政治はなぜ僕らから遠いのか

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Tokyo from the sky: Covid発生前に東京上空より著者撮影


本日、永田町で行われたとある勉強会に講師として参加した。自分が教員を務める大学*1のある先生からの紹介案件だった。

てっきり"シンニホン"案件だと思って行ったのだが、最初に幹事的な国会議員の先生方との前打ち合わせ的な話し合いがあり、そこでお聞きした問題意識は全くとは言わないが、かなり異なる話だった。

曰く、

  1. 政治不信が蔓延し、政治と市民が分断、、、投票率が低い一方でのポピュリズムはその一つ。これに打つ手はあるのか?
  2. このまま行けば社会保障費用のために必ずそれほど遠くない将来、財政が破綻するが*2、全く理解が得られず、正しいことをしようとするとその政権はやられ、手を投じることが出来ない。どうしたらいいのか?
  3. テクノロジーがこれだけ発展し、テレワークなどが進む中、、民主主義、ガバナンス(統治システム、統治機構)はどうあるべきなのか?
  4. 少子高齢化の問題にも手を付けられていない。どう考えるべきなのか?

こういう話だった。

字余りの4番目に対し、まずざっと答えた。少子化と高齢化は原因と意味合いも全く異なる話であり、一緒くたに議論することをそもそもやめるべき。このように、独立した概念を合わせて一つの言葉で話すということ事態が、この社会が思考レスであることを露呈している。

高齢化はそもそも何も悪いことではない。これは人類にとって、そして日本の社会にとっての勝利だ。これを悪のように言うこと自体がとても罪深い話だ。社会全体の運営の視点で、唯一最大級に問題なのは、90歳近くまで生きるのが当然の時代において*3、健康で、判断力的にも問題ない人の多くが65歳で職場から「伐採」され、生産活動から排除されることにある。採用の際に年齢、性別を聞くことは違法化し、定年自体も違法化する、あくまで年齢に関わらず、メリットベースで雇用をどうするかを考えるべきではないか。(シンニホン第2章、第6章参照)

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少子化は当然のように社会にとって致命的かのように言われるが、現在、中国も含め、主たる先進国では(移民により増大が続く)米国をのぞき人口調整局面に入っている。生産年齢人口の頭打ちは当然で、この状態は当面続くことは基本確定的だ。また、現在、地球に対する人間の環境負荷は極めて高く、日本の一人あたりCO2排出量が仮に現在の半分のフランス並み(年間約5トン/人)になったとしても、地球の森が吸収できるのはせいぜい50億人程度に過ぎない。(シンニホン第6章参照)

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国連IPCC*4環境省の予測などから見えてくる、これから想定される気候変動とその起結(食糧危機、災害多発化ほか)を考えれば、人間一人あたりの環境負荷を劇的に下げるか、人間の数を劇的に減らすしか答えはない。したがって、50年後、100年後の地球、人類、そして自分の子や孫たちの未来を考えるのであれば、人口は減るのが正義。本当に解くべき課題は、強引にトレンドをひっくり返し人口を増やすことではなく、人口減少下においてどのように(財政破綻しないように)経済規模を維持し続けるかだ。*5

問の立て方がどちらも根深いところで間違っている。

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では、最初の3つはどうかだが、これについて「この3つは深く関連しあっている」、、僕はそう答えた。

政治不信が蔓延、、というより市民と政治側がコミュニケーションが取れていない、市民がそもそも信用、期待していないというのは、どんなアンケート結果を見てもその通りであるし、我々の皮膚感覚としても正しい。ただ、これが何によるものなのか。

市民、つまり多くの人が集う場所はどこにあるのか、が考えるべき最初のクエスチョンだ。当然のように渋谷や新宿がそうだ、と考える時代は終わってしまった。TVや新聞などのマスメディアだと思う時代も終わってしまった。これらは確かにかつては最大級の人が集まるプラットフォームだったが、今はそうではない。

