ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

手なりの未来を受け入れるな

f:id:kaz_ataka:20181229163646j:plain
Mt Fuji from Fujisawa, Kanagawa, Japan
Leica M (typ240), 1.4/50 Summilux, RAW

今年はなんと一本しかブログエントリを書いていないことに先程、気がついた。はてな内のPF*1移行で少々手馴染みがなくなってしまったこともあるが、毎日facebookとかtwitterみたいなものに気軽に書いていたり、ほとんど毎日のようにどこかで人前で話したりしていると、ついこういう状態になるので危険だな。。ということでなにかちょっと書いてみたいと思う。

-

ブログ読者の方々には全く報告できていなかったが、実は2016年の春から、慶応SFCでデータ×AI社会時代の基礎教養のようなクラスを教えている。*2

ちなみに教え始めて半年ぐらいたった頃から、そろそろ研究会もと話を受けてきたが、そちらも今年の秋ついに立ち上げた。この名前も実績もない僕の研究会に手を上げてくれた勇気ある優秀な学生の面々の積極的な参加もあり、ワイルドに楽しい未来に向けて仕掛けている。

最近、そのクラスで数コマ一緒に教えてもらっている会社の研究所(Yahoo! JAPAN研究所)のT氏とクルマでキャンパスに向かった。専門としている情報科学分野のトップカンファレンスに毎年出しているような、優秀でバリバリの若手の一人だ。

その中で、僕が研究会だとか僕のプライベートな取り組みの中で仕掛けている話をした。かなりの数のおっと驚くようないわゆるいい意味でヤバイ人有志と仕掛けている運動論の話だ。*3

これを聞いた彼が「それって答えがあるんですか?」と真顔で聞いた。

、、。その時、何を聞かれているのか、少々よくわからなかった。

「答えがないからやるんだよ。そもそも答えがあるなら、もう若くはない僕がわざわざ、この限られた残りの人生を投下しようなんて思わない。なけなしの限られたリソースを投下して、様々なヤバイ人を巻き込んでまでやる意義があるとは思わない」

、、確か、こう言った。

「そういうものですか」

「そういうものだよ。確かに病気を治すようなタイプの課題解決はある。明らかに健常状態というべき、目指すべき像があるケースだ。そうじゃない状態の時、健常状態とのギャップが何によるものなのかを、緊急度の高い順、本質的に分岐している順に確認し、原因が見えたら、打ち手を当てはめるというものだ。おそらく世の中の課題解決の8割かそれ以上がこれに当てはまる」

「しかしそういう課題解決は僕が無理してやる必要のないものだ。他の連中でも優秀ならできるし、そもそも僕よりも多分、彼らのほうが適性が高い。医者に限らず、特定の領域のプロと言われている人は大体がこれをやっている人たちだ」

「でも世の中の課題の1−2割は、そもそも目指すべき姿そのものを描くことから始めなければいけない課題だ。今がたとえ回っていたとしても、本来どうあるべきかということを考えること自体をやらないとギャップ自体がわからないという課題だ。こういうのは若干以上の妄想力であり、意思がないと到底生み出すことはできない。IQだけの問題じゃないんだよ。こういうのこそ、僕みたいなおっさんが馬力を出してやらないといけない問題だと思っている。」

この像を描いていくこと自体が、大きな課題解決だが、それが見えたとしたら、その中で、更に解くべき課題が見えてくる。これらの課題は当然のことながら新しい課題が多く、既存の問とは必ずしも合致しない事が多い。

また当然のことながら、既存の解がそのまま使えることは少ない。解に求められる条件を考え、解そのものを考えていく、そういう必要がある。しかも、考えるだけではだめで、ちょっと試して、またその中でフィードバックを得ながら形にしていく必要がある。

こういう課題解決こそ、面白くて、やりがいがある。僕と一緒にやっているヤバイ変で面白い人達が仕掛けていくに値する課題だ、という認識だ。こういうことに取り組んでいく中で、次の世代も育っていく。

「なるほど」

この時の話は、これで終わった。クルマの中の会話にすぎないが、なかなかいい話だ。笑 *4

-

さて、

ついこの間、高校生たちの英語でのDebate選手権全国大会というべき場で話す場があった。
*5

そこで僕が彼等に話したのは、

  • 不連続的な変化が重なり合っている実に面白い時代である
  • 結果として富を生む方程式も根本から変わってしまった
  • 鍵となる人も劇的に変化してしまって、皆さんの親までの世代とはかけ離れたものになってしまった
  • だから35歳以上の人達の言うことに過度に耳を傾けないほうがいい

