人生に影響を与えたコンテンツ


Summilux-M 1:1.4/50 ASPH, Leica M10P, RAW @Hakuba, Nagano, Japan


先日、人生に影響を与えたコンテンツ、特に本や映画、について取材を受けた。クローズドな場に向けたものであったため、そこで話した内容を少しご紹介できたらと思う。

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ここまでの半世紀をざっくりと振り返ると、もともとは分子生物学を学び、脳神経科学の分野に進み米国で学位(PhD)をとったが、ポスドクの最中に911があり、断腸の思いで帰国。

また約30年前からストラテジーマーケティング分野で飲料、小売、商社、ヘルスケア、クルマ、ハイテク機器、ペイメント、半導体、検索、メディア、広告、国の産業戦略、AI戦略、人材育成などなど、B2C/B2B/public、幅広い分野の戦略立案、商品・ブランド開発、立て直し、事業開発に深く関わってきた。

一方、デジタル/データ×AIの世界に様々に関わり、上とも重なるが社会レベルでも仕掛けるようになって約10年。足元の戦略立案やデータ、サイエンス部隊の統合・運営、研究所機能からはじまり、気がついたらDS協会の立ち上げ、数理/DS/AI教育、国のAI戦略、デジタル防災、10兆円基金など随分といろいろなことに携わってきた。

思い起こせば前職で少なくともAPAC(アジア太平洋地域)で最初の本物のビッグデータを利用したDBM (database marketing) のプロジェクトに立て続けに入ったのが1995の春*1、あの年、インターネット人口が20万人と言われた当時の日本で最初の大型ISP立ち上げにも携わったので、そこから考えれば28年近い。

都市集中型社会に対するオルタナティブ検討を「風の谷を創る」運動の仲間たちとはじめてちょうど5年。文化・全体デザイン、空間デザイン、インフラ、食、森、ヘルスケアなど12のサブチームでの研究が進む一方、悪影響が想定されるためあまり正確な土地の名を上げることはできないが、当初予定地とは異なる複数の土地で具体的な検討が立ち上がりつつある。

aworthytomorrow.org


こんなちょっとcomplexity高めに見える自分の人生の中で、自分の価値観の礎につながっているようなコンテンツをいくつかご紹介できたらと思う。

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子供の頃、、自分が育った本当に古くから続く漁村というべき田舎では、当時TVは民放が2つしかなく、友だちと遊ぶ、釣りと絵を描くこと以外は、まさに本こそが生きる喜びだった。文字を覚えたのは早く、中学校に入るぐらいまでは毎週図書館で家族のカードも使って週6冊の本を借り、本とともに生きてきた。自分に影響を与えた本を数えだすと正直きりがない。

  • 多分一番好きだった絵本の一つ。小学校に入るか入らないかの頃、もう数えられないほど読んだ。今から考えれば、風の谷を創る運動の発想の源はこの辺にあると思う。

  • これも小学校低学年の頃、本当に繰り返し、暗記するほど読んだ本の一つ。うわばみが蛇を飲む話、お花を守る話など、本当に好きだった。大学生ぐらいになって読み返すと結構違う印象でびっくりしたのを覚えている。


もともと絵かきかサイエンティストになりたかった自分は*2、小学校の高学年の頃、モジリアーニとゴッホの絵をみてかなり衝撃を受け、どのように自分が成長しても、このような独自の世界に到達しうる感覚が直観的に持てなかったこともあり、絵かきでいくことは諦めた。

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かたや、人との感覚の違いなのか異質性、ズレの感覚が自分から離れることがなかった僕は、「人と人はそれぞれどうして違うのか」に相当長きにわたり興味があり、それはどういうサイエンスであればたどり着けるのだろうかと次に随分と考えた。

人がひとりひとり違うというのはどういうことなのか、については、自分なりに考え続けた結果、確か高1のときに突然悟ることがあり、それはどうも一人ひとりの「知覚」の違いによるものなんだと思うにいたった。この10年余り、随分多くの人に紹介してきたユクスキュルの環世界の話もこの中に入るだろう。知覚とは感覚器から入ってくる様々な周囲の情報を総合して、その意味を理解することとざっくり言うことができ、これが僕の理解では知性の核心にあるものだが、それについてかつて取りまとめた論考も上げておければと思う。


比較文化文化人類学もとても面白かったが、これがサイエンスになるという感覚がうまく持てなかった。レヴィ・ストロース「野生の思考」にでてくるマテ茶にいずれ大学院生になって、人生の師匠であり、今年逝去された日系ブラジル人である山根徹男先生に出会い、ハマることになる。


精神医学については、相手のまとう世界にすっと馴染む体質を持つ僕のような人間、しかも心がいろいろなものに揺さぶられる、感じやすい人間には到底向いているとは思えなかった。きっと患者さんと自分が同化してしまうだろうと思ったといえばわかってもらえるだろうか。

またその世界はいわゆるpractitioner(実践家)の仕事であり、科学的な「知覚の掘り込み」に向かうようなものにはかなり遠そうに思え、こちらも違うなと思うに至った。手先が器用だったので、手術とかは恐らくうまくなる最低限の素養はあるかもと思ったが、僕のように何事にも感じやすい人間が医学を学ぶというのは全く向いているようには思えなかった。

深層心理学フロイトユングの世界も随分と高校の頃、入れ込んだ。とはいえ、フロイトよりも自分の肌にあうとおもったユングの到達した世界は、なかば密教であり、これであれば弘法大師 空海の教えを学んだほうがいいのではないか、であればこれはサイエンスというより、ことなる瞑想の延長のような世界なのでないかと思った。なお、心理学は学習のモデルなどとても興味深かったが、必ずしも証明ができない仮説とモデルがちょっと当時の僕のイメージでは、サイエンスにしては少し多すぎるように感じ、一旦、自分の選択肢から落とした。


青春らしい悩ましさももちろんたくさんあり、随分の本を読んだ。忘れられない一冊を選ぶのは難しいが、フロムといえばまずは恐らくこれ。名著中の名著。イヴァン・イリイチの「脱学校の社会」と合わせて読むのがオススメ。


僕の手元にあるのは白水社串田孫一訳ですが、いつ開いてもしみじみと考えさせられ、元気になる一冊。「薪も燃やさなければ腐る」は不滅の名言。


ボストンの郊外の森に一人一年、一般的な社会から隔絶されて生きた人の考察。奇人変人として生きていいんだと、それこそが曇りのない目で世の中を見ることなんだと勇気をくれた一冊。どこでもいいから開いて見るだけで心が洗われる。


大学生のときに、奥付の発行日前に並んだ出版したばかりの本を立ち読みで72ページも読んでしまい(二段組本なので新書一冊分ぐらい)、到底読み終えることができないと、当時の僕の財布には明らかに高かったけれど、泣く泣く買って、しゃぶるように読んで震えた一冊。教養とはなにか、人の心を育てるとはなにか、についてIvy leagueなどアメリカ東部の名門大学で長年教えてきたブルーム先生の語りがしみる。


随分と長くなったので一旦ここで(続く:おそらく。。)

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続編です(12/25 10:55am 追記)
kaz-ataka.hatenablog.com

*1:基幹系からデータを引き出すのがどえらく大変でした。。

*2:じっくりと事実に向かい合ったり、思索をし、知恵を出すこと、事実の背後の何かを解明すること、そこから意味合いを出し、商売のお役に立つことは好きだが、商売人になること、ビジネスパーソンになることはそもそも自分の血をあまり沸き立たせるものではないことはずいぶん小さいときから自覚していた

First Love


1.4/50mm Summilux, Leica M10P, Ebisu, Tokyo


6日ほど前、思わず以下のようにTweetしてしまった。

若い姿を演じた八木莉可子さんと木戸大聖さんの輝きはまばゆく、濱田岳さんの作る間合いと空気感はすごいものだった。美波さん演じる妹もリアリティと質的存在感が素晴らしかった。

あれほど魅力的で存在感のある、小泉今日子さん、夏帆さん、向井理さんがそれぞれしっくりと馴染んでいるのもうれしかった。

加えて、綴(つづる/荒木飛羽)と詩(うた/アオイヤマダ)の若く強く多重奏的な存在。、、、うたを綴る、それってまさにこの作品の主題。

どの方も声が素晴らしく、楽器の奏で合いのようでもあった。監督が演技だけでなく、喉も大切に人選されたことがわかる。

この作品には3つの大切な出会いと愛が現れる。若い主人公の二人にまず起きる出会い、おとなになった主人公に深く染み入るように起きる出会い、そして主人公の子である綴に起きる出会い。この3つが絡まり合い、影響しあい話が進んでいく。

