシカ』で描かれる世界は、腐海と呼ばれる毒性の高いガスと胞子に覆われた空間と、腐海にまだ覆われていない数少ない空間に分かれ、残された数少ない人類は後者の方に住むようになっていた。今回はそこまでは行かないが、都心にいるということは、半ば、密密なリスクの高い生活をすることに他ならない。

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長らく「風の谷を創る」運動論の仲間の中で言っていることだが、こうした開疎な「風の谷」的な空間を周りに十分持てない都市は価値を失う可能性が高い。都市が都市として価値を持ち続けるためにも周りに豊かな谷的な空間が必要になる。

開疎化が進めば、このような変化がいわゆる大都市圏でも地方でも起きていく。十分に開疎な空間に住んでいる、働けていると思っていない人は、徐々に開疎な空間に移るか自分たちの空間を作り直していく。住む場所としての土地の価値のヒエラルキーも、単に各地域の都心と言うよりも、開疎で自然豊かなところ、そして都心にアクセスの比較的良いところがベストという風になっていく。*7

もちろん都市の持つ極めて高い効率性、利便性、楽しさがあるためにそう簡単に事は進まない。開疎的な空間をどのように経済的にサステイナブルな空間にしていくかというのは僕らが同志でずっと検討してきている「風の谷を創る」運動論の核心の一つだ。

kaz-ataka.hatenablog.com

とはいえ、都心が持つ知的生産、消費の中心地、価値創造・演出の中心地という特性は徐々に、オフィスや生活空間の分散(開疎化)とともに弱まっていくだろう。今、様々なオフィスや大学は立入禁止に近い状態になり、遠くから眺める半ば神殿のような存在になりつつある。神殿としてのオフィスや大学はどのようにあるべきかには相当の試行錯誤が起きるだろうが、これは巨大なビジネス機会でもある。

クリーンな開疎空間から来た人が、密密な空間に入ることにはちょっとした勇気が必要になる。密密な空間から来た人は、開疎な空間に入るにあたってうまく清めることが必要になる。空間と空間のスイッチ、Jack-in/Jack-outはリアルでも起きる世界になるだろう。

到底頂いた質問に答えきっているとは言えないが、一旦、ここまでということにしたい。また余力を見て続きを書いてみようと思う。


ps. 「風の谷を創る」の同志である仲間たちの声を、これもまた仲間の一人である宇野常寛さんがまとめ、連載的に紹介していただいているものをここに紹介しておこう。どれもとても読み応えがあるので、落ち着いて読む時間があるときに一つずつ味わって読んで頂くのがおすすめだ。

slowinternet.jp
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*1:これを経済的にmake senseさせるというのは一朝一夕では解決できないとても重い課題であることを、もう数年来、まさに開疎的な空間である「風の谷を創る」ための検討活動を行ってきた僕らはよく理解している

*2:詳しくは「風の谷」という希望、というエントリをご参照

*3:2,600回以上シェアされたところで、このブログの全エントリのシェア数のカウンターがゼロリセットされるトラブルがあり、その後1,300回以上シェアされている。

*4:Jack-inは東京大学/ソニーCSLの暦本純一先生の提唱するバーチャル空間に接続することを意味する概念。ここから出ることをJack-outという

*5:エアーウォッシャー的な小部屋を通るなど

*6:これは、僕がこの数年有志で検討してきた「風の谷」構想にかなり親和性が高い。もし一緒に、自分たちの土地で、あるいは自分たちのブランドで検討したいという人がいたらぜひご連絡をいただけたらと思う。

*7:なお、これは都心がシンプルにアウトだと言っているわけではない。例えば東京の居住空間の中でも豪邸が立ち並ぶ松濤、池田山、猿楽町/桜台の裏辺りなどは既に相当に開疎であり、教育レベルも高く、10-15分圏に総合病院も多い。そういう意味でそう簡単に価値は減らない、むしろ希少性のために価値がさらに上る可能性がある。

そろそろ全体を見た話が聞きたい2

2010年の年末に『イシューからはじめよ』を出版した。何ヶ月か後、歴史的な大地震(いわゆる311)が来た。大津波の死者・行方不明者は無数、フクシマは爆発する、東京は計画停電が始まるしで、何がなんだか訳のわからない不安と混乱が世の中を覆い尽くしていた。随分目先のしかも全体観のない議論ばかりが行われていて不毛だと感じ、10日あまり経ったところで課題の全体観を俯瞰したブログエントリを書いた。

kaz-ataka.hatenablog.com

今見てもそれほど大きな違和感がない。初動、その後の対応の残念さ、せっかくの刷新にもうまく繋げられたとは言い難かったことも明らかになっているのだが、それは一旦おいておこう。

