人類の抱える2大課題、、実魂電才(物魂電才2)


出雲・稲佐の浜(令和5年 神在月
Inasa-no Hama (Inasa Beach) in Izumo, Japan during Kami Ari Zuki (The Month of the Gods' Presence) in 2023.
1.4/50 Summilux ASPH, LEICA M (Typ 240)


もうかれこれ4~5か月前、旧知である新メディア"Pivot"の佐々木紀彦さんと竹下隆一郎さんから熱烈なご相談があり、9 quesitonsという番組に出たことがあった。70分1本勝負で一気に収録したが、そこで僕が言ったことの一つは「みんなAIの話ばかりをしすぎている。人類にとって大きな2つの課題があり、それをこそ解決すべきであり、AIだとかデータはそのためのツールとして使うべきだ」という話だった*1

-

その二つの課題とは「人類と地球との共存」と「人口調整局面のしのぎ方」だ。

2001年の911の直後しばらくは人類の抱えている最大の課題は明らかにテロだったと思うが、20年あまり経ったいま、我々が深刻な脅威だと捉えているのはパンデミック地球温暖化だ。この2つは当然前者の「地球との共存」問題そのものであり、それに伴う気象災害の甚大化、それに伴う植生の変化、農作物栽培の困難化などもすべて「地球との共存」問題と言える。

日本で「少子高齢化」と言われている話は後者の話で、これはかつて拙著『シン・ニホン』で触れ、更に以前ブログでまとめた通り、豊かさに伴うなかば必然的な話であり、複数の論理的な理由によって全世界的に進んでいる話でもある。世界の先進国でこの問題を多かれ少なかれ抱えていないところはほぼいない*2。1960年には6近かったインドの特殊出生率は昨年2.1を割り、2を割るのは時間の問題だ。一人っ子政策を取ったChinaを除き、大半の主要国はずっとゆっくりと下がってきたので、この低下はChina以外のどの主要国よりも速いスピードの可能性がある。

kaz-ataka.hatenablog.com

Total fertility rate in India, from 1880 to 2020 (from Statistica)
https://www.statista.com/statistics/1033844/fertility-rate-india-1880-2020/


(なお、ウクライナとロシア、パレスチナイスラエルのような地域間の紛争はどうなんだと言われるかもしれないが、どの時代もある程度はあるので時代性のある問題ではなく、人類にとって慢性的な問題と言える。)

これらの2つのグローバル課題はある種のレジリエンス問題に集約される。

「地球との共存」問題は、最大限の温暖化抑制の努力をすることは必須と言えるが、本当に正直に目の前にある事実を向かい合うと、当面の間、オーバーシュートして深刻化することがほぼ確実だ。

これについては、全体としての経済成長を少しは行うなかで*3、経済活動の中で抑制努力をする割合が徐々に増えていき、抑制効果が上がっていくというような簡単なモデルを作っただけでほとんど明らかといえる。抑制努力をしなければそれが長引くだけであり、それはちょっと受け入れがたいので僕らは全力で頑張ろうとしている、というのが今の状態と言える。

抑制努力とは、一人あたりの環境負荷環境負荷/人/年)を下げることであり、それは結局、活動量を減らすというより、経済活動、新しい富あたりの環境負荷環境負荷/Δ富)を劇的に下げることを意味している。内燃機関のモーター化、暖房のヒートポンプ化、青色ダイオードによる光源の消費電力抑制、データセンターの機械学習による消費電力抑制などはすべてこの流れにあることはいうまでもない。

つまり、野生とのぶつかり合いを大きな根源とするパンデミックはより起きやすくなり、温暖化に伴う熱波や巨大な台風、高波の発生は起きやすくなる。その結果、作物は不作や壊滅的な打撃を受ける可能性は高まり、夏の高温乾燥に伴う山火事は増え、植生の変化に伴い森の一時的な荒廃と新しい気温や降雨条件に伴う遷移が進む。また、気温が上がることに伴い木々の呼吸量が上がる一方、光合成の量は頭打ちするため森のCO2吸収量は減る*4。これが更に相乗的に温暖化を進める。