ではどこに行ったのか、、それはこのブログを読まれている人なら自明な通り、明らかにインターネット、スマートフォンの中にあるサイバー空間の中だ。

20代以下(30歳未満)の若い人がTVよりもインターネットを見るようになったのは2010年頃、10年以上前の話だ。雑誌は95-96年頃に頭打ちをし、新聞は90年代後半から若者には読まれていない。また、PC、カメラなど買う前にかなりの情報が必要なハイテク消費財の世界において、インターネット(価格コムのような情報サイト、メーカーのホームページ、検索など)がテレビの影響力を超えたのは、驚くなかれ2003−2004年、17年ほども昔の話だ。*6

今や大半の人がテレビよりもインターネットを見ており、LINEやinstagramなどサイバー空間の中において最も親密なコミニュケーションを行い、Yahoo!ニュース個人やTwitterで「信頼できる情報源からダイレクトに」ニュースを知り、Amazonや検索の上で「メーカーからの直情報とユーザの生の声」を見つつ消費の決定をし、ソーシャルやYouTubeの上で直接「編集されない生の人」を理解し、考えを育てている。これら「生声重視」は全世界的なトレンドと言えるが、最近の日経による調査データを見ても、マスコミを信頼できる人は9%に対し、インターネットを信頼できると答えた人は24%、マスコミを信頼できない人は47%に対し、インターネットを信頼できないと答えた人は約三分の一の17%だ。

vdata.nikkei.com

50代以下(60歳未満)の人の全員ではないが、多くの人において、情報消費、メディア、対人接点時間において、インターネットがもうTV、新聞、電話の数倍以上になって久しい。TVを見る時間の数倍、スマホを触り、街に出る時間の数倍、スマホアプリやYouTubeNetflix、AppleTVなどで情報を得ているということだ。Withコロナ状況になってから、出歩くことも減ったのでリアル空間のリーチ力も徐々に無視しうる状態(negligible)に近づいている。政府の審議会の大半ですら今やオンラインだ。電話はほとんどしない、直接人とも合わない、対人のやり取りは家族を除けば8-9割以上がインターネットという人がむしろ普通だろう。

なのに、街頭演説やリアル空間でのイベントに集中し、媒体的な接点はテレビや新聞が主というのが現在の政治活動のほとんどだ。実際、最近、講演案件も大半がオンラインだが、この勉強会も例外的にin personで(リアルで)行われた。

一言で言えば、人のいないところ、発言をそのまま信用してもらえないところで政治は行われているのだ。*7 一般の市民からすれば、目の前にいない、対話も成り立たない、編集で切り取られて発言も信じられない状態で、どのようにして、政治をする人、政治を任せている人たちを理解し、好きになり、政治案件を理解できるというのだろうか。*8

なぜトランプ前米国大統領があれほどの力を持ったのか、といえば、彼の発言ももちろんあるとはいえ、何よりも彼はこのサイバー空間の上で、大統領である前に一人の人としてコミュニケートする、そうやって言いたいことを伝え、反応を見つつ、フィードバックをしていたからだ。彼はやるべきことをやっていたに過ぎない。

これら市民側の行動様式の質的かつ量的な変容を考えれば、投票がオンラインでも可能になるべきというのは当然だ。デジタル通信基盤(ネットワーク、クラウド)の上で、政治や役所的なサービス提供が行われるべきというのも当たり前だ。それも9時〜17時ではダメなことは自明だ。そんなサービスはデジタルではない。24時間、365日、スマホの上で対応できてこそ意味がある。そして生活のリズムの中で、多くの市民に対して接し、耳を傾け、そして一人の個人として本心からの声を届けるべきだ。

これが出来て、はじめて多くのサイバー空間住民、つまり現在の市民の多数と、心の信頼関係(いわゆるrapport)ができ、先程の財政事情などのあまり耳にしたくない課題についても、市民側に聞く耳をもってもらうことができる。リアルでの接点はもちろんプラスにはなるが、あくまで補助のはずだ。

