考えるということの本質


Leica M7, 50/1.5 C-Sonnar, RDPIII @Oxford, UK


この間、少々驚くべきことに、僕に本の推薦文を書いてもらえないかという話があり、パワーブロガーのちきりんさんの新刊を読んだ。「自分のアタマで考えよう」という本だ。

これが大当りで、引き受けて良かったと思う、とても素晴らしい本だった。

そこいらのPOPで使われることになると思われるその推薦文にも書いたとおり、これまで何度これと同じことを人に言ってきたかという内容が、彼女のしなやかで自由な、そして実に平易な文体で無数に書いてあるのだが、これがもうなんとも言えず、コクがあり面白い。

僕が何年か前に自分でも調べて、いつかブログに書こうと思ってたが放置していた、少子化問題についての彼女ならではの考察などは、そうなんだよ、と思うとともに、とても楽しめた。一言で言って、いくら生みやすくして一人一人が頑張っても、親の数を増やさないとダメという話なのだが、こういう検討を、彼女だとか僕が考える際に、当たり前のように行っていることが、考えるためのアプローチとして実に平易に書いてある。

それが素晴らしいと思った。何らかの量的な原因が明らかにされないといけないような時には、必須の技で、言われてみれば実にあたりまえのことなのだが、これが空気のようにできる人は非常に少ない。これまで随分多くの、一流と言われる会社で、教育レベルや事業経験的にも大変優秀な方々とお会いしてきたが、こと目の前のことになると、勝手に思考の幅が狭くなって、少子化の話のように、全体感を失った片手落ちの話になってしまうケースを多くみてきた。三月に書いた震災対応のための課題整理も同じ話だ。*1 こう言った技を意識的に肉化させたい人には稀有でとても有効な本だとおもう。

余談になるが、少子化については、僕的にはもう一つあそこに書いてあること以外に大きな課題があると思っている。それは晩婚化の生物学的な意味合いなのだが、何故か触れられていなかった。*2 それがこの聡明なちきりん女史の考察に含まれていないのは、編集的に話をスッキリさせるためなのか、そもそも社会的なタブーとして触れにくくなっているのか、などと考察するのもなかなかたのしかった。

考えるということの本質に関する彼女の考察に一つ至言があり、それも紹介しておきたい。今、出先のため手元に原稿(ゲラ)がないので正確には覚えていないが、「考えるとはインプットをアウトプットにつなげること」という内容だった。

これはもうまったくその通りで、僕らの脳や神経の構造の理解からも正しく、自分がこれをまったくgiven(当然のこと)としておきながら、どこにも触れてこなかったことに驚いた。そう、アウトプット、何らかの考えなり行動につながらないただの入力では考えたことにならないのだ。

詳しくはこの道の泰斗であるGordon Shepherd博士による名著The Synaptic Organization of the Brain (Oxford) をご覧いただきたいが、このような専門書を英語で読む人がそれほどいるとは思えないので*3、簡単に書いておくと、僕らを含む脊椎動物の中枢神経系は、基本的に三種類の神経でできている。

1) input fiber 入力ニューロン
2) interneuron インターニューロン(直訳すると介在ニューロン
3) principal neuron 出力ニューロン

で、脳とは何か、といえば、この三つの揃った場所だ。*4 入力ニューロンが様々なインターニューロンにつながるであるとか、インターニューロンどうしがつながりあっていたりするが、この基本構造は同じだ。

というのをぐっと眺めると、結局考えるというのは、入力をアウトプットにつなげることだという結論に達せざるを得ない。意味合いとして、どのようなアウトプットになるのかに繋がって、はじめて入力が生きる。考えた瞬間になる。そういう意味でいえば、腱反射のような「考える」というのもなくはないのだが、僕らの場合、インターニューロンが多いのだから(脳のニューロンの大多数はコレ)、できれば、もうちょっと意味合いを付加したいものだ。

なんてことも考察できる素敵な本だ。オススメです。

今日ご紹介した本と関連本

自分のアタマで考えよう

自分のアタマで考えよう

The Synaptic Organization of the Brain

The Synaptic Organization of the Brain

ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法

ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法

*1:こちらに至っては、今だに全体感を語られないのは驚くばかりだ。

*2:と記憶、、、もう一度読むと書いてある可能性もあり、、

*3:any serious neuroscientist must have this on desktopとまで言われる本なので、読むべき人は持っていると想定

*4:正確には脊髄も含む中枢神経系はこの構造をしている