この状態でも人類は生き延びる必要があり、これはまさにレジリエンス課題そのものと言える。レジリエンスは、変化に対する対応力であり、復旧力という意味だ。レジリエントな存在としてはゴムをイメージしてもらえたらいいのではないかと思う。押しても戻り、歪んでも戻る。押したぐらいでは壊れない。頑強なものは壊れるが、レジリエントなものは壊れない。

ちなみに国家強靭化ということばがあるが、このもともとの言葉はNational Resilienceだ。数年前、国のデジタル防災未来構想WGの検討で知り*5、翻訳の違和感が相当にあったことをよく覚えている。

-

人口調整局面問題については、これまでのG7国の人口の変遷がどのようなものであったのかを見てみることから始めてみよう。1800年を起点に考えるとイギリスの人口は約5.5倍に増え、日本は約4倍に増えた。移民国家アメリカは50倍以上に増えた。この人口増大はかつてマルサスやローマクラブが警鐘を鳴らした通り、人類史上相当に歪(いびつ)なものであり、「人類の地球に与える環境負荷 = 人口 x 一人あたりの環境負荷」というシンプルな数式に基づけば、これが「地球との共存」問題の本当の元凶の一つと言える。もちろん一人あたりの環境負荷が爆発的に上がってきたことのインパクトは大きく、その問題も上述の通り同時に解決するべきではある。

これを見て思うのは、おそらく人類は200年あまりかけて増えてきた人口を、同じぐらいの時間をかけて産業革命前の値に戻す人口調整局面にあるのではないか、ということだ。それまで以上に一時的に下がる可能性もないとは言えないが、長らく続いてきたレベルに戻れば流石に安定し始めるのではないだろうか。(これはそれなりに検討が必要であり、ある程度まで来る前に手を打ち始める必要があるが、地球との共存問題が当面喫緊のため、この状況改善に寄与するこのトレンド自体は今はめくじら立てるべきではないと考える。)

ただ、この人口調整局面ではかなりの深刻な問題が大量に噴出する。それは例えば、会社がほしいと思った人の数が取れないということから始まり、僕が「風の谷検討」でよく見ている疎空間*6であれば、郵便局や役所のような基本機能すら人がいなくて維持できなくなるという問題でもある。もっと深刻には、道や橋梁だとか上下水道、食料供給の要である灌漑網、電力網、ゴミ収集と処理のような社会の基盤をなすインフラがこれまでのようには維持できなくなるということであり、あまりまくる家だとかビルの廃屋の処分すらやる余力がなくなるということでもある。森も荒れ果て、田畑も荒れる。既存の生産年齢人口の生み出す余剰で回すことを前提としているヘルスケアシステムや年金機構も回らなくなる。

これをどのように少しの人口で回せるようにするか、この過剰インフラ問題をどのように解決するかが極めて深刻な課題として全世界的に噴出する。それが先程のべた地球との共存問題が深刻化する中で起きる。これについての答えを誰が出せるかが大きな課題であり、これもまさにレジリエンス問題であると言える。

-

岸田首相の掲げられた「新しい資本主義」の本質は「環境負荷の下がる経済成長」であるべき、とかつて本ブログでも書き、環境省の審議会でも訴えたが、以上を踏まえるとそれでは足りない、刷新すべきだということになる。「新しい資本主義」の本質は「環境負荷が下がる経済成長」であるとともに、「レジリエンス力を高める経済成長」であるべきだ。

(参考)
kaz-ataka.hatenablog.com

安宅和人「残すに値する未来を考える」中央環境審議会総合政策部会(June 30, 2023)
https://www.env.go.jp/council/content/i_01/000144270.pdf

-

このところ、週に何度か登壇、もしくは取材を受けることが続いているが、毎回聞かれることが一つある。それは「AI、特にLLM(large language model 大規模言語モデル)の世界において、グローバルな巨大なプレーヤーたちがガンガン進める中で日本がなにかやれることはあるのか、日本はどうしていったらいいのか」という問いだ。

