真鍋モデルから考える

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Summilux 1.4/50 ASPH, Leica M10P @Chinkokuji Temple, Munakata


先週末、博多の東、宗像市にて第8回 宗像国際環境会議に参加した。

会場の宗像大社古事記日本書紀にも記される日本でも屈指の歴史を誇る特別な神社。全島が神域であり神官以外立ち入りできない沖津宮、大島の中津宮、九州本土の辺津宮という直線上にならぶ三宮が一つの巨大な神の領域である。

なお宗像大社は近代日本の存続をかけた日露戦争の際に、連合艦隊司令長官 東郷平八郎提督が必勝祈願をした場所であり、大同元年(806年)10月、唐より戻った空海(のちの弘法大師)がまず身を寄せた場所でもある。日露海戦の主戦場は対馬海峡神宿る島、沖ノ島近くの海域だったことを思い起こされる人も多いだろう。

そこでは様々な分野で環境に携わる活動をされている実に幅広い方々が参加されていた。多層的かつ立体的に刺激を受けたが、とりわけ印象的だったのは、全プログラムを通して参加されていた環境省事務次官の中井徳太郎氏が「我々にはあと10年ぐらいしかない」とはっきりおっしゃっていたことだった。その意味は「我々人類がなんとか受け入れられるレベルの未来の範囲で落ち着くかどうかが、ここからの10年ぐらいで決まってしまう」ということだ。

実は内閣府赤澤亮正副大臣の元、昨年末から5月末まで、デジタル防災(D防災)未来構想チームの一員として集中的な検討を行った。メンバーは東大 池内幸司先生、防災科研 臼田裕一郎先生、慶應SFC 大木聖子先生という防災の専門家、数々の予言的な天災作品を著されてきた作家の高嶋哲夫先生、そして国のAI戦略を担い、内閣官房Covid予測チーム、またSony AIのヘッドでもあるSony CSLの北野宏明先生に加えて自分という専門性とワイルドな組み合わせが実に興味深いチームだった。*1

NII*2/東大 喜連川優先生が率いられるD防災 社会実装チームがある一方で、我々未来構想チームが立てられたが、これは今できるかどうかはともかくとして、国として本当のところデジタルの力を生かして用意しておくべきことをちゃんと考えてほしいというミッションを受けたと我々は理解した。そのため、D防災未来構想メンバーは、今後50年間に起きうる最大級の災害を想定しつつ、Covid19到来の意味合いとして、ますます激しくなる疫病・天災社会に向け、pandemic-readyかつdisaster-readyな社会を相当急いで作る必要があるという認識で検討を行った。

日本のメディアではほとんど流れていないが、人の住んでいない永久凍土地帯ではこの数年、直径25-50m程度の謎の大型クレーターが多く発生している*3。言うまでもなく、隕石落下が増えているからではない。温暖化に伴う地下のメタンなどの爆発によるものと推定される。人類の取り組みが遅れ、このまま行けば、数十年以内に北極の氷は溶け、温暖化とパンデミックの発生はより加速する。これまで以上に積乱雲は巨大化しやすくなり、線状降水帯の発生が頻発するようになれば、熱海を超える被災が日常化する可能性は高い。環境省予測どおりであれば瞬間風速70mをこえる台風が来るようになる。その場合、街や家は多くが破壊されるだけでなく、インフラレベルから作り直す必要があるだろう。

それだけの規模の台風が来た場合、田畑は一発でやられる蓋然性は否定できず、食糧生産をビル内に移さなければ、食糧入手は極めて深刻な国家安全保障的なテーマになる可能性がある。ESG、SDGsとのんきなことをいっていられる時代は終わる。ヒューマンサバイバル、人類としての生き残り、こそが最大のテーマになるだろう。これがWishful thinking(蓋然性を無視したこうであってほしい思考)によらず、現実的に考えうる最悪を想定するミッションを持つD防災 未来構想チームが現在の延長で想定する必要があった未来だ。