という話、そしてなにより、だからこそ、

「手なりの未来をそのまま受け入れるな」

ということだった。「手なり」というのはビジネスの世界でよく使われる言葉だが、「まあ今の流れのまま、そのまま進めるとすると」というような意味だ。*6

というのも、ちょうど僕が最後の基調講演者として投げ込む直前に行われていたSemi-final(準決勝)のテーマが、「都市集中型社会は我々の未来にとっていいことである(かどうか)」という感じのまさに僕が仕掛けているテーマを直撃している話だったからだ。*7

「都市集中は世界のあらゆるところで起きている。経済的に今のところmake senseしているのも事実だ。だからといってこれが仕方のない未来なわけでもない。いまのまま行けばこれが続くというだけのことに過ぎない」

「日本が長期にわたる少子化傾向、長寿化の結果、財政が回らなくなりつつある、データ×AI時代の戦いで米中の後塵を拝している、国の規模に見合ったワイルドな企業が生み出せていない、とか他にも色々不幸気味な話を聞くことはあるだろう。でも、これらが未来なわけでもない」

「もちろん何もしなければこれらが続いてろくでもないことになるだろう。だが、だからこそこういう課題について僕らは議論しているのであって、それをそのまま未来でも続く話として受け入れるような人になってはいけない。」

例えば、健康診断で肝臓の値が悪かったとする、項目的に飲み過ぎだとわかったとすれば、当然のことながら酒を控えて、生活改善を図るだろう。こうやって僕らは未来を変えていっている。

これは、たとえ、会社や国のような組織であっても同じだ。おかしいことに気づく力は大切だ。それがないと変な未来を止められないからだ。でもこのおかしな未来を予測できる力は、僕らが未来を少しでもマシな風に変えるためにある。

このまま行ったらろくでもない未来だと気づいたら、どういう状態があるべき姿なのかを考え、自分にできる少しでもインパクトの大きそうな取り組みを行うべきだ。それが君らの未来を変える。

「未来を予測できる」「未来は変えられない」かのように思っている人が世の中に多すぎる。未来は予測できない、これが僕らが人工生命の研究の結果から知っていることだ。*8

「未来は目指すものであり、創るもの。みなさんが僕らの未来だ。ワイルドに仕掛けていってほしい」

こう言って、この10分ほどの話を終えた。

あそこにいた高校生の一人でも多くに、伝わっていてほしいナと思う。*9

*1:platform

*2:「データ・ドリブン社会の創発と戦略」の基礎編とAdvanced編。高校1−2年レベルの数学知識しかない人に世の中のパースペクティブから始まり、一年で深層学習の基本までカバーする。

*3:これはこれでかなりのボリュームの話なのでまた別途書けたらと思う。それが待てない人は、まずは次を読んでいただければと思う。シグマクシスの柴沼さんによる記事だ。 www.future-society22.org

*4:ちなみにこの2つの課題解決の話は、昨年春にこってり書いたのでご関心のある向きには是非読んでもらえたらと思う。Diamondハーバード・ビジネス・レビュー5月号の「知性」特集の巻頭論文内での論考だ。www.dhbr.net この号はあいにくDHBRとしてはかなり珍しく売り切れてしまったとお聞きしているが、幸いまだKindleで買える。https://amzn.to/2rYCFmI

*5:正確には「第4回 PDA高校生即興型英語ディベート全国大会」 http://docs.wixstatic.com/ugd/0f7755_b6d635b09e6040f68484cc3974c1da1d.pdf?fbclid=IwAR36XV99dGnrxNC2gOllpPZkP4VeqJqMHiiq_t9jstFGheQmT2aNaBNnw-g

*6:もともとはどうも麻雀用語。役などを考えすぎずに、手持ちの組み合わせに素直に従って、打っていくこと。

*7:今から考えれば、事前に僕と討議した話を踏まえたテーマを選ばれたものと思われる。

*8:これについては昨年、情報処理学会誌の巻頭言に書いたのでご関心があれば読んで頂ければと思う。情報処理 Vol.58 No.6 June 2017

*9:実は先生方や父兄の皆さんに向けては「大人の人たちはじゃまをせず、彼らを認め、金を出し、人を紹介し、支えていってほしい」と言った。これもちゃんと伝わっていてほしいなと思う。