(Brazil 14より続く)
明日の朝は早い。'The Little Prince'(「星の王子様」)を読んでいるうちに眠りに落ちる。この徹底的な静けさの中にいると、王子様が降りてきて、僕に話しかけてくるのが聞こえて来るような気がしてくる。「本当に大切なことは目に見えないんだよ。、、、君はまだ大丈夫だよね。、、、数字だとか名前を聞かないと何も分かった気がしない、そんな大人に君はなってないよね?、、、」
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六月二十三日
朝四時、起床後シャワーを浴び、部屋を出る。人気のないロビーで待っていると、緑色の目をし、良く日に灼けた、そして人なつっこそうな顔をした小柄な男の人がトコトコやってくる。帽子をかぶっている。釣り師だ。ガイドである。握手を交わす。"So, you are going to fishing. Today, we are going to catch big fishes." (オーケー、それじゃあこれから釣りに行くわけだ。今日、僕らは大きな魚を釣る。)両手を肩幅ぐらい広げてそういいながら、ニコニコ笑う。期待と不安が錯綜する。僕が、テーブルの上の竿とタックルボックスを指さし、持ってきたんだ、と言うと、うんうん、"Just in case"(念のため)、そういってその竿も持って運転手のおじさんが待つ車に乗り込む。車には何本も竿が入っている。その先には随分大きなルアー。頭が真っ赤で身体が白いものと、青い大きなプラグ(魚の形をしたルアー)。出発する。
外は暗い。町は眠っている。街灯の下をくぐり抜け、マナウスの町を出、ひたすら北に向かう。トタンのバラックがしばらくまばらに見えていたが、間もなく森に変わる。すれ違う車など何もない。ところどころで犬が路上で寝ている。気付かないのか、動かない。よける。そうこうしているうちに、うとうとして、頭を上げると、目の前に豪奢な輝きが広がっている。紫が、赤が、青が、それらが一斉に解き放たれている。一日が開けようとしている。
桃源郷に通じる道なのか、魔境に通じる道なのか、辺りは霧に包まれている。路上で動物が寝ているのは相変わらずだが、犬ではなく牛に変わる。ところどころ森が大きく開き、草原状になっている。そこにはきっと燃やされた森の立木が残っている。牧場である。といっても柵も何もない。ただ空間が広がり、ジャングルが来たらそこで終わり、という明快さである。これが現れたり消えたりという風景が随分長い間続くが、それもいつの間にか消える。右にも左にも真正の熱帯雨林に包まれるようになる。あるのは前後に通じるこのか細い道のみ。ところどころ、冗談なのか、本気なのか、制限速度の標識が出る。80 km。ふと和まされる。
スピードが落ちる。まどろみから目を覚ます。どうやら着いたようだ。よたよたと車から降りる。長い間揺られて足が若干おぼつかない。湖の畔。霧に包まれて大きさが全く分からない。小さな駐車場の前に船着き場がある。左右に水の上に立った小屋。インディオ、カボクロ達が見える。カボクロはインディオと黒人の混血。モーター付きカヌーが何台か岸に停めてある。エンジンはヤマハ。こんな所に来ても当然のごとく存在する日本製品に目を開かされる。
土人の男の子が待つカヌーの一台に、竿だとか、クーラーだとかを下ろす。彼がどうも船頭だ。小さいけれど釣りがしやすいように椅子がある。乗り込む。出発だ。
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Brazil 16へ続く
(July 2000)