その我々と同レベルか、それ以上に強い問題意識を持つ人にお会いしたことがなかったので実に鮮烈な印象を受けると共に、中井さんの存在を大変心強く感じた。


(参考)

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さて、この会に参加しているうちに色々な点と点がつながり、ようやく温暖化問題対策の全体観が見えてきたように思う。ここでは、それを読者諸兄姉に共有できたらと思う。

なお、温暖化がいかに急に進んできたかは次の図表を見れば明らかだ。

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安宅和人 『シンニホン』(NewsPicks 2020)第六章より


まず、ベースとして理解しておきたいのは「地球に日々降り注ぐ太陽エネルギーは人間が使っているエネルギーと比べるとどの程度大きいのか」、ということだ。言い換えれば、それらを全部足したものと降り注ぐものを比較すると1対何ぐらいになるのかということだ。

これについては様々な研究があるがどうもほとんどの人に知られていない。自分の大学のクラスで聞いても100人以上いても基本no ideaというところだ。同程度、数倍という人もいれば数十倍という人もいる。

答えはざっくり7000~1万倍だ。

ちょっと目を疑う数字じゃないだろうか。これだけ山のようにエアコンやコンピュータを使い、モノを買い、クルマを走らせ、宇宙から見た地球は夜の風景ですら光り輝いているのに、だ。

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次に共有したいのは、このカンファレンスの数日前にノーベル物理学賞を受賞されたプリンストン大学の真鍋淑郎先生による気象モデルだ。言うまでもなく真鍋先生の受賞はCO2の温室効果ガス効果の提唱、解明による。

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これが起点になった真鍋先生によるCO2濃度が気温に影響を与えることを示した1967年の歴史的論文からの図表。現在の計測値とも驚くほど合致している。(© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences
Press release: The Nobel Prize in Physics 2021 - NobelPrize.org

このファインディングに基づき、真鍋先生が提唱されたモデルが以下になる。

f:id:kaz_ataka:20211016180706p:plain(© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences
Press release: The Nobel Prize in Physics 2021 - NobelPrize.org

ざっくり言えば、太陽から降り注ぐエネルギーのある割合がatmosphere(大気)のなかにある温室効果ガスにより熱エネルギーとして貯まるという実に簡潔で力強いモデルだ。僕なりに式に直せば、

地球上の熱 = 入 - 出

入=太陽から降り注ぐエネルギー × 透過率

出= 宇宙への放射 × (1- 温室効果ガスによる遮蔽効果)

ちなみに原則 宇宙への放射≒入

となる。

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この2つの情報を合わせてわかることは、よく省エネ省エネと言っているが、本当にやっかいなのは我々のエネルギー消費量や我々の活動による排熱そのものではなく、降り注ぐエネルギーがちょうどいい塩梅で宇宙に逃げていかなくなっていること(つまり「宇宙への放射≒入 」が微妙に崩れていること)であることがわかる。降り注いでいる総量がそこまで巨大なことを考えればバランスの違いと言っても実に少しのものだ。このズレの大きな理由が温室効果ガスだ。

実際、Nobelコミッティーの発表資料には、真鍋先生を「放射バランスと空気塊の垂直移動の相互作用を研究した最初の人物(the first person to explore the interaction between radiation balance and the vertical transport of air masses)」と解説されている。


放射(輻射)についても簡単に復習しておこう。小中学校で習ったとおり、熱の伝わり方には3つある。対流、伝導、放射だ。対流は、お部屋や風呂の中で日々体験されていることでありわかりやすい。温かい空気や水は密度が下がり、上に登り、逆に冷たいものは下に下るという流れの中で運ばれる現象だ。伝導も日々体験されている通りで、冷たいものを触ればこちらからそちらに熱が移り、温かい人の手を持てばその人の熱が自分の手に伝わってくる、それだ。

