3つのスキル


Shelburne, VT, USA (1.4/50 Summilux, Leica M7, RDPIII)

僕の主要な取り組みの一つは、データサイエンティスト協会(DS協会)のスキル定義委員会での「データ×AI時代において、データ×AI プロフェッショナル(≒ データサイエンティスト)に求められるスキルとタスク」の定義だ。

このブログの何処かにも書いたかもしれないが、2012年末、ビッグデータという言葉だけが先走り、多くの人が実態を掴めない時代に*1、「このままでは日本が遅れをとる」と産学の有志が集まった。国に任せていたら間に合わない、と。そこで2013年春、手弁当で立ち上げたのがDS協会だ*2

2014年のデータプロフェッショナルの定義*3と3つのスキル群*4、4つのスキル段階の定義*5に始まり、2015年には世界でもいち早く詳細に必要なスキルチェックリストを作り、以来、2年毎に改訂してきた。2017年からはIPAさんも加わって頂き、共同で発表している。(更新年でなくとも月に一度、更新年は1-2週に一度は夜7時からスキル定義委員で、サブチームごとの事前準備をベースに大議論を行う。)

途中、数理データサイエンスAI教育の必修の必要性を国に訴え、それが方針として認められてからは、モデルカリキュラムづくり、これを採用される高等教育機関(主に大学)の認定制度づくりにも深く携わってきた。

今年も改訂の年で、11月のシンポジウムでver.6を発表予定だ。

かれこれかなりの変遷を経てきており、協会設立当初はそもそものperspectiveの整理と(啓蒙・啓発が最初のお仕事)、ビッグデータのハンドリングと基礎的な機械学習、テキスト処理技術の世界だったが(いまの若い人たちからすると信じられないかもしれないが、当時ほとんどの人が機械学習形態素解析などという言葉を知らなかった)、そこに深層学習、クラウドが必須なスキル群として加わり(当初多くのBig Dataを扱う会社がオンプレミスと呼ばれる自社環境がメインだった)、GAN/deep fake問題に続き、diffusion model/transformerなどが次々に現れ、LLMの登場は決定的で、前回の改訂(ver.5:2023年秋発表)において、ついにタスクリストを2つに分離した。AI利活用スキル群もそれに伴い整理を行った。


(データサイエンティスト協会 2023年シンポジウム発表より)

それほどの変化を断行したので今回は比較的楽になるかと思っていたら、Agent時代が到来し、今回も歴史的な改変/刷新を予定している。

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こんな議論の最中で、今週のスキル定義委員会で一つ議論を投じて、多くの若いメンバーが関心を示したのが、僕が説明した一般的にスキルと呼ばれているものの広がりとその意味合い、また、これらと仕事のステージの関係性の話だった。

  1. 世の中でスキルと呼ばれているものには大きく3つある - 基礎スキル、専門スキル(Expertise)、リーダーシップ
  2. 仕事のステージ的なroleは大きく5つある
  3. Expertise以外のスキルが未来に大きな影響を与える

という話だ。

ある種、自明だと僕は長らく思っており、会社の自分のチームの人達には常々説明してきた。実際、手元に残っている資料を見ると、2011年秋に京大のiCeMS(物質-細胞統合システム拠点)のセミナーに「キャリア形成とスキル育成」というお題で呼ばれて話に行ったときには、すでにそこに集まった院生やポスドクの方々に話している。

スキル定義委員会に集まる、優秀な、しかし最近加わった面々に、DSスキルの最初のバージョンを作ったときは、この議論もしつつ作ったんだという話をした。すると、皆かなり驚いた様子で、それを私たちが個別に説明するのは大変なので、是非まとめてもらえないですか、という。

このブログの読者諸兄姉にも関心を持たれる方もいらしゃるかも、ということで簡単に説明できたらと思う。

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1. 世の中でスキルと呼ばれているものには大きく3つある

一般的にスキルだと思われているもの(体系的かつ深い知識を含む)はExpertise(専門スキル)であるものが多い。曰く、プログラミング、英語、データサイエンス、ファイナンス(財務)、法務などだ。物理、水文学、土木、情報学、建築など、理工系の学問は基本的にこれに該当する。専門学校、専門課程、大学院(graduate schoolとprofessional schoolsではかなり違うが割愛する)で育成の主眼とされているものも大部分がこれと言えるだろう。

リーダーシップはこの国では単なる適性だと思われる人が多いかもしれないが、多くの場合、後天的に習得可能だ。生まれ持って社長のオーラを持っているというような人もいるかも知れないが、実際には稀だろう。

これは状況を整理し、方向性を見出すなどの知的な(thought)リーダーシップだけではない。複数の異なるinterestを持つ人達を束ねる(collaboration)、新しい変化を生み出す(initiative taking)、はたまた才能をattractし、育てる(people)リーダーシップも存在する。顧客などステイクホルダー(client/stakeholder)とのトラブル時にそれを解決するのもリーダーの大切な仕事だ。すべてのリーダーシップ軸で突き抜けている人などいないので、いくつか自分の強みをしっかり育てることが大切だ。

基礎スキルは、業務や業界に関係なく求められるスキルだ。その人が営業をやっていようと、マーケティングをやっていようと、製造現場にいようと求められる能力だ。そんなものがあるのかと言われるかもしれないが、ある。

