人生に影響を与えたコンテンツ2


Summilux-M 1:1.4/50 ASPH, Leica M10P, RAW @Hakuba, Nagano, Japan


全く終わっている感じがしないので昨日の続きをもう少しつづけられればと思う。

kaz-ataka.hatenablog.com

-

そうこう彷徨っているうちに、出会ったのが現代生物学だった。40年近い前の当時の僕の理解では、ウイルス、細菌、培養細胞を用いた研究により、セントラルドグマや異端児としての逆転写酵素など分子生物学的な骨格的課題の検討が概ね終わり、人間の生命の理解は大きく次のフェーズに入ろうとしているように思えた。

利根川進先生らによる免疫の多様性の解明、ホメオボックスなどの発見による発生など高次なレベルでの生命の検討が進むようになったこのタイミングであればもしかしたら、精神活動を物理化学的なアプローチでそろそろ迫ることができるのではないかと直感を得、その方向で進むことにしたのだった。

  • 当時の通称はCell。そもそも版が大きく、約35年前ですら1300ページぐらいあった辞書のような本。1953年以降に解き明かされてきた、膨大な生命の秘密とその解明プロセスを取りまとめた一冊。神を感じざるを得ない、いや自然こそが神なのだと思わされた。
  • リードを見ればメッセージが見えるというワトソンのこの教科書は世界の数多くの様々な分野の教科書のモデルになったと思われる。極めて専門性の高い内容をストーリー仕立てで明晰に伝えていくこの文章には、さして難しくもない内容を難しい言葉で語る衒学的な文章に辟易していた自分にとって、青天の霹靂のような感動があった。多分、僕の文章にも見えないが大きな影響を与えている。
  • 一体どのように「生命とは何か」という問いに対して人類はアプローチし、どのような実験、分析、技術開発、そして何より問いの立て方によって答えを出してきたのか、この一冊を適切に調べ、考えつつ丁寧に読めば100冊を超える本を読んだのを超える学びがあると思う。

人類史に一度しかない生命の根源物質とその仕組みが人の前に現れる瞬間。その生々しさと面白さ、ワイルドさ、ありがたみを教えてくれた一冊。とにかく面白い。

-

本当にふとした拍子で何年間かマッキンゼーコンサルタントをすることになり(その経緯は以下のブログエントリをご参照)、出会ったのがperception technologyというべきマーケティングの分野だった。ここで最初にやった仕事の一つで、市場の最小単位が1消費場面(オケージョン)であることに思い至り(以下の「市場における原子」をご参照)、そこから市場を純化して見出す手法(オケージョン=ベネフィット)を見出すというとても面白い仕事を最初にした*1

kaz-ataka.hatenablog.com

kaz-ataka.hatenablog.com

この発想の根本にあったのは、『ファインマン物理学」の中にある、人類がすべての知恵を失い、一つだけの情報を残すとしたら何だと思うか、という問いだった。市場を純化して原子、分子レベルといえるところまで落とし込めばきっとものすごくきれいな塊が切り出せるに違いないと思ったが、それが本当にワークし、きれいに初めて塊として見えてきたときの感動は今も忘れられない。このあと、随分多くの市場で適用し、大きな市場創造に何度もつながった。


  • Caltechで行われた歴史的な講義をもとに作られた人類の至宝というべき教科書(オリジナルの英語版は全3巻)。天才ファインマンが自然を理解するとはなにか?ということを真に深く、そして簡潔に語る。
  • モノのオーダーによってどのようなサイエンスが必要になるのか、の語りはおそらく名著(そして名動画)Powers of Tenの本の着眼につながっている。
  • 人間の自然への理解がどう始まり、どのように今に至るのか、スクラッチで物を考えるとはどういうことなのか、など実に多面的にinspirationを得てきました。いつか自然のすべてをファインマンのように理解し、考えられたらと思いますが、そんな日は来ないと思えるところがまた素敵です。


まだ入社1年目の終わりなのに5千億の売上の事業の戦略立案を、クライアントの部門に張り付いて一人でやる(3-4ヶ月後から先輩が加わり二人で)というちょっと今では(当時でも、、)考えられないプロジェクトを任されていたこともあり(前のプロジェクトで僕が生み出してしまった上の手法と、そこで生み出された新しいフレームワークを応用するという立て付け)、社内にあるマテリアルは本当に膨大に読み込み、マーケティングということでコトラー先生の本『マーケティング・マネジメント』もすごい圧力の中で一日で読んだ。当時は黄色い本でもっと小さかった。僕の知りたいことが書いてないということがわかったのが大きな成果だった。笑。

その後、マーケティングの基本となる部分を何もかも自分で再構築しながら理解していくことになる。。ちなみに上のプロジェクトに伴い、当該ブランドは劇的にブランド価値が高まり、そこから生まれた新商品は日経優秀製品・サービス賞をいただくことになる。最初の数年、かなり大きな仕事を立て続けにしたこともあり、三年目の終わりぐらいから、職場では新人のトレーニングを時折するようになった。

ポジショニングという言葉を生み出したAl Ries & Jack Trout両氏の一冊。当時、本当に目から鱗がポロポロと落ちた。日本語訳もよいが可能であれば原文で読むことを推奨。


これほど衝撃を受けた本はあまりないと思う。MITメディアラボの創設者であるネグロポンテ先生が著者。衝撃を通り越して、未来を激しくinspireされた。いま読んでもきっと気づきがある、特別な一冊。

-

当時、良く見ていた、ミンスキー先生の歴史的な一冊。心の働きがシンプルな機能的モジュールによって創ることが可能であることを示した思索をとりまとめている。すべてのAI論の原点の一つなのではないかと思う。