放射のみが今ひとつわかりにくいと思うが、これはストーブから離れていて、対流も伝導もしないにも関わらず、そこに向かっていると暖かくなってくるというのと同じものだ。光の速度でも8分以上も離れている太陽に向かっているとポカポカするというのもこれに当たる。これは電磁波(光)の形でエネルギーが運ばれ、当たったところで幾分かが熱に変わるというものだ。

温室効果ガスはCO2、CH4、フロンなど幅広く存在している。このうちCO2は体積あたりの効果ではCH4の数十分の1、フロンの数千分の一の温室効果だが、とにかく人類による排出ボリュームが多いため、温室効果ガスの中でもとりわけ大きな役割をなしている。

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この理解の上で、温暖化抑制のために必要な取り組みの広がりを整理してみると以下のようになる。

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① 地下のCを使うのをやめる
② 地表からCH4他の強い温暖化ガス発生を抑制する
③ 大気中の温室効果ガスを直接取り込み減らす
④ 反射・放射(albedo)を増やす
⑤ 入を減らす

だ。ひとつひとつ見ていこう。

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① 地下のCを使うのをやめる

温暖化抑制といえば、大半の人にとって①-i、化石燃料の利用抑制だが、それは次を見ればもっともだ。

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安宅和人 『シンニホン』(NewsPicks 2020)第六章より

人間由来の(つまり人類がいなければ増えるはずのない)CO2の多くが化石燃料由来だからだ。化石燃料は太陽エネルギーが化学結合のエネルギーとして変換され、億年単位で地下に溜め込まれてきたものだが、我々は日々ものすごいスピードで燃やし、大量のエネルギーを引き出し、合わせて大量のCO2を生み出している。

バイオ燃料*4の推進議論の背景はここにある。地上にもともとあったCO2をベースに植物が育ち、それを燃やすので行って来い的にCO2は(次を植えている限りは)ほぼほぼ増えないからだ。


①-iiのセメントなど鉱物資源の利活用から生まれているCO2も相当に多い。たとえば人類由来CO2の6-8%程度がセメントの製造によるものだと推定されている。我々の身の回りのいわゆる硬い建築物と土木の多くがセメントに依存しており、その上、

石灰石(CaCO3) + 900度以上の熱 → 生セメント(CaO) + CO2

という風に生み出されるので*5、そもそも石灰石重量の半分近いCO2を吐き出し(式量的には100→56+44)、熱を生むためにも更に多くの場合、(発電含めて)化石燃料を使っているからだ。

同様にアルミニウムを得るために地下のボーキサイト*6、鉄を得るために鉄鉱石を使うときにも結構な量が(電気の質と精錬の方法にもよるが)吐き出される。ただ、アルミニウム削り出しボディを愛用するAppleが一方でアルコア社とCO2を生み出すことのない(逆にO2を排出する)という製法へ変換というニュースもあり、まだまだ希望はあるだろう。

①を総じて、化石燃料の燃焼、そしてセメント、金属産生のために地下から大半のC(炭素)が汲み出され、大量のCO2が生み出されている。化石燃料に限らず地下からのカーボン持ち込みはなるべくゼロに近づけたいものだ。

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ちなみに現在、日本における化石燃料によるCO2排出(①-i)の内訳は以下の通り。

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安宅和人 『シンニホン』(NewsPicks 2020)第六章より

様々な産業を束ねた「その他の産業(1割強)」を除くと、多い順に

  1. 電力(約4割)
  2. その他の産業での燃焼(約2割)
  3. 交通輸送(2割弱)
  4. 建物(約1割)

となる。

最大要素である発電側のCO2排出抑制策として一番わかり易いのが、発電の脱CO2化だ。電力源がまだまだ化石燃料に依存しているため節電もここに含まれる(完全に脱CO2化ができれば不要になる)。

エネルギー産生に伴うCO2排出 = Σ(エネルギー量 × CO2産生/産生エネルギー)

