アテンションプリーズ!、、、「気を向けるとき」「ながら行動」の脳神経科学

コレもまた、umamiの話と同じくアメリカ研究時代のメール配信ですが、今もニューロサイエンス的にも実はマーケティング上も様々な意味があると思うので、また個人的な記録をかねて再掲します。(Science News 11/7/2000より)


最近話題がニューロサイエンスに偏りすぎているので(これは現役の人に本来お願いしたいテーマ)、またおいおいと現在の本業であるマーケティングの方に近い話題も展開していけたらと思います。


========


みなさんこんにちは、


好評を頂いたBrazil以来、御無沙汰しておりますが、いかがお過ごしでしょうか?私の方は、御察しいただける通り、かなり忙しい毎日を過ごしております。研究の最初のステップがついにものになりそうで論文書きとデータの収集に忙しいということと、Ph.D.のトレーニングの一貫としてTA(teaching assistant)をしているためundergraduateたちの相手に厖大な時間をとられているのが主たる要因です。


気がついたら秋も深まり、こちらNew Englandでは紅葉もすでに終盤と言う感じで、日々冬が近付いているのを感じます。ただ、毎日青空が広がっているので、それはとてもうれしく、爽快な毎日です。今日もお昼、このNew Havenを見下ろす、East Rockという高台の上に行ってきたのですが、紅葉と青空で実に美しい眺めでした。もし機会があれば、今度写真をとって添付します。


今日は、かつての同僚の方から頂いた御質問に答えたものを、許可を頂き配信することにいたしました。楽しんでいただけると幸いです。

                • -


(以下が頂いた御質問です。)


お元気ですか?
最近メールがないので、お忙しいのかしら、とも思ったりしています。
今日はちょっと質問させていただきたくてメールしています。


すごく初歩的というか、つまらない質問なのかもしれないですが、先日ある人と話していて「音楽をかけながら、考えるということはできないのではないか。音楽をかけていても、考えているときは要するに聞いていなくて、聞いているときには考えられないのではないか」とその方がおっしゃるのですが、脳の働きってやっぱりそういうものなのでしょうか。


私としては、音楽が好きだから、いつも何かかけて新聞よんだり、家族と話したりしているのですが、その時は実は音楽は聞こえていないのか?・・音楽が聞こえているときは、実は集中して考えていないのか?・・・


この私の子供みたいな質問に答えてくれるのはatakaさんしかいない、と思い、メールしました。どうぞ、お忙しければ無視してください。お時間があってもし、気がむいたらお答えくだされば幸いです

            • -

(以下、お答え)


御質問の件は、とても深い問題だと思います。これを読んで、かつて十代の頃、ある友人が、ウォークマンを聞きながら勉強していると頭に入らないから、僕はしない、と言っていたのを思い出しました。


脳の情報処理の特徴は平行処理で、それだからこそわずか1kHz程度の処理スピードでありながら、コンピュータを凌駕する情報処理が可能になっています。同じ視覚情報にしても、形、色、輪郭、等多くの属性に別れて同時に処理されていることが分かっています。当然、聴覚と視覚、等と言った異なる情報も平行に処理されているわけで、だからこそ運転しているとき、当然のようにまわりの音も(なんとなく)聞こえていると言うことが可能になるわけです。従って、御質問のように音楽を聞きながら、何かモノを読んでいたり、人と話をしているのは普通のことであると言えます。


一方、脳にはattentionとして知られる現象があり、人が何かに対してattend(気を向けている)状況の時は、それ以外の情報に対する情報処理を大幅に犠牲し、その気を向けている対象の情報処理を最優先することが知られています。だから人と話を熱中している余り、気が回らなくて車で事故を起こすなどということがおこるわけです。従って、音楽を聞きながら何かをするというのも、音楽を聞いていたらモノを考えられないという御友人の方の意見もどちらもそれはそれでただしいということになります。音楽に集中してしか聴かないのであれば、確かにモノは考えられないけれど、それをただのバックグラウンドとして気を向けず処理できるのであれば、十分ふつうの活動は可能であるだろうということです。


どうして平行処理系の脳において、attentionが可能になるのかということについては、未だに良く分かっていません。脳内の活動が同期(synchronize)することとどうも関連がある様です。これが正しいとすると、synchronizeすれば、おそらくその局所的な情報処理が他の情報処理にoverrideされるという風に解釈できます。それについて比較的最近Natureに載った論文の要旨を添付します。


何かに集中すると言うことは、何かを犠牲にしているということなんですね。


(November 2000)

                      • -


Nature 404, 187 - 190 (09 March 2000)

Attention modulates synchronized neuronal firing in primate somatosensory cortex


Correspondence and requests for materials should be addressed to E.N. (e-mail: niebur@jhu.edu).

A potentially powerful information processing strategy in the brain is to take advantage of the temporal structure of neuronal spike trains. An increase in synchrony within the neural representation of an object or location increases the efficacy of that neural representation at the next synaptic stage in the brain; thus, increasing synchrony is a candidate for the neural correlate of attentional selection1. We investigated the synchronous firing of pairs of neurons in the secondary somatosensory cortex (SII) of three monkeys trained to switch attention between a visual task and a tactile discrimination task. We found that most neuron pairs in SII cortex fired synchronously and, furthermore, that the degree of synchrony was affected by the monkey's attentional state. In the monkey performing the most difficult task, 35% of neuron pairs that fired synchronously changed their degree of synchrony when the monkey switched attention between the tactile and visual tasks. Synchrony increased in 80% and decreased in 20% of neuron pairs affected by attention.


    • -

ブログランキングに参加しています。1日1回のクリックで、10ポイント加算されます。(これが栄養源)ご支援多謝!