現在の脳科学、脳神経科学で脳の活動はどこまで分かるのか (2)

前項より続く)



Contax T2, 38mm Sonnar F2.8 @Paris


fMRIは頭蓋骨を開けずに脳の活性部位を調べることが出来る、、、つまりヒトでも出来、なおかつ生理学的手法を身につけていない部外的な研究者でも参入できる、画期的な方法であることは間違いないが限界も大きい。


どこかに書いたかもしれないが、我々の脳内における神経の密度は高い。神経繊維を全て染め上げる方法がないためにそれほど完全な解明がなされている訳ではないが、現在のところ理解されている範囲では、cerebral cortex、すなわち大脳皮質の神経の密度はおよそ一立方ミリメートル辺り、3-5万程度(!)と推定されている。途方もない密度である。このそれぞれが密に絡まり合い、何らかの情報処理をして、今私が書くこのメモも読まれている訳だが、従って、その表面である一平方ミリメートルの活動を見ることは著しく平均化された活動だと言うことは言える。武道館とか東京ドーム一杯の人を1ピクセルの写真でとって盛り上がりを見ていると考えたらよい。そしてこれ(ミリメートル単位)が現在MRIで見えるほぼ限界的な解像度である。かなり緩い情報である。


また「脳科学、大脳生理学とニューロサイエンス」に書いた通り、MRIの場合、その1%にも満たない活動の有無による信号の差がどこから来ているのか本当のところよく分からないだけでなく、時間的な解像度は低い。神経膜のパルス的な興奮は、通常2ミリ秒、すなわち500分の1秒程度で消滅するが、MRIで行う解像度はかなり早いものでも2-3秒が限度、しかもその場合、上述の空間的な解像度は犠牲になり、更に悪化していることが殆ど。すなわち、交通量で言えば、一分に最大50台ほども通る激しい交通量の道があったとして、そこに対し20分間フィルムを開けっ放しにして写真を撮ったイメージ (1pixel) が一コマということになる。このコマ同士を比較するのであるから、当然非常に低い情報しか持っていない。実際の情報処理のスピードからかけ離れているため、何を実際のところ見ているのかと言えば、その領域は確かにたくさん何か興奮していたという痕跡でしかない。


また、これほど長い時間記録すると、通常脈などの影響で脳が動く(振動する)ためにこれがまた新たなノイズを生み出し、空間的な解像度が落ちることも無視し得ない課題。ちなみに、fMRIにおける信号の微細な差分は血中のヘモグロビンの酸素結合度から来ていると考えられ(ほぼ堅いが、本当のところはよく分からない)、直接的な神経膜の興奮を記録したものではない、かなり間接的な情報ということには留意しておく必要がある。


この信号が弱すぎる、すなわち活性化の有無での信号の差が弱すぎるときに三次元的に、どこが活性化しているかをもう少しクリアにみたいとなると出てくるのがPETだが、これはfMRI以上に間接的な情報をベースにしているのが課題。通常は特定の放射性物質が使われて局在しているかどうかによって活性部位を調べており、本当の神経の興奮を見るものではないのだ。最も典型的に使われているのはグルコースという糖を放射性ラベルしたもので、その三次元的な映像を通常、CTやMRIの画像に載せたものが皆さんが見ている画像だ。(注:PETには基礎構造を見る能力がない。)


なお、これはなぜか他で語られているのを見たことがないが、いずれの手法を考えるにしても、脳神経系のエネルギー消費の大半は「情報伝播、処理そのもの」ではなく、「情報伝播、処理できる状態にする」維持のために使われていることは知っておいたほうがよい。



(3)へ続く



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以下、向学心に燃えるあなたのために超ハードコアな関連「基本」図書の紹介。これを書いている科学アカデミーメンバーのShulman教授自体が、fMRIの信号の解釈にたびたび疑義を呈している。(開発者の一人だと思うのだが、、、)結果的に少しずつ着実な進歩があるので良いは良いのですが、、、。