以上から、なぜ3つの話が深く繋がり合っているのか理解してもらえたのではないかと思う。

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ここまで話をした上で、そこで僕が問いかけたのは、この中でどのぐらいの数の人がClubhouseを知っていますか、ということだった。この数週間、話題を席巻してきた音声共有&配信ソーシャルプラットフォームだ。50人ほどいらした中で手が上がったのはざっくり3割。

では、この中で、Clubhouseを聞かれたことのある人、ときくと10人程度。が、そこで話をしたことのある人というと、もう5人を割っていた。では、その中で1万人以上フォロワーのいる人、と聞くとゼロ。国会議員の先生方ほどの力と知名度のある人であれば、少なくとも1万ぐらいのフォロアーは簡単に生み出せるはずです、と付け加える。

Twitter/Facebook/Instagram/TikTokなども当然やっている人は少ない。InstagramTikTokに至ってはそもそも使ったことがある人自体が圧倒的少数派である感じだった。

そう、伸びしろしかない、そしてそれがどれほど本質的な課題なのか自体を全く理解されていないことが赤裸々になった。

このあと、ガバナンスの観点で留意すべきこととして、更にDisaster(災害)、Pandemic(感染症・伝染病)が多発する社会に我々は向かっており、この意味合いとして何をすべきか、かなり重い話もし、これもえらく盛り上がったのだが、長くなったので割愛する。

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ここまでの投げ込みのあと、比較的若手*9の男性議員の方から質問を受けた。

  • サイバー空間に移行できていない人はどうなのか?
  • TVの影響力のほうが上という見方もあるが?

答え。

数年前から50代以下(60歳未満)は、個人レベルのばらつきはあるにせよ、どの年齢・性別セグメントでも総和としてTVよりもインターネット、サイバー空間のほうが大切になっているのは事実だ。つまり、いま実際働き、生産している人、そしてこれからの未来を担う若い人にリーチし、コミュニケートしようと思うなら、まずはここに入り、接し合わなければダメなことは自明といえる。

確かに、かつてはTVなどの4マス媒体(TV/新聞/雑誌/ラジオ)によって商品のプル(起点となる商品力)が発生し、口コミで広がったが、インターネット、サイバー空間上のバズ、話題が商品プルや話題の情報の起点となり、それがTVや新聞などのマス媒体で話題になるようになってもう10年以上だ。またサイバー空間にいない限り、市民は皆さんのことを生々しい存在として認識することが出来ない。一旦、サイバー空間で話題になれば、あるいは人気が生まれれば必ずTVなどいわゆる4マスに波及してくる。YOASOBIが一度もテレビに出ることなく、年末の紅白出場歌手となったこと、昨年の最大級の話題曲『香水』(瑛人)がインターネットの力のみで全国区に上がってきたこと、こういった事実を直視すべきだ。

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最後に、とある若手女性議員の方から。

と質問を受けた。

答え。、、ソーシャルはブログから始まり、ミニブログ、タイムラインの元祖と言うべきfacebook/twitterなどは第2世代、Instagram/TikTokなど画像、映像系が言ってみれば第3世代、生声によるClubhouseは第4世代といえる。どれも良さがあり、どれも得手不得手がある。どの世代についても一つぐらいはリーチできる力のあるようにしておくのが、良いと思う。どんどん新しい世代のソーシャルが出てくるが、どこかで十分な数のフォロアーがいれば、それはつないで活かすことはできる。だから、できるところからはじめませんか。