とにかく絵が美しく、フレーミングも完璧。色と明暗の出方、画像の粒子感は銀塩*1で撮っているとしか思えなかった。入念にミルフィーユのように組み上げられた世界の再構成が実に繊細で無理がない。時間効率視点で間合いを飛ばして観る人が多いようだが、そういう方々には到底楽しめない作品でもある。

主役のお二人、寒竹監督、出演者の方々に加えて制作チームの方々に心から感謝。


(参考)銀塩とデジタル写真については以下をご参照
kaz-ataka.hatenablog.com


作品名のもとになっている宇多田ヒカルさんの音楽は言うまでもなくfantastic、まさにkeynote(基調となる音)。実際にかかっていようがいなかろうが、全編に脳の中で反響し、聴こえている。

First Love

First Love

初恋

初恋

この作品にともなう宇多田ヒカルさんのFirst Love/初恋 (完全生産限定7インチアナログ盤) (メガジャケ付)はこちら)


これは9本繋いだ映画というべきものであり、これまでにない映像表現をNetflixというプラットフォームが生み出したとも言える。映画同様、いつまでも観られる作品として残して欲しい。

ちなみにTwitterで #FirstLove初恋 と検索すると世界中の各地からかなりの量のTweetを観ることができ、この作品が世界的に愛されていることが生々しくわかる。

https://twitter.com/search?q=%23FirstLove%E5%88%9D%E6%81%8B&src=recent_search_clicktwitter.com


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僕にはめったに無いことだが、見終わって造り手のみなさまの録画を拝見した。

youtu.be
youtu.be

佐藤健さんがほぼ一年この作品にかかりきりだったと話をされているのを見て思ったのは、いま日本の映像づくりに足りていないのは、十分なお金と時間なんだな、若い才能を理解し支えうるだけの懐の深い支え手なんだなということ。世界レベルの作り手は監督も俳優もちゃんといる。

先日まで行われていたワールドカップ同様、これらは広い業界の広がり、社会の熟成がなければそう簡単に生まれるものではなく、これは本当に誇るべきものだと思う。

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で、この内容のTwitterをポストをしたら、既存の媒体の体力がないからというようなコメントをする人がいらした。が、TVキー局の展望については以下のエントリ通り、14年前にはほとんど歴然としていたと思う。

kaz-ataka.hatenablog.com

世界的にみても、iab Canadaのレポートをご覧いただければ分かる通り、メディア力の代替指標としての広告市場規模は北米では9年前の2013年にTVがインターネットにトップを受け渡している。2022年の場合、世界のAd市場はざっくりTV $170BGoogle $168B(≒ TV総市場)、Meta $113Bだ

単純に日本では業界外であまり認知されていないだけということと、日本では広告出費のシフトが視聴時間のシフトに沿っての進みが遅いだけのように思う *2。米国ではさらにTikTokYouTubeに媒体としての広告収益で遠からず抜き去るという予測もある。

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話を戻そう。この国に、これだけのものを生み出す才能は十二分にいる。これを確信できただけでも本当に大きな収穫だ。

とはいえ、ゲーム同様、潤沢な投資を行って世界的に広く回収する仕組みをどのように持てるのか、、それがこの作品の突きつけているもう一つのkeynote(基調音)だと思ったのは恐らく僕だけではないだろう。


ps. 本エントリはtwitterfacebookに投稿したものに大幅に手を加えたものです。

Facebook


(1/15/23 22:35追記)#スラムダンク を同じ日に3度連続で映画館で見たという親しい友人がいて、原作を読んだことのない僕もIMAXで観た。とても良くていま原作を読んでいるが、この主人公の #桜木花道 (さくらぎはなみち)の #晴子 (はるこ)の一言から始まる変化が #FirstLove初恋 の #並木春道 (なみきはるみち)と重なりすぎると思うと名前にも大きな重なりがあることに気づく。たくさんのオマージュがこの作品には織り込まれている。

*1:銀塩フィルムのこと

*2:ワクチン接種の広がりにより、ほぼ落ち着いたCovidで事実に即してマスクを外せないのとも似ている(参考)この国ではファクトや論理より空気のほうが重い - ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

空気に飲み込まれたくない中学生、高校生のみなさんへ

Chinkokuji-temple, Munakata, Fukuoka, Japan Leica M10P, 1.4/50 Summilux, RAW


(これは10/30のエントリ「この国ではファクトや論理より空気のほうが重い」からの抜粋です)


データや情報はメディアに頼らず自分で元ソースから見て考えることが大切です。それも一つだけではなく、ここで行ったように何重にも複数の情報を横断的に比較しないと意味がわからないことはたくさんあります。これらの読み解きや確認すべきポイントはどこかにまとまっているわけではありません。その領域についてのある程度の基礎知識を持った上で、全体感を把握しつつ、狙いを定めていくのが基本です。ざっくりとした地図を持って入る探検に近い感じです。

感染者数のような同類に見える数字も同じ母数(例えば極端に人口組成が変わらない前提での人口10万人など)同士になるように、あるいは同じ割合で比較してはじめて意味があります。約1,400万人の人口を抱える東京都で感染者数が多いのは当たり前です。%は何を何で割っているのかを理解しなければ比較することはできません。A/Bの分母分子が同じ性質なもの同士で比較できているのか常に確認しましょう。本当にこれとこれを比較して意味があるのかを常に考えながらやってみることが大切です。(これをapple to appleとよく言います。)

幸い今の時代には「検索」があります(20世紀にはなかった社会インフラです)。検索はインターネットの力、莫大な計算機リソース、驚異的なAI技術を駆使して作られたものですが万能ではありません。とはいえ、キーワードの組み合わせ方など、調べるのが上手くなれば適切な情報源に辿り着くには大体のケースで数分もかからないようになります。これにも慣れていきましょう。そうすることで与えられたものだけでないことからモノを考えることができるようになっていきます。その上で検索で出てきた原典の論文や本まで調べられるようになれば素晴らしいです。

あと割とすぐに気づくと思いますが大切な情報は日本語では手に入らないことがとても多いです。もしくは偏った情報、切り取られた情報が多い。英語で調べられるようになると100倍力になるのでオススメです。要約やまとめサイトはかなりのバイアスがかかっているのが普通なのでいきなり見るのはおすすめできません。まずはそれよりその領域の基礎的な知識を確認したほうが探検の役に立ちます。SNSはもちろん、紙の本ですらあやしい内容は多いです。できるだけ加工されていない情報(一次情報)を確認するとともに、メディアなどの権威に振り回されず「健全な懐疑心」を持ってすべての情報源にあたりましょう。

(参考)Wikipediaがまとめた有名情報源の信頼度、、、Encyclopædia Britannicaですら△です。
Wikipedia:Reliable sources/Perennial sources - Wikipedia

その手に入れた情報を元に点と点をつなぎ、元データそのもの以上の何かに自分で気づいた時、皆さんは本物の力を手に入れたことになります。人がやった分析結果を理解するのは、自力で分析するより圧倒的に簡単です*1。しかし、欲しい情報はないことの方が圧倒的に多い上、信頼できる分析は思いの外少ない(学術論文は概ねOK)。自分の意思で目的を持って答えありきではなく、現在起こっていることを発見する力を持つ人は大人でもほんの僅かしかいません。踏み出してみましょう。きっと楽しい世界が待っています。世の中で言われているのと違うことがいかに多いか気づくでしょう。

この手に入れたファクトはまずは近くの人に共有して、そしてその意味合いを考えてみましょう。誰も気づいていないと思えばどんどんと発信していきましょう。ここまでこれば君らはもう心は立派な大人です。


kaz-ataka.hatenablog.com

kaz-ataka.hatenablog.com

*1:とはいえ、データそのものの性質、分析の狙いと結果、その意味合いを正しく理解できる人は、それが比較的簡単なモノであっても実はとても少ないです。特に馴染みのある分野外のものを見るのは相当に困難です。これが世の中に専門的な訓練を受けた専門家が色々いる(社会的に必要な)一つの背景です。