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いま僕らを襲っているのは歴史的には人類最大の死因の一つ、疫病だ。

拙著『シン・ニホン』が2月20日に世に出たときはまだ中国と日本のダイヤモンド・プリンセス号にほぼ閉じた話だったが、現在、急激に世界的な課題になっていることは皆さんご存知のとおりだ。

リニアな変化と指数関数的な変化、スケール拡大の時代の終焉についての議論からはじめ、疫病や飢饉についても議論し、地球との共存こそを図らねば我々の未来がないと語った本を出した直後に、なんと奇しき偶然だろうかとは思う。

先の大戦直後、つい70年ほど前でもこの国の死因の一位が結核という名の伝染病だったことを、僕らは忘れてきた。最大級の敵である、結核天然痘、ペスト、コレラ、更にHIVですら半ば鎮圧した我々は、ほぼ疫病が滅んだと考えてきたのだ。

つい3ヶ月前の年末の雑誌の表紙を見ると、世界ではグレタ嬢が僕ら人間と地球の共存の大切さを投げ込んでくれて、世界中の人の目を開いてくれた一方で、オリンピックイヤーを迎えるに当たり、少くとも日本はとても明るい気分に社会が満ちていたことがわかる。しかし、今僕らの目の前にある事象を踏まえた世界の雑誌の表紙は、閉店状態にある地球、疫病、そして疫病だ。

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年末の雑誌(左)と今の雑誌(右)を並べたもの。(c)Kaz Ataka 2020

こんなときこそ引いた目で世の中の課題の全体観(perspective)を持つことが重要だ。必ずしも全容がわかるわけではないが、自分の頭の整理もかね、こういうことなのじゃないかというものを書いてみようと思う。

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非常にざっくりと言えばこの課題解決は5つの領域(レイヤー)に分けられる。

1)COVID対応、、いかにダメージを少なくし、制圧し(安定的な平衝状態を実現し)、医療システムのキャパオーバー、最悪のケースの崩壊*1を防ぐか。
2)社会の基本コアシステムをどう回すか、、ヘルスケア、ビジネス、教育、行政システム、飲食をどのようにこの状態で回すのか
3)社会のOS的なインフラ機能をどう止めずに回すか、、通信、物流、電気、ガス、石油、上下水道、ごみ処理など(農業・漁業もほぼココ)
4)お金、、経済的に企業や家庭がどのようにしのぎ、立ち直っていくか
5)ルール作り、、これらの不連続かつ急速な変化に対してどのようにフレキシブルかつ大胆に対応し、方向性を修正していくか

当然のことながら、これに合わせて仕組みの刷新を相当に激しくやっていく必要がある。また、これを世界各地の進捗状態の中でうまく回していく必要がある。

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解決の時間軸としては、上述の311の課題整理と同様に、止血、治療、再構築の3フェーズで考える必要があるだろう。

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ちなみに上に書いた5つの領域で、現在見えつつある課題は実はほぼ「止血・治療」レベル、つまり、この状態で我々の社会が死なずに生き延びるために何をすべきかという課題だ。例えば、

1)COVID対応

  • 急激な患者数拡大を防ぐために不用意な密閉、閉鎖空間*2への立ち入り、対人近接を抑制する
  • 感染の有無と入院の必要を分離、、重症者向けに極力病院のベッドを開ける
  • COVID19病床を劇的に増やす、、、必要な人工呼吸器も一気に増産
  • ヘルスケアワーカーの健康を守り安定的な労働環境を築く、、N95マスク、防御服の増産、直接患者に接しなくとも診断できるブースの開発・設営ほか
  • 医療データ、各種ビッグデータを活用、統合し、状況をリアルタイムで可視化する
  • あらゆる空間の換気を良くし、室内CO2濃度*3などをモニターする(オフィス、電車、スーパー、コンビニ、飲食店ほか)
  • 各個人もSpO2*4、体調をコンスタントにwatchする
  • 検査の簡便化と社会全体の免疫状態の可視化のために血清検査を確立し広める
  • 社会全体の免疫力を一気に上げるためにワクチンを早期に開発し一気に適用する
  • 以上の実現に向けて社会のリソース配分を見直す、、工場キャパ、空間、人員の最適配置など(例えばUKでは、飛行機が飛ばないためキャパの空いているCAを臨時でnurseに配備する検討が進められている。同様に会議場、貸オフィス、空きビルなども抜本的な利活用の見直しが必要だろう)

