ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学、マーケティング、データ×AIの間に棲息

アメリカのPh.D.はどこに行くのか


Nikon F2, 50mm Planar F1.4 @Tokyo

これはmasa346さんのご質問に対するエントリです。

アメリカではPh.D.の人の未来はかなり自由です。エンジニアリングスクールであればマスター出は結構いますが、純粋サイエンスでは、修士課程がないので、まあ、日本とはちょっと違うフレーバーですが、大学院卒として待ちに待った感じで、フレッシュに世に出て行きます。(もちろんさっさと見切りを付けて、マスター出、学卒として世に出る人、別の専門の学校に入り直す人もそれなりにいます。)

ポスドクを始めるのがそれなりに当然います。が、結局、そのうちファカルティポジションを取って残るのは、トッププログラムでも半分いるかな、ぐらいかなと思います。まあ、そこでの海外からのポスドク組も含めたcompetitionで、世界に冠たるアメリカの科学の質が保たれている訳です。

ポスドクでの研究テーマは、独り立ちするときのテーマそのものになることが普通なので*1、そのときのテーマを見越した新たな弟子入り先は、dissertation workを始めた頃から考え始めている人が多いです。ポジション探し、売り込みは、ポスターで発表するようなことが出てきたらすぐに始まります。発表の場でも売り込むし、そうでなくてもコネがあろうが、なかろうがどんどん行くのが普通です。そんなに躊躇しない。ちょっとやり取りして、実績も含めまともそうであれば、よほどの大御所じゃない限り、会うぐらいはそれほど困難ではないと思います。また大きなプログラムであれば、なんやかやで、つながりのあるファカルティは、普通は探せば周りにいるものです。

一つ明らかにいえるのは、彼らはもっと伸びやかに考えているということです。

アカデミア*2を出ようと考える人間もそれなりにいます。というか、それを考えるのはかなり普通です。多彩な才能がある人であるほど、サイエンスで一生やっていくかどうかと、それ以外のオポチュニティをあるところまで、天秤にかけていると思います。何らかの専門性を持って、それをベースに自分なりのユニークな価値を生み出そうと思うという訳です。人に習うというより、自分でキャリア設計していると言った方が良いでしょう。むしろ最大の財産の一つである「若さ」「時間」の巨大な投資をするので、学生のうちから色々考えていると言った方が良いかもしれません。

トップスクールであれば、私のいたようなプロフェッショナルファームに行く人間もたまにいます。例えば私のいたのは、かなり名の通ったファームだったので、行けることであれば行きたいと思っている人はそれなりにいました。私は、例外的にそのようなバックグラウンドを持っていた学生だったので、undergraduateだけでなく、まわりのPh.D.学生から随分相談を受けました。で、インタビューを受ける人はそれなりにいるのですが、ほとんど実際には通らないので、行く人もいる、という感じです。

また、そこから更にメディカルスクール、ロースクール、あるいはビジネススクールに行く人間もいます。多くの大きな大学では、joint-degree program (MBA-Ph.D., J.D.-Ph.D.など)も盛んです。私の10人の同級生の一人も、Ph.D.をとったあと、medical scientistになるためにmedical schoolに行きました*3。サイエンスの専門性をもったpatent lawyerなどは、うまくやると、かなり花形かつ儲かる仕事なので(本質的に賢いこと、対人折衝がうまいことが前提)、そのような道を歩む人もいます。

Ph.D.の経験、知恵、ネットワークをめいいっぱい、テコとして使って、IntelYahoo!、最近であればGoogleの創業者たちのように、自分で何かを始める人間もそれなりにいます*4CaltechでのPh.D. studentのうちに、Harvard Business Schoolのビジネスアイデアコンテストのようなものに応募して入賞した友人もいます。当然そうなれば、事業開始のファンディングにはとりあえず困りません。

若干低めのリスクで、人にとりあえずは雇われようと思ったとしても、Ph.D.が求められるポジションというのは、専門にもよりますが、普通はそれなりにあるので、まあちゃんとした学校の出身で、それなりの人柄であれば、何とかなるという感じだと思います。また、アメリカでは「天は自らを助くるものを助く」というのが、すべての基本にあるので、募集をしてようがしていなかろうが、やりたいことがあれば、自分はどういう人間か、何をしたいのか、どうして自分を採ることが意味があるのかなど、自分を売り込みにいきます。必要があれば、周りの人だとか良く知っている教授などに推薦してもらう。これはこれで立派なことです。

大学であれば、プログラムディレクターであるとか、私立学校や、しかるべき政府のポジションというのもあるでしょう。

より詳しいイメージを持ちたければ、米国のjob searchサイトをご覧になってはいかがでしょうか。たとえば、http://www.careerbuilder.com/

Ph.D.と入れて、ちょっと叩けば、

Dean of the Division of Social Sciences (これなどは典型的なPh.D.が必要なポジション、、、大学のマネジメントというのは一つのキャリアパスです。)
Job type: Full-Time Employee
...Counseling, Sociology, Psychology and Public Administration. In addition, the City University of New York Ph.D. programs in ...

Program manager- semiconductor -Ph.D.
Job type: Full-Time Employee | Pay: $125k/year
...learn from pears. Write Proposals, and / or teaks for R&D of aspects of solar cell development. Design and man experiments...

Bioanalysis Research Investigator (Ph.D) 、、、典型的なライフサイエンス業界の研究職(こういうのが大企業、ベンチャー共々ものすごい量である)
Job type: Full-Time Employee
...Biomedical Research (NIBR) is looking for a highly qualified Ph.D. level scientist with emphasis in the area of analytical......
Novartis Institutes for BioMedical Research MA - Cambridge

こんな感じで、確かにPh.D.がないと回らなそうなポスティングが、実に多様にあります(みなさんも興味があればどんどん日本から応募すれば良いと思います)。LinkedInなどに入ればもっともっと無数にあります。もちろん、大学院に行く段階で、どんな分野で学位を取ると最悪どんな仕事に就けそうか、ということぐらいはみんな周りの人に聞いたり、こうやって調べたりして当たりをつけています。Phoneticsみたいな変わった専門を選ばない限りは、それなりの仕事があるのではないでしょうか。(それでも英語学校ぐらいは開けそう。)

(こんなネット時代なので、皆さんですぐに調べられることも多く、エントリを立てるのもどうかとちょっと思ったのですが、何だか、議論が閉塞しているようなので、ちょっと書いておきたいと思います。)

そういう意味では日本の博士課程の学生に欠けているのは、単に求人ポスティングというより、むしろ、健全な想像力、なのかもしれませんね。


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*1:学位は手堅く取り、ここで新しい技の取得やテーマに取り組む人も多い

*2:academia: ブクマを見ていると、この言葉を使う人をうさん臭いと考える人がいるみたいですが、意味、ニュアンスともに適切な言葉は日本語にないと思います。

*3:なお、一応MD/Ph.D. programという、国から特別なファンドが出ている、特エリートプログラムがアメリカにはあるのですが(いっさい学費がかからず、両方の学位を7−8年で取るプログラム)、これは全米で数百人程度の異常にセレクティブなプログラムで、神がかった成績と、優れた人格、これまでのとんがった実績がないとまず通りません。

*4:例に挙げたのは特別な成功例ですが、そうじゃないが何か始める人も普通にいます。