この国ではファクトや論理より空気のほうが重い


Chinkokuji-temple, Munakata, Fukuoka, Japan
Leica M10P, 1.4/50 Summilux, RAW


先日、富山県の県立高校の先生、約2,000人の前でお話する機会があった*1。年に一度の合同研修の日ということだった。中高の教育システムとはあまりcompatibleではなかった僕のような人間が、先生方の前で話して欲しい、と頼まれる日が来るとはとかなりオドロキだったが、旧知の教育委員会の先生に1年も前からご依頼され、お受けせざるを得なかった案件でもあった。

自分が高校生だったら、先生方に何をわかっていてほしいだろうかということを考え、世の中について、必ずしも正しく理解されているとは思えない、理解されているなら現在のような教育になっていないだろうと思ういくつかのポイントになると思うことをお話した。

  • 曰く、世界は人口調整局面にあり、人口が減ることを前提とした社会を作る必要がある。これは教育だけでなく、あらゆる分野で起きる。この展望を受入れ、その変化とソフトランディングを担う人材を育てていく必要がある。
  • 曰く、既にデータやAIを使い倒したプラットフォーム企業が世界の企業価値のトップになって久しい。これはこれらの企業が最も「新しい不可欠な価値を」生み出しているということを意味している。電気や化学の登場と同じで、どれほど懐かしく思ってもデータやAIがない世界に戻ることは考えられない。したがって新しく仕掛ける側の人がいなければそうとう厄介なことに。そのためには価値観と基礎素養の刷新が必要。
  • 曰く、New economy全盛に見えるかもしれないが、既に第三勢力の時代に突入し、あらゆる産業で産業の境が組み変わっていきつつある。例えば、富山を代表する産業である製薬。この数年間、世界で最も多くの人の命を救ったクスリはmRNAワクチンだが、これは実質的にbioinformaticsとgenetic engineeringの産物。薬草、化学合成、抗生物質探索とは相当に異質。この変化はクルマ、エネルギー、農業、金融、娯楽などあらゆる分野で起き始めており、産業は一見同じだとしても、全く異なる大局観と見立て(perspective)が必要になる。
  • 曰く、この変化を受け「単独の知」の時代は終了し、collective intelligence集合知の時代に突入している。人と人とのかかわり合いから現状と課題を知り、価値提供の方向を見出し、人を動かすことが大切になる。専門的な深さも大切だが、特定領域の専門性だけでは課題を解決ができない上、様々な価値をappreciateでき、様々な人とのつながりから楽しみつつ価値を生み出していく力が大切になる。

(参考)
kaz-ataka.hatenablog.com

つまり、新しい展望と変化が次々と生まれる久しぶりに大変に希望に満ちた時代であり、これを切り開く力を持つ人たち、これを楽しみながら仕掛ける人たちが社会の宝になる。そのための人間としての基礎素養を身につけるべきときが中等教育、つまり中学と高校にあたる。中等教育を終えると約半数の人が社会に出て働き、約半数の人が大学にいって更に新しい知的課題の実情に向かい合う。社会にこの新しい基礎教養の育成を期待するのは少々ワイルドすぎ、大学に入ってからガラガラポンでは多くの人は受け入れられないと考えられる。

ということで、こういう変化を生み出せる人を育てられるのか、こういう変化を生み出す会社が欲する人を育てられるのか、、これが中等教育においても人材育成におけるkey questionであると。

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つぎに先生方にお話したのは、ここでデータとかAIとかと言う前に皆さんに考えていただきたい話がある、ということだった。


この夏、オランダとベルギーを周ってきた。クルマを借りて8日間で1000キロあまり移動し、加えてまち中ではバスやトラム(路面電車兼地下鉄)にも随分乗った。そこで見た風景はこんな感じだ。どこに行っても基本マスクをしている人はいない。滞在中、万単位の人を見たと思うが、おそらく90代以上の車椅子の老人が一度しているのと、アジア人がほとんどいない中、おそらく中国から来た人が一人、青いマスクをしてゴッホ博物館で見た程度だ。


A tram in Amsterdam , Netherland (August 2022)

かたや、駐車場やバス、トラムで現金を使えるところに遭遇することはなく、しかもPINコードでクレジットカードすら使えず、この写真の通り、非接触のクレジット払いばかりだった。カフェやレストランに行っても、非接触が基本で、PINを打ちたいというと、おお、と驚かれる感じだった。Withコロナ時代に即して社会は刷新、そして気持ちよくマスク無く暮らしているということだ。

で、東洋の某国に戻ってきたその足でみたとある駅での風景がこれだ。


Shinagawa station, Tokyo, Japan (August 2022)

おなじスマホで撮ったのかと思うほどなぜか陰鬱な印象を受ける*2。これは光の具合もあるが、誰もがマスクをし、朗らかな表情や雰囲気が見られないことが大きい。この風景から推定されるのは、日本はいまだに集団免疫が形成されておらず、相当に毒性の高いCovidがはびこっているということだ。

翌日、代官山にクルマで行った。駅そばの駐車場に停めようとしたが、クレジットカードが使えず(使えるはずだが故障)、現金払いしか受け付けない状態になっており、近くの郵便局でお金を下ろして支払いをした。その後も都内の様々なところ(特に自販機、駐車場、街角のお店)で現金しか受け付けない場面が様々に繰り返され、暗澹たる気分になったことは言うまでもない。この社会はこれだけの変化がありながら、やるべき革新をおこなわなかったということだからだ。Covidの発生は構造的な背景によるものであり、パンデミックはいつ何時また発生するかわからないのにだ*3

データを見てみよう。この東京都のモニタリングデータから見て分かる通り、たしかに昨年の夏と比べるとピーク時7倍近くのCovid感染者が発生した。


(第101回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年9月8日)

しかし、今年の夏の新規重症数は昨年夏のせいぜい1/4程度だ。つまり新規重症/新規感染は約1/30まで落ちたということになる。実際に単純にピークの感染者数とピークの重傷者数を割れば約1/4000(0.025%)であり、ほぼインフル並み(約0.03%)といっていいレベルに落ちている*4。風景から推定される姿と事実は逆だ。

2020年春「Withコロナ」という言葉を言い出し、このコロナナーバスな状態が少なくとも2年程度は続くと僕が言った時、厳戒的な状態から脱出する前提は社会に集団免疫が形成されることだった(参照:当ブログ「そろそろ全体を見た話が聞きたい2」 2020-04-04)。

kaz-ataka.hatenablog.com

なぜならパンデミックがロックダウンのような社会のスクラム停止ではなく、本質的に落ち着くためには特効薬が生まれるか、いわゆる"集団免疫 (herd immunity)" が形成されるしか方法が無く、結核やインフルの事例から分かる通り、特効薬の開発は数十年単位で掛かる可能性が高いからだ(実際そのとおりの展開)。集団免疫は自由落下(free fall)的に自然感染が広まるか、ワクチンを片っ端から打つ(ロールアウトする)ことのどちらかによって社会的な獲得が可能になる。集団免疫は最低6割、可能ならば8割を目指すべき、というのがCovidよりも感染力の高い麻疹の事例からほぼ自明だった。

(参考)このあたりの議論は以下に収録された論考にかつて整理した。


ちなみに、現在は、といえば昨年秋からほぼ8割の人がかなりの免疫力=抗体価を持つ、いわゆる集団免疫獲得(当初は2度、現在は3度のワクチン接種もしくは、接種+自然感染による発症)状況にある。これは接種率、抗体価の低下、これまでの感染者数からのおおよその値だが、実際にそう考えなければ、デルタと比べて致死率 *5 が下がっているわけではないというオミクロン*6で重症化する割合がここまで桁違いに落ちることは説明困難だ。昨年夏の米国CDCの調べによるCovidワクチンの2度接種で入院、死亡リスクが約1/25になるというデータともオーダー的に合致している(拙ブログ「第5の波」に掲げたデータをご参照)。