既に大学を退官されていた日本でのサイエンスの師匠の大石道夫先生*2のすすめもあり、PhDをとりに米国に留学した。

神経科学のすべての「基本」となる考え方を体系的かつ重層的に学んだ一冊。Cell同様、大判で千数百ページもあり、まさにCellの神経科学版のような感じです。しかも文字がさらに細かい、、。読者は生化学(biochemistry)、生物物理(biophysics)、分子生物学(molecular biology) のある程度の素養があることが前提。この内容を1セメスターで駆け抜ける講義(週2コマ x 2だったか。試験も3~4週に一回)がPhDを取りに留学したときの最初の大きなハードルの一つだった。懐かしい。

本年逝去された(涙)嗅覚研究の世界的な権威であるGordon M Shepherd先生による脳神経系のメタかつミクロな構造的な理解を実現した驚異の一冊。これほど複雑な神経系がこれほどシンプルな構造化が可能なのだということを知ったことは本当に自分にとって大切な気づきだった。先生のThe Synaptic Organization of the Nervous Systemの講義*3をとり学ぶことができたのは一生の宝。(注:全く素人向けの本ではないので、Neurobiology/Neuroanatomyについて相当学んだ人以外の購入は勧めません)


米国滞在当時にみたアメリカという国に追われるアメリカ人(ウィル・スミス)の物語。Cyberに筒抜ける世界の恐怖をこれ以上ないほど赤裸々に見せてくれた。このあと9.11が起きたが、そのあとのアメリカで起きた対応があまりにもリアルだった。。

-

日本に戻ってきてからはトレーニングプログラムの基本担当メンバーとなった。合わせて、二代の支社長直下でトレーニングマテリアルを見直すという特殊なプロジェクトを(クライアントワークの裏面で)担当した。分析や課題解決はなぜか割とすっと筋が見えるところがあり、ただ、その根っこの部分、たとえば「分析とは比較である」という僕にとってはアタリマエのことなどはうまく言語化されていないなと思い、これらを社内のトレーニング資料としてまとめていった。「犬の道」という言葉をマッキンゼー社内のトレーニングで使うようになったのは、アメリカから帰ってきた頃のことのように思う。

卒業後、いつかどこかでまとめておかねばならないなと思っていたのだが、石倉洋子さんに勧められて書き始めたブログのある場末のエントリが随分と話題になったため、これは出さないといけないんだなとおもって、12年前に出したのがこのいわゆるイシュー本。

思い出のブログエントリは以下。
kaz-ataka.hatenablog.com

-

古代ギリシアの哲人であり、政治家であったセネカの本。『イシューからはじめよ』の帯にある言葉「人生は何かを成し遂げるためにはあまりにも短い」は「人生は良く生きれば十分に長い」と語るこの本へのオマージュです。学生の頃からの座右の書の一つであり、今でも開くと背筋が伸びます。

コーランを目指して作られたというヤバい一冊。インドおよびアジアを放浪し、生きることの核心を味わってきた天才写真家による類まれな作品。高校生の時に出版されて、その月に買ったほぼ初版を持っています。写真プラス言葉の選びがもう奇跡。イシュー本もこの本同様、ボロボロになるほど繰り返し立ち返るものになってほしいと願って書きました。

-

未来、映画まわりについても少し。

一番好きな映画の一つ。20回は観た気がする。唐突に現れる異星人と向かい合う人類の物語。面白く、深く、考えさせられ、そして元気が出ます。ジョディ・フォスターのContactも好きですが、得られるパワーという意味でこの作品を推したいと思います。


10代、20代前半ずっと連載していたアニメージュの原作。巻が出るたびに読み、涙しました。これが心に潜んでいて、今やっている『風の谷を創る」運動論につながっていると思います。これをさらに映画として世に出し、我々の活動も止めずにやらせて頂いている宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサー、ジブリの方々には感謝しきれないです。


Awesomeとしか言い難い映画。大恐慌時代のテキサスの小さな町で、夫に突然死なれた若き二人の子を持つ未亡人が苦労して、目の不自由な同居人、アフリカ系の綿花栽培のプロなどと生活を立ち上げていく。今や盟友で知られる元アイドルのサリー・フィールドが二度目のオスカーを取った歴史的作品。映画館で友人と観て、しばらく席を立てませんでした。


田舎の山奥でダムができて沈んでしまう村の物語。老人役の加藤嘉がリアルすぎる。田舎で育った人は涙腺崩壊すると思います。


未来(2019年)をテーマにした、都市にしか住めなくなった人類と人造人間(アンドロイド)が共存する世界での人類の行く末。美しいが悲しいディストピア


これほど人類のたどってきたものを俯瞰してメタ化し、考察した本はまれ。衝撃の一冊です。


『シン・ニホン』のタイトルと帯の言葉「この国はもう一度立ち上がれる」はこの映画のオマージュ。これほど国、政府をリアルに扱い、その無力感を味あわせてくれる作品は類例がない。


数多くの西洋概念を日本に取り込み、紹介し、未来を生み出した福澤諭吉先生の歴史的な著作。明治あるいは開国というのは一体日本人にとって何だったのか、を本当の意味で理解できる稀有な一冊。その後、日本を揺るがすことになる「国体」が全く想定外の言葉の翻訳であることを知り驚きました。統計学を日本で初めて紹介したという意味でデータサイエンス教育の原点でもある。『シン・ニホン』を執筆しているとき、常に僕の机の上にはこの本がありました。

*1:ここで生まれた商品は今もCVSなどで普通に日本中で売られている

*2:東京大学 分子細胞生物学研究所 初代所長。当時、筑波の産総研 生命研所長

*3:PhD学生向けの10人以下の講義