( )内はどのようにそのエネルギーが生み出されているかで変わる。当然のことながら自然エネルギー(水力、太陽光、風力、地熱ほか)や原子力は限りなくゼロに近い。

ただし、ソーラーは夜動かないだけでなく、数ミリ雪がつもるだけで発電量がほぼゼロになるなど、自然エネルギーの多くは供給にムラがあり、配電の安定供給(No Black out)には程遠い課題があることは相当に留意が必要だ。

家庭レベルであれば電気自動車のバッテリーで蓄電、利活用できるが、街のスケールなど大規模で信頼に足る蓄電方法が「位置エネルギー変換」ぐらいしか無いため(位置エネルギーは規模にもよるが水力の場合、うまく設計すれば9割以上電気に変換できる)、今後は背の高いビルの上下で大量の水や重いもの(砂鉄など)を上下させるというような蓄電方法の開発がおそらく行われるだろう。


現在急速に進んでいるのが、動力源として内燃機関(いわゆる内燃エンジン: internal combustion engine [ICE])を電気モーターに変えようというものだが、これはなぜだかわかるだろうか?

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内燃機関エンジンは最高効率では40-45%の変換効率があるものの、上の図を見れば分かる通りクルマのような移動手段の場合、実際には2割に届かず、生み出されたエネルギーの大半が熱として散逸する。つまり全部推進力に変わるときの5倍程度のCO2が排出される。一方、電気モーターは入力の9割以上が推進エネルギーとして変わる。これは半ば物理限界的なものであり、このような差がある限り、かつて汽車が電車に変わったのと同様、ガソリン車は電気自動車に変わることはもはや必然と言える。

これが火力発電所による電力の割合がある程度あろうと、必要なパワー(出力)、エネルギー容量的に可能な限り電気自動車に変えたほうがいいという議論の背景だ。ちなみに中国の上海などの大都市では3-4年前にはすべてバスやスクーターは電気になっている。(とりわけガソリンスタンドの維持が困難な疎空間では、電気自動車以外の移動手段は早晩消えるだろう。ガソリンスタンド経営者はそこら中にチャージャーを置く事業者への変容が求められるようになる。)

なお、一度、電力で水素 H2を作って内燃機関にかけるというアイデアを最近耳にする。これは内燃機関の持つ強いパワー創出力があり、CO2は出ない良さを持つものの、変わらず入力(水素の燃焼によって生み出されるエネルギー)の大半が熱として散逸するので、エネルギー効率は悪い。水素を生み出すための電力が全て自然エネルギーであればそれでもよいのだが、無駄が大きいことは否定できない。

都市部のガソリンスタンドですら急激に減りつつある中、たとえ日本国内だけとしても*7水素ステーションが津々浦々にできることは考えにくく、こちらの用途はおそらくモーターでは足りないパワーと、電池では足りないエネルギー容量が要求される大型トラックなどに限られるのではないかと思われる。

エネルギー容量の問題は極めて重要だ。現在の最高性能のリチウムイオン電池の重量あたりのエネルギー密度はガソリンの35分の1程度しかなく、モーターが内燃機関の5倍のエネルギー変換効率を持つとしても、ガソリンタンクの7倍程度の電池を運ばなければ、同じ走行距離を生み出すことは出来ないからだ。ちなみに一般に長距離トラックは一度の給油で1000km以上の距離を走るように設計されている。

交通輸送用途のうち、必要な出力の大きさとエネルギー容量の視点で最後まで化石燃料利用が残るのはおそらくタンカーと飛行機になる。ただ、タンカーの場合は原子力船にしてしまうという裏技があり、そうすれば何年も走り続けることができるようになるのではないかと思われる。

飛行機は現在、重量の2~4割を燃料という状況で飛び立っているが、化石燃料と電池ではエネルギー密度が違いすぎるため、必要なエネルギーを電池で運ぶこと自体ができないのが実情だ(重すぎて飛び立てない)。また多くのひとの命を預ける飛行機で十分に均質なバイオ燃料を生み出せるようになるには(また経済的に合理的なレベルの価格に落とし込むには)どうしても時間がかかるだろう。ここの分についてはおそらくしばらくは諦め、③以降のアプローチによる相殺が必要になるのではないだろうか。*8