参考

*1:慶應SFC

*2:国家運営に必要な国債が裁けなくなる and/or 国債償還ができなくなる ≒ デフォルト発生。これについてもそれなりの議論をしたが省略する。実際のところ、現在のような毎年約1兆円の社会保障費の増加(!)だけではそう簡単に起きないとは個人的に思うが、以下は、読者諸兄姉にもイメージが湧くようにFYI。静岡沖から九州まで連なる南海トラフで近未来の地震発生が確実視されているが、ここで東海地震(静岡沖)、東南海地震(愛知・三重沖)、南海地震(紀伊半島・四国沖)が、想定通り3連動型で起きると、以下のようにほぼ確実に引き金になる。名古屋、大阪の大破に始まり数百兆円レベルのダメージとなる事がすでにわかっており、当然のことながら国債の格付け、為替相場、株が急落する。国債金利はそれに伴い急上昇し、国債債務不履行リスクは劇的に上がる。大量の国債保有する銀行の破綻も誘発する。顧客の預金の引き出し、銀行の貸し剥がしに伴い、倒産も加速する。これに伴い宝永の南海トラフ大地震同様に富士山大噴火が続くと、首都圏の被害、首都機能の停止も同時に起き三大都市圏が停止する。この費用捻出のため、大戦後のように銀行預金をまるごと差し押さえる(cf. 1946年の九割の資産課税)ことは、現代の社会でできるかは疑問でこれもあまり当てにできない。日銀が国債を必要なだけ買い付けるなどということをやると、円建てであろうと明治初期や大戦直後のようなハイパーインフレの可能性が劇的に上がるので無尽蔵には不可能(それでもやる可能性はある)。直後の混乱期が過ぎた頃、緊縮財政に伴い社会保障は大幅に見直しがかかる。高いインフレの中にありながら、年金は目に見えて絞られ、生活保護系は軒並みカットされる。一方で医療費負担、社会保険料は目に見えて上がる。公務員ですら給料がちゃんと支払われなくなると、アルゼンチンで起きたようにゴミ収集すら行われなくなる可能性がある。戦争直後のように激しいインフレと収入減がかさなり給料で生活できなくなると、飢餓、自殺は激増し、治安が悪化する。このように通常のコントロール機能では御せなくなる状態は起こりうる。以上の状況が起きた場合、並行して日本起点で世界恐慌が起きる可能性が高く、それに伴い日本の救済という名目でどこかの国がやってきてもおかしくない。(最悪のシナリオだがこれはないとは否定できない)

*3:平均寿命ではなく、何歳で最も死ぬのかを示す日本での最頻死亡年齢は、現在、女性92、男性88だ。

*4:Intergovernmental Panel on Climate Change / 国連の気候変動に関する政府間パネル

*5:半年ほど前かポストコロナを考える経団連のチームのご相談に乗った時に、この話をストレートに言ったところ、相当に受け入れがたいと言われたこともあることを付け加えておく。

*6:これは当時、前職で消費財マーケティング研究グループのコアメンバーの一人であった自分が、偶然、世界のマッキンゼーの中でも最初にデータドリブンに観測し、クライアントさんと再調査をしたほどの驚きの事象だったが、今や、金融商品など多少なりとも濃い目の情報が必要な大半分野においては当たり前過ぎて、議論する価値もないほどだ。ちなみに、このときこれを最初に目撃したクライアントさんはとある戦略商材をこの気付きに基づく、マスマーケティングなしのマーケティングアプローチをとって市場導入したところ、世界的に大成功した。価格下落の激しい世界において、数年間、全くそのような問題にも悩まされなかった。

*7:あるいは、静かにしていて欲しいところ。メインの活動がサイバー側に移った大多数の人は、街宣車をただ迷惑な存在だとしか思っていない。

*8:政治家は票につながるなら、すぐに動いてくれるよ、と言う口の悪い人がいる。ただ、釣りをしたことのある人ならわかると思うが、釣れるかどうかはもちろん潮の変わり目などで食い気が立っているということもあるが、魚がいるかどうかが第一だ。我々は魚ではないが、そういう方にはそう答えたい。

*9:40過ぎくらいに見えた