ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

安宅和人: 脳神経科学とマーケティングの間に棲息

Pandemic-readyな社会に

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Shelburne Farm, VT, USA
LeicaM(typ240), 1.4/50 Summilux, RAW


先日、国交省/日本みち研究所の松田和香さんに受けたインタビューを、昨日、土木系のプロの方々が読まれる「日刊建設工業新聞」に特別提言記事として載せて頂きました。なんと寛大なことに転載許可をいただきましたので、共有させて頂ければと思います。(松田さん、素敵な記事とご手配ありがとうございました。)来週、後編が出る予定です。

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(松田)
著書「シン・ニホン-AI×データ時代における日本の再生と人材育成」では、様々な観点の分析結果から日本の現状への危機感が述べられています。この本はコロナ前に執筆されたものですが、コロナ禍を踏まえた現状に対してどのような感想をお持ちですか。



(安宅)
コロナ禍という言葉自体があまり好きではありません。「下」ならわかるが、「禍」は言い過ぎです。人類史を振り返れば、ペスト、結核天然痘エイズは桁違いに危険な病気です。天然痘にかかると3~4割、結核は発症すると1割以上が死亡するといわれています。人口8.5億人以上が生きるアフリカのサブサハラ(サハラ以南)は、未だに死因1位はエイズ。既に3,300万人も亡くなっています。14世紀にペストが蔓延したフィレンツェやロンドンでは数年の間に人口の7~8割、ヨーロッパ全体でも人口の6割が亡くなりました。COVID-19がこれらのレベルの感染症災害になる可能性は低いでしょう。危険なことは確かですが、歴史的に見れば、フェアに評価されていないのではと思います。


感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)

感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)



(松田)
伝染病はなぜ発生するのでしょうか。

(安宅)
現在、伝染病が発生しやすい背景は大きく二つあります。一つは、地球上の大型生物の9割が人間と家畜になってしまい、人類と野生動物の生活空間の重なりが大きくなってきたことです。人類が野生動物に接しすぎているため、自然宿主からうつってしまいます。COVID-19はコウモリ由来と見られています。エイズウイルス(HIV)はSIV(サル免疫不全ウイルス)由来で、やはり野生動物からの広がりです。もう一つは、温暖化が極めて進んでいること。氷土やツンドラが解け、これまで眠っていたウイルスや細菌が噴き出してくる可能性が高いと考えられます。感染症は今後もっと増えてくるでしょう。現にこの40~50年で感染症の発生は加速化していて、デング熱やエボラ熱、SARS重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)など、今まで誰も聞いたことが無かった病気が大量に出てきています。背景には全てわれわれ人類の活動があります。


(松田)
今回の社会的な対応についてはどうお考えですか。

(安宅)
今回のCOVID-19発生後については、まさに二次災害、三次災害という事態になっています。感染拡大を抑制するだけでなく、このような状況下でも社会システムやお金の流れだけではなく、行政や電気通信などのインフラ、土木工事などもそうですし、食糧供給なども回し続けられるかが問われています。そちらの議論がないまま、単純な表面上のシステム停止策をとったため、世界はおかしくなりました。行政システムあるいは社会システムは先に起こる課題を見込んで法律やルールをつくっているので、今回のような不連続事象が起きた時に対応できないのです。もっともここまで不連続なことが連続的に起きることも想定されていなかったのですが。不連続事象への対応策が社会的に強く求められているのに、古いシステムで無理やり回そうとしているので、めちゃくちゃになっていますね。


(松田)
本質的に、どのような対応をしていかなければならないでしょうか。

(安宅)
Pandemic-ready*1な社会にしておかなければいけません。冷静に考えればSARSやMERSの 頃からやっておかなければいけなかったでしょう。いずれにせよこのような感染症はまた来ます。今回のCOVID-19さえしのげばいいと思っている発想や議論があまりにも多く、なぜこれが起きているのかについて直視していなさすぎます。こういう状況が多発してもおかしくない社会で、どのような未来を残すのかが今問われているのです。本質的な改変を行う良いチャンスだと思うけれど、今は思考の浅さと近視眼性が異常に広まっている気がします。ウィズコロナの状況においては、COVID対応、基本コアシステム、OS的なインフラ機能、お金、ルール作りという5つの課題レイヤーと、それぞれに止血、治療、再構築というフェーズがあるはずです。目先の止血的な話は長くやるべきではありません。止血をやりすぎると、指だって死んでしまいます。再構築のフェーズ、つまり、今起きている変化に本質的に即した系につくり直すことが重要です。


後編はこちら
kaz-ataka.hatenablog.com


初出:2020年9月8日 日刊建設工業新聞 第10面
記事pdfはこちら

ps. Pandemic-readyな状況については4月にまとめた以下のエントリをご参考。開疎化はその文脈で考えて初めて真に意味のある話になります。

kaz-ataka.hatenablog.com

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*1:本年6月末にSony CSL所長の北野宏明先生と一緒に登壇した際に北野先生が使われた言葉