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② 地表からCH4他の強い温暖化ガス発生を抑制する

これは最近よく言われる牛のゲップ問題に代表される課題だ。

もともと空気中や地表の草に含まれるCはCO2として排出されても循環しているので大きな問題はない。ただ、そのCがCO2ではなく、CH4(メタン)のようなCO2の数十倍の温室効果を持つガスに変わる場合は目に見える害をなし始める。こちらについてはvegitableベースの肉、培養肉が低廉になれば相当削ることができるようになる。いつか個体肉(いま我々が食べている肉)は月に一度だけ食べられるような贅沢になる可能性は否定できない。

同じく人間の活動の結果、沼地の一部が腐り始め、CO2ではなくCH4などが吹き出てくるケースもこの一種といえる(②-ii)。これもインパクトが大きいようであればだが、エンジニアリング的な打ち手、グリーンインフラなど空間づくりのガイドラインも含めた打ち手が必要になるだろう。

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③ 大気中の温室効果ガスを直接取り込み減らす

直接空気からCO2、CH4、フロンなどを回収するということだ。植樹運動による副産物的効果だけでなく*9、Direct air carbon capture (DACC) もしくは、理化学研究所などで研究が進む人工光合成と呼ばれる技術もこれに入る。海中深くにCO2を溶け込ませてしまうこともこれの一部と言える。DACCや人工光合成技術の効率がイマイチという話はあるが、これらは技術革新で進む部分が大きいと推定される。むしろこのアプローチの課題はどのように規模をスケールするかだ。

世界規模で年間51ギガトン(510億トン)という相当の規模のCO2を僕ら人類は排出しており(Covid前の平常値)、日本国内だけに閉じたとしても仮に世界のGDP構成比5%とすると2.5ギガトンという相当の規模になる。排出段階であれ、空中に散逸しているものを対象とする段階であれ、この1%でも取り込もうとするとかなり工夫が必要になることはほぼ間違いない。

www.sciencedirect.com

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④ 反射・放射(albedo)を増やす

これは次に見る通り、真鍋モデル的には決定的に重要な要素であるが、十分に手がつけられているとはいい難い部分だ。

地球上の熱 =(太陽から降り注ぐエネルギー × 透過率) - {宇宙への放射 × (1- 温室効果ガスによる遮蔽効果) }

僕が数十名の有志とSFC安宅研メンバーで進めている都市集中型社会以外のオルタナティブを創ることを目的とした検討*10には関連主要政府機能の相当シニアな立場の方もメンバーとして加わっている。宗像から戻ってきた直後、エネルギー検討チームでこの話をしてみると、これは確かに今まで世界レベルでも日本国内でも主たる検討のスコープに入っていないということだった。

アルベド(albedo)というのは拙著『シン・ニホン』読者の方であればおなじみだが、多くの人にとって聞き慣れない単語だと思う。一言で言えば、天体の外部からの入射光に対する、反射光の比のことを言う。反射能とも訳されるがここでのポイントは後述の通り、必ずしも反射とは限らないため、アルベドとして話をすすめる。

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このように新雪であれば8割以上の太陽光を反射する。土では9割が吸収される。

東京区部の22%は道であるが*11、その大半がアスファルト張りであり黒い。上に見るように約9割が吸収されているわけだが、このアルベドを変えることの価値は大きい。ビルの屋上や壁面、家や車の屋根も同様だ。

ただ日本全国で見ると道の面積は3%程度であり(国土交通省 国土利用の現状による)、むしろエコシステム(生態系)を破壊しないようにしつつも、圧倒的に大きい森林面積をどうするか、また領海におけるアルベドをどう考えるかが大切になる。相当のイノベーション余地のある領域と言えるだろう。