2)社会の基本コアシステム

  • 通信帯域やデバイスはもはやライフラインであり*5、未浸透世帯に可及的速やかにインフラ普及を進め、帯域コスト(光接続)はニーズベース*6で一律補助し、デバイスは無償貸与するか購入補助を行う(とくに小中高とその子供のいる家庭)
  • リモートワークを派遣社員、アルバイトも含めて即座に認め、デバイスを配布する
  • 行政システムや医療診断(特にCOVID)や薬剤処方をオンラインで可能にする
  • 本人確認、印鑑承認、レシートなどの紙や直接(in-person)のやり取りが必要なシステムをすべてオンライン、デジタル署名化する
  • 飲食業のために路上、公園を開放し、ことごとくオープンエアーでの営業を解禁する

3)社会のOS的なインフラ機能

  • 社会が機能不全にならないように一定の通信帯域を確保する、、YouTubeNetflix、その他オンラインゲーム会社への要請
  • 対人でのものの受け渡しや現金の支払いを止める、、郵便、宅急便などは手渡しをとめる。現金でしか支払えないところはすべからく物理的接触が不要なバーコード決済を導入する(タクシーや飲食店など)
  • リモート環境下を支える物流システムを強化する、、物流ワーカーを増やし・感染から守る、待遇を見直す、それを支える自動化を強化する
  • すべての基礎インフラ機能をできる限り無人化、リモート管理可能にする、、センシング社会、工場以外でもロボットを活用

4)お金

  • 貧困層など弱者を守るためのセーフティネットを用意する。弱者の税や社会保険料の支払いを猶予もしくは免除する(報道ではほとんど流れていないが、中国では社会保険料の猶予まで相当前から踏み込んでいる)
  • 企業体力のないところの支払いを猶予する(税、社会保険料を含む)とともに資金繰りを担保する

5)ルール作り

  • 上記ほかの様々な変化に対応する意思決定システムを国会でよく見る今までの揚げ足取り的な議論ではなく、企業におけるタスクフォース的な議論で一気に詰めて、スグにagile的に対応する
  • 結果を常にモニターし、どんどんagile的になおしていく事ができるような仕組みとする(例えば血清検査などが米国やG7で審査が通ったらスグに通すような仕組みを作る、など)
  • これは有事であり、既存の何かを守ることではなく止血的にそれが正しいか(有効か)と、過剰にコストがかからないかだけで判断する
  • 公的なpropertyの緊急時対応が必要な仕組みに刷新


「社会のフリーズ(凍結的な停止)」を防ぐためにこれらの対応をするべきことは半ば自明だ。

ただ、このような社会のフリーズ防止のための目先の課題解決を進めつつ、ここでもう一つ考えなければいけないのは、この社会全体を将来的にどのようなシステムにしていくべきなのかを考え、整理し、それに向けて社会全体の「変態」*7を一気に図ることだ。

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先日 3/11、畏友、魔法使い落合陽一さんとWeekly Ochiaiでブレストした際に「アフターコロナ社会についてどう考えるか」みたいなお題が僕ら二人に出て、即座に僕が言ったのは「アフターコロナ社会は当面来ない、"Withコロナ社会をどう生きるか"こそが課題だ」ということだった。

それ以来、Weekly Ochiaiや他のプログラムでも「Withコロナ」という言葉をよく聞くようになったが、これはどういうことなのか、その時、説明を飛ばしたこと、を少し補足しておければと思う。

newspicks.com

ご存じの方もいらっしゃると思うが、コロナを含む感染症のための病床数は4/4現在、日本全体で4,000あまりだ*8。一度入院したら2週間はいなければならないとすると、年間52週で26回転、4,180 x 26 = 108,680 = 約11万人の治療が可能ということになる。入院が必要な重症化率が世界平均同様に5%だとするとこの国が現在対応できる感染者数は年間で11x100/5= 11x20 =220万人に過ぎない。これでは「もしキャパを溢れさせないとするならば」50年以上(57年+)の時間がないと今の人口(12,600万人)全員に免疫ができることはない。50%を目指すとしても29年だ。普通の経済的な感覚ではほぼ無限に続くことになる*9

仮にこれが1万までCOVID対応可能な病床が増えても同じ計算で*10、免疫を持つ人を50%にしようとすると約12年かかる。3万まで増やしても約4年だ。つまり、向こう数ヶ月で沈静化するという可能性は中国のような完全シャットダウンを行って封じ込めない限り考えられない*11。この状況は他の主要国もそう変わらない。したがって"手なり"で考える限り、来年オリンピックが当初期待していた形でできる可能性は低い。

実際にはいま世界で知られているだけで100以上のワクチン候補の開発プロジェクト*12が進んでおり、6月にも動物治験に入るもの、9月にも人間での治験に入るものなどがあり、早ければ年始にはなにか生まれてくるだろう*13。ワクチンは当然のことながら社会の免疫獲得を劇的に加速する。とは言え、これが10億単位で量産され、世界中の人が打ち終えるのには少くとも数年はかかるだろう。経済的な主要国の50%までをターゲットにしても、現実的な楽観シナリオでも1-2年はかかるというのが普通の見立てではないだろうか*14