あまりこの話に馴染みのない方のために簡単にまとめておくと、AI/LLMの世界には、China勢を除くと現在3+1の大きな勢力がある。

  1. OpenAI & Microsoft(MS)陣営
  2. Google(Alphabet) & DeepMind陣営
  3. Meta陣営
  4. xAI陣営

OpenAIはGPT、そのアプリであるChatGPTの開発会社として皆さんご存知だろう。Windows/Officeを抱えるMS社は一兆円以上のコミットメントをし、共存する強大なパートナーだ。Copilotの推進も急激に進めている。

openai.com

AlphaGoをうみだしたスーパーブレイン集団のDeepMindGoogle陣営に加わって久しい。彼らはアミノ酸配列から、相当精度でタンパク構造を予測するAlphaFoldを数年前に発表(ノーベル賞複数個ぐらいの価値があってもおかしくない)。様々な分野に大きく影響を与え、膨大な計算力をこれまで要してきても精度が上がらなかった天気を、わずか1分で10日先までかつてないほどの精度で予測するGraphCastを先日発表。また最近、深層学習の力で全く知られていない数百万の物質も予測した。Google自体もBardを驚くべきスピードで立ち上げたことは多くの人がご存知のとおりだ。最近では多少物議を醸したGemniというマルチモーダルなモデルも打ち出している。

deepmind.google

Facebookinstagramという巨大なsocialプラットフォームで知られるMeta社は、ヤン・ルカン(Yann André LeCun)氏というAI界のグルの一人を抱えているが、今年、Proprietaryで非オープンなAI/LLMモデルの世界にLlama2という名のオープンソース型のGPT3.5程度のモデルを発表。なんと7億人の月間アクティブユーザ(MAU)までの会社、サービスはローカル端末でも自由に使って良いというゲームに一気に振り込んだ。結果、界隈ではカンブリア紀の大爆発みたいな状況で盛り上がっている。

ai.meta.com

そこに横から殴り込んできたのが、Elon Musk氏率いるxAIチームで、ElonのカリスマによりDeepMind, OpenAI, Google Research, Microsoft Research, Tesla, the University of Torontoからの才能が集まったチームにより立ち上がり、11月にわずか4ヶ月ほどでGPT3.5相当のモデルを発表した。いずれXの有料ユーザにサービスが公開されると推定される。(xAIについては取材している人自体が気づいていないケースが多い。。)

x.ai

-

この4陣営がいる中で僕らはどうしたらいいのかというのが、僕が繰り返し受け続けている問いだ。

これについて僕が答えているのは、こんな話だ。*7

このデファクトを巡るゴジラキングギドラみたいな戦いに、世界の最前線で僕らが参加できるかといえば、日本にはその体力(大量データ、計算基盤、札束、年単位で戦える持久力)と最前線レベルの才能を十分に集めたプレーヤーは残念ながらいない。仮に体力があったとしても、xAIがやってきたように希少な世界トップレベルの経験を持つ才能を限られたグループから集めて戦う必要があるが、その求心力をもつ場やプラットフォーム(PF)もない。*8



from State of AI Report Compute Indexより (as of 12/23/2023)

かつて大量データ (big data) は新しい時代の原油だという話があった*9。今も大量データはLLMのような新しいAIを育てていることから分かる通り、それほど間違っている訳では無い。同様に、この新しく生まれているインフラ、LLMもあたらしい原油というか社会インフラの一つのように思う。なぜなら、人間が自分たちが最も馴染みのある知的生産のツールである自然言語で計算機と直接やり取りできることの価値は図りしれず、今後の社会はLLMを前提で動く可能性が高いからだ。

ただ、原油がないと僕らが食っていけないかといえばそれは全く違う。80年ほど前、僕らの国も文字通り「原油」がないために実に厳しい戦争を行い、そして完全に敗戦した。だが、その後、この国の歴史上、最もと言っていいレベルで発展した。原油を得たからか?そうではない。日本は一度も石油メジャーの一角に絡むこともできないままで、いまでも原油を抑えているのは石油メジャー、サウジアラムコなどのままだ。ではなぜ繁栄に成功したのかといえば、この国が生み出した多くの起業家たち、商品やサービスたちが、全世界的に本当に大切な課題解決をしたからだ。