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上のデータからは、これ以上CO2を吸い込まなくなったが放置された人工林の多くを間伐し、新しい幼樹を植えることによって、アルベドも向上し、CO2吸収も活性化することが推定される。日本の場合、人工林の7割が杉か檜(ひのき)の単層林であり紙の材料としては向いていないが、間伐材は、合板やCLT*12の原料、バイオ燃料(薪利用も含む)、また未舗装道路における路面強化剤としても活用可能だ。

この視点で一つとても興味深い取り組みを行っているスタートアップがある。Radicool(ラディクール)という会社だ。敬愛する経営者である松本晃さんが会長をされているが、降り注ぐ光を波長変換し赤外光にして放射し返すラディクール素材を開発・販売している。これを貼ると普通であれば灼熱地獄になるような温室も適切な温度になり、窓などに貼っておけば夏は涼しく、冬は内部で暖房の反射、放射が起きるのでミラーフィルムかそれ以上の効果があるという。ちなみに来た光と同じ波長を跳ね返す場合「反射」、青を緑などのより長波長にして跳ね返す場合「蛍光」というが、ラディクールの場合は蛍光素材とは比較にならない長波長にして返すという極めて興味深い素材になる。

今後、様々なアルベドコントロール能を持つ素材・技術開発が行われるとともに、世界最初のアルベドコントロールに向けた法整備が行われることを希望する。相当に大きな市場になる可能性があるのではないだろうか。

加えて、アルベドそのものではないが、放射バランス(radiation balance)という意味でもう一つ手のつけられていない重要なミッションがある。それは冒頭にお見せした、海洋に溜まった熱の宇宙への放射の加速だ。水は密度が空気の約800倍、空気の4倍の比熱を持ち、宇宙に逃げられなかった熱の多くを蓄えている。この海面温度の上昇の結果、上昇気流が発生しやすくなり、積乱雲、台風の発生確率を上げる。台湾は日本よりも激烈な猛雨が時たま襲うことで知られるがその理由は海面温度が約2度違うことが大きいとされる。一方、日本海だけをとってみても、過去100年間に1.7度以上も海面温度が上がっている。この宇宙への放射を高める方法が見いだせれば天災抑制に直接繋がり、地球、人類にとって大きな一歩となるだろう。

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⑤ 入を減らす

この惑星のエネルギー収支的には最初のステップであり、ここで適切に削ることができれば温暖化問題は半ば終わりと言える。

地球上の熱 =(太陽から降り注ぐエネルギー × 透過率) - {宇宙への放射 × (1- 温室効果ガスによる遮蔽効果) }

太陽から降り注ぐエネルギー自体は太陽そのものの操作、もしくは太陽と地球との距離の制御が必要なため事実上コントロール不可能であるが、透過率の方は操作できなくはないと考えられる。なぜなら地表の約1割は雲で覆われており、それがやや厚くなるか、もしくはほんの少し面積が広くなれば、地表に到達するエネルギーの量が最適化する可能性があるからだ。ただ、どのぐらいが適切なのかの見極めは相当にむずかしく、クルマのブレーキ同様、自在にコントロールできる必要があることは間違いない。人類は温暖化というより寒冷化でながらく飢饉、飢餓と苦しんできたことは直視しなければいけない。

それほどメジャーなわけではないが、雲を生み出す、消し去るというような研究は行われるようになって久しい。この③④⑤はサイエンス的にはジオエンジニアリング(Geo-engineering)と呼ばれる領域だが、十分に可能性のある試みとして、①②をできる限りやりつつも、人類の持つ最終兵器的に研究を更に進める価値は高い。(参考:Harvard's Solar Geoengineering Research Program