なお、あいにくCovidの場合、終生免疫になることはなく、ワクチンの効果は接種から日が経つと下がることがわかっている(感染、発症も同様)*7。したがって、集団免疫の度合いは日々刻々と変化し、インフル同様に定期的に「ワクチンを打つか、ある程度免疫のある状態でCovidに罹る」ことが必要だが、それを守っていれば目標の状況を維持し続けられると考えられる。欧米の各国がマスクをとっている背景はこれだと考えられる。凶暴な株が発生すればすぐにアナウンスされ、方針は変えられるだろう。


デジタル庁 新型コロナワクチンの接種状況 (as of 10/30/2022)

もちろん全人口に対して、米国の麻疹同様、ワクチン接種率が9割まで上がれば、重傷者、致死者の数をもう1段下げられると考えられるが、終生免疫ができないこと、生理的にどうしても打てない人がいることを踏まえると、この辺りの維持が現実的な値なのではないだろうか。一方で変異しやすいこのある種の風邪ウイルスであるSARS-Cov2はインフル同様、そう簡単に消えることは考えにくい。つまり、現在よりも目に見えて劇的に状況を改善することはそれほど現実的ではなく、いまぐらいの状況で手を打たないとずっとマスクは外せないことになる。

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昨年夏、本ブログとしては例外的に喫緊課題についての啓蒙、啓発活動を行った。デルタ株がいかに危険であるかということ、またウレタンマスクはいかに意味がないかということ、一本でもワクチンを打つことがどれほどいま大切であるかということを説明し、訴えた。この時は日本国の約7割の人がワクチン接種をまだ一度もしておらず、特に50代未満は医療関係者以外、ほぼ無に近い丸腰(無防備)の状況。デルタというかなり毒性の高い株が現れ、50代は25%、20代ですら2%もの人が罹ると中等症以上になり、20代の死者も出たという恐ろしい状況だったからだ(参照:「第五の波」2021-08-04)。

kaz-ataka.hatenablog.com

たしか数日で10万を超えるアクセスがあり、翌日、とある事務次官から直接電話があったのを今もよく覚えている。だが、当時は路上でもマスクをしていない人が当たり前のように相当数存在し、渋谷の宮下パークのわきの飲み屋街などは、Covidがあるのが信じられないというレベルで若者たちはほぼ誰もマスクをしていなかった。しててもウレタンマスク。

デルタが来そうとなった7月後半から、菅総理の決断と河野ワクチン担当大臣の見事なリーダーシップにより、人口比率的に世界最速(当時)でワクチンロールアウトが進み、第五波は驚異的なスピードで鎮火したが、あれがなければ本当に戦争並みの被害者が出てもおかしくなかっただろう。お二人はきっとシン・ゴジラ統合幕僚長同様「礼はいりません、仕事ですから」ときっとクールにおっしゃると思うが、潜在的に救った命の数を考えれば国民栄誉賞ものだと思う。

現在、明らかに意味のないオープンエア空間ですら、この国の人たちの大半は路上でもマスクをしている。驚くべきなのは大きなリスクなど本当に考えられない郊外の疎空間ですらそうであるということだ。都市部に関しては、2021年夏、強毒株であるデルタが空気感染することが明らかになりつつある一方で、集団免疫がないときの対応としては実に正しかった。が、当時それを行わず、今それをやっているというのは荒唐無稽だ。マスクがあると化粧しなくていいので便利という理由でしていない友人女子が散見されるので、それは多少あるとしても男子は何のためにしているのだろうか。世界の主要国がワクチン接種下におけるWithコロナ生活に突入し*8厚労省のお達しが出ても変えられないというのはよほどのことだ。

一方、ようやくオミクロン対応のワクチンが生まれてきても、四度目のワクチンは打つ気がない人が多い。ワクチンの効果が落ちていくことを考えると、自然感染をするか、罹りたくなければワクチンを打ち続けることが集団免疫の維持のために必要であることが理解されていない。なぜこのような態度は許されてしまうのか。

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似た話がもう一つある。

ちょうど9年前、HPV(ヒトパピローマウイルス)の女子へのワクチン接種が中止になった。それはこのワクチンに対する恐怖が広まり、なかば社会がパニックになったからだ。しかし世界の主要国で普通に打たれ続けてきて億単位の接種者がいるワクチンが、日本においてのみ極端に害をなす可能性は相当に低く、あまり科学的な判断をこの社会が行えなかったことは明らかに思う。社会がある種のヒステリー状態になっていたため、厚労省としては致し方なかったとは思うが、なぜこのようなふうに社会が暴走してしまったのかが問題だ。

www.nikkei.com


林ほか「HPVワクチンをめぐる日本のツイッター上の賛否両論の対立と変化」


で、今どうなっているのかと言えば、明らかにHPVに感染している人が増え、更に接種をしていない年代の女子からは細胞レベルで異常を持つ割合が一時期下がったのにまたもとに戻ってしまっている。


Sekine M et al., Suspension of proactive recommendations for HPV vaccination has led to a significant increase in HPV infection rates in young Japanese women: real-world data. Lancet Reg Health West Pac. 2021 Oct 21;16:100300


Yagi et al., The looming health hazard: A wave of HPV-related cancers in Japan is becoming a reality due to the continued suspension of the governmental recommendation of HPV vaccine

子宮頸がんの診断数は年に約1.1万人、死亡数は約三千人(国立がん研究センターによる)。毎年漸増している(子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために|公益社団法人 日本産科婦人科学会)。次の図から分かる通り、ワクチンの効果は極めて高いことがわかっており、かつては二価だったが現在九価まででている(九種類のサブタイプに対応)。ワクチン接種によりこの多くが防げることは明らかだ。逆に言えば、ワクチン接種を止めてしまうのは潜在的に子宮頸がんの犠牲者だけで年間千人規模の人の命を失うことにもつながりうる。



Kurosawa et al., Long‐term effectiveness of HPV vaccination against HPV infection in young Japanese women: Real‐world data Cancer Science (31 January 2022)

また大きく誤解があるのはHPVワクチン = 子宮頸がんワクチン、という認識だ。実際には、子宮頸がんだけでなく、肛門ガン、舌ガン、陰茎ガンなど数多くの入り口、出口系のガンにHPVは深く関与している。逆に言えば、これらは数少ないワクチンで防ぐことができるガンの類だ。HPV感染は誰にとっても危険なものであり、実際には男女問わず打つべきワクチンであるといえる。


How Many Cancers Are Linked with HPV Each Year? | CDC


この2つの事例からわかることは、山本七平氏が『「空気」の研究』(1977)を出してすでに45年が経ち、21世紀に入って久しい現在ですら「この国ではファクトや論理より空気のほうが重い」ということだ。これは、行動規範だけを見れば、ほぼ途上国ということでもある。現在の状況を脱する、すなわち、空気、常識、権威で判断することが正義の時代を一刻も早く終了させる必要があるのではないだろうか。

何ら判断の軸がないというような特殊な事態をのぞけば、空気はあくまでファクトと論理の上にあるべきだ。ファクトや論理無く、空気だけで判断するコストは高い。ファクトや論理に基づくフラットな判断が出来ないのであれば、科学もデータサイエンスもあまり意味がない。どれほど解析ができても、これが出来なければ未来への影響は生まれないからだ。周囲の目や空気ではなく、ファクトを元に考えることができるか、正しくファクトから意味合いを引き出せるか、ということだ。これがデータドリブン社会の基礎であり、臭いものに蓋をする、長いものに巻かれる、とは全く逆の発想だ。

一点明確にしておきたいのは、僕は「空気を読む力」を否定しているのではないということだ。場を読み切って適切なところに適切に差し込む力は日本で育つ人の持つある種の魔法であり、特殊な技能と言える。「?」と思われるかもしれないが、僕の限られた経験でもこの力は国際的な場、様々な国の人が入り交じる交渉の場において実にパワフルだ。しかしその差し込みのためにも、正しく何がどうであるかをある程度、自力で判断できなければいけない。

これはちょっと前にも書いた「健全な懐疑心」の話と表裏一体であり、教育/人材育成の育てるべき最も根源的な能力の一つだと言える。その基礎的なマインドを中等教育が終わるまでに徹底的に打ち込むべきだと思うがいかがだろうか。

kaz-ataka.hatenablog.com

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富山ではそんな話をした。

実はもう一つ大きな話をしたのだが、それは余力があればまた出来ればと思う。

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ps. 更にこの議論は横に展開し、昨日はついに将棋の元名人が、終盤戦、30分ほどマスクをしていなかったということで、その最高位の戦いであるA級順位戦で敗退をするという歴史に残る残念な事件があった。

www.asahi.com

ルールはルールとはいえ、もっとも論理的な思考に強いはずである将棋の世界においてまでもが、事実を踏まえた判断をしないままルールが据え置かれていたということであり、たしかに将棋界は日本の文化を背負った空間であった、ということも言える。

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One more thing..