したがって、我々は当面、(感染爆発を極力抑止し、特効薬、ワクチン開発とその展開に最善を尽くす前提で)この疫病と共存的に生きていくしかないというのが現実的なシナリオと言える。僕らは再び、70-80年前に戻ったのであり、ある種の慎重さと生命力が何よりも問われる時代に舞い戻ったということができる。

また、詳しくは拙著『シン・ニホン』6章を読んで頂ければと思うが、向こう数十年のうちに北極、グリーンランドの氷のほぼ全て、南極の氷の多くが一度は解ける可能性が高い。これはアルベドと呼ばれる太陽放射の反射率が雪や氷と海や陸地では全く異なるために正のフィードバック(ice-albedo feedback)が劇的に効きやすいことが大きく、我々ホモサピエンス(ご先祖様たち)がぎりぎり生き抜いていた氷河期の最中でも何十回と起こったと見られる現象だ。

そうすると当然のことながら、泥炭地などからメタンなどの極めて温暖化効果の高いガスがまとまって出てくる可能性が高く、温暖化が更に加速する。さらに、我々の先祖の多くが苦しんだ様々な病原体(細菌やウイルス)が氷の中から出てくる可能性がそれなりにある。この中には100年前に5千万から1億人の命を奪ったスペイン風邪(Spanish Flu)のような強烈なインフルエンザのような風に乗って飛来する(airborne)ものがあってもおかしくはない。

つまり僕らはパンデミックのタネの一連(series of pandemic seeds)にさらされ続ける可能性がそれなりにあり、そうすると今の新型コロナウイルスSARS-CoV-2)が去ってもなにか新しい伝染病との戦いが色々と続く可能性があることを心づもりしておくべきだということになる。これがWithコロナ(SARS-CoV-2に限らず)時代を生きることになる、とその時、僕が即座に発言した背景だ。

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話を戻そう。

ということでWithコロナ社会ということになると、上で挙げたような打ち手は本当に今の一時しのぎの話だ(それにしてはかなり多いが、、)ということになる。マクロ的には

  1. 密閉(closed) > 開放(open)
  2. 高密度(dense)で人が集まって活動 > 疎(sparse)に活動
  3. 接触(contact) > 非接触(non-contact)
  4. モノ以上にヒトが物理的に動く社会 > ヒトはあまり動かないがモノは物理的に動く社会

という方向性を当面givenとして我々は生きていかないといけない。簡単な図にすると、以下の通りだ*15。この流れを、開放x疎で「開疎化」と呼ぶことにする。

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ちなみに、このマトリックスの左下がいわば「都市」であり、人間がこれまで作り上げてきた最も効率がよく、楽しく快適だった空間でありソリューションだ。以前、次のエントリで議論したとおり、これまでひたすら人類はここに向かってきた。「開疎化」は、奇しくも「風の谷を創る」運動論の目指す方向性とかなり重なる。

kaz-ataka.hatenablog.com

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一旦、上の止血・治療過程がおわったらもうおそらく二度ともとのように高密度で仕事をすることはなくなるだろうということを既に感じている人もいるだろう。まさにそのとおりだ。

この新しい我々の世界ではハコというものの役割も再定義されないといけない。通気の良い形に設計思想も変え、今までのビルは大幅なリノベーションが必要になるだろう。オフィスにつきものの「島」もおそらく消える。日本の職場は官庁も含めて外資的な感覚では異様な人口密度の場所が多いが、それも補正されざるを得なくなるだろう。実は温暖化に伴って風速70-90Mに対応できる街やビルにする必要があるが(『シン・ニホン』第六章を参照)、その対応も一緒に行うべきだ。

離れて作業や議論している中、あたかも一緒にいるかのように感じ、共同作業して価値を生み出すための技術も必要になる。カンファレンスやコンサート、ライブなどの根本的な刷新、興行系のビジネスのモデル刷新、それに即したインフラ的なプラットフォームの整備も必要になる。VR/MR/ARも大事だがそれ以前の話も大量に出てくるだろう。

そのバーチャルなリアル空間(ゲームのようなバーチャル空間ではないがバーチャル空間にリアルが折り重なった世界)に入っていく、身体や心の慣れもそれなり以上に必要になるだろう*16。暦本純一先生(東大・ソニーCSL)の長年提唱されてきたJack-in/Jack-outを行うスキルだ。それを踏まえて上の課題解決領域はもっと遠くに目標の再設定をする必要が出てくるだろう。