具体的には解決すべき課題を適切に捉え、それに適切に答えを出していく力(problem solving)、関わる人に適切に意図や、情報を伝える力(communication)、そして自分やチーム、部門がコミットした価値をしっかりと生み出し届ける力(activity management)だ。


(2011年10月 京大iCeMSでの投げ込み資料より)

ちなみに、この3つを背骨として支える最大のポイントが、本来は基礎スキルの一部である「解決するべき課題の見極め」である、というのが、僕がかつて書いたイシュー本の趣旨だ。

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2. 仕事のステージ的なroleは大きく5つある

これらの3つのスキルを利活用する段階には大きく5つあり、その段階によって求められるスキルの性質が変わる。

  • 一人でやる
  • チームを回す(managementする)
  • 複数のチームを回す
  • 部門/BUレベルを回す
  • 複数部門を束ね、回す

どれほど優秀な人でも一人でできることは限られている。ある程度以上大きなことをやろうとすれば必ずチームが必要になる。それが会社やDS協会のような組織が必要な理由だ。もっと大きなことをやろうとすれば複数のチームが必要になる。それが更に組み合わさってさらに大きな系(組織)を作る。

一つチームを作るとしてそこに5人の人が集まったとする。そこで5以下の仕事しかできないのであれば、チームを作った意味があまりない。本当は掛け算になる必要がある。例えば、本田技研が生み出されたとき、スーパーエンジニアの本田宗一郎さんだけで世界のHondaが生み出せただろうか。そうではない。資金繰り、販売、組織づくりを全面的に任せられる藤沢武夫さんなしには不可能だったはずだ。これがチームを作るということの意味だ。

僕の経験上、様々な人が育ってくるのを見てきた中で、この中で最も大変な変化は、一人からチームになる時だ。スーパープレイヤーが素晴らしいチームリーダーになるとは限らない。現場で強い人がいきなり複数の人を束ねる段になると、メンバーがなぜ出来ないのかが理解できず、なかなか軋轢が生じるケースが多い。

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3. Expertise以外のスキルが未来に大きな影響を与える

一般的には、学校や教育プログラムがそうであるように、Expertiseだけをスキルと捉える傾向にあるが、それは正しくない。成功する人は、特定の領域において平均以上のExpertiseを持つことが多いことは事実だが、圧倒的であることは少ない。ここは『キングダム』などの漫画を見ていると勘違いされるかもしれないが、戦闘力がただ高い人が、将軍になることはないという話と同じだ。

では何が違うかと言えば、上のリーダーシップであり、それを支える基礎スキル側が大きく違うケースが圧倒的だ。よく「勘」と呼ばれる状況の察知能力*6が外れやすい人について行く人はそれほどいない。この人と働きたい、この人についていきたいと思われる人の求心力は極めて高い。

例えば、僕が2008年にヤフー(現LINEヤフー)に移ってきてから一緒にお仕事をさせていただいてきたトップマネジメントの方々、孫正義さん、井上雅博さん、宮坂学さん、川邊健太郎さん、小澤隆生さん、出澤剛さんはいずれも驚くほどチャーミングな人たちだ。

そしてこの方々の人に伝える力は極めて高い。生の言葉でも、その伝えるタイミングと言う意味でも、図表などでの表現力でも!!というものだ。

チームを持つ前の段階の人(ピンでやっている人)は、その人の働きが信頼に値するか、どこまで当てにできるか、という言ってみればmembershipというべきものが大切になる。チーム全体の大切な課題を他に知らせず抱え込んでしまう、簡単にケツをまくるようでは信頼は得られない。

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この意味で、データプロフェッショナルにおいても、Expertise以外を統合したスキルが必ず鍵になる、これ無しでデータサイエンス(統計数理及び情報科学)、データエンジニアリング(計算機に大量のデータを裁かせるスキル)だけでやっていると必ずどこかで〇〇屋化して行き詰まる。その視点で、サイエンスとエンジニアリングを統合し方向感を見出し、チームを作る「ビジネス力(business problem solving)」というのを最初にしっかりと立てたんだという話を数日前の現場でしたのだった。

結局のところ、僕らが日々議論しているのは「未来にどんな人が必要か」という問いだ。技術がいかに進んでも、必要とされるのは、問題を正しく捉え、仲間と協働し、新しい道を切り拓く力を持つ人材になる。

DS協会での活動は、その答えを形にする一つの試みだ。そして、これはデータの世界に限らない。一人ひとりが、自分の持つ基礎スキル・専門スキル・リーダーシップをどう育て、どのステージで発揮していくかを考えることが、未来を形づくる大きな力になる。

この秋発表するver.6も、そんな問いへの最新の答えの一つになるはずです。ぜひ注目していただければ幸いです。

*1:多くの人がイメージ出来ないのは、現在もそうかもしれない

*2:実際に政策的に一気に取り込まれていく流れは、DS協会側の議論が相当に進んだ上での2015年春の文科省/情報・システム研究機構、同年秋の経産省産業構造審議会 新産業構造部会の議論まで待つ必要があった

*3:データサイエンス力、データエンジニアリング力をベースにデータから価値を創出し、ビジネス課題に答えを出すプロフェッショナル

*4:data science(サイエンス:DS)、data engineering(エンジニアリング: DE)、business problem solving(ビジネス:BZ)

*5:見習い、一人前、棟梁、業界代表レベル

*6:problem solvingのベースとthought leadershipの一部