空気に飲み込まれたくない中学生、高校生のみなさんへ

データや情報はメディアに頼らず自分で元ソースから見て考えることが大切です。それも一つだけではなく、ここで行ったように何重にも複数の情報を横断的に比較しないと意味がわからないことはたくさんあります。これらの読み解きや確認すべきポイントはどこかにまとまっているわけではありません。その領域についてのある程度の基礎知識を持った上で、全体感を把握しつつ、狙いを定めていくのが基本です。ざっくりとした地図を持って入る探検に近い感じです。

感染者数のような同類に見える数字も同じ母数(例えば極端に人口組成が変わらない前提での人口10万人など)同士になるように、あるいは同じ割合で比較してはじめて意味があります。約1,400万人の人口を抱える東京都で感染者数が多いのは当たり前です。%は何を何で割っているのかを理解しなければ比較することはできません。A/Bの分母分子が同じ性質なもの同士で比較できているのか常に確認しましょう。本当にこれとこれを比較して意味があるのかを常に考えながらやってみることが大切です。(これをapple to appleとよく言います。)

幸い今の時代には「検索」があります(20世紀にはなかった社会インフラです)。検索はインターネットの力、莫大な計算機リソース、驚異的なAI技術を駆使して作られたものですが万能ではありません。とはいえ、キーワードの組み合わせ方など、調べるのが上手くなれば適切な情報源に辿り着くには大体のケースで数分もかからないようになります。これにも慣れていきましょう。そうすることで与えられたものだけでないことからモノを考えることができるようになっていきます。その上で検索で出てきた原典の論文や本まで調べられるようになれば素晴らしいです。

あと割とすぐに気づくと思いますが大切な情報は日本語では手に入らないことがとても多いです。もしくは偏った情報、切り取られた情報が多い。英語で調べられるようになると100倍力になるのでオススメです。要約やまとめサイトはかなりのバイアスがかかっているのが普通なのでいきなり見るのはおすすめできません。まずはそれよりその領域の基礎的な知識を確認したほうが探検の役に立ちます。SNSはもちろん、紙の本ですらあやしい内容は多いです。できるだけ加工されていない情報(一次情報)を確認するとともに、メディアなどの権威に振り回されず「健全な懐疑心」を持ってすべての情報源にあたりましょう。

(参考)Wikipediaがまとめた有名情報源の信頼度、、、Encyclopædia Britannicaですら△です。
Wikipedia:Reliable sources/Perennial sources - Wikipedia

その手に入れた情報を元に点と点をつなぎ、元データそのもの以上の何かに自分で気づいた時、皆さんは本物の力を手に入れたことになります。人がやった分析結果を理解するのは、自力で分析するより圧倒的に簡単です*9。しかし、欲しい情報はないことの方が圧倒的に多い上、信頼できる分析は思いの外少ない(学術論文は概ねOK)。自分の意思で目的を持って答えありきではなく、現在起こっていることを発見する力を持つ人は大人でもほんの僅かしかいません。踏み出してみましょう。きっと楽しい世界が待っています。世の中で言われているのと違うことがいかに多いか気づくでしょう。

この手に入れたファクトはまずは近くの人に共有して、そしてその意味合いを考えてみましょう。誰も気づいていないと思えばどんどんと発信していきましょう。ここまでこれば君らはもう心は立派な大人です。

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大人の方へ

まずは勇気を持ってマスクを取って人混み以外のまちを歩くことからはじめましょう。また新種の激しいパンデミック(いままでのワクチン接種や感染歴が無効になるようなCovid株も含む)が来たら、しばらくはまたマスクせざるを得なくなるのですから。

そしてもし可能なら、上の中高生の皆さんへのアドバイスをみなさんも少しずつやってみて頂ければ、そして周りの中高生がこういうスタンスでやっているのをぜひ励ましてあげて頂ければ幸いです。彼らが僕らの社会の未来そのものですから。



(参考)
中根千枝先生の歴史的な一冊

数理データサイエンスAI領域の基礎を確認したい人に第三回のDS検定です。申込みは11/6まで!
www.datascientist.or.jp

11/14開催 データサイエンティスト協会の年に一度のシンポジウムです。メディア・コンテンツ解析の産総研 後藤先生、エクサウィザーズの石山さん、AIcia solidの中の人、杉山さんなど日本を代表する専門家が集結。僕もスキル定義委員会のセッションに登壇します。しかも懇親会までセット。学生はオンラインは何とタダ。申込みは11/11まで。定員に達する前にgo! 笑
www.datascientist.or.jp

*1:1,000人入るというホールに約500人、オンラインが1,500名程度

*2:帰国当初、10人以上にただ写真を見せて、どう思うかと聞くと一様に同様のコメントを得ている

*3:後述の2020春の拙ブログエントリをご参照

*4:季節性インフルエンザの重症化率については第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年7月13日)資料6 を参照

*5:致死率 ≒ 感染率 x 感染時の重症化率 x(1-重症時の生存率)と考えられる。病院があふれると重症時の生存率が下がる。22年頭段階の米国では、以下のCDCの報告にある通り、オミクロンはデルタに比べ感染に約5倍しやすく、入院数が1.8倍に増大。これは感染時の入院率が約4割弱ということで、決して桁違いに入院率が下がっているわけではない。(そもそも感染性の高さのために致死数も増大) CDC : Trends in Disease Severity and Health Care Utilization During the Early Omicron Variant Period Compared with Previous SARS-CoV-2 High Transmission Periods — United States, December 2020–January 2022

*6: the mortality rate during the Omicron outbreak is still higher than at the peak of the Delta outbreak. Even with a higher fully vaccinated rate, the mortality rate during this period is still higher than the previous Delta outbreak. - Duong et al., Is the SARS CoV-2 Omicron Variant Deadlier and More Transmissible Than Delta Variant? Int J Environ Res Public Health. 2022 Apr; 19(8): 4586 より

*7:mRNAワクチンの特性に加え、インフルを超える多様性と変異性の高さの相乗効果によるものと推定される。詳しくは阪大 宮坂昌之先生の「新型コロナの不安に答える」 (講談社現代新書)をご推奨

*8:中国のみZeroコロナ施策で特殊

*9:とはいえ、データそのものの性質、分析の狙いと結果、その意味合いを正しく理解できる人は、それが比較的簡単なモノであっても実はとても少ないです。特に馴染みのある分野外のものを見るのは相当に困難です。これが世の中に専門的な訓練を受けた専門家が色々いる(社会的に必要な)一つの背景です。

"Bukkon-Densai" - Material spirit with Cyber tech

For a long time I have been talking about the coming era of the third force.

It all started in 2015, when I was invited to a meeting of the New Industrial Structure Subcommittee of the Industrial Structure Council (ISC) of the Ministry of Economy, Trade and Industry (METI) to understand the implications of the coming era and to consider necessary national initiatives and responses.

The Council was quite a distinguished group, including Mr. Nakanishi of Hitachi, who would later become Chairman of Keidanren, Ms. Namba of DeNA, who would become Vice Chairman, Mr. Kanemaru of the Future Architect, Mr. Kazuhiko Tomiyama of IGPI, Mr. Sato of Mizuho Financial Group, Mr. Yutaka Matsuo of Tokyo University, who was the first to alert us to the wonders of DLs, Ms. Kasumi Miyajima of Nihon TV, Mr. Takeo Doi of Keio Economics, Ms. Nanako Ishido of CANVAS, and many others. In retrospect, it was a terribly deep group of people. The chairperson was Motoshige Ito of the University of Tokyo. Incidentally, the moonshot concept also started with a suggestion made by Dr. Hiroaki Kitano of Sony CSL (currently Sony CTO), who was a special guest at one of the meetings of the Council.

