人生の短さについて


Leica M7, 50mm C-Sonnar F1.5, RDPIII @ London, England


僕の意思とは別に出版社が選んだ(笑)、年末に出た拙著*1の表紙の帯にある言葉と違って、僕は人生が短いなんて思ったことはあまりない。

僕が、はたちを過ぎた頃から、繰り返し読んできた本の一つに、セネカの『人生の短さについて』(岩波文庫)がある。そこにある通り、

生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)

生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)

「われわれは短い時間を持っているのではなく、実はその多くを浪費しているのである。人生は十分に長く、その全体が有効に費やされるならば、最も偉大なことをも完成できるほど豊富に与えられている、、、(中略)、、、何ゆえにわれわれは自然に対して不平を言うのか。自然は好意を持って振る舞ってくれている。人生は使い方を知れば長い」

、、、そう思う。

若い頃、よく聞いて、今も時折聞く言葉に、歳を取ると時間の過ぎ方が速くなる、というのがある。ホントかな、と思う。

子供のころの一日も確かに長かった。海のすぐそばで育った僕は、毎日早起きして、釣りに行き、そのあと、飼っていたニワトリと、虫と、インコの世話をして、ついでに廊下の掃除をしてから、ご飯を食べて、学校で遊び、また放課後、釣りに行き、友達とビー玉や、コマや、色んなことをして遊んだ。高学年になってからは毎日毎日サッカーに明け暮れ、夕方の遊びが、球蹴りに変わった。

でもあの頃を思い出して、一ヶ月がそんなに長かったかな、と思う。とても楽しくて、すぐに過ぎ去って、夏休みが終わる時の悲しさは言葉でいえないほどのものがあったのは確かだけれども、ひと月はある種あっという間だった。

で、大人になってからはと言うと、少なくとも大学院に入り、また仕事をするようになってからは、ひと月ひと月がとても濃厚で、一ヶ月経って、ひと月前のことを思い出すと、あれが本当にひと月前のこととはとても思えない、そう思うことが日常茶飯だ。

ビジネスの世界では、三月(みつき)もあれば、相当にまとまった仕事ができる。混迷に満ちた状態のプロジェクトも方向性が定まるし、少なくとも次に何をやるべきかぐらいはハッキリする。半年もあれば、大きなディールもかなり進展するし、一年もあれば、大型の商品だって外に出すことが出来ることが多い。

で、区切りになると、本当にあれが、半年前の話だなんて、とても実感ないですねー、ずっと遠くの話に感じますね、、、なんていうことをよく言い合う。

僕らが体感的に感じる時間というのは、おそらく僕らがどれほど新しいことをやろうとしているか、そしてそれを越えた実感があるか、それによって決まるのではないかと思う。

そういう視点では、次から次へと新しいことを実際の世界でトライし、その結果をたとえ苦痛が伴おうと、実感し、それをもとに更に次に向かうことが出来る大人の世界の方が、遥かに時間は長く感じるものではないかナ。

そして、それは沢山のことを実は産み出しうる、ということでもあり、より新しいことを体験しうる、ということでもあるのではないかと思う。ということは、ちゃんと正面から自分の人生を生きてきたのであれば、実は歳を取るほど時間は実は長くなっているはずであり、世の中の常識は実は違うのではないかと思う。

逆に、自分の時間が過ぎるのが速くなってきたなと感じたら、それはある種の危険信号で、自分がちゃんと正しく、自分自身にチャレンジしていないということを示している可能性があるのではないかな、、そんなことを思う。

というのも、年始にTwitterにはちょっと書いたのだけれど、年末にたちの悪いインフルエンザ(恐らく新型)にかかり、それが風邪と誤診されたために悪化し、気管支炎になり、肺炎にもなりかかった。これがさらにこじれ、ゼンソク体質ではないはずなのだが、ゼンソク様の症状になって、一月はずっとなれないクスリを飲んで、時折点滴を打ったりして、ぼーっと過ごしてしまったからだ。

結果、一月はほとんど僕にはあまり生きていた記憶がなく、頭を使わないTweetを眺めたりしていたことぐらいしか心に残っていない。そういう意味では、この一、二年で最も忙しくない(忙しく出来ない)時の時間のスピードが、僕には最も速かった、ということだ。

さあ、もう二月も終わる。

僕が大好きな冬から春に変わるこのタイミングがはじまる。

じっくり、そしてしっかり、がっちりと人生に向かい合って、大きくなにかに掴み掛かって、また何か変化を産み出していければと思う。

読者諸兄姉にとってもこの春の始まりが、素晴らしいものとなりますことを願いつつ。


ps. 上で触れた拙著についての参考リンク

ps2. twitterでのアカウント、2年以上ほとんど止まっていましたが、徐々に使い始めました。ハテナと同じハンドル名です(@kaz_ataka)。よろしければご笑覧ください。

*1:

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」