1)COVID対応

  • あらゆる伝染病との共存。ワクチン開発力の抜本的な強化。様々なワクチン接種をできる限り行う社会に。各人の抗体保持状況を可視化。細菌やウイルスを吸着するフィルター(例:水に吸着)を室内空間に標準装備
  • 土を増やす。土や自然での遊びを強化。舗装を削り土壌面積を増大させる。(参照:ソニーCSL舩橋真俊氏「表土とウイルス」)
  • Withコロナ時代に即しているかどうか(平均social distance/密度、換気力、非接触度、リモート対応度など)であらゆる空間(店舗、空間、オフィス、職場)を評価、、快適・衛生度の視標にこれらが加わる
  • 多くの人が自衛的に色々なセンサー(位置情報、CO2、SpO2ほか)や記録を持ち、いざというときにトラッキング、モニタリングできるオープンなデータプラットフォーム社会に刷新(そうしなければオーウェルの描いた1984的な完全な管理、監視社会になる可能性。ハラリのFTでの論考を参照)

2)社会の基本コアシステムをどう回すか

  • 上の4条件がgivenの状態であらゆる産業やサービスを再定義する、、ヘルスケア、ビジネス、教育、行政システムをハコレスな開疎化社会に即して刷新させる、人の育成のあり方を根本的に見直すなど(巨大な産業創出機会でありscrap and buildの機会でもある)
  • その裏での働き方、生活の仕方も再定義する。たとえば、開疎化に合わせて疎開ワークはそれほど珍しくないもの(common)になっていくだろう

3)社会のOS的なインフラ機能をどう止めずに回すか

  • 都市部以外はグリッド依存を抑制し、マイクログリッド化、オフグリッド化を推進(変化への対応力を上げる)
  • モノはガンガン運ばれるが人はそれほど移動しない社会に即して刷新。特にCOVID19については、
  1. 先にCOVIDがやってきて抑制する中国/日本
  2. ある程度暴れるがなんとか対応するG20/OECD諸国(35カ国)
  3. 抑制できない途上国・中進国

のように三階層に分かれてしまう可能性が高い。特に食料、資源は途上国、中進国依存が大きく、タイミングがずれる中、世界の食料、エネルギー、資源、部品などの流通をどのように回していくかは極めて大きな課題解決になるだろう(止血・治療をシステム化する)。1918年のスペイン風邪の時、インドは6%もの人の命を失った。世界政府的な、国を超え助け合うための動きがかなり重要になる

4)お金

  • 接触を前提とした価値移動にすべてを刷新
  • 今回発生する巨額の未来への負債のダメージを軽減する資金運用スキームをつくる
  • 企業価値はスケールよりも「変えている感」 + 「よりよい(withコロナ時代に即した)未来を生み出せている観」に

5)ルール作り

  • 国内、国外ともに完全にagileに対応することが普通に回せる仕組みに刷新
  • 経済的にもヘルスケア的にも世界が痛む中、学び合い、協調してupdateする仕組みに刷新

という感じにだ。

Weekly Ochiaiのあと、この国は本当にやるべきことだけをきれいにやっていない、という意味で本当に落合くんの言う通り「伸びしろしかない」としみじみ思ったが、今回の刷新は、『シン・ニホン』で議論したAI-ready化の話を超えて、まさに妄想力とデザイン力を活かし、全く新しい社会への脱皮を各国がどのように行うかのゲームになる。

文字通りGo Wildだ。仕掛けて、仕掛けて、そして仕掛ける、その向こうに僕らが残すべき未来がある。

*1:ここではミイラ取りがミイラになるように、ヘルスケアワーカーの方々がバタバタとCOVIDや過労で倒れたり、医療システムが持続可能性を失ってしまうことの意

*2:closed space。オフィス、店舗、満員電車など

*3:換気の代替視標だが、リモートワークを行う上でも重要

*4:経皮的動脈血酸素飽和度

*5:スマホの帯域でやるのは限界がある

*6:世帯内の一人あたり所得、子供、勤務者の有無と困窮度

*7:蝶など昆虫類の変態 metamorphosis の意

*8:4/4/20現在で4180床

*9:実際には重症化していない人まで多く入院しており、更に重症患者は3-4週間入院する必要があるケースが多いように見受けられる。これを前提に計算すると、現在の感染症ベッド数では日本の全市民が免疫を持つまでに軽く100年以上かかる。死ぬまでにワクチンなしには免疫獲得は無理な人が多い、ということになる

