ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

脳は「市場」をどう感じるか (3)

(2) より続く



Contax T2, 38mm Sonnar F2.8 @Tyrol, Austria


「市場」をどう感じるか以前の神経系の情報認知の特徴だけで三回目になってしまいました、、、。ちょっとテーマが大きすぎたかもしれません。

が、気を取り直して続けていきたいと思います。

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4つ目のポイント、「記憶」について。こちらはかなりシンプルです。


前回書いた通り、既知の二つ以上の情報がつながる(associateする)ことが「理解」することの本質。これは結局、直前に議論したとおりマイクロレベルでは神経間のつなぎに由来するわけだが、同じつなぎを何度も使うと、このつながりが強くなることが経験則で知られている。これは紙を何度も折っていると、折れ線がどんどんはっきりするのと似ている。


ちょっと余談になるが、Hebbという人が提唱したことからこれはHebbian ruleと言われている。大体学習(learning)の議論をしていると年がら年中Hebbian、Hebbianという話が出てきて、なんでそんなに「ヘビ」?がそんなに議論に出てくるのかなど、アメリカで本格的に脳神経科学の研究を始めた頃、面食らったものでした。ちょっと知ったかぶって会話するのにはいい言葉です。(笑)


話を戻すと、なんどもその情報のつなぎを想起せざるを得ない「なるほど!」的な場面を繰り返して経験していると、忘れられなくなる、心に残るということに尽きる。一見直感的に当たり前のようだが、認知、知覚の視点から見ると、これはかなり原理的に重要だ。なおかつ、ほとんどあまり意識されていない。


ちゃんと意味のあることを覚えてもらおうと思うのならば、オウムのようにある言葉を繰り返してもだめ。xxxと○○は確かに関係しているんだ、という情報が実際につながる「理解の経験」を繰り返さないと頭には残らない(というより残る理由がない)。単語帳を見ても言葉を覚えられないけれど、様々なコンテキストで、ある言葉を確かに同じ意味で使うと覚えられるのも実は同じ話だと言える。そういう視点で見るとどれほど多くの広告、マーケティング活動が間違った行動をしているか枚挙に暇がない。商品やサービスではなく、キャッチフレーズだとかマスコットの広告をやっているといった方がよいものが多い。


(本稿最終回へ続く)


関連エントリ

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ps. 本エントリをぐっと深めた知覚と知性についての論考を8年余り経ってハーバード・ビジネス・レビューに書きました。書籍ではなく売り切れる可能性が大いにあるため、ご関心のある方はどうぞお早めに入手してご覧頂ければ幸いです。