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最後にいくつか留意点を。

まず、アルベドや太陽光の透過率の操作は相当の劇薬だ。

一度雪が溶けるとアルベドが急激に下がり、正のフィードバックが働くため一気に雪は溶けていく傾向がある。これをice-albedo feedbackという。その結果、氷河期の間、本当に僅かな期間に急激に温度がおそらく10度程度上昇し、また凍りだすと同じく、下がる方のフィードバックが働くためにまた急激に温度が冷えていくことを数10回この星は繰り返した。気温が安定する1万数千年前まで、ホモサピエンスは常に絶滅しかかっていたのはおそらくこのためだ。なので取り組みは必ず繊細なコントロール可能かつreversibleにしておく必要がある。クルマの運転においてなによりもブレーキ性能が重要なのと同じだ。

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安宅和人 『シンニホン』(NewsPicks 2020)第六章より


また、地球に住めなくなったら火星や月に移住すればいいじゃないかと気軽に言う人がいる。ジョークだと信じたいが一応簡単に触れておこう。これらの星はそもそも現在の人間や食べ物になる地球上の生物にとってhabitableな空間ではない。火星など一人運ぶだけで技術開発も含め途方も無いお金と環境負荷が発生することは必至だ。

加えて、移動先が火星であれば到着までの宇宙船による被曝量は半端ないものであると推定され、仮に病気にならないまま移動できたとしても、そこで長く生き延びることはおそらく難しいだろう。つまりこれら近隣の星が全人類のノアの箱船になることは考えられない。そして我々が未来を変えるために残された時間はおそらく20~30年程度しか無い。

現実的には、僕らには地球しか無いのだ。いかに大切にこの星を守り、この星とともに共存できるかが今後当面、人類にとっての最大級の課題になるだろう。



ps. これは現時点での私の理解に基づくものであり、今後の発見、理解の進展に伴い、変わる可能性があることを付け加えておく。

ps2. 本エントリの英語版を作りました(10/19朝)。適宜展開などにご活用ください。
kaz-ataka.hatenablog.com


(参考)
歴史視点で天災を振り返りたい人に

水害リスクについて日本を代表する識者の数冊

高嶋哲夫先生による天災に関する名作のいくつか

2020年2月に出版した拙著。上に図表の一部を掲載したとおり、関連する議論を相当量行っているので、興味のある方には第六章だけでもご覧頂ければと思う。紙版だけでなく、Kindle / Audible版のいずれもある。

古舘さんのエネルギー視点で人類史を振り返る一冊。このあたりについて深めたい人におすすめ

ビル・ゲイツ氏によるCO2問題に関する実に俯瞰性の高い一冊。

マッキンゼーを経て、アーキネットを創業、コーポラティブハウスの概念を広めてきた織山和久さんによる都市問題を考えるなら避けて通れない分析的かつ構想的な一冊。

*1:僕は防災の専門家ではまったくないのだが、データ×AI世界の事情に比較的馴染みが深く、長年のストラテジストであり今後の災害に対して強い問題意識を持っているということで、赤澤先生のご指名により座長を仰せつかった。

*2:国立情報学研究所 / National Institute of Informatics 所長は喜連川先生

*3:The mystery of Siberia’s exploding craters - BBC Future

*4:バイオマスエタノール、バイオガス、バイオコークス、ミドリムシ燃料ほか。木質ペレット、薪利用もこの一種だと考えられる。実際にはCO2の数百倍の温室効果ガスを生み出すN2Oの産出量が多いという話もあり燃料毎に精査が必要

*5:高校の科学の復習

*6:2018年現在 日本のアルミ生産の53%がリサイクルなので、天然原料からの生産は総必要量の半分弱

*7:世界に一切広まらない場合に開発コストがまかなえるのかは少々疑問

*8:ビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』早川書房を参照

*9:気温があと数度上がると木の呼吸が増え、CO2吸収効果は期待できなくなる、むしろ排出源になることが示唆されている

*10:「風の谷を創る」運動論。シンニホン第六章、建築途上だが次のwebを参照。

*11:東京都都市整備局「[https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/seisaku/tochi_c/tochi_5.html:title=東京の土地利用平成28年東京都区部」による。

*12:Cross Laminated Timber(JASでは直交集成板)