*10:220 x 10,000/4,180 = 526万 = 年間約530万人の発生患者がキャパ的には限界

*11:GWまで「祈る月」にして不要不急の外出を禁止してしまうというのは一つの手であり、経済的には最もダメージが小さい可能性がある

*12:Nature誌によると4/8段階で115のワクチン候補がある:4/30更新

*13:実際には2002年に出現したSARS, 同2012年のMERSですら生み出せていないこと、エボラですらワクチン開発に課題が顕在化してから10年単位の年数がかかったことを考えるとこれはかなりの楽観シナリオだ

*14:4/8/2020速報:大村智先生のイベルメクチンが試験管内とは言えSARS-CoV-2の複製を劇的に抑制することが明らかに。服用や注射でもし大きな副作用なく効くなら神の薬になるかも。。

*15:密閉軸と接触軸がかなり重なり合うので合わせた。

*16:参考:スピルバーグの描いたReady Player One

一冊の本をまとめました、、『シン・ニホン』

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2015年春ごろから、急に国の仕事に巻き込まれるようになった。現在、大学と会社*1の仕事が表向きメインではあるが、データサイエンティスト(DS)協会のスキル定義委員会、理事会らの活動に加え、かれこれ10ほどの公的なロールがある。毎週のように講演や取材対応もある*2。その記事確認も結構重い。恥ずかしながら、実は今もいくつも溜まっている。

国関連では、その時折で重い仕事があるが、今は高等教育を受ける人全部にデータ×AIリテラシーを、という話をインプリするための仕事が特に重い*3

こんな生活なのであなたは何が本職なのかと聞かれることも多いが、本職というのはどういう意味なのだろうか、というのが僕がいつも思っていることだ。

僕的には、2018年の年末にその年の対外的な活動を総括したブログエントリで書いたとおり、

  1. 未来に賭けられる国にするということ
  2. 未来を生み出す人材を一人でも多く生み出すこと
  3. 今の子供やその次の世代たちが生きるに値する生活空間を生み出すこと

この三つが最大のアスピレーションで、これを

のすべての活動を通じて合わせ技的におこなって、毎日一歩でも前に状況をすすめられるように頑張っている、というのが正直なところだ。

なるべく名目だけの仕事を受けないようにしているので、関わった活動の多くでは何らかのデルタ(変化、差分)を生み出す触媒にはなれてきたように感じている。例を上げれば

などだ。

政府の委員というものになって知ったが、これは別に本業が減るわけではなく、ひたすらadd-onに乗ってくる。しかも審議会の場だけでなく、信頼されればされるほど、その事前事後で相当の時間が取られる。その中で日頃の仕事とは脳を切り分け、主語を国として考える、ということを唐突にやるという仕事だ。もちろん薄謝だ。これを読む若い人の中にもいずれこういう場に呼ばれる人も出てくると思うので参考までにシェアしておこう。

前職のマッキンゼー時代も含めて、相当の大きな組織のマネジメント課題の解決に関わってきたが、国という規模のしかも企業のように上意下達が可能なわけではない「系」(組織というのは適切ではない)において、課題をどのように考え、どのような取り組みが意味があり、どのように埋め込むと意味があるのだろうか、ということを考えるのは中々のチャレンジだ。マネジメントというものをかなり高いメタレベルで考えざるをえない。ここでそれなりのことを言うのも、いわんや変化を生み出すのも並大抵のことではない。しかし呼ばれて、受けてしまった以上、何らかの形で意味のあるバリューを出さざるをえない。特に僕のように、著名な経営者*5でも大成した学者でもない人の場合、場の格に貢献できるわけでもなく、本当に彼らが困っていることに関して意味のある知恵や変化が生み出せると信じて声がけされているのだからなおさらだ。

当たり前のことだが、国といえども、多くの人がご自身の担当の視点でお仕事を依頼される。産業政策、技術育成政策(経産省内閣府)であり、人材育成(文科省内閣府)であり、AI×データ時代における土木事業の革新(国交省)であったりする。

しかし、長年ストラテジスト(参謀)、変革の触媒として仕事をしてきた自分としては、投下できるのがどれほどなけなしの時間と言えども、国全体を系として考え、また外部的、時代的な変化を踏まえ、あるべき姿を考え、そこに向けて意味のあると思われるイニシアチブを、受け手が飲み込めると思う形で切り出し、投げ込むことを心がけてきた。

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そうこうしているうちに、一年半にわたって関わってきた経産省産業構造審議会産構審)新産業構造部会の最後のあたり(新産業構造ビジョンの発表前後)で、ついに人材について投げ込む場を頂き、ちょうど三年前、2017年の2月に投げ込んだ。そのタイトルが、その後、数多くの講演で使うことになる

“シン・ニホン” - AI×データ時代における日本の再生と人材育成 -

だった。この産構審の議論をずっと行ってくる中で、この国がうまく回らなくなっている最大の核心は、(この産構審の表題上のお題であり、関連政策議論の中心であった)産業政策そのものというよりも、政府のどこでも本気で議論されているように見えない

