From CT to DC (6) : 合衆国の神々

(5)より続く

広く晴れ晴れとしたDCはどこかさみしい町でもある。リンカーン・メモリアル、ジェファソン・メモリアル、ワシントン・モニュメント、数多くのスミスソニアン国立博物館ホロコースト博物館、、、見るものはたくさんあるが、それらのどれも「今」ではなく、「過去」を称えるもの、「過去」を閉じ入れたものばかりである。確かに政府はここにあるかもしれないが、政府というのは元々何かを生み出す人の活動の整理とインフラを作るためのもの。そういう意味で、この町で生み出されているものは何もない。そう思うと、この町全体が大きな墓場のように見えてくる。


Contax T2, 38mm Sonnar F2.8 @Lincoln Memorial, DC

真ん中にそそり立つWashington*1 monumentを今の人類が滅びたあと、誰かが見つければ、きっと誰かえらい人間の墓であると思われるだろう。実際に骨はないだろうけれど、その機能は確かに墓。Lincoln*2, Jefferson*3 memorialsも、そこに自ら"National Shrine"(国にとっての神殿)と書いていた通り(非常に非アメリカ的な言葉がアメリカの魂のような場所で現れる)、参る場所であり、墓のようなもの。確かに、ジェファソン、リンカーンの言葉は何度読んでも新しく、それらに打たれはするが、そこを一歩出ると、町には生み出す生気がない。


Contax T2, 38mm Sonnar F2.8 @Jefferson Memorial, DC

多くの官庁のビルも、やたら巨大で、周りを少し歩いただけで疲れてしまう。ニューヨークや、ブラジルの町に張りつめるような生気や、活気、緊張感がそこには全くない。生み出すもののない町は、当然のことながら荒れている。ホワイトハウスを抜けた辺りから道も急に悪くなる。いかにも治安が悪そうなのだが、ポリスを見ることも少ない。あとで聞くところでは、DCの殺人発生率は全米一だということらしい。そういう意味で、この町は生きながらにして、死んでしまった町、なのかもしれない。日本も遷都だ何だなんて騒いで久しいが、いざ政府をどこかに移してみると、結局その町はこんな風になって、その残された土地を与えられた東京だけが大はしゃぎ、なんてことになるんじゃないかナ。

青空の中で、そんなことをふと思う。


(April 2001)


(7)に続く
kaz-ataka.hatenablog.com

本連載をはじめからご覧頂きたい人は以下から御覧頂ければと
kaz-ataka.hatenablog.com

*1:George Washington:1732年生まれ。米国初代大統領。彼の人格と強い信念、行動力なしに、コロニー(植民地群)の集まりを一つの連邦として束ねるのは不可能であったとされている。

*2:Abraham Lincoln:1809年生まれ。米国第十六代大統領。南北戦争後解決されずにいた最大の問題に立ち向かい、命を賭して奴隷解放を行う。当時のフロンティア、ケンタッキーの非常に貧しい家に生まれ、八歳の時ヴァージニアに移り、十歳で母を失う。農場で働き、フェンスのレイルを割るなどの仕事をしながら、文字通りすべて自力で読み書き、その他すべてを身につける。1865年、南部に加担したという逆の真実を信じる男により暗殺される。彼は何か問題に当たったとき、常にジェファソンの書いた独立宣言に立ち戻って考えたという

*3:Thomas Jefferson:1743年生まれ。米国第三代大統領。33という若さにして独立宣言を起草する。ヴァージニア憲法の起草者、名門ヴァージニア大学の創設者でもある。彼の独立宣言の中にある、We hold these truths to be self-evident: that all men are created equal, . . .(我々は以下なる真実を自明のものとして持っている。すべての人は創造主によって平等に創られている、、、) の言葉はあまりにも有名。アメリカという国で最も大切とされる信念の一つである。