世界の人にaffordableで安全安心なクルマを届け、世界の人に正確でaffordableな時(とき)を届け、世界の人に優れた音声と画像を届けた。東アジアの女性たちに安心して寄り添ったunderwearや、美しくありつづけるための武器(cosmetics 化粧品)を届けた。

これからも同じだ。原油レベルのインフラを仮に僕らが持てなくとも、世界的に大切な課題をしっかりと解決していく、そのために新しい技術やインフラを使い倒す、それが僕らに求められていることであり、それこそが世界に対して僕らが貢献していく道なんじゃないか、ということだ。

僕らはリアルワールドのリアルな課題にちゃんと向き合って、新しい様々な技術を使って解決していくべきであり、これは以前から話をしている「物魂電才」の話そのものと言える。リアル(実)に向かい合うという意味で、「実魂電才」というべきかもしれない。

先に述べた通り、リアルにこれから来る地球との共存、人口調整局面のしのぎ方というレジリエンス課題は相当に明確だ。

僕が子供の頃、毎日、再放送で見ていたアニメに『宇宙戦艦ヤマト』という作品があった。災厄系のヒーロー物語は多いが、これらの作品を見ながら、これほど強烈な状況の世界に生まれていたら、自分たちもヒーロー、ヒロインになれたのに、と思っていた子供は少なくないはずだ。それの1/1000ぐらいかもしれないが、今まさにそれに近い世界が来ている。

僕らが羽ばたける世界はいま十分に広がっている。


ps. 先週書いたブログエントリ通り、LLMはGUIやマルチタッチスクリーン(スマホほか)と同様、全く新しい知的生産のインフラと考えるべきものであり、その周りで大きな変化と富を生み出す可能性が高い。かつてSteve Jobsが新しい発表をするたびに僕らが固唾をのんで見守ったように、OpenAIやDeepMind/Google、Metaらが発表する内容を楽しみに待ちつつも、その上で新しい仕掛け方を考えていくのが、ほとんどのプレーヤーにとって生産的なのではないだろうか?

kaz-ataka.hatenablog.com


ps2. 本ブログの続き的なエントリを書きました (12/30/2022)。かなり重要な話をしているのでこちらも良かったらどうぞ。

kaz-ataka.hatenablog.com

*1:youtu.beyoutu.be

*2:これも拙著『シン・ニホン』で触れた通り、米国の生産年齢人口の増大トレンドは移民によるものであり、それができなくなると同じ問題に突入する。

*3:残念ながらこれが止まると社会の安定的な維持力が失われる。全員のリソースを取り上げて、全部をコモンズ化し、共産主義的社会に行けばいいじゃないかと思われるかもしれないが、これが自発的な工夫の力を失わせること、またこれが人間の本能に反しており、また、結局、国家のかなり強い統治が伴わないとできないことは20世紀をかけて我々は学んだ。

*4:あと3-4度上がると森は排出源になるという推定もScience誌に出ている

*5:災害に対する問題意識が強い珍しいデジタルに詳しい人ということでプロジェクトを率いる赤澤副大臣のご指名でなぜか座長だった

*6:風の谷語。人口密度50人/平方キロメートル以下の土地を想定。

*7:つい先日もweb3界の主要メディアの一つcoindesk Japanを運営するb.tokyoの主催するイベントでも話し、一緒に登壇した成田修造さんがXにポストしてくださった内容だが、まとめておければと思う。本当はweb3の話もこれに続くがまた別途書きたいと思う。

*8:もちろんvehicleとなる大量のユーザを集める大きなPF的なサービスがなくとも、相当の技術を保有しておくことは重要で、NICTやNTTの優秀な方々がLLM開発をされているのはとても尊い

*9:僕もさんざんしてきた