  1. 人材育成と科学およびテクノロジー育成の目指す像が間違っているが、これを小手先のことでかわそうとしていること、しかもその変化がおそすぎること
  2. この国が伸るか反るか、再生するか、沈没するかの歴史的な局面であるにも関わらず、これを実現するためのリソースをとてもじゃないが十分に張れているとは言い難いこと

の2点が真の中核課題であるとほぼ確信するに至った。これを勝ち筋とまるごとセットにして投げ込んだというのがこの場だった。シン・ニホンという言葉を初めて使ったのはその4ヶ月ほど前のTEDxTokyoだったが、この時は単に勝ち筋の基本的な話に過ぎず、そういう意味で本物のシン・ニホンとなったのはこの日だった。この場で話してほしいと前回*6のあとに依頼され、これは大事な場になると久しぶりに本物のアドレナリンが吹き出てきたのを覚えている。講演の準備なども通常数時間取れるかどうかという隙間しかないのだが、このときばかりは週末の土日を全部朝から晩まで投下して、結構な分析を行い、一気に取りまとめて発表した。

それがそれなりの反響を呼び、官邸(内閣府)の教育再生実行会議で投げ込む場をいただき、その前後で大臣、自民党青年局、財務省の高官の方々の前であるとか本当に多くの場でお話をさせていただき今に至る。

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国以外での講演について、なけなしの時間を投下する意味があるかは、基本パブリックマインド的に意味があるのか、ここでお話することが未来につながるのだろうかという視点でお受けするかを判断している。そこにいる人が未来を変えうる人たちなのか、そこでの投げ込みが未来を変えうるのか、という視点だ。したがって、特定の企業の内部向けのイベントは特殊な理由がない限り概ねお断りし、相手が中高生であるとか大学生であるとかという時にはお受けすることが多い。大人が相手でも、お子さんを持たれている人が多いイベントが多い。

また、省内の勉強会に呼ばれて話をする際には、多くの場合、Q&Aの後半は官僚の方々自身のサバイバルやお子さんの子育ての話になる。また新人官僚研修であれば*7時代の概観と意味合いだけでなく、彼らのサバイバルスキルと人生における目線の話になる。

これらの場にいらっしゃる方々の関心は今の世の中をどう捉える必要があり、そこでどのような取り組みが鍵になるのかということについての全体を見渡した(holisticな)しかし自分と家族の人生に活かしうる全体観だ。プログラミング教育だとかデータサイエンスだとか色んな話が錯綜しているが本当のところ、人は何をやることになるのかであり、そこに向けてどのような仕込みが必要になっていくのか、つまりどのようにサバイブ(survive)していったらいいのか、ということだ。たしかにこれに対してストレートに全体感を持って投げ込まれている話は極めて少ない。それは自分なりに誠実に答えてきた。

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こういった場を通じ、

  • 富の生まれ方が本質的に変わったという話
  • 事業価値の複素数平面化
  • 産業革命のフェーズ論
  • 未来の方程式
  • データ×AI時代におけるリベラルアーツ
  • データの力を解き放つための三つのスキル
  • AI-ready化
  • これから求められる人間の知性の本質
  • 日本にリソースがないのではなく配分の問題であること
  • 科学技術や未来に向けてまともな投資ができているとは言い難いこと
  • 人材育成のモデルが根本から見直しが必要なこと

、、など随分幅広くの議論をこれまで整理してきた。いずれも初めて投げ込んだときは相当にオリジナルな視点であったと自負しているが、もうさすがに空気のようになってしまっただろうと思うことも多く、僕が啓蒙的に行ってきた話を前提に書かれている本も随分とあるので、さすがにこれらを束ねて本にする意味はないだろうと思っていた。

しかし、昨年春、ウェルスナビCEOの柴山さんと猛烈な嵐の日に対談した際に、終わったあと、真顔で、「アタカさん、このシン・ニホン、一冊の本にまとめたほうがいいです、書かないと間に合わなくなります」と言われたときに、なにか大きなボタンが押された。

そこから書くことを決め、ちょうど並行して、「NewsPicksパブリッシングという"希望を灯す"を掲げた全く新しいレーベルを立ち上げる。未来に残すべき言葉をぜひ」となんどもお話を頂いてきた井上慎平編集長*8に連絡をした。これまで様々な出版社からそれなりの数のオファーを頂いてきたことは事実だが、このような清新な、日本の未来を変えるための一撃となることを目指す本をまとめるにあたり、まったく新しい歴史をこれから作るという出版社の志高い新編集長と取り組んでみることが、この本にふさわしいと思ったからだ。また、このような高い志を持ち、大きな航海に出たばかりの井上さんであれば、本そのものについては随分と要求するものが多い自分に逃げずに付き合ってくれると思ったからだ。井上さんの前後の若い世代に響くかどうかの壁打ち相手としてもきっとぴったりだと思ったということもある。

