ある教育の未来に関する投げ込み

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@Manazuru, Kanagawa (Leica M10P, 50/1.4 Summilux ASPH, RAW)

全然ブログ的ではないのですが、今ほど終わったとある国の教育系会議*1でずいぶん多くのことを投げ込んだので、例外的ではあるのですが、ちょっと備忘録的に残しておこうと思う。以前、中高生にお話した時以来かな。(手を上げるたびに6度も発言の機会を頂いた座長の清家先生に深謝。)

  • 貧困層divide問題、、大学の奨学金もいいが、中高の進学校に入るかどうかの段階で、恵まれない環境にいるだけで多くの才能が実際には弾かれてしまう。都市部であれば中学受験、それ以外であれば高校受験。塾費のサポート、ローカルな面白い人によるメンタリング、outlier的な人材の受け皿になるdual的な場所&学校、、などが必要
  • 貧困層divide問題2、、博士課程については10兆円基金から奨学金が相当量出ることになったのでよかったが、修士課程についてもビジネススクールのようなprofessional school以外についてを優先的にサポート強化すべき。いくら博士課程の学生を守っても、大学院進学段階で才能が弾かれては意味がない(10兆円基金側の議論でもかなり訴えたのですが、投げ込みきれなかったのでこちらでも)
  • Gender parity(男女比同率化)、、、データを以前、男女共同参画学協会連絡会*2の先生方と解析したところ、修士、博士進学段階ではむしろ女子のほうがconversionが高いぐらいであり、社会での女性のrepresentation(社会における女性の代表性)改善のためには、高校 → 学部入学段階におけるgender inbalanceこそが本当の課題。主要大学入学者におけるgender parityを2030年ぐらいを目処に実現すべき。男女のIQ差などはなく、男性が入りやすいadmissionが行われているだけである。更に掘ると中高の進学校に男子校が多い問題にぶち当たるが、高等教育入学段階で補正してしまえばそれで解決する。(米国は1990年代末に実現しており、それでも30年遅れだがやらないよりマシ。人道的に正しいだけでなく、最も金のかからない経済活性化策の一つの可能性が高いと考える。拙著『シン・ニホン』第二章を参照)
  • Double major/Triple major的な人材(= 複数専攻の卒業要件を満たす人)を多く生み出すためには、学部学科別のundergraduate(学部生*3)採用の廃止と、経済や物理など専門ごとのmajor要件の設定が必要。かつて大学の予算確保のために生み出された講座制の軛(くびき)から外れるべきタイミング。ただ、二大professional schoolsである法学・医学が学部から始まっている問題を解決しようとすると暗礁に乗り上げる可能性があり、これらは後回しにして、二段階で解決することも現実解として検討すべき。過渡期においては入り口ではなく大学の出口段階で、こういう素養・専門を持った人を何人という数の管理も(certificate/major要件の設定だけでできるので)ちょっとワイルド案ではあるが検討の価値はある。
  • これからの未来に必要なのはDXというより"SX by digital"*4、、環境負荷を下げる経済成長、これこそが「新しい資本主義」の本質のはず。これらの科目横断的な視野をもたせる教育は中等教育、高等教育で必須にすべき*5
  • リカレント教育、、これは冷静に考えると人生100年時代においては必須だが、問題はこれをガチでやろうとすると会社をやめなくならなくてはならないなどかなり厄介なことが多いこと。5年に半年は自己訓練のためのサバティカルが取れる、週に半日は自己訓練に時間が取れるなどの仕組みを(法の整備を通じ)仕組み的に入れてしまうべき(これらをやっていても叱られない、首にならない仕組みを創る)
  • リカレント教育2、、非常に優秀な人間だが40過ぎて人生100年時代の視点で医学部に行こうと思って、予備校に行ったらあなたの歳で受け入れてくれる医学部など無いと言われた友人がいる。こうやってやる気も、才能も(この人の場合は多少の経済力も)ある人間が生まれ変わるチャンスを失っている。これを考えると、大学の定員は18-20ぐらいのいわゆる青年枠とリカレント枠の二重化を考え実施すべきでは?
  • 数理やデジタル素養以前に未来に対して希望を持ち、未来を変えようと思うひとであるかどうかが大切だが、それは「心のベクトル」というべきもの。これらが育まれるのは通常、大学のはるか以前、小学・中学・せいぜい高校。しかも教室での授業の中というより、そうでない時間が大切。サイエンス愛、数理愛、言葉に対する愛、自分が感じる美、大切にしたいもの、、こういったものをどうやって育むか。
  • 実社会で必要な人材像を考えることはたしかに重要。データサイエンティスト協会でもDS人材については整理中。ただ、日本の今の主要企業を前提とすべきではない。企業はリアルを中心としたオールドエコノミー、デジタル・サイバー空間側のニューエコノミー、リアル世界をデジタルで根底から組み替える第三種人類的なエコノミーの3つがあり、日本に集中しているのはオールドエコノミー側。テスラがエネルギーとモビリティを組み換え、SpaceXやOneWebが通信・配電網を根底から刷新しようとしている時に、日本だけを見ていると見誤る。せめてUSのLinked-inなどでどういう人達が活躍しているのかをみるべき。日本にはほとんどいないタイプの人材が随分といる。


とりあえず本日投げ入れたのは以上、、カナ?


(参考)

本書の3-5章はほぼ人材育成問題です。

kaz-ataka.hatenablog.com
SXを考えたいならぜひ。

ガチで教育界にとって天啓となると思われる一冊。広島県教育長の平川さんに帯を書いてもらえないかとご相談を受け、読んだらちょっと目鱗どころではないご本で震えました。少しでも教育改革を考え、行動している人なら胸に手をおいて考えさせられること必至。

名著。冒頭から心を鷲掴みされる。

kaz-ataka.hatenablog.com

*1:官邸の教育未来創造会議WG(もと慶應義塾 塾長の清家篤座長のもとジーンクエス高橋祥子さん、東工大 益先生、Spiber 関山さんらと参加)

*2:人文科学・社会科学・自然科学を含む全ての研究分野における日本の女性研究者のリーダーの皆様による団体

*3:学部に人を紐付けるこの言葉自体が問題

*4:SX = Sustainability tranformation

*5:ここではmentionしなかったがDAO+token economyはこの文脈で「⊿環境負荷/⊿新しい富」がGDP型の富、Market cap型の富と比べても圧倒的に環境負荷の低い富の創出という視点で重要