The basic perspective that I presented to the Council seven years ago was that all industries would be transformed by the power of data and AI. Not only will many things be connected, but in particular, information identification systems, prediction systems, and execution systems, including image generation and picking, will all become automated and scalable. This will once again result in a quantum leap in human productivity. In addition to this period of technological innovation, the population has already entered an adjustment phase, and rather than the scale of business, it is the presence or absence of innovation for a hopeful future that will be the source of wealth, especially corporate value, which is central to the generation of wealth today. Of course, this is a strong version of Piketty's r>g from the previous year, i.e., that capital growth exceeds the growth of the normal economic scale. It all seems like common sense now (?). However, many people on the industrial side, who were not familiar with data and AI, found it valuable, and I made several additional presentations to deputy ministers and others.

At that time, I also mentioned that behind this change was the rapid evolution of information science, including massive log data generated by various Internet services and IoT devices, overwhelming computing power and bandwidth (increased by four orders of magnitude in 20 years) to enable its real-time utilization, machine learning, and algorithms such as deep learning, which had just emerged as actual services at the time. I also talked about the rapid evolution of information science, including machine learning, algorithms such as deep learning, which was just emerging as an actual service at the time, mass data processing, and mass data visualization technologies.

Incidentally, it was 2014, the previous year, when deep learning (DL) achieved remarkable results and caused a bit of a stir in the industry, a small part of which had been overworking machine learning, as if it was real. It is a history now that Google Photo, which came out a few months before I made this pitch (May 2015), was the world's first example of large scale DL implementation.

In the same year, Harvard Business Review editor Fumio Iwasa published a special issue on artificial intelligence, which was attracting a lot of attention but was in a state of confusion as to what it was. This is my article, which I threw in with my spare time. The comparison of human and Kikai (AI) using the axis of intelligence that I made here is still very much in my mind. FYI

I also mentioned that as of 2015, the industry is divided into the Old economy, which focuses on physical technologies and assets, and the New economy, which focuses on cyber technologies and assets, but that I think the next trend is obvious. Many people may be blinded by the rapid progress of the New economy side, such as GAFA , but a third type of industry (the third force) will appear at once in the unexplored areas that have the strengths of both physical and cyber, and they will renew the world and dominate it. This is the real battlefield, and the future of Japanese industry will depend on whether or not we can compete there.

In fact, many people thought that it would not be so easy for a company to overtake GAFA, but if you look at the market cap (corporate value) ranking, you now see that TESLA, which innovates the real world with its cyber strength, is one of them. It is now at a blindingly large scale, with an enterprise value of around 100 trillion yen (0.8 trillion US dollars).

At this time, I also mentioned that there are three ways in which a third force could emerge. First, from the upper left side of the old economy by taking advantage of existing physical world assets, from the lower right side of the new economy by taking advantage of cyber strengths, or by starting from scratch with a new idea. As I wrote in my book "Shin-Nihon (Japan Resurgence)” from the viewpoint of data x AI, Japan's strength of having many exit-oriented industries, as opposed to entrance-oriented industries such as image recognition, will be put to good use.


This industrial matrix, so to speak, has been loved in its own way since it first appeared, and even Nobuyuki Idei, the former CEO of SONY, who sadly passed away the other day, said to me, "ataka-san, this is it”.

Incidentally, there was a historic timing in the spring of 2017 when General Motors (GM), one of the world's three largest automaker groups (GM, Toyota, and VW), was matched by Tesla in terms of enterprise value. Based on the trend at that time, I was saying in most talk I gave at that time that Toyota, Japan's top company in terms of corporate value, the world's largest corporate value car maker (at that time), and our pride, could be overtaken in a few years at the earliest, but the atmosphere was not quite right.


In reality, however, those familiar with the stock market and asset management are well aware that Toyota was equaled in enterprise value by Tesla on July 1, 2020, and that there is now a fourfold difference between the two.

techcrunch.com


Many people thought that this was impossible, since the sales volume of Tesla was more than 100 times different from the three major manufacturers at that time. I told people in various places at the time that this was a story of the renewal inherent in the period of industrial innovation that manifested itself in corporate value, that the formula for generating wealth had changed, and that the same story would happen in every industry. After all, all they did was study and not do what they should have done.

Incidentally, as I have summarized in my blog before, so-called DX (digital transformation) means that companies on the old economy side are reborn as cyber companies.

kaz-ataka.hatenablog.com
"What is DX (digital transformation) ? -- a my old blog entry


Ultimately, they must be reborn as a third force type of company. The AI-Powered companies, the highest level of AI-ready companies, will be the very third force itself, as outlined in Society 5.0 under Keidanren Chairman Nakanishi and in the AI Strategy under the chairmanship of Dr. Hiroaki Kitano.

(Reference link)
Keidanren Society 5.0 - Creating the Future Together (November 13, 2018)
Keidanren AI Application Strategy - Toward an AI-Ready Society (February 19, 2019)
Keidanren AI-Ready Guideline


I have often been asked what this "third force" is, and to be more specific, it includes not only Tesla and SpaceX, which are now the most popular companies for students graduating from the world's top engineering schools (MIT, Berkeley, Stanford, etc.), but also Uber, Airbnb, Kiva Systems (now amazon robotics), BYD, which is looking to follow Tesla to the top of the EV industry, the largest drone company DJI, and Huawei. SpaceX boasts Starlink, a technology that allows satellite communications networks to support cell phones in a world without a communications grid. It will be remembered that Starlink saved many people in Ukraine during the Russian military invasion of the country.

Netflix, which originally emerged as an attack on Blockbuster, the largest video rental company in the U.S., is a third force, and along with YouTube, TikTok (ByteDance), and Amazon prime, they are creating a world where TV (stations and distribution networks) are no longer needed. In North America and Canada, the Internet surpassed TV in ad revenue in 2013, and Google and Facebook alone will overtake TV in ad revenue by 2020 on a global level. However, the competition in this new video platform is also fierce, with Google's media mainstay YouTube's ad revenue projected to be overtaken by TikTok within a year or two.

Alibaba and Tencent are dramatically transforming themselves into lifestyle portals that support real life, and as those in the industry know, Alipay, WeChat wallet, Baidu map, and others have been in the works for five years, even in their 2017 versions, but the world outside of China (including Japan) is not quite up to speed. This is exactly what has been expected. A third force would emerge from the new economy side.

There is another trend that has emerged in the shadows. This is how to reduce the environmental burden and contribute to a future that enhances sustainability for mankind and the planet. Mere digitalization is meaningless; the question is how much ESG (environment, sustainability, and governance) value can be created by using digitalization. Perhaps this is the core of the new capitalism that Prime Minister Kishida is advocating. Economic growth with lower environmental impact" should be the core of the new capitalism. I would like to share with you a diagram that I have compiled with Hiromichi Mizuno, an external board member of Tesla, Inc.

Recognizing these trends, on the other hand, if you think about it dispassionately, Apple since the iPod is a complete third force. Without "a platform (PF) that includes user UI/UX and enormous digital contents," a smartphone (the invention of the iPhone) is just a black slate. It is also a little-known but important fact that all aluminum used in Apple devices is made using a CO2 emission-free manufacturing process developed with Alcoa. Note that more than 10% of Japan's CO2 emissions come from carbon transported from underground through the use of mineral resources known as "steelmaking.

Anyone who uses the Apple Watch is aware that this is unlike any watch ever made, that it replaces a significant portion of smartphone use, and that it has many appreciated features that smartphones cannot do. This watch can be instantly redesigned as much as you like, can take phone calls as a matter of course, use LINE and paypay, read FB messenger, etc. It can also check the pulse, ECG, and blood oxygen level, and alerts the user when something is wrong, and has already saved the lives of many people, including several of my friends. It is not waterproof to a depth of 50 meters, it usually needs to be recharged every day, and it relies on software or communication to set the watch, which is completely different from the replacement of conventional watches.

What I feel when using the Apple Watch and Tesla is the importance of building in new hardware. It is important to have as few knobs and switches as possible, smooth, snag-free, stable, hard to fall off, and easily repairable in the event of an emergency. Apple has been thoroughly building this on the hardware side as well as providing service care with Apple care. Tesla has also loaded up two fairly large chips of their own, and even if one of them falls down, the car will always keep running, and furthermore, the driver's driving and their self-driving algorithm are being compared, and learning is being continued in both semiconductor chips.

Over the past few years, I have been asked quite a few questions about how companies on the old economy side should stand up to the emerging third force.