ただ、まだ30すぎの井上さんの熱意と人柄は素晴らしいのだが、この国と僕にとっての正念場のような本をまとめるには、もう一人、誰か一人強い(高い経験値と見立ての力がある)壁打ち相手が必要だということを確信した。そこで僕に迷いなく浮かんだのが、前Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)編集長の岩佐文夫さんだった。岩佐さんにはDHBR編集長時代、行動観察データと比較したビッグ・データの本質、AIの本質とこれから起きる変化、AI時代に求められる知性の本質、という実に重い、執筆当時、誰も正面から答えていないテーマを次々と頂き、どれもがこってりとした実に味わいのある、そして自分にとっても思い出深いアウトプットとしてまとめさせていただいた。これらのテーマのいずれもこの新しく生まれる本にとって大切なお題であり、その意味でも岩佐さんしかこのロールをやって頂ける人は思い浮かばなかった。岩佐さんにご相談したところ、快諾をいただきチームがようやく出来た。

執筆にあたっての苦労は想像以上のものだった。さんざん話してきたテーマなのであっという間にできると思っていたのは間違いだった。事実考証を徹底的に行う必要があったが、それがまずえらく手間がかかる。チャートを見て明らかとしてきたことも論理を通す必要がある。広範なオーディエンスに話してきたものを一つにつなげようとすると流れがうまく通らなくなる、などなどだ。前著『イシューからはじめよ』のように長年貯めてきた知恵をまとめたものではないため、事実確認は正直、数十倍はあったように思う。たった一節や一つの注を書くのに本の読み直しも含めて半日や一日潰れたりすることもザラ。分析のし直しも大変な手間であった。

これを深夜1時ぐらいからとか、週末の隙間*9を夏以降ほとんどすべて投下して何とかまとまったのが年末だった。この期間、人付き合いもほぼ全て断った。登壇も8-9割は断った。一日遅れると、これを起点で起きるはずの日本の未来が一日遅れる、場合によっては柴山さんが言うように間に合わなくなってしまう、そういう気持ちで毎日深夜、なんというか命を削って書いた。*10

こんな時間に書いたテキストで生命力を乗せることは可能なのかとも思ったが、とにかく普通に人が働く時間は埋め尽くされているので、隙間を見て推敲するということを繰り返し行うことでなんとか整えていった。もちろんもっと時間をかければ更に出来た分や、もう一段高められるところはある。フルタイムのコンサルタントであれば一つの分析にあと5~10倍は手間をかけられるだろう。でも自分には残念ながらその時間はない。それをなんというか長年の経験で補うしかない。そんな中で取りまとめたのが本書だ*11。2月20日に正式に発売になった。

ここに書いていることの多くは僕が話してきたことを追われている人には一度は聞かれた内容が多いだろう。それでもおそらく3−4割の内容は全く初見であると思う。僕の講演資料は多く上がっていると思われるかもしれないが、実際には9割以上の講演資料は上がっておらず、その多くが公開資料*12ではカバーされていないからだ。これを通してみるという読み方でも良いと思うし、通常の講演ではほとんど一瞬で話をしてちゃんと説明していない内容もなるべくしっかりとお伝えしたのでそこを読み込んで頂くというのでもいいと思う。

店頭で見かけたらよかったら手にとって見ていただけたらうれしい。この本が僕らの未来にとって意味のある一撃となることを心から願っています。


*1:慶應SFCでの教授職とヤフーでのCSO

*2:キャパが少ないため、僕らの未来に向けて意味があると思わない限りお受けしないようにしている

*3:内閣府 数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会 副座長および文部科学省 数理・データサイエンス教育モデルカリキュラムの全国展開に関する特別委員会 委員、、、2015春に訴えたことがそのまま降り掛かってきているという。orz

*4:当時NEC CTO

*5:典型的には大きな会社の創業者や社長/会長

*6:第12回新産業構造部会

*7:実は二度経産省で行った

*8:井上さんの編集後記をご参照 note.com

*9:上記のような20ほどのロールをこなす生活なので、週末も残念ながら相当の仕事やコミットしている活動がある

*10:この延長でこれまでほとんど中身を公開したことのない、僕が未来に向けて取り組んでいる活動についてもエピローグ的に書いた。まもなく法人として登録する予定だ。

*11:この過程の多くはプロデユーサーとして関わっていただいた岩佐さんのブログ に掲載されているので良かったらご覧いただけたらと思う。note.com

*12:主として政府の資料