From my perspective as a strategist, DX is not the way to go. It is hard for me to say, as the creator of the term "AI-ready," but I have to be honest. It is the same story that Toyota Industries Corporation created Toyota Motor Corporation, Furukawa Electric together with Siemens created Fuji Electric, and Fuji Electric created Fujitsu. It is almost obvious from the fact that even Toyota, the leader of the existing old economy, is in the same situation as described above, but I am very concerned that many companies, ministries, and administrative agencies are not getting the message. They should make as much money as they can from the current model and transfer all the profits to the new digital x low environmental impact direction.

Also, I have been using the term “Denkon-Bussai (Cyber spirit with Material tech) ” for a long time to mean that the third force is real with a cyber mindset. However, considering what has actually happened above, I have come to believe that the current winning strategy is the opposite. In fact, many of the third force companies mentioned above are Denkon-Bussai-oriented companies, but this battle inevitably has a real sense of danger attached to it. The tactile polish that comes from the use of the real thing is also inevitably a bit skewed.

What the old economy, especially the Japanese old economy, needs is “Bukkon-Densai (Material spirit with Cyber tech)”. This is to value real things and technology, and create value from them with a completely new digital x ESG wisdoms. If we think again based on this, much hope will emerge unexpectedly. Japan is a country that has embraced the "Wakon-Yosai" (Japanese spirit with Western tech) , and has grasped the last fruits of the Industrial Revolution before it went cyber. If there is a Japanese spirit for us today, it is surely an overwhelming attachment to things, to the real physical values. I am sure it is not my imagination that we are now being asked how we can create a new world, while keeping these as our treasures.

電魂物才ではなく物魂電才

長らく第三勢力の時代が来ると話をしてきた。

きっかけは2015年、経済産業省経産省)の産業構造審議会産構審)新産業構造部会、この今、来ようとしている時代についての意味合いを理解し、国として必要な取り組みや対応を考えるという場に呼ばれたことだった。

審議会の面々はかなり錚錚たるもので、その後、経団連の会長になられる日立中西さん、副会長になられるDeNA南場さん、フューチャー金丸さん、IGPIの冨山和彦さん、みずほFG佐藤さん、DLの驚異をいち早くアラートを出してきた東大 松尾豊さん、日テレ 宮島香澄さん、慶應経済 土居丈朗さん、CANVAS 石戸奈々子さんなどなど。今から考えれば恐ろしく濃い面々の会議だった。座長は東大 伊藤元重さん。ちなみにここにある回、スペシャルゲストとしてお越しいただいたソニーCSL北野宏明さん(現 Sony CTO) の本審議会での投げ込みからムーンショット構想もはじまった。

この7年前の秋、僕から投げ込ませていただいた基本的なパースペクティブ(世界観)は、データとAIの力によってあらゆる産業が変わってしまう。多くのものがつながるだけでなく、とりわけ情報の識別系、予測系、画像生成・ピッキングも含めた実行系はことごとく自動化し、スケーラブルに変わる。これにともなって再度人間の生産性は飛躍する。またこの技術革新期に入ったことに加え、人口は既に調整局面に入っており、事業のスケールよりも、希望を持てる未来に対する革新の有無が富、特に現在の富の生成の中心をなす企業価値、の源泉になる、という話だった。もちろん前年に出たピケティのいうr>g、すなわち資本の成長は通常の経済規模の成長を超えるという話の強烈な版だ。今となっては常識的なことばかり(?)に思うが、データやAI的なものに馴染みのない大半の産業サイドの方々には価値を感じていただき、なんどか追加で副大臣などへのご説明も行った。

あの時、この変化の背景にあるのは、多様なインターネットサービスやIoT機器から生み出される大量のログデータ、このリアルタイムな利活用を可能にする圧倒的な計算機と帯域(20年で4桁増)、そして機械学習、そして当時実際に動くサービスとして出てきたばかりの深層学習などアルゴリズム、大量データ処理、大量データ可視化技術など情報科学の急激な進化だということもお話した。

ちなみに、深層学習(deep learning: DL)が目覚ましい成果を出し、それまで機械学習を酷使してきたごく一部の業界的にこれは本物なのかとちょっとした騒ぎになったのが前年の2014年。この投込みをした数ヶ月前(2015年の5月)に出たGoogle Photoが、世界で最初のラージスケールのDL実装例だったのは今となってはhistoryといえる。

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(参考)同年に注目は集めるが、何が何だか分からない状態になっている人工知能についての特集号がハーバードビジネスレビュー岩佐文夫編集長(当時)の元で組まれ、そこになけなしの時間を投下して投げ込ませて頂いた拙稿。当時、識者の中で話題になり、この辺りの議論に一定の方向性を生み出したのでご存知の方もいるかもしれない。ここで行った知性の軸を用いた人間とキカイ(AI)の比較は今も思い入れ深い。

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この見立てを踏まえれば、産業はハードな技術やアセットを中心としたOld economyと、サイバーな技術やアセットを中心としたNew economyに2015年現在分かれているが、次の流れも明らかに思うという話もした。多くの人はGAFA*1などのNew economyサイドの躍進に目を奪われているかもしれないが、リアルとサイバー両方の強みを持つ未開領域に、第三種人類、第三勢力が一気に現れ、これらが世の中を刷新、席巻していくだろう、そここそが本当の主戦場であり、ここで勝負できるかどうかが僕ら日本の産業の未来を決めるのではないかと。

実際、GAFAを追い抜く企業などそう簡単に現れないと多くの人は思っていたが、今になってmarket cap(企業価値)ランキングを見れば、その一角に当たり前のようにサイバーな強みでリアルを革新するTESLAが入り、現在、企業価値100兆円前後という目を瞠る規模になっている*2

この時、第三勢力の現れ方には3通りあるという話もした。既存のハード的なアセットを生かしてOld economyの左上側から行く、サイバー的な強みを生かしてNew economyの右下から行く、はじめから新しい発想で立ち上げるという形がある、、今のところ、第3パターンが中心に見えるが、Old側からもNew側からも現れてくるだろう、と。拙著シンニホンでも書いたとおりデータ×AIの視点で言えば、画像認識などの入り口側と逆に、多くの出口的な産業を持つ日本の強みが生きるだろうということでもあった。

このいわば産業マトリックスは、登場当初よりそれなりに愛され、先日惜しくも逝去されたQuantum Leap(元SONY CEO)出井伸之さんにも「atakaさん、これだよ」と言っていただいていたりした。

ちなみに、2017年の春、世界の3大自動車メーカーグループ(GMトヨタVW)の一つ、GM(General Motors)がテスラに企業価値で並ばれるという歴史的なタイミングがあった。このときのトレンドから、日本の企業価値トップであり、クルマメーカーとしては世界最大の企業価値を持ち(当時)、そして僕らの誇るトヨタも早ければあと数年で抜かれてもおかしくない、と当時講演を行うたびに言っていたのだが、空気感としてはそれは流石にどうかなという感じだった。しかし、実際には、電池の供給問題やイーロンの問題発言などで少し遅れたが、トヨタはテスラに2020年7月1日に企業価値で並ばれ、いまはもう四倍の差があることは株式市場に詳しい人、資産運用に熱い方ならよくご存知だろう。

安宅和人「シン・ニホン」(NewsPicks 2020)図1-9より


販売台数は三大メーカーとは当時100倍以上違っていたのでいくらなんでもそれはないだろうと多くの人が思っていたのだ。僕はこれは産業革新期に特有の刷新性が企業価値に現れる話なんだ、富を生む方程式が変わったのだ、同じ話があらゆる産業で起こる、という話を、当時様々なところでお話したのだが、どれだけの人が真に受けたのかというのは現在の日本の企業のパフォーマンスを見れば明らかだろう。結局お勉強しかしなくて、やるべきことをやらなかったのだ。

ちなみに、以前も拙ブログ内でまとめたがいわゆるDX(digital transformation)というのはOld economyサイドの企業が、サイバー的な企業に生まれ変わることをいう。

kaz-ataka.hatenablog.com

極限的には、第三勢力的な企業に生まれ変わらないといけない。その後、経団連の中西会長下でSociety5.0、またAI戦略の中で北野宏明座長の元取りまとめられた、AI-ready化の最高レベル、、AI-Poweredな企業がまさに第三勢力そのものになる。

(参考リンク)
経団連 Society 5.0 -ともに創造する未来-(2018年11月13日)
経団連 AI活用戦略 ~AI-Readyな社会の実現に向けて~ (2019年2月19日)
経団連 AI-ready化ガイドライン

この「第三勢力」とはなにか、とよく聞かれてきたが、具体的にはいま世界のトップエンジニアリングスクール(MIT, Berkeley, Stanfordなど)を出る学生の人気企業トップであるTesla、SpaceXはもちろん、UberAirbnbKiva systems(現 amazon robotics)、テスラに続きEVトップを伺うBYD、ドローン最大手DJI、Huaweiなどがガチでそこに該当する。SpaceXの誇るStarlink、、すなわち衛星通信網が通信グリッドのない世界においても携帯電話を支える技術、、がロシアの軍事侵攻を受けたウクライナの多く方々を救ったことは記憶に新しいだろう。

もともとはBlockbusterという米国最大のレンタルビデオ会社*3のアタッカー企業として現れたNetflixも第三勢力と言って差し支えないだろう。YouTubeTikTok (ByteDance)、Amazon primeとならび、彼らはTV(局と配信網)の要らない世界を生み出しつつある。ちなみに北米カナダにおいてTVの広告収入をインターネット側が追い抜いたのは2013年*4GoogleFacebook単独でも全世界レベルで2020年にTVを広告収入で追い抜いている*5。なお、この新動画PFの中の進化圧のかかった競争も熾烈であり、Googleのメディア面の主力であるYouTubeのその広告収入は1-2年のうちにTikTokに抜かれる予測が出始めている。

そして、Alibaba、Tencentは劇的にリアルの生活を支える生活ポータル化を進めていることは業界の方々ならご存知のとおりだ。Alipay、WeChat wallet、またBaidu mapなどの作り込んできたそれらは5年前の2017年段階バージョンのものでも、Chinaの外の世界(日本を含む)はサービスとして追いついているか微妙だ。Alibabaの社内研究機関であるDAO academyの発表を世界の業界人は固唾を飲んでこの数年見守っている。New economyサイドからも第三勢力が現れるだろうと想定していたとおりといえる。

この影でもう一つ明らかになってきたトレンドがある。それは環境負荷をいかに下げ、いかにsustainability、人類と地球の持続可能性を高める未来に貢献できるのか、という視点だ。単なるデジタルは意味がない、それをテコにどれだけESG (environment, sustainability, and governance) 的な価値を生み出すかということだ。岸田首相の掲げられている新しい資本主義の核心は恐らくここであるべきだろう。環境負荷を下げる経済成長」、、これこそが新しい資本主義の核心であるべきだということだ。以前、テスラの社外取締役である水野弘道氏とまとめた図をここに掲げておきたい。

これらのトレンドを認識した上で、一方、冷静に考えてみると、iPod以降のアップルは完全に第三勢力といえる。「ユーザUI/UXも含めたプラットフォーム(PF)と莫大なdigital contents」のないスマートフォンiPhoneの発明)はただの黒い板だ。またアップルの端末のアルミはすべてアルコアと開発したCO2を排出しない製法で作られていることはあまり知られていない大切な事実だ。なお日本国のCO2排出の1割以上が「製鉄」というアルミ製錬と同じく、鉱物資源の利用に伴い、地下から持ち込まれたカーボン由来であることを付記しておく。

Apple Watchを使っている人なら、これがこれまでの時計とは似ても似つかぬものであること、スマホの利用のかなりの部分を置き換えるものであること、スマホに出来ない数多くの有り難い機能を持つことを日々認識している。このキカイは好きなだけデザインが即座に変えられるのは当然の上、当たり前のように電話がとれ、LINEやpaypayも使え、FB messengerも読める。脈拍はおろか、心電図や血中酸素濃度もわかり、異常な時はアラートを出し、すでに僕の友人数名を含む数多くの人の命を救っている。代わりに水深50メートル防水などはなく、普通は毎日充電が必要、時計合わせもソフトウェアというか通信に依存という、従来型の時計のreplacementとは全く違うものだ*6

このApple WatchやTeslaを使っていて感じるのは、新しいハードとしての作り込みの重要性だ。ノブやスイッチはできるだけ少なく、なめらかで、引っ掛かりのない、そして安定的で、落ちにくく、いざとなった時に簡単に修繕が可能だということが重要だということがわかる。これをAppleApple careでサービスケアするだけでなく、ハードサイドで徹底的に作り込んできている。テスラもかなり大きな独自のチップを2枚積み込み、どちらが落ちても常にランし続け、更に運転手の運転と自分たちの自動走行アルゴリズムを突き合わせ、学習を双方の石(半導体チップ)で続けているという。

この数年間、第三勢力が顕在化する中で、オールドエコノミーサイドに立つ企業がどうやって立ち向かっていったらいいのかという質問を随分と受けてきた。

長年ストラテジストとして生きてきた立場からするとDXでは間に合わない。はじめから第三勢力的な事業、事業体を作り、それらが成長したら飛び移る必要がある、DXより移住、と随分言い続けてきた。AI-ready化という言葉を生み出した自分が言うのもつらいのだが、正直なところだ。かつて豊田自動織機トヨタ自動車を作り、古河電工ジーメンス富士電機を、また富士電機富士通を作ったのと同じ話だ。それは既存Old economyのトップであるトヨタですら上述のような状態であることを見ればほぼ明らかに思うのだが、多くの企業や省庁、行政機関に伝わっているのかというと甚だ心配だ。現在のモデルで稼げるだけ稼ぎ、その利益をすべて新しいデジタル×低環境負荷の方向に振り込むべきなのだ。

また、第三勢力はサイバーマインドを持ったリアル、という意味で「電魂物才」という言葉を随分使ってきた。が、上の実際に起きてきたことを考えると、今の勝ち筋はどうも逆だなと思うに至った。実際、上述の第三勢力は電魂物才的な企業が多いが、この戦いにはどうしてもリアルな危なっかしさがついてまわる。リアルの使い込みからくる手触り感の磨き込みもどうしてもちょっと偏ったものになる。

オールドエコノミー、とりわけ日本のオールドエコノミーに必要なのは「物魂電才」なのではないだろうか。モノとリアルな世界の価値を大切にし、これをまったく新しいデジタル×ESG的な才覚で価値創造する、これが物魂電才だ。これをもとにもう一度考えると、多くの希望が意外と現れるのではないだろうか。日本は和魂洋才を掲げ、サイバー化する前の産業革命の最後の果実をもぎ取った国だ。いまの僕らにとっての和魂があるとするならば、それはきっとモノ、リアルに対する圧倒的な執着のように思う。これを宝にしつつも、新しい世界をいかに生み出していくか、それがいま問われていると思うのはきっと気のせいではないだろう。

*1:当時人口に膾炙し始めてそれほど間もない言葉だった

*2:2022.10頭現在、世界の企業価値第6位

*3:1997-2001の東海岸留学時代大変お世話になった

*4:https://www.iabcanada.com/iab-canada-releases-2016-17-internet-advertising-revenue-report/

*5:Google and Facebook ad revenue to top TV spend for first time | TechRadar

*6:これからしたたかに学び、サイバーの権化のようなGoogleも気がついたらスマホのみならずGoogle Home, Chromecast、Buds、Watchを含む第三勢力化している

健全な懐疑心

#健全な懐疑心 #Healthy_Skepticism、、これを持つ目と判断力を育てること、それを可能にする一定の教養、また権威にやられない心の強さと勇気を育てることがあらゆる教育(特に高等教育)の究極の目的の一つだと思う。

これを言うと難癖をつける能力と勘違いされがちだが、それは単に教養の低さや文脈、背景の無理解、複合的な構造を理解できる力の低さ、analyticalに考える力の欠落を示すものであり、全く異なるというところが実に難しい。

#Healthy_Skepticism, I think one of the ultimate goals of any education (especially in higher education) is to develop the eyes and judgment to have this, a certain level of liberal arts to make this possible, and the strength of mind and courage to not be beaten by authority.

This is often mistaken for the ability to invent a pretext for a quarrel, but this is different at all, as it simply indicates a lack of education, lack of understanding of context, poor ability to understand complex structures, and a lack of ability to think analytically.